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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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迷惑な独善

 阿佐美側のAクラスの部屋の前に着けば、調度中から岸野先生が頭を押さえながら出てきて露骨に溜め息をついていた。


 様子がおかしいと思いつつも、恐る恐る声をかけてみる。


「先生、顔から疲れが見えますけど……事件のこと、何か進展でもありました?」


「何かあった……だから、進藤を今から呼びに行こうと思っていたところだ」


 やれやれと言った表情を浮かべているところから、面倒なことになったことがうかがえる。


 日下部が関わっているなら、事件以上に厄介なことになるかもしれない。


 いや、岸野を見た感じからして、もうなっているのか。


「今、部屋の中に入っても大丈夫ですか?」


「おすすめはしないが、止めはしない。おまえがここに戻ってきたってことは、あの可能性に気づいたってことだろ?」


 含みのある笑みを浮かべる岸野に若干イラっとしたが、意思の疎通はできたみたいだ。


 やっぱり、俺の予想は当たっているのかもしれない。


 監視カメラに映った、壊される前後の模擬店の状態は頭の中に残っている。


 岸野の背を見送った後、Aクラスの部屋に入れば殺伐とした空気が流れていた。


 日下部と一翔が対面して、凄い剣幕で睨み合っている。


 阿佐美側同士で衝突か?


「先輩、考え直してください。こんなことをしたって、何も解決はしません」


「そんなことはない。こんな事件を起こした原因ははっきりしてるんだ。被害が大きくならない内に白黒はっきりさせた方が良いに決まっている」


「先輩が怒るのもわかりますが、これはそんな簡単な問題じゃないはずです。冷静になってください‼」


「俺は冷静だ‼柿谷、おまえは俺を信じられないのか!?」


 どうやら日下部が何かをしようとして、それを一翔が止めているみたいだな。


 制服が違う俺の存在は異質感を隠すことはできず、すぐに視線を集めた。


 そして、一翔はタイミングが悪いとばかりに額を押さえては小さい声で「バカぁ~」と呟いた。


 日下部は俺を睨みつけながら近づいてきては、目の前に立って威圧してくる。


「才王がここに何の用だ?椿円華」


 事件が起きる前とは雰囲気が違う。


 目の前の男から感じるのは、怒り交じりの敵意。


 それに押されるわけにもいかず、問いに答える。


「調査ですよ。この事件は俺たちがやらなきゃいけないでしょ」


「調査と言いながら、隠し忘れた証拠を消しに来たんだろ?」


 証拠……最悪な先読みができてしまった。


 バカを承知で、恐る恐る聞いてみる。


「まさか……俺、犯人って疑われてます?」


「そうじゃない。おまえがそうじゃないことはわかっている。俺と同じバスに乗っていたからな」


「なら、何を疑われているのかがさっぱりなんですけど」


「模擬店を壊した実行犯じゃなくても、主犯である可能性がないわけじゃない」


 日下部は主犯と実行犯が別に居ると考えているのか。


 俺も似たようなものだけど、根本が違う。


 だから、その痕跡を確かめに戻ってきたんだ。


「疑うなら別に良いですけど、俺だけが疑われるなら不公平じゃないですかね?監視カメラの映像を見る限り、容疑者は2つの意味でも会場の全員だと思いますけど」


「同じ学園の模擬店を壊す理由はない。犯人は才王側に居るに決まっているだろ?」


 やっぱり、そう言う先入観が働くのか。


 そして、この男の場合はその見解が面倒な方向に突っ走っていく。


「この事件を起こしたのは才王学園の生徒だ。先に弓を引いたのはおまえたち。だったら、もう仲良しこよしの祭りもできないだろ。この件は学園に抗議させてもらう」


「それは先輩の勝手な希望ですよね。証拠もないのにまかり通るんですか?」


「証拠はこれから見つける。おまえたちの悪行は、俺が暴く。覚悟していろ、才王」


 あらぁ……これはダメなやつだ。


 完全に才王=悪って定義されている。


 そして、それに便乗して全体的に阿佐美の生徒からも嫌なプレッシャーを向けられる。


 感情の強さは伝染する。


 それはいい意味でも悪い意味でもだ。


 完全にアウェーだぜ、俺。


 無理だな、この場は阿佐美に支配されている。


 俺が何をしようとしても、邪魔されるのが落ち。


 この場は日下部に花を持たせて様子を見るか。


 一瞬だけ一翔に視線を向けて目を合わせた後で日下部に最後に確認を取る。


「疑われている所、恐縮なんですけど……調査は許してもらえそうにないですよね?」


「少なくとも、この場に居るほとんどの奴らは警戒しているだろうな。怪しいと思う行動を1つでもしたら、爪弾つまはじきされることは覚悟しておけ」


 今はやんわり言ってるけど、遠回しに俺が原因で不満っていう破裂寸前の風船が割れるってことだろ。


 そんな危険を冒すつもりは毛頭ねぇよ。


「わかりました。じゃあ、偏見で疑われるのが怖いんでやめときます」


「何だ?逃げるのか?」


 鼻を鳴らして見下すように言ってくる日下部に内心で溜め息がこぼれた。


 子どもの挑発だよ。乗る気はねぇけど。


「俺じゃ信用ないみたいなので、後は進藤先輩に任せます。その方がスムーズでしょ?」


「……そうかよ」


 面白くない反応だったのか、それとも俺の返答に警戒したのか、興味を無くしたように俺から離れて行った。


 進藤先輩の名前を出しただけで警戒したんだ。


 今ので担任の狙いがわかってしまった。


 岸野の奴、今の状況を見越して俺に間接的にヒントを与えていたってことか。


 性格悪いと同時に助かった。


 岸野が進藤先輩を呼びに行ったのは、日下部の警戒をあの人に促すためだ。


 だったら、俺のここでの仕事は今は終わりだ。


 視線の痛さを感じながら部屋を出てから、スマホの画面を触ってメールを送っておいた。


 警戒されているなら、それでも良い。


 逆に俺に注意が向いているなら、好都合だ。


 それにしても……日下部康則。


 あいつは別の意味で危険な存在だな。



 -----



 30分後。


 阿佐美のAクラスを出た後、俺は外に出て2本の缶コーヒーを持って壁にもたれかかって人を待っていた。


 待ち人はやっと来ては、面倒くさそうな顔で手を挙げて歩み寄ってきた。


「久っしぶりに俺のことを呼んだな?もしかして、親友の俺がこいしくなった~?」


「アホ。ふざけてる場合かよ、基樹」


 隣に並んで立つ基樹に缶コーヒーを渡せば、それを飲んで一息ついた。


「やっと、俺を使うつもりになったか?」


「……まだだ。まだ、その時じゃない」


「だったら、何で俺は呼ばれたんだよ?」


 拍子抜けしたように肩を落として聞いてくる基樹に、俺は空を見上げながら小さく呟く。


「今回の件の犯人、俺はもう誰が犯人なのかを大分絞り込めたかもしれない」


「・・・それで?」


「反応薄いな、おい……」


 思ったよりもドライな反応に肩をかしてしまう。


「いや、だってさ。もう、この状況はどっちにしても崩壊寸前だってことは変わりないわけでしょ?『犯人がわかりました。だから、これからも仲良くやっていきましょう』ってなるのかって話」


「なるわけねぇだろ。この緊張状態だって、いつ崩れるかわかったもんじゃない。だけど、それで終わりだとは思えないんだ」


「ふ~ん……それで?俺にどうしろと?」


 早めに話を切り上げようとしているのか、基樹は答えを急ぐ。


 俺はあいつの目を見て考えていることを伝えた。


「犯人の狙いの中に俺が含まれているかもしれない。だけど、何が起きても助けようとはするな。おまえはクラスのみんなを守ることに専念してくれ」


「……はぁ?ちょっと、意味わからないんですけど」


 基樹は目を細めて詰め寄ってきた。


「円華、おまえさ……この前から何がどうしたのか知らないけど、いくら普段能天気そうに見える俺でもキレるぞ、おい」


「前から言ってただろ。おまえはもう成瀬の影なんだ。俺は1人でもどうにかなる。だけど――――」


「だけど、じゃねぇんだよ‼」


 基樹は俺の胸倉を掴み、壁に押しつけてくる。


 こんなに怒りの顔をしている基樹を見るのは初めてだ。


「なぁ……1人で大丈夫とか、本気で言ってるのかよ」


「当たり前だろ。俺がそんな強がるようなアホに見えたのか?」


「悪いけど、俺には今のおまえは大バカ野郎にしか見えねぇよ‼」


 俺は奥歯を噛みしめて基樹を強く押して離れさせて目を細めて睨みつける。


「成瀬がクラスメイトが何かに巻き込まれたら助けようとするのはわかってることだ。だから、その時はおまえに止めてほしいって思ったんだけどな」


「俺だって、おまえに何かあったら助けようとするさ。おまえ、俺を何だと思ってんだよ!?」


「……友達だと思ってる。だけど、だからこそ……俺に関わってほしくねぇんだ」


「何だよ、それ!?言ってることとやってることが違うだろ!?」


 基樹は苛立たし気に頭を荒くき、俺のことを指さす。


「関わりたくない?だったら、ここに俺を呼び出す必要ないだろ!?電話でもメールでも命令して済ませれば良い。だけど、おまえはそうしなかった。今、おまえの目の前に俺が居る。これって一体どういうことなんだろうな!?」


「そ、それは……」


 指摘されて気づけば、基樹の言う通りだ。


 どうして、俺は直接会おうと思ったのか。


 もしかしたら、確かめたかったのかもしれない。


 こんなことを話したら、基樹は友達として止めてくれるのかどうかを。


 迷惑な話だ。


 俺の中で葛藤が生まれている。


 関わらない方が良いと思って離そうとしている自分と、繋がりにしがみ付こうとしている自分。


 だけど、今の俺にはあいつらと共に居る資格もなければ、助けられる資格もない。


 それでも、心の奥底で求めているのか。


 理性と感情が一致していない状態に、気持ち悪さを覚える。


 動揺が顔に出ていたのか、基樹は溜め息をついて頭の後ろに手を回す。


「おまえが今、何に苦しんでいるのかは俺にはわからない。だけど、おまえが困っているなら助けたい。そう自然と思えるのが……仲間……って奴だろ?」


「……」


「まぁ、良いや。そう言えば、俺もおまえに言わなきゃいけないことがあったんだ。この際だから伝えておく」


 無言で立ち尽くす俺の肩を軽く数回叩いた後、平然とした顔に戻って小さく呟いた。


「これはダチとしての忠告だ。進藤大和には気を付けろ」


「……はぁ?」


 言われていることの意味がわからず、訝し気な顔をして聞き返す。


「今、実行委員として動かなきゃいけなくなる以上、その男とも関わらなきゃいけなくなるだろ?奏奈様が俺に、あいつの監視を指示してきた。進藤大和には、何かあるのかもしれない」


「待てよ、進藤先輩が俺たちの敵かもしれないってことか?」


「それは今、俺も水面下で監視しながら調べてる。だけど、只物じゃないことだけは確かだ。もしかしら、組織の人間かもしれない。注意はしておいた方が良いだろ」


「……わかった。善処する」


 基樹に先輩を監視させるなんて、BCは一体何を考えているんだ?


 しかし、基樹の言う事ももっともなんだ。


 あの人は普通の人間とは違う何かを感じる。


 だけど、進藤先輩に対しては何故か警戒できない。


 俺の中で、進藤先輩を信じたいという気持ちが先走っている。


 こんなこと、今までなかったはずだ。


 最後に基樹は、コーヒーを飲み干した後に俺の目を見て言った。


「俺はおまえのことをダチだって思ってる。だから、おまえに何かあったら助ける。おまえが今まで、みんなにしてきたようにな。勝手にやらせてもらうから、止めようとしても無駄だからな」


 そう言って基樹は言ってしまい、俺はその背中を黙って見つめる。


 言われたことは嬉しいはずなのに、胸に痛みを感じる。


 本当に俺は一体、どうしたいんだろうな。

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