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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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止めなければならない者たち

 円華side



 真央の決闘が終わり、次は2年のコロシアムが始まる。その次は3年の番。


 先輩たちには頑張ってほしいと思うが、今の俺には体育祭の今後の展開よりも優先しなければならないことがある。


 俺は急いでコロシアムルームに向かうエレベーターに向かい、真央が戻ってくるのを待つ。


 5分もしない内に、真央が1人でエレベーターを出てきた。


「あれ、椿さん?僕のことを心配して、お出迎えですか?」


「真央……おまえは……」


 その目を見た瞬間に、額から嫌な汗が流れてきた。


 真央の瞳の色が、黒から紅に染まっている。


 俺に笑顔を向け、右足を庇うことなく平然と歩行しては横を通り過ぎていく。


「御覧の通り、僕の足はもう問題ありません。扇先生にも、もう大丈夫だとお伝えしてください」


「……大丈夫なわけねぇだろ。おまえ、何に手を出したのかをわかっているのか!?」


 紅い瞳と、森園との決闘で見せた常軌を逸した身体能力。


 希望の血の能力としか考えられない。


 焦る俺に、真央は晴れやかな笑みを見せる。


 まるでしがらみが消えたかのようなさわやかさだ。


「僕は欲していた力を手に入れたんです。この力があれば、僕の存在をみんなに認めさせることができる。この学園を正しい方向に導くことができるんです」


「正しい方向?そんなの、おまえ1人でやっていいことじゃないだろ」


「お忘れですか?才王学園は実力が全ての弱肉強食の世界なんです。だから……僕がその頂点に立ち、その理を変えるっ…!!」


 そう言う真央の表情には、鬼気迫るものがあった。


 自分の信念を貫き通すためなら、何だってする覚悟があるのだろう。


 その信念には俺も賛成だ。


 この死と隣り合わせの弱肉強食の学園は、いつか変えなければならない。


 だけど、それよりも優先して止めないといけないことがある。


「おまえの手に入れた力は、本当におまえが欲しかった力なのか?真央。一体、それをどこでっ…!?」


「羨ましいんですか?椿さん。この力に危険を感じて、僕に実力を超えられるのが怖いんでしょう?」


 真央は目を見開き、気迫で威圧しようとしてくる。


 それに怯む俺じゃないけど、ここで話をしていても平行線だ。


 こんな真央は見たくなかった。


 希望の血をどこで入手したのかを聞き出そうにも、この状態じゃ答えてくれそうにない。


 強大な力を手に入れたと過信した者は、その出所を吐こうとはしない……か。


 今の真央は、前の真央には感じなかったまが々しさがある。


 希望の血の力は、常人をはるかに超える能力を与えると同時に、人格すらも変えてしまうのか。


 真央は俺に目の見開いたまま口の端を上げる。


「大丈夫ですよ、椿さん。例えあなたの力が無くても、僕1人で黄団を優勝に導いてみせますから」


「たった1人で覆せるほど、団体戦は甘くねぇぜ」


「凡人の大群を思考を巡らせて操るよりも、圧倒的な力を持った1人が実力を発揮する方が戦況を覆せる……。それを体現したのは他でもないあなたじゃないですか、椿さん?いいえ……赤雪姫アイスクイーン


 隻眼の赤雪姫は確かに1人で敵陣に突撃し、一戸団体並の戦闘力を持っていた。


 だけど、だからこそ、味方を弱くするんだ。


 圧倒的な力を持つ者は、それを持つ責任を果たさなければならないことを、俺は軍に居た時に思い知った。


「そうだ、騎馬戦の選手を僕と交代してくれませんか?あの競技から得られるポイントは大きい。やる気のないあなたよりも、僕が出た方が黄団を優勝に近づけることができます」


 ここで真央の提案を拒否したら、余計な怒りを買いそうだ。


 それに、今だけはこいつの力を利用させてもらう。


「そうしたいなら、好きにしろよ」


 今のこいつには何を言っても無駄だ。


 それなら、今は真央の中の力への過信を覆すような状況を作る。


「おまえ1人じゃ、黄団の劣勢は覆せない。俺も陰ながら手を貸す。……だから、1人で突っ走るんじゃねぇよ」


「聞く耳持ちませんよ。今の僕を止めることは、例えあなたでもできません。僕はただ鈴城紫苑をこの学園から追い出すためだけに、この力を振るうのみです」


 真央は俺に敵意のある視線を向け、テントに戻って行った。


 確かに今の俺には、真央を止めるための力はない。


 だけど、体育祭が終わるまでには実行する。


「裏切り者を見つけるだけでなく、希望の血の力を得た真央を止めなくちゃならないのか……。俺1人で、どこまでできるかな……」


 過去の俺なら、1人で何でもできると思っていた。


 だけど、今はそうじゃない。


 恵美や基樹たちの力を借りられないとなると、手は限られてくる。


 あいつらの協力がなかったら、できないこともあった。


 他人に頼ることが当然という思考になっていた。


 これは弱体化なのか?


 今の俺にはわからない。


 だけど、やれることはやらないといけない。


 例え、みんなの力を借りることができなくても。



 -----



 コロシアムが終わり、黄団と青団の差は縮んでいる。


 どうやら、上の学年も奮闘してくれたようだ。


 依然緑団が優勢の状況は変わらないが、赤団も2位をキープしながらも追いつこうとしている。


 コロシアムだけで、全体のポイントが大きく変動している。


 次の競技は、借り物競争か。


 個人競技である以上、そこまでポイントの変動は見られないか。


 俺1人が1位を取ったとしても、他の団員が取れるのは最大でも2位止まりだろう。


 柘榴がこちらの出る競技の情報を手にしている以上、そして裏切り者が黄団に居る以上は競技の順番を変えた所で後手に回るだけだ。


 レーンの列に付き、何気なく青団の参加選手を見てみる。


 すると、隣に立っている男と目が合った。


「クフフッ、奇遇だな?」


「奇遇?合わせたの間違いだろ」


 不敵な笑みを見せる柘榴に、俺は嫌悪感と共に冷たい目を向ける。


「そう嫌な顔をするなよ。俺だって、おまえとスタンスは同じなんだぜ?」


「知るか。おまえがどういうスタンスで来るかなんて興味ないね」


「そう言うなって。俺もこの体育祭自体には何の興味もねぇんだ。……高村から聞いてるだろ。俺には人質が居るんだぜ?もう少し言葉は選んだらどうだ?」


 挑発するように人差し指をクイクイと曲げては乗ってこいと言っているようだ。


「どうして、そうも恵美を巻き込もうとする?あいつは関係ねぇだろ」


「関係ねぇわけがねぇだろぉがよ。言ったはずだ、俺はおまえの大切なものを全て壊すと。なら、最上恵美も、Eクラスの奴らも例外はない」


「……クズ野郎とは言わねぇよ。俺を追い詰めるために、今日までにいろんな準備をしてきたんだろう。その行動力と実行力だけは褒めてやる。だけどな……」


 一度言葉を区切り、俺は冷徹な目を向けて忠告する。


「選ぶ手段を間違えて、後悔するなよ?」


「クフフっ、良いねぇ良いねぇ。おまえが怒りを覚えれば、俺の心は爽快そうかいになる。この体育祭が終わった後、おまえの顔は絶望に染まっていることだろうぜ」


「……そんな遠い未来のことなんて、誰にもわかるわけねぇよ」


 今ここで裏切り者のことを追及しようとしても、はぐらかされて要らぬ挑発を受けるだけだ。


 これ以上話すだけ無駄。


 俺は前を向いて、自分の番が来るまでいろんなことに思考を巡らせる。


 柘榴もこれ以上挑発しても無意味だと思ったのか、黙り込んでは前に進んでいった。


 どうやら、同じレーンでは無かったらしい。


 柘榴、裏切者、真央。


 この体育祭が終わるまでに、全ての問題は俺に都合よく解決できるだろうか。


 最悪の場合は想定しておかなければならないかもしれない。


 どちらを優先して解決し、どちらを切り捨てるかも。


 2つの問題への対処を考えていると、ポケットの中で日常用のスマホのバイブが2回鳴った。

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