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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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犬猿

 一翔side



 昨夜のことだ。


 寮の自室で日課でやっている筋トレの最中に突然、珍しい人から電話がかかってきた。


 首に巻いていたタオルで額をふきながら、スマホを耳に当てる。


「もしもし」


『もしもし、一翔~?おっひさ~。元気してる~?』


「どうしたんですか、奏奈さん。あなたが僕に連絡をしてくるなんて、初めてのことじゃないですか?」


 奏奈さんとは文化祭実行委員になる前から、才王学園の生徒会とは交流があったからよく顔を合わせていた。


 今でこそ、普通に会話ができているけど、最初に会った時は緊張して言葉を交わせなかったのが懐かしい。 


 というか、何故スマホの番号を知っているのかに疑問を覚えてしまう。


 でも、この人の場合は聞いても真面に取り合ってはくれないだろうな。


『あなたに今日までサプライズにしていた情報があるんだけど、聞く?』


「サプライズ?今まで、何を隠してきたんですか?」


『隠すなんて人聞きが悪いわね。だけど、あなたがきっと、素直にではないけど喜ぶ情報よ』


「何ですか、改まって」


 素っ気なく聞くと、電話越しにフフっと笑って奏奈さんは言った。


『明日、椿円華が阿佐美学園に行くわ』


「っ!!……今、何て…!?」


『円華は才王学園の生徒なのよ。そして、あなたと同じ文化祭実行委員よ』


 驚きが隠せなかった。


 だって……円華はアメリカに居るはずだ。


 日本に帰ってきたことだって知らなかった。


 それに、才王学園に居たなんて……。


 涼華姉さんのことが関係しているのか。


 言葉が出ないでいると、奏奈さんの陽気な声が聞こえてきた。


『良かったじゃない。2年ぶりの感動の再会よ?』


「別に嬉しくはないですよ。会ったところで話すことなんてありませんし。僕に気づいた所で、あいつが話しかけることも無いでしょうから」


『相変わらず、円華の話になると途端に不機嫌で素っ気なくなるのね』


「そんなことはないですよ。……あんな奴、どうでも良いですから」


 溜め息をつく音が漏れ、奏奈さんは呆れるように言った。


『もう何年も喧嘩して……。そろそろ、お互いに歩み寄る努力をしたらどうなのかしら?』


「あいつにその気が無いから、僕もそうするしかないんですよ」


『その言い方だと、まるで円華が悪いみたいな言い方ね?』


「そんなこと、思ってませんよ。あれは僕も悪いんですからね。でも……僕はまだ、円華を許せない。約束を守らなかったあいつを友だとは思えません」


『そう……。あなたと円華がどんな約束をしたのかは、流石に私にもわからないわ。だけど……本当にそれだけなのかしら?』


「どういう意味です?」


『これに関しては、あなたたちのお互いに対する性質が関係しているんじゃないかって私は思ってるの』


「言っている意味がわかりません」


 奏奈さんは電話越しに笑い声を漏らす。


『明日、会ったらわかるんじゃないかしら?私が思うに、日下部康則の性格からして、面白い余興を考えていると思うのよ。あの子は何でも上と下を決めたがる節があるから』


「まるで、明日起こることが全てわかっているみたいな言い方ですね?」


『全てはわからないわ。だけど、お膳立ぜんだてをした立場からしてみれば予想することは容易いってだけ』


 本当にこの人は性格が悪い。


 だけど、明日円華がこの学園に来るのであれば……。


「あなたが何をしても、僕たちの関係は変わりませんよ。円華が変わらない限り」


『あの子は変わったわよ、間違いなくね。あなたと同じで成長している。期待していると良いわ』


 話を区切り、奏奈さんは「あ~、そうだ」と何か思いついた前置きをする。


「あなたたちの場合、手合わせでもした方がお互いのことが直にわかるんじゃないの?」


 それは理想的な提案だ。


 円華と戦いたいという気持ちは強い。


 だけど、今の僕は……。


「正直、今の円華が僕と対等に戦えるかどうかはわかりませんよ?あいつと戦うなら、全力で戦いたい。剣以外に、異能具を使うことにも躊躇ためらいはありません」


『大丈夫よ。思いっきり全力でぶつかると良いわ。あの子もあなたと同じで、異能具を持っているのだから』


「……そうですか。それなら、手加減する必要はありませんね」


 もっとも、そんなことを聞かなくても手加減することなんてできない。


 昔から僕にとって、円華は超えるべき壁なんだから。


『ちょっと複雑って感じ?』


「何がですか?」


『強力な異能具を持っている自分は円華よりも特別だって思ってたんじゃないかな~って。』


「……」


『フフッ、ごめんなさいね。ちょっと意地悪だったかしら』


「いいえ。自分の中の無意識のおごりを打ち砕いてくれて、感謝したいくらいです。俄然がぜんあいつに負けたくなくなりました」


『そう、それは良かったわ。期待しているのよ、あなたと円華の成長には』


 じゃあねという言葉を最後に、電話は切れた。


 戦う上で、円華と僕の条件は対等。


 それなら、全てを出し切る覚悟で戦うことになる。


 そして、円華が10年前のことを覚えているのであれば……。


 昔のことを思い出し、机の上に立てかけてある写真立てを手に取る。


「もしかして、涼華姉さんが導いてくれたのかい?ありがとう。だけど、そこには君は居ないんだね……。悲しいよ、蒔苗」


 もう2度とそろうことのない4人の写真。


 黄昏たそがれを抱きながら、来るべき明日が待ち遠しく思えたんだ。



 -----

 円華side



 気づいた時には、俺は壁に背中を打ち付けて床に倒れていた。


「痛っ~~~!!」


 今の光には見覚えがある、スタングレネードだ。


 眩しさで身体が一瞬硬直し、その隙に誰かに投げられたのか。


 ぼやける視界が段々と良好に戻り、腰を押さえながら立ち上がって周りを見る。


 はっきりと映るものの中で最初に捉えたのは、俺とは反対側の壁に倒れている一翔だった。


 あいつは刃の先を床に着け、杖のようにして身体を支えながら立ち上がる。


「今のは……一体……」


 一翔も状況がわかっていないみたいだ。


 その中で、聞き覚えのある低い男の声が聞こえてきた。


「言ったよな、危険と判断したら中止すると。勝負は引き分けだ」


 俺と一翔に挟まれる形で、岸野が中央に立っていた。


 いつもは必要な時以外は白衣のポケットに突っ込んでいる両手が出ている所から、すぐに状況を察した。


 スタングレネードを使って俺たちの動きを止め、投げ飛ばしたのは岸野だ。


 中断を宣言する教師に対して、日下部が不満を口にする。


「おいおい、これで終わらせるのか?先生。俺の目には、2人はまだ戦い足りないように見えるけど」


「黙れ、付け上がるなよ青二才のガキが。子どもの遊びに付き合ってる時間はもう終わりだ」


 観客席を見てサングラス越しに睨みつければ、その有無を言わさない覇気を受けて日下部は黙った。


 だけど、間違ってはいない。


「まだ……終わりじゃない」


「そうだ……。まだ、戦えるっ…!!」


 俺は白華を握り、一翔も両手から刀を離さなかった。


 互いに岸野の向こうに居る勝つべき相手を見据えている。


 それを察した岸野は、俺に歩み寄っては目にもとまらぬ速さで平手打ちをくらわせた。


 パーンッという乾いた音が響き、場が一瞬で重く静かになる。


「俺が終わりだって言っている。冷静になれ、同じ失敗を2度繰り返したくはないだろ?」


 岸野は観客席からの死角からスマホを見せてきた。


 それはカメラの自撮りモードになっていて、俺の顔を映す。


 紅に染まっている左目を。


「……いつから?」


「わりと最初からだ」


 異能具を使った一翔の実力は、希望の血の力を解放した俺と互角ってことか。


 これ以上戦っていたら傷を負い、無意識に紅氷ぐひょうを使っていたかもしれない。


 そして、一翔を殺そうとしていたかもしれない。


「……ありがとう、先生。1つ、貸しになったな」


「そう思うなら、上手く成長しろ」


「るっせぇな、わかってるっての」


 気持ちを落ち着け、白華を鞘に納めてから一翔に歩み寄る。


 一翔は少し動揺したみたいだが、刀を納めては平静を装って俺と向き合ってくれた。


「これで13戦11勝1敗1引き分けだな」


「……何が言いたいんだ?」


「わかんねぇのかよ、単細胞」


「誰が単細胞だ!!君の言葉は回りくどいんだよ!!」


「じゃあ、直接的に言ってやる。1度しか言わねぇからな」


 一翔の目を見て、戦ってみた正直な感想を言葉にした。


「おまえは強くなったよ。それがわかっただけでも、俺は嬉しかった」


 俺からの称賛に目を見開いた一翔。


 そして、歯を食いしばり、拳を握って何かに耐える。


「僕は、そんな()()を聞くために戦ったわけじゃないっ…!!僕は逆に悲しかった……。君は覚えていながら、3人の最後の約束を守るつもりがないことがわかったから」


 それだけ言い残し、一翔は苛立たし気な表情のまま俺の横を通り過ぎて行った。


 後ろを振り向かずに背中を向け、俺は孤独に立ち尽くす。


「……しょうがねぇだろ」


 一翔が俺に向ける怒りの理由は理解できた。


 昔から変わらず、俺を許してはくれないのだろう。


 だけど、それで良い。


 俺には、あの時の誓いを守る資格が無いのだから。



 -----



 結果は引き分けで終わったけど、互いの学園の生徒の実力を把握するには十分な効果はあったらしい。


 会議室に戻り、俺たちは役割のペアを組んで席に座る。


 俺と一翔の模擬戦を通して、自然と実力に関しては文句を言う者は現れなくなった。


「引き分けって結果には納得してないけど、流石は才王学園って所か。Eクラスでも、あれだけの力を持った奴が居るなんて驚いたぜ。椿であれだけ強いなら、上のクラスにはもっと上が居るってことか」


「椿をカーストに当てはめるのは意味がないことだ。彼の存在は特殊事例であり、他にも実力を持っていながら下位に甘んじている者も学園には居る」


「だから、その代表としてあいつを出したのか」


 日下部先輩の読みに対しては返答せず、進藤先輩は一翔を見ては話を変える。


「柿谷一翔の実力も大したものだった。阿佐美学園の管理教育の賜物たまもの……と言うには日は浅いが、これからの成長が期待できる逸材いつざいだろうな」


「そうだな。俺が言うのも何だが、Sクラスのカリキュラムは困難という言葉では生温いくらいに生徒を追い詰める。柿谷はこの約半年間、それを乗り越えてきた。並みの精神力の持ち主じゃないぜ、あいつは」


 互いの1年の実力を称賛し、認めているように見える2人。


 しかし、それにしては語る言葉の1つ1つに心がこもっていないのがわかる。


 特に日下部先輩に関しては、本心を隠して話している。


 それも当然か。


 先ほどの引き分けという結果に納得していないのは、何も俺と一翔だけじゃない。


 模擬戦を提案した真の目的は、おそらく今回の文化祭でどちらの学園が主導権を握るのかを暗黙の了解として決定させるためだ。


 そして、進藤先輩の平然とした態度からして期せずして彼の希望通りになったみたいだな。


 ……っと、まぁ、うん。先輩たちの水面下の状況は別にどうでも良いっての。俺には関係ねぇし。


 今、俺の中で問題になっているのはたった1つ。


 隣の奴に若干半目を向けると、不機嫌そうに横目を向けてきた。


「……何?」


「別に」


「別に何も無いんだったら、僕に視線を向ける必要はないんじゃないか?」


「るっせぇな。窓の外を見てたんだよ、おまえを見てたわけじゃねぇし。……自意識過剰なんだよ」


 最後はボソッと呟いたつもりだったが、一翔は睨みつけてきた。


「何度もチラチラ見てきたら、そうだと思うだろ!?勘違いさせるような目を向ける君が悪い!!」


「はぁ!?勝手に勘違いしたのおまえだろうが。俺はおまえに気を向けるほど暇じゃねぇんだよ!!」


「奇遇だな。僕だって、君に割いている時間はない!!」


 互いに怒りの視線をぶつけていると、後ろから大きな咳払いが聞こえては背中をびくつかせて恐る恐る後ろを見る。


 岸野がドス黒いオーラを発しながら俺たちを睨みつけており、その両隣に居る坂本先生と久遠先生が苦笑いを浮かべている。


 周りからは呆れたような目を向けられる始末だ。


「……ったく、一翔のせいで変な目で見られるめになったな」


「僕のせいにするな。自分の行動の責任は自分で取れ、偏屈者へんくつしゃ


「誰が偏屈者だ、アホ真面目が」


 互いにフンっと不機嫌に鼻を鳴らせば顔を背け、目を合わせないようにする。


 全く、何で俺と一翔が同じ役割なんだよ。どういう運命の悪戯いたずらだ。


 最悪な文化祭になりそうだぜ。

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