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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
202/496

休憩時間

 役割ごとに大体の仕事を把握していき、ホワイトボードに示されている会場の地図を見ながら説明を聞いている。


 会場は2つの学園の中間地点にある巨大なドーム状の会場を貸し切って行われるらしい。


 クラスの出し物である屋台や催し物が広げられるようにスペースも空けてもらえている。


 イベントとしては、文化部の発表や外部のゲストなども呼ぶ予定となっている。


 その中で1年の実行委員の仕事は安全管理なのは既存の通りだ。


 しかし、一言で安全管理と言っても役割は複数存在する。


 誰に対する安全なのか、何からの安全なのか。


 その目的によってやるべきことも異なってくる。


「————よって、この6つの役割に分けたわけだが、不明な点や質問がある奴は遠慮なく挙手してくれ。できる限り答えていくつもりだ」


 岸野が質問の機会を設けたと同時に、俺は速攻で手を挙げた。


 先生は溜め息をつき、俺を指さした。


「はぁ……どうした?見回り組の2人」


 2人と言われて隣を見れば、一翔も手を挙げていた。


 タイミングとして同じだったんだろう。腹が立つ。


 互いに1度睨み合った後、先に満面の作り笑顔をして隣のアホを指さして言った。


「先生、人選ミスってないですか?俺、こいつと組むの嫌です。役割すっぽかしてボコりそう、手加減抜きで」


「誠に遺憾いかんですが、僕も隣の乱暴者と同じ意見です。こんな奴が居ても楽しい雰囲気が台無しになるだけですよ。万が一の場合、役割よりもこの男の排除を全力で優先するかもしれません。僕1人で十分です」


 同じように笑顔で言う一翔に俺は怒りの形相で「はぁ?」と再度鋭い目付きになる。


「おまえ、さっきの模擬戦で調子に乗ってんじゃねぇの?おまえよりも俺の方がこういう役割に適してる。おまえが居なくても、俺1人の方が良い!!」


「君のような偏屈者には無理だね!周りのことを顧みない奴には不適合だ!!僕の方が、完璧にこなせる自信がある!!」


「直情的で考えなしの奴に言われたくねぇんだよ!!おまえは引っ込んでろ、アホが!!」


 言い合いになっている間に坂本先生が俺たちの間に立って両手を叩いて甲高い音が響いた。


 それによって、俺の身体に電気を受けたような衝撃が走って思考が一瞬真っ白になった。


 一翔も同じようで、言い返して来ない。


「はいはい、2人ともクールダウン、クールダウン。友達同士、久しぶりの再会で興奮しちゃうのもわかるけど、周りの迷惑も考えようね?」


「「こんな奴、友達じゃない!!」」


 お互いを指さしながら否定すれば、坂本先生は温厚そうな笑みで威圧してきた。


「……2人とも?僕に2度同じことを言わせたいのかな?」


 その一言だけで俺と一翔は血の気が引き、両膝の上に手を置いて黙った。


 やばい……目の奥が笑ってなかった。あれ以上暴れたら、取り返しのつかないところだった。


 一翔なんて身体がガクブルに振るえてるし……いや、俺もだけど。


 岸野は頭の後ろをかいては坂本先生が隣に戻ってきてから俺たちに言った。


「これは基本的に、それぞれの学園での適性に合わせた役割と組み合わせだ。おまえたちにとっては最悪だろうが、そこは飲み込んで協力し合って事に当たってくれ。異論は認めるが、体制は変わらないからそのつもりでいるように」


 だったら異論の意味がねぇじゃん。


 俺と一翔の適性が合ってる?ありえねぇよ。



 -----



 ある程度の話し合いを終えて休憩時間になった。


 一翔は解散になるや否やすぐに日下部先輩の下に向かっていった。


 俺は別行動ですぐに会議室を出て、自販機に飲み物を買いに行く。


「まったく、散々な1日だぜ」


「それはこっちのセリフよ」


 不意に呟いた一言に反応したのは、後ろを歩いていた金森だった。


「あんたたち2人の痴話喧嘩に巻き込まれて、こっちはいい迷惑なんだけど?」


「痴話喧嘩って……。あいつが一々食いかかってくるんだから、しょうがねぇだろ」


「しょうがない……ね。ちょっと意外だったわ、あんたも子どもな部分があるのね」


「あれ?もしかして、俺バカにされてる?」


「さぁねぇ~。でも……」


 金森は俺に近づくなり、前振りもなく太股ふとももの裏を蹴ってきた。


「いっっってぇ!何だよ、急に!?」


「あんた、さっき私に嘘をついたでしょ?」


 嘘?全然覚えがない。


 つか、金森を騙すメリットも何もない。


 彼女は溜め息をつき、不機嫌な顔で腕を組んだ。


「柿谷一翔のこと、他人って言ってたけど知り合いだったじゃない」


「細かいな、おい。正確には、ほぼ他人だ。10年前から、ろくに話しもしてねぇからな」


「その割には、今日はよく喋ってるわね。あんたのことはよく知らないけど、勝手なイメージでああいう生真面目キャラとは話すのも面倒なんじゃないかって思ってた」


「面倒だよ、間違ってない。だから、あいつのことは昔から気に入らない」


 自販機でイチゴ牛乳を買い、一気に飲み干す。


 一翔と俺は正反対だ。例えるなら、合わせ鏡のように。


 だからこそ、あいつの考えを受け入れられなくて、ずっと胸がくすぶっている。


 拒絶とは違う感情と、取り除きたいとは思えない気持ち。


 一翔のことが頭をよぎると、言葉にならない苛立ちを覚える。


「私は嫌いじゃないわ、ああいう真っ直ぐな感じの男。あんたや柘榴のバカとは大違いで」


「それは良かった。俺もあんたには好かれたくねぇ」


 こんな戦闘民族で口より先に足が出る女に好かれても何も嬉しくない。


 金本の場合は、好き嫌い以前の話だけどな。


 自販機の前を2人で独占していると、「ちょっと、すいません」と声をかけられた。


 緊張しているような少し上ずった女の声だった。


 金本は目を細めて警戒心を露わにし、女に低い声音を発する。


「何?私たちに何か用?」


 おい、何でそんな喧嘩腰なんだよ。


 こっちじゃ威圧感を与えるだけでらちが明かないな。


 確か、彼女は阿佐美のAクラスの……。


「真城さん……だっけ?」


「は、はい。あの……椿くんに聞いてもらいたい話があるんです」


 ご指名を受ければ、金本から背中を強く押しだされてはさっさと行けと言うように手を前後に振られた。


 会って1日にも満たない俺に話というのが、嫌な予感を誘発させる。


 雰囲気から2人だけで話がしたい感じだったから、人気ひとけのない食堂に場所を変える。


「それで、話って何?」


「さっきから見ていたら、柿谷くんと仲が良いように見えたから。椿くんは、彼と友達なんだよね?」


「断じて違うけど、腐れ縁ではあるな」


 真城の言う友達って言葉の響きに妙な不快感を覚える。


 猫を被っている時の麗音に似ているからかもしれない。


「椿くんから見て、今の柿谷くんはどう見えるのかな?」


「随分とアバウトな質問だな。あいつは融通の利かないアホ真面目以外の何でもないと思うし、昔から変わってないと思うけど」


「そう……そうなんだね」


 真城の表情が曇り、俺から目を逸らす。


「こんなこと……本当はこの学園と関係のない君に言うのは変だと思うんだけど、柿谷くんと関係があるなら話した方が良いのかもしれない」


 話すことを躊躇ためらっている。


 しかし、真城は勇気を振り絞って話し出した。


「柿谷くんは、私の友達を陥れたんです」



 -----

 敦side



 休憩時間も残り10分となるが、この機会に柿谷一翔に確認したいことがある。


 日下部から離れるタイミングを見計らい、声をかける。


「柿谷くん、5分ほど時間もらえるか?」


「岸野先生……。わかりました」


 話したいことの内容がわかったのだろう、柿谷の顔から愛想笑いが消えた。


 誰も居ない内に廊下に出て少し離れ、すぐに口火を切る。


「聞きたいことは山ほどあるが……。優先して聞きたいことは2つ。1つは椿のこと、もう1つは君の持っている異能具のことだ」


「そう……ですか」


 柿谷はY-シャツからカバーの着いたスマホを取り出し、俺に見せる。


「異能具については聞かれると思っていました。これは生徒会に所属することになった時に、適性試験を受けて会長から頂いたものです。詳しいことは教えてくれませんでしたが、能力が僕と合っていたみたいです」


「それはさっきの模擬戦で確認した。並みの使い手では、あそこまで椿と互角に渡り合えるわけがない」


「互角……ですか。先生は優しいんですね。他の学園の生徒にまで気をつかってくださるなんて」


「客観的な事実を述べたまでだ」


 柿谷は自嘲じみた笑みを浮かべる。


「目の前で起きていることが1つの側面から見た事実だとしても、それが真実である確率は100には決して満たない」


 その言葉は、以前聞いた別の人間から聞いたことがあった。


 だから、その先の言葉は俺が続けた。


「それが真実であるかどうかは多くの他人にとってはそれほど重要ではない。何故なら、多くの他人は事実には興味を示せど、真実には無関心だからである……か。あいつは受け売りの哲学をドヤ顔で語るのが癖だったな」


「受け売りだったんですね。まるで自分で考えたことみたいに言っていましたよ……涼華姉さんは」


 柿谷は俺に歩みより、強い眼差しを向ける。


「岸野先生は……涼華姉さんとはどういう関係だったんですか?」


「言ったら殴られるかもしれないが……真剣な交際をさせてもらっていた」


「そうですか」


 流れるような動作で、柿谷は顔面まで握った拳を伸ばしては直前で止める。


 風圧によって、整っていない髪がさらに少し乱れた。


「何故、止めた?」


「殴ってほしそうな顔をしていましたから殴ろうとしましたけど、それだとただの八つ当たりになるだけですから」


 拳をおろし、冷静な目を向けられる。


「あなたもまた、涼華姉さんが死んだことによって悲しみを背負っている人なんですね。親近感が持てました」


 柿谷は十字架の異能具を手に取って見つめる。


「僕がこの異能具を手にしたのは、運命なんじゃないかって思ったんです。僕は大切な人が死んだ時に側に居ることができなかった。それも2度も……。ずっと、自分が許せなかったんです」


「君のせいじゃない。仕方がないことだった」


「仕方がないじゃ済まされないんだ!!」


 怒りの表情を浮かべる柿谷は声を荒げる。


「あいつは……円華は、あの時だってすぐに動くことができた。大切な者の魂を救うために、あいつは仇を討つことを選ぶことができた。だけど、僕は選ぶことすらできなかったんだ。未だに、あの時選ぶべきだった答えを捜している。まだ、スタート地点にも立っていない」


 柿谷一翔が強くなるための原動力が少しだけわかったような気がする。


 椿円華への対抗心の本当の意味は、あいつとは別の新たなる道を捜すためだったのか。


 椿は大切な者の弔いのために復讐する道を選んだ。


 しかし、柿谷はその性格からしてその道を選ぶことができなかった。


 自分の答えを見出すために、強さを求めるしかなかったのかもしれない。


 話を聞いている限り、スタート地点にも立てていないと言う時点で答えは出ているようなものだと思うが……。


「異能具のことはわかった。君の悩みも今度改めて聞こう。それなら、もう1つの質問にも答えてくれ。椿の目の変化には気づいていたのか?」


「……あの左目のことですか?それなら、大分前から知っていましたよ」


 話が変われば興奮は収まり、平静に戻った。


「円華が特異なことは知ってましたし、気にしてません。あいつが僕の……壁であることには、変わりありませんから」


 涼華から聞いていたが、椿は桜田の一族から化け物扱いされていたらしい。


 しかし、柿谷は周りに流されず、あいつを個人として見て目標としている。


 そして、椿自身も彼の実力は認めている。


 案外、適性は合ってると思うんだがな……。


 あとは心の問題だな。


「これは純粋な頼みなんだが、椿の目のことについて口外することは避けてほしい。君自身のためにも、余計な波風は立てたくない」


「わかってます。あいつのことでペースを乱されたら、いい迷惑ですから」


 椿のこととなると、途端にドライになるのはどうしてなんだろうか。


 休憩時間も終わりが迫り、頃合いを見計らって教室に戻る。


 柿谷と話してみて、改めて彼の人となりを把握できたのかもしれない。


 しかし、だからこそ気がかりなことがある。


 あの異能具……クロスチャージャーと言ったか。


 使用者の思考を読み取り、状況に応じて力を調整する能力。


 そして、あの十字架の形……。


 何かが引っ掛かる……言葉にはならない、何かが……。


 まさか、あの人が関わっているのか?

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