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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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賭けと商人

 真央side



 黄団の2年と3年代表の先輩に1年の参加種目の順番を書いた用紙を提出し、僕は帰路についている。


 この体育祭、負けるわけにはいかない。


 少なくとも、鈴城さんが所属する赤団には。


 このままだと、Sクラスでの僕の地位は危うくなってくる。


 仮面舞踏会では思ったような結果を残すことはできなかった。


 あの鈴城さんが戻ってきたことによって、僕の中で焦りが生まれているのかもしれない。


 この弱肉強食の学園で、実力が無いと認識された者は振り落とされてしまう。


 最悪の場合、命を落とすかもしれない。


 それでも、僕には才王学園に残らなければならない理由がある。


 これからのことを考えながら地下街を歩いていると、近くから「待っていたぞ、真央」と言う声が聞こえた。


 カフェを通り過ぎようとしていた所、屋外テラス席に座っていた鈴城さんに声をかけられた。


「鈴城さん……僕に何の用ですか?」


「クラスメイトに声をかけるのは普通だろ。何、少しおまえと話がしたいと思ってな。ここで待っていただけだ」


「僕とあなたは、世間話をするような仲じゃありません。お付きの2人と談笑をしてはどうですか?」


「木葉と早奈江と話をしても、あの2人は私の意見に同意するだけだからな。部下としては頼もしいが、面白みに欠ける。その点、おまえとは有意義な意見交換ができそうだ」


「僕をあなたの穴埋めに選んだ理由も、考え方が違うからと言う理由でしたね」


 僕と彼女の思考はコインの裏表のように違う。


 規律を重んじる者と、自由を好む者が対等になれるはずがないのだ。


「意見交換と言いますが、話の題材は何ですか?」


「そうだな……おまえが今後、Sクラスに残れるかどうかの話でもするか?」


 冷たい笑みを向ける鈴城さんに、背筋に氷を当てられたような感覚に襲われる。


 ついに、この時が来たか。


 人狼ゲームで椿さんに敗北したときから、名誉挽回できる日が来ると信じて努力を続けてきた。


 しかし、結果が残せなれば意味がない。


 この前の仮面舞踏会で、僕のクラスからの信頼もかなり下がったことだろう。


 もはや、チャンスは次の体育祭にしか残されていない。


「体育祭では、あなたが赤団の采配さいはいを?」


「いいや。体育祭には何の興味もないのでな、要と瑠璃に任せている。私は余りものの競技に参加するだけだ」


「それなら、僕は少なくともあなたの団に勝ちます。そうすることでしか、クラスに残る理由を見いだせない」


 真剣な目で訴えるが、それでも鈴城さんは余裕の笑みを見せる。


「そうか、おまえの健闘に期待するとしよう。ならば、おまえが体育祭の結果次第でSクラスに残ることができた場合、おまえの望みを1つ叶えてやろう」


「……賭けをするつもりですか?」


「いや、そのつもりはないさ。仮に赤団が黄団に勝ったとしても、私からおまえに要求するものは何もない。ただの遊びだ、気軽に考えろ」


 この思考はわかっているつもりだ。


 その先々を見通した上での性格の悪さも。


 今までは、この人の掌の上で踊らされてきた。


 しかし、今度こそ僕はこの人の想定を超えて見せる。


「それなら、僕はあなたにSクラスからの脱退を要求します」


 鈴城紫苑には人を支配する才能があり、それを表面化する実力がある。


 このまま女帝がSクラスの長を続ければ、遠くない未来にクラスだけでなく1年全体が支配されるかもしれない。


 それだけは、決して許してはならないんだ。


「良いだろう。その条件で構わない」


「僕は必ず、Sクラスに残り続ける。そして、あなたに勝つ」


「……おまえにそれができるのなら、私にとっては面白いことこの上ないな」


 鈴城さんは薄く微笑みかけ、テーブルの上に置いてあったティーカップの紅茶を飲み干して席を立った。


「体育祭当日が楽しみになってきた。いろいろと、な」


 そう言って、鈴城さんは帰路についてしまった。


 さいは投げられた。


 この学園の秩序のための、僕の使命は決まった。



 -----



 午後7時。


 マンションの自室で勉強をしていたが、小腹が空いたのでコンビニに買い出しに行く。


 頭の中は、5日後の体育祭のことでいっぱいだ。


 鈴城さんの冷笑れいしょうが頭から離れず、このままでは睡眠にも支障が出るかもしれない。


 睡眠薬も買っておこう。


 地下の明かりが暗くなり始めた頃、コンビニへの近道として路地裏を歩いていると、1人の老人が視界に入った。


 タキシードを着ている小太りで小柄な人であり、シルクハットを被って片眼鏡をかけている。


 その手に持っているのは分厚いアタッシュケース。


 あんな老人が、学園の関係者に居ただろうか。


 何か怪しさを覚え、気づかれないように後ろを付けてみる。


 路地裏の奥に進んでいき、その先にあるのは大きな倉庫だった。


「地下にこんな所が……一体、この中に何があるんだ?」


 老人が倉庫に入ろうとすると、その前に足が止まった。


 そして、ゆっくりと後ろを振り向いては歯を見せる不気味な笑みをして呟いた。


「誰か、私を付けてきたデスね」


 気づかれた!?


 ここで誰かを気づかれていない内に離れるべきか。


「隠れてもわかりますデス。この眼鏡には温度を探知するカメラが内蔵されているのデス。大人しく出てくれば、命は取りませんデスよ?」


 老人から放たれる、広範囲に渡る殺気。


 それを感じ取っただけで、酷い吐き気が出てくる。


 ここで隠れたまま見つかってしまえば、確実に殺されることが直感でわかる。


 生命の危機に、隠れていた壁から出て姿を現す。


「あなたは一体……ここで、何をしているんですか?」


 何かを言われる前に、こちらから単刀直入に聞く。


 老人は僕のことを真っ直ぐに視界で捉え、首を傾げる。


「ほぅ……あなたデスィたか。1年Sクラスの、石上真央くん」


 僕の名前が知られている。


 やはり、学園の関係者だ。


 老人はゆっくりと歩み寄り、顔を見上げてきた。


「あなたのことは、小耳に挟んでいますデスよぉ」


「僕の質問に答えてください。あなたは何者で、ここで何をしているんですか?」


「クッヒヒヒっ、私に興味がおありデスかぁ~。では、論より証拠として、中を見せても良いデスよ?私もあなたには興味があるデスから」


 そう言って、老人は倉庫の中に入って行く。


 僕は意を決して、その後ろをついて行った。


 倉庫の中には多くの武器があり、見たことがある物からそうでない物まで並んでいる。


 それを見ただけ、ここがどういう場所なのかが理解できた。


「ここは……武器倉庫?」


「その通りデス。先ほどの質問にお答えしますデスよ」


 老人は優雅に右手を曲げてお辞儀をし、その不気味な笑みを向ける。


「私はしがない武器商人。この学園の生徒を客として迎え、その人に合った武器を売っている者デスよ」


 この時、僕は気づいてしまった。


 才王学園の闇に、足を踏み込んでしまったということに。



 ーーーーー



 武器商人に中を案内され、僕は目の前に居る小太りな老人に不信感しかなかった。


 どうして、僕を案内するのか。


 目撃者必殺ではないのかと覚悟していただけに、片眼鏡で反響している目の奥の真実がわからない。


 周りに飾ってある武器には西洋の剣や弓矢、銃火器なども存在する。


 それだけでなく、ビーカーの中に入っている毒のような液体にも目を見張る。


 武器や危険物が視界に入る中、当然と言うべきか日本刀もあった。


 もしかしたら、内海くんはここから日本刀を入手し、例の事件を起こしたのかもしれない。


 視界に入る武器を1つ1つ紹介していく武器商人に、僕は警戒心を解かずに聞いた。


「どうして、僕をここに連れてきたんですか?口封じでもするつもりではないでしょうね」


 こちらが問うのを待っていたかのように、武器商人は僕を見上げながら口の端を上げて歯を見せて笑む。


「とんでもないデスよぉ。私はただ商人の血が騒いだから、あなたを招待しただけデス。あなたなら、私のお得意様になってくれると思ったのデスよ」


「僕がこんな人殺しの道具に手を染めるとでも?バカにしないでいただきたい」


「私が販売しているのは、何も命を奪う物だけではないデスよ。こちらをご覧くださいデス」


 武器商人が手で視線をリードすれば、そこには様々な防具があった。


 防弾チョッキや耐熱性の強化スーツなどもある。


「この学園では、後々誰が誰を殺したいと思い、誰が殺されるかがわからなくなるのデス。だから、攻防両方の商品を用意しているわけデスよ」


「内海景虎のような例はありえませんよ。人には理性がある。いくら殺したいと思っても、本当に殺そうとする人が居るはずがありません」


 僕が強く否定すると、武器商人の片眼鏡が白く反射する。


「おやおや?まさか、あなたがそれを言うとは心外デスねぇ」


「……どういう意味ですか?」


 武器商人は僕の顔を覗き込み、視線を合わせてくる。


 目と目が合うと、心の奥底、深層心理までもが見透かされそうな感覚を覚える。


「あなたがお得意様となると思った理由をお教えするデス。石上真央くん……あなたには、どうしても倒したい人間が居る。そう、殺したいほどに……」


「そ、そんなわけがない!!」


 静かに耳にささやかれ、すぐに商人を突き放す。


 脳裏に浮かぶのは、女帝のあの冷笑。


 あの笑みに絶望を感じたことはあっても、殺したいなんて思うはずがない。


 商人は焦る僕を見て、さらに笑みが強くなる。


「一瞬で大量の汗が噴き出しているデスよ?手も震えているようデスねぇ……。では、もっと深堀してみるデスか。その人間は、あなたよりも実力があり、あなたよりも信頼を得ている。自尊心の高いあなたは、人から認められたいのに、その者が居るから認められることがなぁい」


「違う……僕は自分のためにあの人を超えようとしているわけじゃない!!」


 僕が否定しようとも、商人の言葉は止まらない。


「そう、あなたはその人間を超えようとしている。しかし、どう頑張っても超えることはできない。圧倒的な力の差を埋めるために努力するたびに、その差を痛感させられる。その度に思ったのではないデスかぁ?『こんな人間は居なくなれば良い』と」


「僕は、そんな弱い人間じゃない!!」


「本当にそうデスかぁ?でも、1度は思ったでしょぉ~?負ける度に、実力の差を痛感するたびに、『死ねばいい』とか『こいつさえ居なければ』と。それは人間として自然な思考なのデス。恥じる必要はないのデスよ」


 商人は僕の左肩に優しく手を置き、言葉を続ける。


「私には、相手の欲望を推し量る能力があるデス。あなたの殺したいという欲望の大きさは問題なく合格デス。だから、あなたをここに招待したのデスよ」


「僕はっ……違う!!人を……鈴城さんを殺したいなんて、思っていない!!」


「そんなに取り乱してはいけないのデス。何も私は、あなたに人殺しをしてほしいとは思っていないデスよ?」


 商人は床に膝をつき、手に持っていたアタッシュケースを丁寧に開ける。


 ケースがゆっくりと開く中、赤い光が漏れ出していた。


「それは……一体!?」


「あなたの願いを叶えるための物デス。あなたの『希望』を生み出す物デスよ」


 赤い光を放つ液が入った注射器だ。


 本能的に、それが危険な物だと理解した。


 本当だったら、こんな物に手を出す者など居るはずがない。


「これは『希望の血』と言う薬です。あなたの欲望が強ければ強いほど、あなたに力を与えるでしょう」


「僕に…力を……?」


「あなたには使命があるはずデスよぉ?この学園を良くしたいのでしょう?では、踏みとどまっている時間はないはずデス。あなたは今すぐに力を手に入れ、示さなければならないのデス。石上真央という存在の、存在意義を!!」


 僕の存在意義。


 僕は才王学園を良くしたい。


 そのためには、力が必要だ。


 鈴城紫苑も、椿円華も超えた力を。


 それを証明できた時、あの人は……桜田生徒会長は僕のことを認めてくれるはずだ。


 だけど、まだこの危険な力を手に入れる覚悟ができていない。


 それを察したのか、武器商人は僕の耳に優しくある言葉をささやいて背中を押した。


「あなたは、選ばれし者なのデスよ」


 その言葉が僕を動かし、希望の血を手に入れる決意をさせたんだ。

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次回、運命の体育祭が始まる。

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