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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
隣り合わせの文化祭
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強引な提案

 一翔を先頭に壁の内側に入り、視界に広がるのは巨大な校舎だった。


 広範囲に建てられた学園は、迷路のようなコンクリートジャングルを思わせる。


 才王学園とは似て非なるもので、環境としては解放感がまるでない。


「息が詰まりそうな所だな」


 誰に言うでもなく呟くと、偶然隣を歩いていた金本が声をかけてきた。


「心ここに在らずって感じね。あの柿谷って奴と何かあったの?」


「・・・は?」


 呆気に取られて素で聞き返すと、俺と一翔を交互に見てから言葉を続けた。


「あの男が現れてから、あんたがずっとアホ面になっているのが妙にイラつくんだけど。知ってるんでしょ?あいつのこと」


「……知らねぇよ。他人の空似だ」


 そうだ。別にあいつが気づかないなら、極力関わらないようにすれば良いだけじゃねぇか。


 バカらしいだろ。何で俺だけ動揺しなきゃいけないんだ。


 あいつが偶々ここの生徒だっただけの話だろ。世間は広いようで狭かったってだけだ。


 一翔は先生と先輩と雑談を交わしながら校舎の中に入り、俺たちもその後ろに続く。


「何だか、石上くんとは違う意味で爽やかな雰囲気の人だね、柿谷くんって」


「え~?そうかな~?爽やかって言うか、真面目っぽい感じ?でも、それでも石上くんと被るよねぇ~。ちゅ~か、違う意味でって何?」


「あ、うん、何か近寄りがたい感じもあるなって思って。そう言う意味では、椿くんと似てるかも」


「・・・はぁ?」


 井塚と柄沢が一翔のことをどう評価するかはどうでも良いけど、俺とあいつが似ているというのは気にくわない。


 睨むつもりはなかったが、無意識に目付きが鋭くなっていたようで井塚がひるんでしまう。


「ちょっと~、舞ちゃんを怖い目で見ないでよね~」


「わ、悪い。ちょっと、今、機嫌悪くて」


「うわぁ、出たよ。機嫌悪いって言っておけば何でも許してもらえると思っている男子だ~。そう言うの、マジ引くわ~」


「……すいません、反省します」


 柄沢の奴、面倒くせぇな。


 深い溜め息が出てきては、前に顔を向けて先頭の4人に目が行く。


 一翔と俺が似ている?そんなはずねぇだろ。


 少なくとも、あいつが昔から変わっていないのであればの話だけどさ。


 耳を傾けていたわけじゃないけど、前での話が聞こえてくる。


「君は1年の中でも優秀な生徒だと、久遠くどう先生から聞いている。柿谷家の出であるとなると、剣術の才能を買われたのか?」


「どうなんですかね。剣術は日々鍛錬を積んできましたが、それはまだ実を結んだとは思っていません。その道の才能で選ばれたのだとは、おこがましくて口にできませんよ」


 一翔の言葉を謙遜けんそんと受け取ったのだろう、岸野は食い下がる。


「しかし、中学時代は数々の剣道の大会で優勝しているそうじゃないか。正直、君の実力ならうちの学園に入ってもすぐに上のクラスにあがれたはずだ」


「それは理想論ですよ。先生方が僕のことをどう思っていらっしゃるかは存じませんが、僕は自分のことを優秀だなんて思ったことはありませんよ。……いや、ある目的を果たすまで、そんな風に思えないと思います」


「目的……?」


 岸野が聞き返すと、苦笑いを浮かべる。


「僕には越えられない壁があるんです。その壁を越えるために、僕は日々己を鍛え上げてきました。その壁を越えられる日が来るまで、自分を認めることはできませんよ」


「壁……か。君がそいつを越える日が来るのを、楽しみにしている」


「……ありがとうございます、岸野先生」


 一翔と話ながら、岸野は一瞬だけ俺の方に視線を向けてきたが気づかないふりをした。


 しばらくすれば、会議室の前で立ち止まり、俺たちはその中に通された。



 -----



 会議室の中には既にメンバーは集まっていたようで、俺たちと対面する形で椅子と机が配置されている。


 1人の中年男性が岸野と坂本先生に頭を掻いて会釈しながら近づいてきた。


「これはこれは、岸野先生と坂本先生。お出迎えが遅れて申し訳ありません」


「いえいえ。こちらが予定より無駄に早く着いてしまっただけですから、お気になさらないでください。久遠先生」


 久遠……さっき名前が出てきた、阿佐美学園の教員か。腰が低そうな雰囲気をしている。


「どうぞ、ご着席ください。早速、顔合わせを兼ねて話し合いを始めましょうか」


 久遠先生は俺たちに座るように促した後、すれ違う一翔に「お疲れ様、ありがとね」と労いの言葉をかけた。


 あいつはそれに対して軽く頭を下げた後、向こうの机に着いた。


 才王学園側と阿佐美学園側に分かれて座り、進藤先輩と対面している、長髪をポニーテールにまとめている男が彼に陽気に話しかけた。


「久しぶりだな、進藤。元気にしていたか?」


「それなりに。おまえの方は、聞くまでも無いと言ったところか。日下部くさかべ


「俺は何時でも元気いっぱいさ。それだけが取り柄だからな」


「今年はおまえが代表なのか?」


「そうだ。2年で暇なのは、全クラスを通しても俺しか居なかったみたいだから、仕方なくな」


 進藤先輩は少し残念そうな顔をしては、日下部先輩から視線を逸らす。


 眼鏡の位置を正し、岸野と坂本に目を向ける。


「先生、時間を無駄にしている余裕はありません。すぐに始めましょう」


「そうだね。じゃあ、才王学園側から時計回りで軽い自己紹介をお願いね。その後で役割分担とかいろいろとしたいから」


 進藤先輩から自己紹介を始めていき、すぐに俺の番になった。


「Eクラスの椿円華です。よろしくお願いします」


 名乗った後に一翔に視線を向けるが、特に驚いたような様子は無かった。


 俺に一瞬でも視線を向けることは無かったんだ。


 あいつ、もしかして、俺のことを忘れたんじゃないだろうな。


 次に阿佐美学園側の生徒の番になり、別に興味が無かったから聞き流していたが、1人の女の存在が気に止まった。


「初めまして、Aクラスの真城結衣ましろ ゆいと言います。楽しい文化祭にしていくために、頑張っていきたいと思っています。よろしくお願いします」


 何だろう?このデジャブを見た感じ。


 どこかの猫被りさんを彷彿ほうふつとさせるようなキャラだな。親戚か?


 最後に日下部先輩が席を立って名乗った。


「2年の日下部康則くさかべ やすのりだ。みんなのことは俺が引っ張っていくから、大船に乗ったつもりでいてくれ。必ず合同文化祭を成功させよう!」


 無駄に熱いな、この人。


 引っ張っていくって、逆に任せても良いのか心配になってくるぜ。


「そう言えば、才王学園側のCクラスの方は欠席のようですが?」


「申し訳ない。Cクラスの委員は気まぐれな奴で、手綱を握る前に逃げられてしまった。奴を抜きにして話を進めましょう。欠席者には文句の言いようはありませんからね」


 幸崎を抜きにして、あいつには有無を言わさず役割を押し付けるってことか。


 それに素直に従うとは到底思えないけど。


 坂本先生が中央に立ち、書類を見ながら説明を始める。


「事前に各学園で役割を1通り決めてもらったと思うけど、基本的に才王学園と阿佐美学園の交流ということを目的としているため、2人ずつの行動になります。それぞれ、同じ役割の人とコンビになるから、後で分かれて話し合ってもらうね?それから―――」


「ちょっと待ってくれるか?坂本先生。それについて、俺から1つ提案があるんだ」


 挙手をして先生の話を遮る日下部先輩。


「俺たち2年はともかく、1年生は互いのことを知らない。初対面だ。だから、お互いの学園の生徒が本当に協力に値する実力を持っているのかを軽く確かめ合った方が良いんじゃないか?」


「確かめるとは、一体どうするつもりだ?」


 岸野の質問を待っていたかのように、日下部先輩は俺たち1年を一瞥いちべつする。


「コンビを組んだ者同士で競ってみるというのを考えたが、それを全員でやっている時間はない。だから、才王学園側から1人、こっちから1人を代表して選出して模擬戦をするのはどうだ?」


 模擬戦…?


 何か、嫌な予感がする。


「1年に頼むのは安全確認だからな。もしものために、戦闘力が必要になる。こっちにはその面で頼りになる後輩が居るが、そっちはどうなんだ?進藤」


 話を振られ、進藤先輩は俺たち1年に静かに目を向けては俺と視線が合ってしまった。


「居ないわけではないが、その模擬戦で本当の実力が計れるとは、俺には到底思えない。時間を浪費するだけじゃないのか?」


「互いの力を把握することは必要だろ?連携を取るためには、実際にぶつかり合わないとわからないこともある。違うか?」


「それでお互いの生徒が共倒れになったらどうする?責任は取れるのか」


 互いの主張は平行線だ。


 確かに実力を計れるに越したことはないけど、それがどこまでの実力なのかは真に計るのは難しい。


 日下部先輩は何を考えて、模擬戦をすることにこだわっているんだ?


 岸野が手をパンパンッと2回叩き、注意を自分に向けさせる。


「このまま言い合っていてもしょうがない。全員が集まる時間を決められているのは今日だけじゃないんだ。2人だけの代表戦なら、それほど時間も要らないはずだ。別に良いんじゃないか?進藤」


「しかし、先生。その模擬戦の結果次第では……」


「大丈夫だ。互いに今居る中で強い奴を出せばいいんだろ?だったら、こっちが出すのはすぐに1人に絞り込めるはずだ」


 進藤先輩は未だ渋っており、その中で日下部先輩は強引に話しを進める。


「場所は体育館だ。こちらからは柿谷一翔を出すつもりだ。良いな?柿谷」


「……わかりました。先輩がそう言うなら、僕はそれに従います」


 一翔は了承し、一瞬だけ俺に目を向けてきたような気がした。


 それなら、こっちが出るのは自然と俺か雨水、あるいは実力が未知数のDクラスの海藤ということになるが、進藤先輩の中ではもう答えは出ているようだった。


 先輩は俺に目を向けて聞いてくる。


「椿……頼めるか?」


 進藤先輩は模擬戦をすることを渋っていた。


 それは時間が無いというだけの問題じゃないことは、岸野との会話で少し察することができた。


 そして、先輩と岸野の理想とする結果も薄々理解できた。


「了解、やります」


 俺たちは体育館に移動し、それぞれの準備を始めた。


 一翔と勝負するのは、2年ぶりになるか。


 

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