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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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阿佐美1年の光と闇

 犯人がドーム内で仕掛けた工作については、先入観を抜きにしていくつか思い当たる節があった。


 ハッキングなども考えたが、それは成瀬ほどの異常な技術があれば可能だが監視カメラのシステムに何かをされた形跡が無いのは確認済みだ。


 犯人はコンピュータに侵入することなく、1つの部屋の監視カメラを停止させた。


 範囲を限定して電子機器にダメージを与える方法は存在する。


 そして、俺たちが学園に戻るタイミングで仕掛ける方法も言わずもがなだ。


 俺はドームの外側から阿佐美のAクラスの部屋に接近する。


 窓はなく、大体の目星しかつかないが地理は把握している。


 俺の予想通りの方法なら、ジャミングに使った物は近くにあるはずだ。


 壁の方は茂みにおおわれており、草や土を荒らしたような形跡が見られた。


 草を退かして土を掘り起こしてみれば……ビンゴ、捜していた物が見つかった。


 俺はそれを指紋が付かないようにハンカチで包んで回収する。


「まさか、こんな代物を使ってくるとは思わねぇだろ、普通」


 それは周囲の範囲を限定し、スイッチのオンオフで通信機器の電波を遮断する代物だ。


 電波妨害機でんぱぼうがいきだ。


 今ではネットで何でも手に入る時代だし、組織が運営している学園ならばどこから手に入ってもおかしくはない。


「これでドームの電子機器をジャミングしていたのは良いとして……。問題は、誰がどういう経緯で手に入れたのかだよな」


 日下部の言葉は的を射ている。


 計画した犯人と実行犯は異なる可能性もある。


 そして、異能具使いの可能性も考慮した場合、より複雑に見えてくる。


 警備室で見た映像と、海藤の言っていた言葉、そしてアホ真面目の言っていたことを思い出せば、最重要人物は大分絞り込むことができる。


 おっと、考えている間にメールが来たみたいだから確認してみる。


『Aクラスの出店の進行は滞っていた。

 その理由の1つに、うちのDクラスの妨害があったらしい。

 それについては、僕が調べておく』


 アホ真面目が頼んでいたことを聞いてくれたようだ。


 頼んだ通りに素直に動いたことが逆に気持ち悪く感じるけど、今は仕方ない。


 パンフレットを見て、出店をしているクラスを確認する。


 1年はDクラスの名前だけが書かれていない。


「都合が良過ぎるな……」


 もちろん、他のクラスの可能性を外すつもりはない。


 2年も3年もクラスとして参加していない所はある。


 それでも、先に潰しておきたい可能性として優先順位が高いのは1年の中に居る。


 参加していないDクラスの生徒がドーム内に居る可能性は低い。


 阿佐美のエリアに向かい、Dクラスの実行委員を探すか。


 確か、名前は早瀬真紀はやせまきだったか。


 ドームの入り口に向かえば、壁に背中を預けて両手をポケットに突っ込んでいる素行の悪そうな男子が見えた。


 それも5人。


 そいつらは俺を見るや品定めをするように視線を向けてくる。


「あんた……才王学園の生徒だよな?」


「制服見ればわかるだろ?そう言うあんたは、阿佐美の生徒だよな。何か用か?」


「用ってほどのことじゃねぇよ。ちょっと、人を探しててな。情報を吐いてもらうぜ」


 そう言って、5人は俺を囲んで逃げられないようにする。


「俺たちはEクラスの実行委員を探してる。あんたのクラスはどこだ?」


「悪いけど、Fクラスなんだ。Eクラスの実行委員が誰なのかも知らない」


 作り笑顔で嘘をついて切り抜けようとしても、前を2人に阻まれる。


「嘘つくなって。……おまえ、椿円華なんだろ?」


「はぁ。わかってるなら聞くんじゃねぇよ」


 はい、この後の流れは大体予想通りだろうから、時間短縮にこっちから喋る。


「大方?あんたらを駒にしている誰かさんから、俺を見つけたらイチャモンをつけるように言われてきたんだろうな。そして、あわよくば力技で屈服させることも考えていたに違いない。それができなかった場合は、泣き寝入りでもして学校に俺の被害を訴えるつもりだった……って所か」


 考えられる可能性を口にすれば、男たちの目が一瞬だけ泳いだ。


 わかりやすいほどの図星だった。


 さて、ここから俺がやるべき行動は限られてくるわけで……。


「念のために聞くけどさ、あんたたちってDクラスの生徒なんじゃねぇの?」


「な、何で俺たちのことをっ…!?」


 はい、そこの禿げ頭くん、テンプレ台詞をありがとう。


「何でって……こんな文化祭の準備で忙しいときに暇してるのは、出店を出してないクラス以外には、俺の足りない頭じゃ考えつかないからさ」


 頭を人差し指で2回突きながら言えば、5人の中心の男が舌打ちをする。


「文化祭なんてくだらないだろ。仲良しこよしでガキみたいに楽しんで何が良いってんだよ」


「俺たちはまだガキだろ。大人ぶってカッコつけてるつもりになってる奴らの方が、よっぽどくだらなくない?」


「くだらない……だと?俺が?」


 売り言葉に買い言葉で返せば、思った通り沸点が低かった。


 男は拳を握れば、俺に向かって振るってくる。


 単調な奴の拳は避けなくても手の平で受け止めるだけで事足りる。


 パーンッといい音が鳴ったが、何の意味もない。


「そ、そんな!?山下くんの拳が止められるなんて‼」


 Dクラスの山下ね……覚えた。


 山下は拳を掴まれたことに驚いた様子……ではなかった。


「らぁ‼」


 すぐに左手の拳を振るってきたが、それは屈んで回避しては右手を引っ張ってバランスを崩させる。


「んだっ!……てめぇ————‼」


「このまま立ち上がるな。俺の質問に答えてくれれば、おまえたちの望み通りの展開にしてやる」


 山下はしばらく視線を逸らさなかったが、諦めたように逸らして好きにしろと意思を示してくる。


「Aクラスの出店の準備を邪魔していたみたいだけど、その理由は?」


「暇潰しだ」


「ただの暇潰しなら、他のクラスにも出向いたはずだろ。だけど、Aクラスの出店だけが準備が止まっていた。Aクラスだけを邪魔したのは何でだ?……それとも、Aクラスを弱い者虐めすることで悦に浸りたかったか?」


「バカにすんな‼俺たちはそんな弱くねぇ‼」


「だったら、それを証明しろよ。今のままじゃ、おまえたちへの評価は弱い者虐めをしている可愛いガキ大将だぜ」


 言われて否定するために力を振るおうとしても、俺には通用しないことを山下は気づいている。


 自分たちの実力を示せる喧嘩が通用しない以上、俺が提示する方法で示すしかない。


「……おまえ、何が知りたい?俺たちに何を喋らせるつもりだ?」


「流石は名門の高校生、話が早くて助かる。……山下、あんたはこれに見覚えはあるか?」


 ポケットから先程回収した電波妨害機を見せれば、山下は目を伏せながら渋々頷く。


「あぁ、俺たちが仕掛けた物だ」


 やっぱり、実行犯はDクラスに居たのか。


 すぐに見つかるとは思っていなかっただけに、拍子抜けだけど。


「誰に頼まれて仕掛けた?」


「頼まれて?俺たちが悪戯で仕掛けたってことは考えないのかよ?」


「考えない。あんたがクズじゃないってことは目を見ればわかる」


「……息をするみたいに嘘を吐くんだな、てめぇは」


「嘘?そっちこそ、何で嘘だって思うんだよ?」


 正直、嘘であることは否定できねぇけど。


 テンプレ台詞を吐いただけだ。


 山下はフッと鼻で笑うと、俺と視線を合わせる。


「同じセリフでも、言葉の重みが違うからだよ。バカ正直に真っ直ぐそんなことを口にする奴とは、天と地ほどの差だ」


「……そうか。だったら、悪かったな。今の言葉は嘘だ。そのアホ真面目と俺は正反対だからな」


 俺の口にした言葉は嘘でも、この男が本当にクズじゃないってことは今の会話でわかった。


 あいつが認めたなら、少なくとも悪い奴じゃない。


 山下も俺の言葉で察したのか、確認を取るように聞いてくる。


「柿谷を知ってるのか?」


「ああ、昔からの腐れ縁だ」


 お互いに話が通じる人間だと分かったからか、山下の目から対抗心が消えて俺も彼の手を離した。


 周りの4人からも敵意が消える。


 山下は立ち上がっては「場所、変えようぜ」と言い、俺をドームの裏に案内してくれた。



 -----



「……おまえ、柿谷が今、どういう状況か知っているのか?」


 山下が直球で聞いてきた。


 どうやら、俺の情報量に合わせてくれるらしい。


「村八分状態だろ?本人から聞いた」


「そうか……。柿谷は誰に対してもバカみたいに真っ直ぐにぶつかってきてさ……俺たちみたいなクラスの外れ者にも、気さくに話しかけてくる奴だった。俺がいくら鬱陶うっとうしいって離れさせようとしても、『嫌われるのには慣れてる』って言っては何度も関わろうとしてきた」


 一翔はそう言う奴だ。


 誰かの言葉に流されるではなく、自分で見聞きしたもので人を判断する。


 俺も山下のような気持ちを抱いていただろう。


 彼は拳を握って震わせ、壁を殴っては怒りの表情を浮かべる。


「俺は柿谷が苦しんでいる時に、何もできなかった。……できなかったんだ、あの女に逆らえなかったんだ」


「……助けたいって気持ちは、あったのか?」


「当たり前だ‼あいつは……柿谷は、俺たちにとってダチだって思える気のいい奴だったからな」


 山下だけでなく、他の男子も悔しそうに口を開く。


「それは俺たちだけじゃない。1年の中で、あいつのことを本当に悪い奴だって思ってる奴が居るはずがねぇんだ…‼」


「だけど……だけどぉ‼」


 5人が周知にしている事実を俺は知っている。


 だから、それを示すために山下たちの想いを代わりに口にした。


「許せない……よな、真城結衣のこと」


 真城の名前を出せば、山下たちは目を見開いた。


「言っただろ?本人から聞いてるって」


「……柿谷は、おまえのことを相当信頼してるんだな」


「止めてくれ、気持ち悪い。あいつから期待されても嬉しくねぇよ」


 心底嫌な顔をして言った後、軽く深呼吸をして山下に確認する。


「話を整理させてくれ。あんたたちは真城の命令でAクラスの準備を妨害し、事件が起きた日に電波妨害機を設置した。これで間違いないか?」


「ああ。Aクラスの奴らには悪いことをしたと思ってる。必ず仁義は通らせてもらうつもりだ」


 おいおい、仁義って何時の時代の言葉だよ。


 今じゃうちの親父も使わねぇぞ。


「……どうして、おまえたちは真城の言いなりになってるんだ?話せるなら、その理由も答えてほしい。俺も、おまえたちを信じたい」


 これは嘘ではなく本心だ。


 俺が信じるべき仲間としてではなく、あいつが信じるべき友人として、山下たちを見極めたい。


 山下は俯いて言うべきかを苦悩しているようだった。


 そして、迷いを振り切って口を開いてくれた。


「俺たちだけじゃない。1年のほとんどの生徒は、真城に知られたくない秘密を握られている」


「知られたくない……秘密?」


 山下から聞いた真城のやり方はこうだ。


 最初は好印象を与えるために誰にでも優しい顔をして近づき、信頼を得れば秘密を吐き出させることになる。


 その秘密を利用して相手を脅し、別の人間の秘密を吐き出させる。


 それが樹形図のように広がっていき、真城に『秘密』という大量の情報が集約されていく。


 人の好意や信頼を利用し、それで首輪を着けていく。


 しかし、秘密を誰にも話さない、あるいは秘密を抱えて居ない人間も存在する。


 そういう生徒は、彼女の奴隷を使った策略で陥れられるということらしい。


 既に真城のせいで、何人かの生徒が自主退学している。


「真城……思っていた通りのヤバい女だったってわけか。おまえたちの秘密については興味ねぇけど、どこから漏れるかわかったもんじゃねぇな」


「あの女の前じゃ、隠し事ができなくなる。何でかはわからないが、あの女と居ると胸の内を引きずり出されるんだ……」


 相手の秘密を引きずり出す力か。


 だけど、俺にはそんな感覚は無かったな……。


 疑り深い性格が功を制したってことか。


「真城が何をしようとしていたのかは、聞いているのか?」


「いいや。俺たちはただ、それを地面に埋めるように言われていただけだ。あの女が自分のクラスの出し物を壊すなんて、考えもしなかった……」


 だろうな、真面な神経じゃねぇよ。


 何が真城をそこまでさせるのか、俺にはわからない。


「あいつには生徒を退学させるまでの力を持った駒が居るって話だけど、それについては何か聞いているのか?」


「すまねぇが、それについても俺たちは何も知らない。今、初めて知ったくらいだ」


「やっべ、じゃあ余計なことを言ったかもしれないな……」


「それは誰から聞いた?真城本人から聞いたのか?」


「一翔からだ。あいつが真城から聞いたって言っていた」


「だったら、それが脅しってわけじゃないだろうな。あいつは気に入らない奴を絶望させるためだったら、何でも自分の駒にして利用する。その駒の内に俺たちも含まれてるはずだ」


 相手を利用することに長けており、それを敵に隠すこともないと来たか。


 その駒の中に彼女のバックボーンが居るとすれば、それを崩さない限り真城の支配は広まり続ける。


 その支配者の大きな支柱が何なのかがわからない限り、迂闊うかつに手が出せない。


 しかし、それは阿佐美の生徒ならという話だ。


 才王の生徒である俺なら、あるいは……。


 ある思考が頭を過ぎり、山下を見る。


「山下……頼みがある」


「あ?何だよ、改まって」


 これもまた一種の賭けだ。


 それも前哨戦ぜんしょうせんとしてはこっちのリスクが高過ぎる。


 それでも、あいつの居場所を取り返せるなら動ける奴が動くべきだろ。


「真城に会わせてくれ。あいつの望むやり方で、改めて挨拶をしておきたい」

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