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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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屈辱的な取引

 恭史郎side



 約1か月近く前。


 鈴城のくだらない茶会が終了した後の話だ。


 花園館を出た後、カラオケに木島を呼び出した。


 取り巻きは連れていない。


 恐怖で支配することも考えたが、木島は坂橋と違い思考が読めない女だ。


 何が弱点なのかもわからない奴に、無暗に突っ走って仕掛けても意味はない。


 弱点を作るにも、あの女に傷を作るのは時間がかかりそうだったしな。


 俺たちは互いに1つのテーブルに着き、何を歌うでもなく最初は沈黙が続いた。


 それをすぐに耐え切れなくなった木島が口火を切った。


「私を呼び出しておいて黙秘ですか?時間を浪費させている余裕はないのですが」


「クフフッ……悪かったな。自問自答を繰り返していた。おまえを見て考えが少しでも変わるかと思っていたが、それは無いみてぇだな」


「勝手な自己完結ですか。では、話してほしいものですね。私に何の用件があったのかを」


「そうだな。まぁ、用件って言うほどの大層なことじゃない。ただ、おまえの覚悟が本物なのかを試したいだけだ」


 テーブルの上に置いてあるレモンスカッシュを一口飲んで口元に笑みを浮かべる。


「おまえ、本当に椿を潰したいと思っているのかぁ?」


 奴の名を出せば、木島の目付きが鋭くなる。


「私が茶会で述べた言葉に嘘偽りはありません。椿円華は脅威の対象でしかありません。戦わなければならないのは当然でしょう?」


「だが、おまえで椿に勝てるかねぇ。心配だなぁ」


 ソファーに深く腰を掛けて腕を組み、顎を上げては木島を見下ろす。


 威圧的な態度を取ったが、木島はクスクスっと笑っては視線を受け流す。


「あなたが私を心配?つくのなら、もっと確証の得られる嘘をつくべきでは?」


「そうだな。今のはただの冗談だ。正直、俺はおまえが椿に潰されようとどうなろうとどうでも良い。だが、おまえには潰れる前に歯車になってもらわなきゃ困るんだよ」


「歯車?一体、何を考えているのですか?あなたの目的は?」


「クフフフッ。そんなこと、言うまでもねぇだろ」


 皿の上に置いてあるフォークを取って逆手で握り、テーブルに勢いよく突き刺した。


「椿の野郎に絶望を味合わせるのさ。あいつを地獄に叩き落し、苦しむ姿を俺は見たい」


 俺はこの時、木島に奴への溢れる憎しみを隠さなかった。


 憎悪を肌で感じたのか、木島は興味深そうな目を向けた。


「納得しました。Eクラスを目の敵にしていたのは、椿円華が居たからなのですね。では、あなたと私の目的は同じと考えても良いのでしょうか?」


「そう認識してくれて構わない。俺は椿を潰すためなら、どんな奴も巻き込むことをいとわない」


「そこまでして、彼を排除したいと。何故、椿円華に執着するのです?」


 俺の事情に土足で踏み込もうとする木島を容赦なく睨む。


「それを知る必要があるのか?」


「協力関係になるのであれば、お互いの腹の内を明かしておいた方がよろしいのでは?」


「協力だと?利害が一致しただけだろ。俺もおまえの事情に干渉するつもりはない」


「それでは、そういうことにしておきましょう。ですが、今更ですが、私があなたと手を組むことで得られる利益はいかほどなのでしょうか?」


 木島は顎を引き、薄く笑みを浮かべる。


 この女、早速俺を利用するってか。


「椿を潰すことは、おまえらにとっては大きなメリットじゃないのか?」


「それだけでは足りませんね。お互いに利益を得られる前払いを先にしておきませんか?」


 俺に協力する代わりに、先に利益を得ておきたいという算段か。


「……何を望む?」


「ウフフっ、そう身構えないでください。お互いの利益のある話ですよ」


 オレンジジュースを一口含み、間を置いて木島は言った。


「今度の特別試験で、坂橋彰くんをDクラスから陥れてほしいのです」


 予想外の提案だった。


 しかし、面白い話だとも思った。


「クフフッ。おまえと坂橋の均衡関係は知っていたが、奴を切り捨てようとするとは思わなかったぜ。それで?俺の利益は何だ?」


「私は坂橋くんが消えることによってDクラスを完全に掌握しょうあくできます。そして、あなたは彼と言う有力な駒を手にすることができるのです」


 Dクラスから落ちればEかFになるわけだが、それを坂橋が受け入れるか。


 Fクラスに落ちれば、必然的に俺の奴隷になるわけだが……。


「坂橋が素直に俺の下に着くのか?」


「彼の性格は把握しています。必要に迫られた状況ならば、誰の下にでもしがみ付こうとしますよ。どうぞ、あなたの目的のためにお役立てください」


 坂橋のことを理解した上での切り捨てか。


 利用することも考えただろうが、自分では使えないとでも思ったのかもな。


「ほぉ……クフフフッ。おまえ、案外悪い女だな」


「あなたほどではありませんよ」


 その後、俺は仮面舞踏会に参加する坂橋のコードネームを聞きだした。


 2学期初めの特別試験は、俺にとっては木島との表面上の協力体制を築くための前座に過ぎなかった。


 体育祭の期間に入ってからは連絡を取り合い、カラオケルームに集まっては黄団の情報を多く聞き出しては椿を精神的に苦しめるための準備を進めた。



 -----

 円華side



 俺が柘榴を止める方法を後回しにしていたのは、奴の計画の歯車を狂わせるための最大の武器を手に入れたからだ。


 借り物競争終了後に確認した、1通のメール。


 そこには柘榴にとって知られたくない『映像データ』が添付されていた。


 しかし、その差出人は不明だった。


 その情報の真偽を確かめるために必要だったのが、裏切り者の証明だ。


 魔女……いや、木島江利の正体が気にならないわけじゃなかったけど、あの時は彼女が自身が裏切り者であると認めてくれればそれで良かった。


 情報の信憑性が高くなり、柘榴を退かせるに十分な武器になった。


 柘榴はスマホに送られたデータをしばらく凝視した後、肩を震わせて笑いながら髪をかき上げる。


「クフフフッ……流石にこれは効いたぜ、椿。おまえ、どこから俺の動きを読んでいた?この状況も、おまえの描いた筋書き通りってか」


「さぁな。全部偶然かもしれねぇだろ。深読みをしたら沼にはまるぜ?」


 実際、全ては偶然じゃない。


 だけど、これは俺の描いた筋書きじゃない。


 俺にデータを送ってきた奴の筋書きだろうな。


 その誰かは柘榴と木島の裏切りを事前に知っていた。


 それも仮面舞踏会が開かれる前に。


 柘榴が見ているのは、カラオケルームの監視カメラの録画映像。


 奴と木島が2人で協力体制を築いては、黄団の情報を横流ししていたことを頷ける証拠映像だ。


 これを学園側に提出すれば、BクラスとDクラスには不正をしたペナルティとして多大な損害が生まれることだろう。


 そして、それを知ったB、D、Fの生徒は2人に対して不信感を抱くかもしれない。


 いくら恐怖で支配しようとも、実力が無ければ数による反乱を生み出すことになる。


 多くの奴隷を従えているからこそ、その反乱を柘榴もどうしても抑え込みたいはずだ。


 柘榴は肩を震わせながら笑っては俺を見る。


「クフフフッ。しかし、椿よぉ……今更こんなものを出してどうするつもりだ?結果はもう出てるんだぜ。こんな決定的な証拠を持っているなら、今日の前に教師どもに突き出せばよかったんじゃねぇか?」


「それだと、おまえらに言い逃れされるリスクもある。おまえらにやりたい放題させた後の方が、言い逃れができないだろ」


「おまえがこれを今さら突き出して、結果が変わるとでも思ってるのか?」


 体操服のポケットに両手を突っ込み、フッと笑う。


「不正をしようと、結果が出ればそれも実力のうちだろ」


「違うだろ、柘榴。不正をしたことが問題じゃない。それを知られたことが問題なんだろぉが。不正した者の実力と不正を見破った者の実力。どっちが評価されるんだろうな?」


 10秒ほど互いの目を静かに見た後、俺は冷たい怒りを柘榴に向けた。


「取引だ。こっちがこのことを学園側に公表しない代わりに、恵美をFクラスに落とすことを白紙に戻せ」


「クフフフっ。こんな映像1つで俺よりも有利に立ったつもりかよ?わかってるんだろ。今回の件が白紙に戻ったところで、俺がおまえを潰すことを諦めるわけじゃない。おまえが居る限り、おまえの周りの人間が苦しむのさ。いや……俺が苦しめる」


「いい加減にしろ。こっちもそろそろ我慢の限界だぜ」


 柘榴の憎しみと俺の冷徹が視線を通してぶつかり合う。


 そして、柘榴はBCを一瞥した後に鼻で笑っては背中を見せて歩き出した。


「流石に今回ばかりは引くしかなさそうだな。話し合いの場を選んだこっちの落ち度だ。しかし、これで終わったと思うなよ?次はこうは――――」


「次で最後だ。何を仕掛けてくるかは知らねぇけど、俺を潰したいなら全てを利用して全力でかかってこいよ。俺を倒せるチャンスはもう、()()()()()


 次の特別試験か、筆記試験で何かを仕掛けてくるかもしれない。あるいは、それ以外の所で唐突に。


 これは最後の忠告であり、警告だ。


 ここであいつを叩かないのは、俺にも事情があるからだ。


 そして、挑発を受けて柘榴は目を見開いては眉間みけんにしわが寄る。


「絶対に潰してやる、俺の全てを賭けてな。おまえに絶望を味合わせてやる」


「期待しないで相手になってやるよ。こっちもおまえに時間をかけてる余裕はねぇからな」


 俺への怒りを抑え、柘榴は取り巻きを連れては青団のテントに戻って行った。


 離れていくのを確認したあと、恵美が声をかけてきた。


「ね、ねぇ……円華?」


「……何だよ」


「ごめんね、迷惑かけて。私のため――――」


 恥ずかしいことを言われる前に、深い溜め息をついた。


「別におまえのためじゃねぇよ。柘榴の思い通りに事が進むのが気に入らなかっただけだ。自意識過剰」


「えっ……そ、そうなんだ。私の……勘違い……なんだ」


 俯いてしまう恵美を見て、成瀬が不機嫌な表情で迫ってくる。


「ちょっと、円華くん!そんな言い方は無いんじゃないかしら?」


「知らねぇよ。……今の俺には関わるな。良いな?」


 正直、柘榴と話している間も抑えるので精いっぱいだった。


 さっきから俺の内側がうるさい。


 『殺せ』とか『ぶっ潰す』とか、衝動のままに動きそうになっていた。


 恵美の頭の上に手を置き、顔を上に傾かせる。


「話があるなら、今日の夜電話してこい。それなら聞いてやるから」


 返事は来なかったけど、一応言っておいたから恵美たちから離れて俺も黄団のテントに向かって歩き出した。


『邪魔だ!!』


 抑えろ、あと少しだ。


『うぜぇえ!!』


 『闇』の殺意と狂気に飲み込まれるな。


『消え失せろ。あいつは俺の弱さの権化だ!!』


 頭の中に声が響く度に、胸が締め付けられるほどの苦しさを覚える。


 俺の中の二面性。


 それを克服するまでは、恵美たちに必要以上に関わっちゃいけないんだ。


 あいつらを、俺の手で傷つけないために。


 閉会式がそろそろ始まる。


 策略と信念の交差した長い体育祭も終了の時間だ。

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