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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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閉会後の捜索

 結果発表とトロフィー授与だけの退屈な閉会式が終了する。


 黄団のテントでは、正気に戻った真央が3年の先輩に頭を下げて謝罪し、渋々ながらも許しを得られた。


 自分の非を認め、素直に謝ることができるのは真央のいい点だ。


 おそらくだけど、これで3年から彼に因縁をつけられることは無いだろう。


 校舎に戻ってから着替えを終え、全校生徒は帰路に着く。


 俺はBCと地下街を歩き、ある場所に向かう。


「何でおまえまで来るんだよ?これは俺の問題だ」


「弟が危険な場所に行こうとしているのに、お姉ちゃんが放っておけるわけないでしょ~?」


「……あっそ」


 陽気に言うBCに溜め息をつく。


 特に話すことが無いと言うか、この前のプールの一件から気まずくなったと言うか。


 姉だってことを認めていないのは事実だし、実際に本当に姉じゃなかったのだから間違ってはいないわけで。


 それでも、言ってしまった言葉に罪悪感がないってわけでも……。


 歩きながら何を話せば良いのかを考えていると、不意にBCが呟いた。


「頼ってくれて嬉しかったわ。例え、もうお姉ちゃんだって思われなくても」


「……」


「あれからね、お父様に確認を取りに1度だけ本家に戻ったのよ。だけど、事情を伝えたら話を聞いてもらえないどころか、会ってすらもらえなかったわ。これがどういう意味なのか、容易に推測できる」


「……BC、俺……」


 何かを言わなきゃいけない。


 謝らなくちゃいけなくて、真実を伝えないといけなくて、だけど、それを何かが拒んでる。


 言葉に詰まっている俺を見て、薄く笑みを浮かべるBC。


「大丈夫。あなたと私の関係は変わらないわ。今も、そしてこれからも…ね」


「……それは願い下げだ」


 減らず口ならすぐに出てくるのに、大切な言葉が出てこない。


 最悪だな、俺。


 最悪な弟だ。


 路地裏に到着し、真央の行っていた場所を捜す。


 巨大な倉庫と言っていたから、すぐに見つかると思っていた。


 しかし、BCと手分けしてしばらくしても見つからなかった。


 2人で見つけたのは、不自然に広い空き地だった。


「こんな広い面積の空き地なんて、この地下に在ったかしら……」


「3年もここに居たんだろ?おまえのことだ、地下の地理を把握していないわけないよな」


 BCの性格から考えて、初めて来た場所の地理や情報の把握は誰よりも先に始める。


「路地裏に来た回数は?」


「3年間で通算45回よ」


 よく覚えてんな、記憶力も尋常じゃねぇ。


 その中で突然出現した倉庫の存在を把握できていないとなると、また奇怪なことが起きているとしか考えられない。


 真央の言葉が嘘だとは思えない以上、何か仕掛けがあるはずなんだ。


 考え込みそうになると、BCが肩に手を置いて現実に戻してくれた。


「今日はもう戻りましょう。また、今度調べれば良いわ」


「……そうだな。今は真央を救えただけ良しとするか」


 本当は今すぐに見つけて取り壊してやりたいところだけど、実現できない理想に怒りを感じても仕方がない。


 倉庫は見つからず、その後は秘密裏に武器商人の情報を募ろうしたけど見つからなかった。


 突然現れる武器商人と武器庫。


 その存在に迫るのは、また今度にしよう。


「悪かったな、BC。個人的なことに付き合わせて。無駄足だったみたいだ」


「そんなことは無いわよ。今日は収穫があったわ。学園側が私を敵と見なしたことがよくわかったから」


「……何だって?」


 BCは肩にかけていた鞄の中から、1本の緑のペイントが付いたナイフを取り出した。


「これはバトルロワイヤルで私に支給されたものよ」


「おい……それ、本物のナイフだよな?ゴム製の無害なナイフじゃなかったのかよ」


「そう、私以外に支給されたのはゴムのナイフ。だけど、この光沢は本物のそれよ。学園側は私を殺人者にしたかったみたいね」


 ナイフの刃を軽く爪で弾けば、金属の響く音がする。


 本物のナイフだったから、BCは夢想剣を使っていたのか。


「大丈夫なのかよ?学園から敵視されているってことは、この先おまえが狙われることだって――――」


「あら?お姉ちゃんを心配してくれるの?円華ったらか~わ~い~い~」


 陽気にからかってくるBCの腕を強く握る。


「はぐらかすなっ!!」


「……そんな必死にならなくても良いわよ。あなたは、あなたの目的に集中しなさい。お姉ちゃんは強いから大丈夫」


 笑みを見せて言うBCに、これ以上何も言えなかった。


 この女のこういうところがズルいと思うんだ。


 俺が桜田円華だった頃から、弟のことには過干渉してくるくせに、自分のことになると干渉させてくれない。


 助けを求めない。


 そう言うところは、涼華姉さんと同じなんだ。


 その後、俺たちは路地裏から出てそれぞれの寮に戻った。


 

 -----



 その日の夜。


「あがっ!!うぐぅうう!!いっ!!ぐぁあああ!!!」


 静寂の自室でベッドに横になり、激しい頭痛で苦しんでいる中で頭の中に多くの声が響く。


『俺が求めるのは力だ。おまえを倒すための力だ!!』『遊びは終わりだぁ。もっと楽しもうぜぇえ!!』『おまえを狂わせたのは俺の弱さだ。だから、俺は強くなる』『もう彼女を苦しませない。おまえを止める……もう1度おまえを殺す!!』


 3人の男の声が聞こえ、その光景が記憶として脳内に映し出される。


 高太さんや狩原浩紀、そして谷本師匠が繰り広げた数々の戦いの記憶。


 大事な人を守るために、衝動のために、罪から解放するために、彼らは自分の身を犠牲にして戦ってきた。


 今までは高太さんと狩原浩紀の記憶だけだった。


 それがどうして、師匠の記憶まで…!?


 3人の記憶が交互に切り替わっていく。


 写真のように、静止画になっていく。


 谷本師匠と狩原の戦いや、高太さんと火傷やけどの痕が身体中にある男との戦い。


 この男は一体……。


 高太さんの戦いからは覚悟と怒り、そして哀しさを感じた。


 レールガンを構える高太さんと、黒い虎と鷹を操りながら長刀を構える男。


 この戦いの結末を見ることなく頭痛は収まり、記憶の激流も静まってしまった。


「はぁ……はぁ…今のは……一体……」


 ベッドから起き上がり、冷蔵庫の中にあるミネラルウォーターを取りに壁をつたって行こうとすると、インターホンが鳴った。


「誰だよ……こんな時間にっ…!!」


 玄関に行ってドアの覗き穴から確認すれば、そこに居た女に対して大きな溜め息が出てしまった。


 開けた瞬間に強引に入ってこようとすることはわかっていたから、とりあえず電話をかける。


 どうせ、ヘッドフォンを使われたら居留守を使ったってバレるからな。


「もしも―――」


『開けて。居るのはわかってる』


 案の定の反応だ。


 恵美の不機嫌な声が聞こえてくる。


『話したいことがあるって言ったよね?』


「電話をかけろって言っただろぉが」


『……じゃあ、このまま話そうか?』


「外、寒くねぇの?」


『う~ん、夜風が気持ちいいくらいかな』


 帰れって言っても、絶対に帰らないよな。


 さっさと用事を済ませて帰らせるか。


 結局、恵美から聞いた今日在った体育祭の出来事は俺の想定外のことだらけだった。


 魔女が恵美に本性を現したこと、ジョーカーが動き出したこと、それを助けたのが謎の獣人だったこと。


 今日1日で謎が増え過ぎだ。


 多くの立場の者が、一斉に牙を剥きだした体育祭。


 これからの学園生活は、平穏ではなくなりそうだな。


 先のことを考えて気が重くなっていると、恵美が話題を変えてきた。


『ねぇ……ジョーカーのことで、少し気になったことがある』


「気になったこと?何だよ」


『あいつは、異能具のことを秘密武器って呼んでた。そんな呼び方をするのは、少なくとも20年前から組織に関わってい者じゃないと考えられない』


「それなら、ジョーカーの正体は……生徒じゃないってことか?」


『普通に考えたら、そうとしか考えられないよね』


 それなら、教師、あるいは学園の従業員の中にジョーカーがひそんでいる可能性があるってことか。


 もしかしたら、もう既に俺はジョーカーと接触しているってことも……。


「教師たちのことも、今まで以上に警戒する必要があるってことだな。おまえも、また狙われないように注意しろよ?」


『そんなことはわかってるよ。でも、私は自分のこともそうだけど円華のことも心配。そろそろ、教えてよ。一体、何を悩んで―――』


「じゃあな、おやすみ」


 強引に電話を切り、それ以降は何をしようとも無反応を貫くつもりだった。


 だけど、電話を切った後は静かなままだった。


「こんなこと、話せるかよ。……おまえを殺すかもしれないのが、恐いなんて」


 自分の右手を見れば、一瞬視界が歪み、獣の手に変化したような錯覚を覚えた。



 ーーーーー

 敦side



 体育祭が終了し、教師としての仕事を終えて帰宅すれば、明かりが点いていることを不審に思い、リビングのドアを開ける。


 組織の人間が自分の行動を不審に思い、調査に来たのかと思った。


 最悪の場合、口封じに始末することも視野に入れて警戒すれば、ベッドを占領して寝転がっている黒いひょうの獣人が視界に入った。


『よぉ、お帰りかー?』


「……はぁ、目覚めていたのか。狂獣きょうじゅうめ」


 獣人はベッドから起き上がり、腰を丸めて俺を見る。


『そろそろ暴れねぇと、身体がなまっちまうからよぉ。ちょっくら、戦いの匂いを辿たどって遊んできたところだ』


 そう言って、自身の鼻を指さす獣人に対して呆れて溜め息をつく。


「誰とやりあった?」


『カラスの仮面を着けた野郎だ。……妙に懐かしい匂いがしたもんだ。どうやら、俺のことも知っているみたいだったぜ』


「おまえのことを?だとしたら、それはデリットアイランドの関係者でなければありえない……」


 カラスの仮面を着けていたということは、それはジョーカーのはず。


 ジョーカーがデリットアイランドと関係があったという話は聞いたことが無い。


 俺が話を聞いて難色を示していると、獣人は頭の後ろに手を回す。


『安心しろ。少し遊んで帰ってきただけだ。それに、あいつとの約束だからな。あの娘には手を出してねぇし、助けてやったことを感謝して欲しいくらいだぜ』


「人助けとは珍しいな。戦うことにしか興味がないはずのおまえが」


『それが俺が自由になるための条件だったんだからしょうがねぇだろ。こっちも好きでやってるわけじゃねぇ』


 獣人は壁に立てかけていた骨剣を持って俺に近づく。


『英雄野郎の言いなりってのは面白くねぇが……こんな退屈な所で面白い奴を見つけたぜ。人間どもの集まった場所で、あいつと似た匂いの奴を見つけた。もしかして、あいつは……』


「おそらく、それはおまえの元・所有者の息子だ」


『フンッ……そう言うことか』


 納得したようにそう呟けば、身体が黒い粒子状になって骨剣の中に戻って行く。


『いつか、挨拶に行きてぇもんだなぁ……浩紀の息子』


 骨剣に肉をまとうがごとく、その剣の見た目が禍々しい大剣に変わっていく。


 戦いが無いのであれば、実体化していることにも飽きてきたのだろう。


 剣の姿に戻っては床に倒れたのを回収し、その刃に語り掛ける。


「その時を楽しみにしていろ……狂剣ディアスランガ」


 それは死神と呼ばれた男が使っていた、全てをけずる呪いの大剣。


 自身を振るう者の手から離れ、自由を得た。


 彼の狂気を扱える者は現在、この学園にはどこにも居ない。

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