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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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仕組まれた対戦

 円華side



 午後の部が始まり、コロシアムへの準備が始まる。


 俺が今回の競技の中でも、警戒しているものの1つだ。


 足を怪我した真央が、未知数の競技でどれだけ実力を発揮できるのか。


 黄団の裏切り者のこともそうだが、午後の部は何かが起こる気がする。


 誰かが爆弾を仕掛け、今か今かと爆発するのを待っている。


 そんな気がしてならない。


 その爆弾は1つで大きな影響を与えるものなのか、それとも連鎖式のものなのか。


 まず確実に言えることは、柘榴も爆弾を仕掛けている。


 俺を精神的に追い詰めるためだけに、自分の奴隷と恵美を利用している。


 あいつの思い通りにさせる気は毛頭ない。


 ここから挽回するためには、梅原の言う通り、裏切り者を見つけることが重要になってくるが……。


 危惧しているのは、俺以外の誰かを陥れようとしている者の動きだ。


 俺はそう言う状況になったこともないし、立場としては逆の方だった。


 実際に経験したことが無い事象の場合、想定することにも限界がある。


 上限の見えない神経衰弱しんけいすいじゃくをしているようなものだ。


 頭の中で何度も思考を巡らしてあらゆる想定をしてみても、相手がどの一手を使うのかを確信をもって断定できない。


 今は午後の部の動向を見て、相手の動きを探るしかないか。


 グラウンドを見ると、それぞれの団の方向に巨大なモニターが設置されており、画面にはコロシアムルームの空間が映し出される。


 対戦相手は団は学年によって異なっており、1年の相手の団と2年の相手の団は異なる。


 例えば、赤団と青団の1年の組み合わせになった場合、2年では赤団が青団と、青団が赤団と対戦することはありえないってことだ。3年も同様。


「懐かしいな……」


 転入当初のことを思い出していると、暗黙のルールのことを思い出した。


 決闘では、相手を退学に追い込むまで精神を追い詰めることが求められる。


 今回の決闘の内容が学校が決めるものであったとしても、それはおそらく変わらない。


 片方の圧倒的な勝利で終わり、敗者の心を粉々に砕かれるのか。


 それとも、前の俺のように他の展開もあり得るのか。


 組み合わせによっては、前者にもなるし後者にもなるかもしれないな。


 特に真央にとっては、誰が相手かによって結果が大きく左右されてしまうだろう。


 しばらくして、モニターに2人の男女が映し出される。


 その組み合わせは、偶然なのかと疑いたくなった。


 男は体操服のポケットに両手を突っ込んでは退屈そうな顔をしており、女は闘志をむき出しにしては軽くストレッチをしている。


 最初の組み合わせは青団と緑団の1年。


「内海景虎VS金本蘭…か」


 Bクラス同士の対決。


 クラスとしては、プラマイ0の無意味な対決に見えるだろう。


 それなら、この戦いに利益は関係ないのかもしれない。


 内海に敵意を向けている金本を見るに、同じクラスだから手加減するということはないはずだ。


 この状況は偶然なのか、それとも意図的に作られたものなのか…。


 青団のテントに居る柘榴を一瞥いちべつすると、闘技場を上から見下ろす王のように椅子にふんぞり返っている。


 どちらにしても、あいつにとっては面白いバトルになるってことか。


 モニターに視線を戻すと、向かい合う2人の姿が見えた。


 コロシアムルーム内の画面に、文章が流れた。


 -----


 これより、コロシアムを開始します。


 この競技では、お互いの身体能力を測るために「暴力」を判断基準とさせていただきます。


 対戦者の皆さんには、武器無しの素手での戦闘を行ってもらいます。


 ・対戦相手の戦闘行為が不可能になる。


 ・対戦相手が降参を宣言する。


 以上の2つを以て勝利条件とさせていただきます。


 ※なお、この競技で死傷者が出た場合でも、勝利条件は変更在りませんのでご了承ください。


 -----


「マジかよ…」


 学園側はどこかで仕掛けてくるとは思っていたけど、競技内でとは。


 普通なら、死ぬまで人を痛めつける者は居ない。


 だけど、今回の対戦は訳が違う。


 内海は躊躇ためらいなく人を殺せる。


 相手の実力が奴を超えたものでなければの話だが。


 金本は長く息を吐き、内海を指さした。


「今日であんたの長い鼻をへし折ってやるから、そのつもりでかかって来いよ」


 いきなり宣戦布告で挑発かよ。


 当の本人は「あぁ?」といきなり不機嫌な声を出した。


「雑魚が……粋がってんじゃねぇぞ!!」


 頭を荒くき、画面の「決闘開始」の文字が流れると同時に金本に拳を振るう内海。


 それは一発ではなく、両方の拳を間髪入れずに振るい続ける。


 その速さは辛うじて目で追えるレベルであり、戦い慣れをしていない者ならば見切れない。


 金本はそれを瞬時に把握して後ろに下がりながらも体裁きで回避し、左手を伸ばして内海の腕を掴んではそのまま投げ倒した。


 内海の腕力と速さを利用して、床に叩き落としたんだ。


 金本には蹴り技だけじゃなく、武術の心得があったのか。


「雑魚って、あんたのことじゃない?」


「ぐっ!!……んだとぉ!?」


 なおも挑発を続け、内海の逆鱗げきりんに触れながらも攻撃は受けずにカウンターを仕掛けていく金本。


「うぉおお!!」


 力を込めて拳を振るう内海だが、その拳を金本に片手で弾かれると同時に表情が苦痛で歪む。


 奴は自身の右腕を一瞬見ては目を見開いたが、すぐに彼女を睨みつける。


 腕はそのままの状態で固定され、動かすことができないようだった。


「手がビリビリしやがる…。てめぇ……何をした!?」


 怒りで今にも暴れだしそうな内海とは正反対に、金本は冷静に武道の構えをとっては相手を見据えている。


「バカにはわからないことをしたんだよ。どうする?もう降参する?」


「そんなわけ……あるかぁあ!!」


 雄叫びをあげ、内海は再度金本に仕掛ける。


 痺れた腕を無理矢理動かして拳を振るおうとするが、その前に金本が回し蹴りを頭にくらわせる。


「ぐるぁ!!」


「さぁさぁ、まだまだ行くよ!!」


 内海が踏ん張るのを見越していた金本は、身体を回転させながら両足で内海の胴体に回し蹴りを何度もくらわせる。


 いくら筋力的な差があったとしても、何度も攻撃を受ければダメージは蓄積されていく。


 金本の攻撃の速さに、内海は対応できていないんだ。


 だけど、何かが俺に違和感を与えた。


 俺は1度、内海と戦ったことがある。


 あの時、あいつからは獣のような荒々しさを感じた。


 人の命を奪う者の脅威もあった。


 そんな男が、このまま蹴り倒されて終わるのか?


 俺にはむしろ、内海がまだ本気を出していないように見える。


 何度も蹴られながらも、内海は床に倒れない。


 そして、金本が次に左足に今までよりも力を込めて蹴りを入れた瞬間だった。


 内海が無表情で、片手でその足を掴んだんだ。


「そろそろ良いだろ?」


 恭史郎と耳を澄ませなければ聞き取れない声で呟いた。


 それが耳に入った瞬間、俺はこの対戦の意味を理解してしまった。


 柘榴はモニターを見て、不敵な笑みを浮かべていた。


 そして、口の動きがこう言っていたんだ。


『ああ、潰せ』


 これは偶然じゃない。


 仕組まれていたことだったんだ。


 内海の瞳の色が蒼に染まった瞬間を、俺は見逃さなかった。


 奴は金本の足を掴み、そのまま自身の後ろに投げ飛ばした。


「うぇ!?……んぐっ!!」


 床に落ちて受け身を取る金本だが、掴まれた足を押さえては苦痛で表情が歪んでいる。


 見れば、掴まれた部分に青く手の痕が付いている。


 床にぶつけたからできた怪我じゃない。


 片手で掴んだだけで、足を捻挫ねんざさせたって言うのか。


 内海は右肩を回し、首の関節を鳴らしては息を吐く。


「うぅ……さっきからずっとよぉ。……イライラするんだよ、おまえを見ていると」


 目を見開いて獲物を視界に捉える捕食者は、常人の目にも止まらぬ速さで金本に接近し、立ち上がることができない彼女の腹部を強く蹴った。


「がふぇあっ!!」


 口から吐血し、腹を押さえる金本。


 彼女を見下ろしながら、狂犬は倍返しだとでも言うように倍の速さで、胴体をでたらめに蹴り続ける。


「オラ、オラオラ!!どうした!?さっきまでの威勢はどうしたんだよ!?あぁ!!」


 見ていて気分が良いものじゃない。


 内海はあれでも手加減しているのが見てとれる。


 相手の意識を奪わない程度に力を押さえ、金本に着実に痛みと恐怖を身体に蓄積させていく。


 獅子が奴隷を食らう光景を見て、観客は声が出ずに唖然としている。


 しかし、俺は別の意味で言葉が出なかった。


 モニターから目が離せず、視界から外れない一点。


 どうして、内海があの瞳をしているんだ?


 思えば、奴の動きは瞳の色が蒼くなった瞬間に変わった。


 荒々しく衝動のままに暴れるものから、静かに怒りをたぎらせては着実に相手を追い詰めるものに。


 衝動を制御しているのか。


 蒼い瞳……絶望の涙の能力を使って。


 金本は目から光が消えそうになるも、内海の動きを止めようと左手を伸ばし、奴の右足にしがみつく。


「はぁ……はぁ……。負けないっ……!!あんた…なんかにっ!!」


「あぁ?やられっぱなしの雑魚が何言ってんだよぉ!?」


 左足で彼女の顔面を勢いよく蹴れば、手が離れて半回転して転がっていく。


 全身で荒い呼吸をし、身体に力が入らないはずだ。


 それでも、金本は負けず嫌い故の精神力でゆっくりと膝をつきながらも立ち上がり、内海と向かい合う。


 もはや、両者に語る言葉は無い。


 内海は弱者に興味を無くし、金本は体力が底をついて言葉を発する気力もない。


 この勝負の結末は目に見えている。


 そんなことは、本人が最も理解しているはずだ。


 痛め付けられた影響で、身体が内海を恐れて足が震えている。


 本当ならば、逃げ出したいと思うのが身体的な本音だろう。


 それを抑えて前に歩みを進めているのは、金本が並の精神力の持ち主では無いからだろう。


 内海に勝つことへの執着だけが、彼女を突き動かしている。


 そんな金本を目の前で見て、狂犬は一瞬だけ後退りしてしまう。


「何だぁ……何なんだよぉ……おまえはぁあああ!!」


 内海の表情に焦りが見え、瞳の色が濃くなる。


 そして、血管が浮き出るほどに右腕に力を入れ、大きく1歩踏み出し、金本が最もダメージを受けている腹部に止めの一撃を打ち込んだ。


「ぶぐへぁ!!」


 防御もできず、拳を受けては倒れそうになる金本。


 前屈みになり、内海の頭と彼女の頭がぶつかりそうになる。


 その瞬間、金本の瞳に光が戻った。


「うぉおおおお!!!」


 ふんっ!!と言う声と共に、金本の額と内海の額が激突した。


 これは事故じゃない。


 金本がわざと、自分から当たりに行ったんだ。


 その一撃は決して強いものではない。


 頭突きを受けた内海は、たじろぎもせずに無傷だった。


 そして、そのまま倒れた金本は奴を見上げて口角を上げた。


「一撃……入れてやったっ…!!」


「……それがどうした」


 無表情で返す内海を視界に捉えたまま、金本の目蓋まぶたは閉じられた。


 そして、結果がモニターに映し出される。


 ーーーーー


 勝者:内海影虎


 ーーーーー


 誰もが途中からわかっていた結果だった。


 しかし、思っていたものとは違った。


 勝利した内海は釈然しゃくぜんとしない表情をし、気絶した金本の首に手を伸ばそうとした。


 すると、奴の後ろから声がかけられる。


「試合は終わった。それ以上手を出すことは認められん」


 内海が後ろを振り返ると、そこには学年主任の間島や岸野などの教師の姿があった。


 試合が終わった後にしては、対応が早すぎる。


 内海が勝とうが負けようが、どっちにしろコロシアムルームに突撃するつもりだったのだろう。


「っち、何もしてねぇよぉ。教師は手を出していない生徒も罰するのかぁ?」


「何もしていないなら、さっさとテントに戻れ。次の試合が控えている」


 岸野が前に出て言えば、内海の目つきが鋭くなる。


「てめぇが俺に命令すんじゃねぇよ」


「それは悪かったな。文句があるなら、体育祭が終わった後に相手してやる」


 冷静に言う岸野としばらく視線を合わせた後、内海はふんっと面白くなさそう鼻を鳴らしてはエレベーターに向かっていった。


 流石に多くの教師が居る前では、事を構える気はないらしい。


 金本は担架で運ばれ、そのまま保健室に行くことになった。


 今回の体育祭は、ここでリタイアだろう。


 しかし、これは彼女にとって意味のある試合だった。


 おそらく、柘榴は何らかの手段で金本と内海を対戦させる形に持ち込んだ。


 この試合で内海に、完膚かんぷなきまでに金本を痛め付けさせるために。


 そして、内海を使った恐怖で支配し、自分の奴隷にするつもりだった。


 だけど、金本の心は身体を痛め付けられたくらいで折れるものではなかった。


 あいつの想定通りにはいかなかったんだ。


 それの証拠に、青団のテントでは柘榴の不適な笑みが消えていた。


 金本欄……おまえは試合には負けたが、柘榴の策には勝ったんだ。


 勝負で勝つこと以上に、その結果は大きいと俺は思う。


 今の対戦の余韻よいんに浸る時間もなく、次の試合が始まる。


 その対戦カードを見たとき、モニターに映し出される名前で、この先の展開がわからなくなった。


 ーーーーー


 石上真央VS森園早奈英


 ーーーーー


 真央の出番が来てしまった。


 無理をしなければいいんだけどな。


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