表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
200/495

衝突の模擬戦

 体育館に入り、才王と阿佐美の2つに分かれて準備を始める。


 館内には2階に観客用の席が用意されており、戦うことになる俺と一翔、審判を務める3人の先生以外はそこに移動する。


「来たは良いけど、何を使っての模擬戦なんだよ?竹刀とか木刀とかあるのか?」


「何でも良い。得物があるなら、それを使って良いぜ」


 上から日下部先輩の声が聞こえてきたが、その言葉を鵜呑うのみにして本当に得物を取り出せるかと言われれば、俺の場合はそうはいかねぇしな。


 岸野を呼んで竹刀を頼もうとした瞬間、向こうから冷めた低い声が聞こえてきた。


「その竹刀袋に入っているものを使えば良いだろ?それとも、その刀はただの飾りなのかい?」


 背中を向けたまま一翔が言ってきた。


 刀という言葉に上の方が少しだけざわつくが、それを気にせずに俺は竹刀袋から白華を取り出した。


 変な武器を使っていても、元軍人だからと言えば大体通るはずだ。


 中央に2人立ち、対面する。


「おまえ、どうして竹刀袋に入っているのが刀だとわかった?」


「……ただの勘だよ」


 目を逸らして言う態度に、イラつきを覚えた。


「嘘をつけ。……変わってねぇな、おまえ」


「何の話?僕は君みたいな男に憶えはない」


「そうかよ。別にどうでも良いだろ……。お互いに、もう他人なんだからな」


「……他人……だと!?」


 吐き捨てるように言えば、一翔は目を細めてはズボンの両ポケットから鍔付きの柄を取り出して勢いよく下に振っては鉄製の刃が出てくる。


 収納式の仕込み刀のようだが、刃は丸くなっている。


 俺の白華と同じで、人を殺すための武器ではないのか。


 一翔は怒りの表情で俺を睨み、右手に持つ刃を向けてくる。


「やっぱり、僕は君のことを知らないな。僕の知る『椿円華』という男は、そんな負け犬のような瞳をしていなかった!!」


「……はぁ?誰が負け犬だ!!」


 審判をする3人の先生が号令を言う前に、俺も鞘から白華を抜刀して氷の刃を露わにする。


「2人ともやる気十分って所か……」


「先生!……さっさとらせてくれっ…!!」


 怒りを理性で押さえつけようとしているが、抑えきれそうにない。


 知らねぇって言ったくせに、覚えてるじゃねぇか。


 最初に他人みたいな態度を取ったのは、そっちだろぉが。


 それなのに、俺のことを知ったような口を聞いてんじゃねぇぞ。


 岸野が俺たちの間に立つ。


「模擬戦の勝敗はどちらかが戦闘不能と判断する場合が基本だが、おまえたちの使ってる武器が武器なだけに、先生方の独断で止めに入ることも考えられる。その場合は中止、引き分けになることを忘れるな」


「了解。無駄にしてる時間もねぇし、さっさと終わらせてやるよ」


「ふんっ。昔みたいに、また降参するつもりかい?」


 昔のことを持ち出して挑発してくる一翔。


「誰がするか。今度は手加減なんてしねぇ。精々、泣きべそかかない内に白旗をあげる準備をしとけよ、アホ真面目」


「誰が泣きべそなんてかくもんか!!人を見下すのも大概にしろよ!?」


 言い合いがヒートアップする前に、岸野が溜め息をつきながら手を上にあげる。


「おまえらぁ……。さっさと始めるぞ」


 小さく息を吸い、手を下に勢いよく下して「始め!!」と号令が聞こえた瞬間———。


 俺と一翔は互いに刀を相手に向かって振り下ろしては衝突した。


 一翔は白華を2本の刀を十字に重ねてつば迫り合う。


「おい、今のはフライングギリギリなんじゃねぇの?」


「それを言うなら、君の方もじゃないのかい?」


「そうかもな。だけど、気づかれなきゃ反則じゃねぇ……よ!!」


 力で押し切られる前に、刀を受け流して一歩引いて間合いを開ける。


 隙ができた脇腹に向けて白華を振るう。


 一翔は左足を軸に半身で回転し、左手の刀で受け止めると同時に右手の刀を頭部に向かって振るってくる。


 それを身体をけ反らせて回避し、そのままバク転する勢いに任せて白華を下から振り上げる。


椿流剣術つばきりゅうけんじゅつ 燕返し!」


 右腕に向かった刃は、逆手に持たれた刀と左手の刀で十字に交差して防御された。


「柿谷流双剣術 十字返し」


 技の衝撃が氷刀から伝わり、身体に一瞬痺れが走って動きが止まる。


 その隙を見逃す剣士は居ない。


 一翔は右手の刀を持ち返し、その場で跳躍ちょうやくすると同時に両手を広げて横に回転し、2本の模擬刀を身をひねっては上段に構えて振り下ろした。


落星らくせい!!」


 咄嗟とっさに氷刀で受け止めるが、重力と遠心力を利用した剣技に力負けして膝を突きそうになるのを耐えた。


「うぐっ!!」


 うちの『回転』と『天落』の複合技みたいなものか。


 攻撃はそれだけでは終わらない。


 止められることを見越していたのか、力を抜いて床に足を着けると2本の刀で光速突きを仕掛けてきた。


烈火れっか!!」


 2本の刀を白華1本でしのぐのは至難の業であり、腹部に刀の先端がめり込んでは強烈な一撃に突き飛ばされそうになる。


 ここで負けるわけにはいかない。


 床に背中を着く前に左手を着いてバネにして体制を整える。


「はぁ……はぁ……。おまえ、こんなに強くなってたのかよ?」


 正直、今の俺に余裕はない。


 眼帯を着けてないからとか、人前だから能力が使えないからとか、そんなことは言い訳だ。


 冷気を使えないから痛覚はあるし、今の一撃だって一瞬気絶しかけた。


 腹を押さえながら見据えれば、一翔は双剣を構えながら闘志の宿った目を向けてくる。


「10年前から、円華を超えるために鍛錬たんれんを続けてきたのは確かだ。あの時の君の強さに憧れて、あの事件の後も君とは何度も試合をした。その度に僕は君に負けてきた。勝てたのは、君が降参したあの1回だけ。それが僕にとって、何よりも屈辱的だった」


「……今更、昔のことを蒸し返すのか?」


「昔のことだけど、僕は昨日のように覚えている。あの時の借りは、いつか返すと思って日々を送ってきたんだ。そのために君に負けた試合を何度も研究し、自分の動きに取り入れてきた。その上でできたのが、『柿谷流双剣術』だ」


 通りでうちの椿流剣術と似ている技があったわけだ。


「やっぱり、おまえのオリジナルか。柿谷の家に双剣術なんてあるなんて聞いてねぇし。堅物のおまえの親父が新しく流派を作るはずがないしな。俺を真似まねて、俺に勝つために生み出した剣技ってわけか」


「そうだ。全ては君に勝つために努力した成果だ。だけど……残念だな。せっかく、こうしてまた君と戦える日を楽しみにしていたのに―――」


 哀しみを含んだ目を向けたかと思えば、一歩踏み込んだだけで目と鼻の先まで距離を詰められ、右手の刀を振り下ろされる。


 俺はそれを両手で握った白華で受ける。


「どうして、そんな無様な顔をして僕の前に現れたんだ。円華!!」


「っ…!!」


 おかしい。


 一翔は片腕で、こっちは両手で刀を握っている。


 それなのに、力負けして押されている。


 さっきの高速剣だって、鍛えたというレベルで達する速さじゃない。


 常人を遥かに超える動きだった。


 腕の力と俊敏しゅんびんな動き、そして1歩踏み込んだだけの高速移動。


 俺の知っている力と、共通点が多すぎる。


 怒りで余計な力が入り、刀を振り払う。


 距離を取り、白華の剣先を一翔に向ける。


「一翔……おまえ、まさか……!?」


「君が何を取り乱しているのかは知らないけど、できる限り公正に戦うために種明かしはした方がいいかもしれないね」


 一翔は小さく息を吐き、長袖の制服を脱いでは半袖のY-シャツ姿になる。


 両手には赤いリストバンドが着けられている。


 そして、左手の刀を右の脇に挟み、シャツの胸ポケットから首に下げているひも付きのカバーを付けたスマホを取り出して俺に見せる。


 そのスマホカバーの後ろには青い十字架の紋章エンブレムが刻まれている。


「このスマホカバーは『クロスチャージャー』と言う名の僕のもう1つの武器だ。君のその氷の刀と同じ物だと言えば、わかるんじゃないかな?」


「白華と同じ……?なら、それは異能具なのか!?」


 一翔は肯定も否定もせず、スマホを胸ポケットに仕舞って刀を握る。


「チャージャーは僕の考えを読み取り、リストバンドを着けた両手と両足に必要な力を加えて強化してくれる。状況に合わせ、臨機応変に戦えるようにするための補助武装だ。だから、こんなこともできる!!」


 一瞬で視界から消え、高速で移動しながら俺の周りを円状に回る。


 そして、時間差で仕掛けてくるとすれ違いざまに縦横無尽に何度も刀を振るってくる。


「柿谷流双剣術 刹那せつな!!」


 単純なパワーとスピードの補助と、一翔自身の長年鍛え上げてきた剣術の正確さ。


 希望の血を使ったのかと疑ったのがバカだった。


 そうだ、こいつはあんな力に頼るような男じゃない。


 どこまでも真っ直ぐで、単純で、間違っていることを許容する寛容さも無くて。


 だからこそ、下手に危ない力に手を出す奴らよりも強く成長できたんだ。


 ひたすら鍛え続けてきたんだろう。


 そして、自分以外の力を使うことも覚えたのだろう。


 その結果が、今、俺を追い詰めている。


 おかげで、こっちは防戦一方だ。


 だけどな……一翔。


「俺だって、怠けてたわけじゃねぇんだよ!!」


 横に振るってきた右刀を白華で受け流して半回転し、一翔の背後に回る。


 回転した勢いで氷刀を振るうが右刀で止められる。


 しかし、止められるのは計算済みだ。


 至近距離で一翔の目が白華に注意を向けていることを利用し、空気に乗せるように手から離す。


「何!?」


 意表を突いた行動に驚愕を隠せない一翔。


 そこから隙が生じ、足に向かって回し蹴りを食らわせればバランスを崩して後ろに仰け反らせる。


 そして、流れるように後ろに手を回してY-シャツを引っ張ってはそのまま抑えつける形で地面に背中を叩きつけた。


「ぐはっ!!」


 身体を起こして空中の白華の柄を握り、振り下ろす。


「教科書通りの型の動きで、基本に忠実な剣技、その上、異能具の性能で勝てると思ってたのか!?そんなわけぇだろ、アホ真面目!!どこの漫画の主人公なんだってんだよ!!」


「誰がアホ真面目だ、ひねくれ者!!君に物を言う資格はない!!」


 一翔は両手の刀を逆手に持ち、交差させて防がれる。


 やべぇ、つば迫り合いの力比べに持っていかれたら俺に勝ち目はない。


 このまま剣先を突きつけて負けを認めさせるはずだったのに。


 下から押し返されそうになっていると、一翔は怒りの表情を見せる。


「ふざけているのか!?それとも、僕をバカにしているのか!?」


「はぁ!?意味わかんねぇし。一体、何の話しだよ!?おまえ、話を跳躍ちょうやくし過ぎなんだよ、昔から!!」


 力技に持っていかれる前に離れて間合いを開け、白華を構え直す。


 一翔も立ち上がり、両手の刀を握り直した。


「気づいていないと思っているのか?バカにするのも大概にしろ!!君がまだ本気を出していないことぐらい、わからないはずがないだろ!?」


 駆け出して距離を詰めれば、怒りをぶつけるように両手の刀を勢いに任せて振るってくる。


 それを白華で防いで裁き続ける。


「僕が戦いたいのは、()()()()()()だ!!今の抜けた君じゃない!!」


「誰が腑抜けてるって!?勝手に期待を押し付けてくるんじゃねぇよ!!おまえのそう言うところがっ…!!」


 俺は両手の刀を弾き飛ばし、握り拳を作って顔面を殴ろうとする。


 だけど、すぐにきびすを返して一翔の腹部に強い蹴りを入れた。


「んぐっ!?……僕だって、君のその人をバカにした態度がっ……!!」


 こっちの一撃に耐えながら、一翔も拳を握って俺の腹部にめり込ませた。


 さっき受けた突きの痛みがまだ残っており、身体へのダメージが蓄積される。


 だけど、耐え切る、倒れない。


 絶対に、倒れるわけにはいかない。


「一翔、俺はっ……!!」


 床に落ちた白華を取り、一翔に向かって駆け出す。


「円華、僕はっ……!!」


 一翔も床に刺さった2本の刀を手に取り、鬼気迫る顔で距離を詰めてくる。


「おまえに負けるわけにはいかねぇんだよ!!」

「君に負けるわけにはいかないんだ!!」


 もはや、理屈なんて関係ない。


 感情が先走り、身体が勝手に動く。


 頭の中にあるのは、たった1つの想いだけ。


 目の前に居るこいつにだけは、絶対に負けたくない。


 雄叫びをあげながら俺の白華と一翔の2本の刀が衝突しようとした瞬間。


 俺たちの視界は白い光におおわれた。

感想、評価、ブックマーク登録、いつもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ