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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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強引な参加者

 黄団のテントに戻るころには二人三脚が終わっており、次のバトルロワイヤルの選手がグラウンドを出ては決戦の場に向かっていく。


 その中で何故か揉めているのは、うちの黄団だけだ。


 真央と黄団の団長である3年の東雲しののめ先輩が口論を続けている。


 確か、東雲先輩は次のバトルロワイヤルに出場するはずだ。


 テントに近づいて様子を見ようとすると、隣の席の伊礼が血相を変えて怯えながら俺を見てきた。


「つ、つつ、椿くん!ど、どうしよう!?」


「待て、何もわからずに相談されても何も言えねぇだろ。状況を説明してくれ」


 時間がないので、伊礼にはある程度簡略化して説明してもらった。


 ざっくり言うと、真央がバトルロワイヤルの出場資格を自分に譲れと言っているらしい。


 選手交代は認められているが、出場する本人の同意がある、あるいは本人が参加不可能だと判断された場合のみ交代することができる。


 しかし、東雲先輩は渋っているみたいだ。


 真央に焦りが見える。


 騎馬戦で柘榴にめられた分を、自分の手でバトルロワイヤルを利用して取り返そうとしているのだろう。


 今の自分なら不正行為さえなければ、必ず結果を残せるという過剰な自信があるが故に。


「この競技で勝利できなければ、黄団の優勝は無いんですよ!?」


「そんなことは言われなくてもわかってる。だからこそ、俺が出るって言っているんだ」


 東雲先輩の実力は知らないが、見るからにバトルロワイヤルに自信があるんだろうな。


 戦闘能力が高いのか、それとも競技の内容からしてサバゲーの熟練者か。


 団長に迫る真央に対しての先輩方の視線は敵意を帯びている。


 1秒経過するごとに周りは険悪になっていくのは目に見えている。


 ここで、どちらかが引き下がるしかないわけだけど……。


「恐れながら、先輩よりも僕が出場した方が勝率は高いかと存じますが」


 うわぁ、上級生に喧嘩売ったよ。


 普段のあいつじゃ考えられない行動だ。


「何だとっ……!?」


 当然、1年から嘗められた言動を取られてプライドが傷つかない上級生は極わずかなわけで。


 東雲先輩は短気なのか、真央の胸倉を両手で掴んで持ち上げる。


「それは俺の実力がおまえに劣ってるというのか?1年でSクラスだからって粋がってるなよ」


「事実を言ったまでです。現に今の行動であなたの能力は把握できましたから」


 掴んできた腕を右手で軽く握って捻っただけで、東雲先輩の身体は宙返りしては背中が地面に激突した。


 それを見下ろす真央の涼しい目は、先輩を自分より下に見ていることを周りに印象付けた。


「お…まえ、……っ!!」


 立ち上がろうとする東雲先輩の頭を掴んで地面に押さえつける真央。


 彼を止めようとする先輩たちだが、睨まれただけで蛇に睨まれた蛙になる。


「次の競技まで時間がありません。さっさと同意してくれませんか?……歩けなくなるのは嫌でしょう?」


 その口振りから、足を折るつもりなのか。


 強引な手段にでることも止む無しと思っているのか。


 周りは真央の覇気に気圧けおされ、彼の横暴を止めることができない。


 東雲先輩は苦汁の顔を浮かべながらも、抵抗できない悔しさを感じながらその言葉を口にした。


「……石上に……バトルロワイヤルの出場権を譲る……!!」


「確かに聞きましたよ、団長」


 真央は満足げな顔を浮かべて顔から手を離し、何事も無かったかのように東雲先輩に深々と一礼してからテントを出て行った。


 言うまでもなく、その後のテント内は息苦しさに満ちていた。


 3年の真央へのフラストレーションは相当だろうから。


 それが後々1年全体を使って発散されなければ良いけど。


「い、石上くん……どうしちゃったんだろうね…」


「さぁな……見当もつかねぇよ」


 場の険悪な空気に押しつぶされそうになっている伊礼。


 まぁ、ビフォーとアフターを知っていればわからなくもない反応だ。


 俺も多少は驚いているからな。


 さて、こっちもこっちで準備を始めるか。


 テントから離れようとすると、伊礼が置いてかないでと言う目を向けてくる。


「あ、あのあのっ!椿くん、どこに行くの!?」


「ん?あぁ……ちょっと忘れ物取りに行ってくるだけさ」


 伊礼には悪いけど、ここから先の展開には何の興味もない。


 こっちはこっちでやるべきことは決まっている。


 先程見かけた3人と真央。


 バトルロワイヤルの計4人の出場者を見た瞬間に、もう結果は目に見えている。


 あの女が負けるはずが無い。


 嫌なことを思い出してしまい、腰を丸めて重たい溜め息が口から出てしまった。


「はぁ……。あいつがこの競技に出るとなると……本当に性格が悪い」


 グラウンドを出た後、向かう先はEクラスのアパートだ。


 バトルロワイヤルが終わる前に、あれを用意しておかないとな。



 -----

 真央side



 バトルロワイヤルの会場は地上の校舎1階フロア全体。


 2階に上がる、もしくは校舎を出るのは失格行為となる。


 4人それぞれにスタート地点が東西南北に分かれており、僕は北口からだ。


 係員から、ゴム製のナイフを3本とターゲットマーカーが入ったポーチを渡された。


 ナイフの刃に黄色いペイントが塗られている。


 他の3人にも、それぞれの団の色のペイントが付いたナイフが渡されたことだろう。


 ターゲットマーカーに刃のペイントの色が付いた瞬間、選手は敗退になる。


 1人につき1つのナイフで仕留めなければならないと言う事だろう。


 今度こそ、誰が相手でも負けるはずがない。


 柘榴くんは弱いから、卑怯な手しか使えなかったんだ。


 彼は僕に劣っていると自覚したから、あんな手を使ってきたんだ。


 バトルロワイヤルでは、純粋な力でしか戦うことはできないはずだ。


 それなら、今の僕の実力で勝てないはずがないんだ。


 能力は既に、あの薬の効果で限界を超えているのだから。


 今も全身から力が湧いてきて仕方がない。


「大丈夫、僕は強い……強い、強い、強い」


 自分に言い聞かせ、ターゲットマーカーを左胸に着けては始まりの時を待つ。


 今度こそ、僕の力を認めさせる。


 そうできなければ、僕がここに居る意味がない。


 認められなきゃ、存在する価値がない。


 人から認められることでしか、人は生きているという実感が持てないのだから。


 今の僕は、息苦しくて仕方がないんだ。


 だから、この競技に参加した人は全員、僕の踏み台にならなければならない。


 時間が経過し、校内に放送が流れた。


『時間になりました。バトルロワイヤル、スタート。制限時間は30分です』


 始まった。


 この競技で最後まで生き残り、赤団に追いつかなければ。


 1階のフロアは広く、3人がそれぞれ隠れて行動するなら見つけるのは容易ではない。


 だからこそ、僕は隠れない。


 隠れるのは恐怖を感じているからだ。


 恐怖を感じるのは弱いからだ。


 僕は強い、隠れる必要なんてない。


 1階の中でも見通しの良い大広間に向かっていると、開始5分で校舎内に放送が流れた。


『青団 浦田佐助うらたさすけ。敗退です』


 放送は2回リピートされ、思わず一瞬だけ足が止まりそうになった。


 まだ序盤にも関わらず、もう1人脱落した。


 一体、誰が仕留めたんだ。


 どうやって相手を発見したんだ。偶然なのだろうか。


 こちらも急いで動かなければならない。


 大広間に向かうと、そこには2人の男女が居た。


 男は赤いペイントの塗られているナイフを持っており、女はナイフを手にしていない。


 赤い鉢巻をしている男子が緑色の鉢巻をしている女子にナイフを振り回そうとすると、その瞬間にもう左腕に着けていたターゲットマーカーに赤いペイントが付いていた。


「そんなっ!?」


「はい、おしまい。別に面白くも無かったわね」


 男が握っていたナイフは、いつの間にか女が手にしていた。 


 そのベージュの髪をした長身を女性を見間違えるはずが無い。


 緑団の代表は、桜田奏奈だ。


 少し遅れて、放送が再度流れた。


『赤団 本田豪ほんだごう。敗退です』


 2回のリピートを聞きながら、僕はゆっくりと彼女に近づいた。


「まさか、あなたと戦える日が来るとは思いませんでした。会長」


「……あ~ら、最後はあなたなのね」


 声をかければ、桜田生徒会長は薄く笑ってナイフを床に投げ捨てて僕の方に身体を向けた。


 そして、目と目を合わせれば雰囲気が変わった。


 そこから感じるのは、悟られるかどうかの薄い怒りだ。


「そぉ……あなたには失望したわ、真央。お仕置きしてあげるから、全力でかかってきなさい」


「お仕置き?今の僕を嘗めないでください!!」


あなどる気も起きないわよ」


 会長は涼しい顔をし、臨戦態勢に入らずに僕を見据えてくる。


 どこまで僕を見くびれば気が済むんだ。


 僕は会長と対決したことはない。


 しかし、その実力は数々の場を共にしたことから肌で感じている。


 だからこそ、わかる。


 今の僕なら、会長に勝てるかもしれない。


 ポーチからナイフを2本取り出し、両手で構える。


「僕の実力を認めさせますよ……会長!!」


「そう……。期待しないで相手してあげるわ」


 臨戦態勢に入り、僕は会長に突撃した。


 会長に刃を向けることに躊躇ためらいは無かった。


 この人に勝てれば、僕は今度こそ実力を認めさせることができるのだから。


 会長だろうと、今の僕の踏み台になるのは変わらない。


 目を閉じて落ち着いた様子を見せる会長。


 それに怒りを覚えながらも僕は距離を詰め、ターゲットマーカーに向かって右手のナイフを振るおうとした時のことだった。


 確かに僕は、しっかりとナイフを握っていた。強く握りしめていた。


 それなのに……いや、僕にもどういうわけか状況が飲み込めない。


 僕のナイフを振るう動きは空回りした。


 右手に握られていたナイフが消えていたからだ。


 そして、会長はいつの間にかナイフを手にしており、僕の胸のターゲットマーカーに突き刺そうとしていた。


 それを左手のナイフの平でガードし、状況を理解するために大きく跳んで距離を取る。


 今のは、力とかそう言う概念では計れないものだと思った。


 自分でも何が起きたのかがわからなかった。


「会長……今、何をしたんですか?」


 僕の問いに対して、会長は人を惑わす妖艶ようえんな笑みを浮かべていた。

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