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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
牙を剥く体育祭
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装う表面

体育祭編開始します。

 恵美side



 仮面舞踏会のパーティー中のこと。


 ダンスが始まって、白いタキシードの男と手を取って緊張しながらも踊っていると、その最中にも話しかけられた。


「ダンス、上手だね。昔から習ってたのかな?」


「……」


「ごめん。もしかしなくても警戒されているね。でも、大丈夫だよ。俺はこの特別試験で何もするつもりはないんだ。君のコードネームを聞くつもりはないし、言う必要もないよ?」


「それはどうも……」


「礼は言ってくれるんだね。嬉しい」


 優しそうな声が、液体のように身体に染み込んできてむずがゆい。


 これは多分、口が悪い誰かさんと一緒に居たから、こういう口調への違和感だと思う。


 前はこんなことは思わなかったのに。


「……でも、その綺麗な銀色の髪、見覚えがあるんだ」


「え……人違いだよ。私、今染めてるし」


 一応誤魔化しておく。


 特別試験に関係なく、私はできる限り存在感を消さないといけないから。


「そっか。じゃあ、俺がその色に敏感になっているからかな。どうしても、銀色を見ると昔のことを思い出しちゃってね」


「別に興味ない」


「だよね。……幼少期に好きだった子と同じ髪の色なんだ。ある事が原因で離れ離れになってしまったけど、今でも覚えてるんだ」


「……好きって、友達として?」


「どうかな。恋愛として……だったのかもしれないね。多分、成長したら君みたいな美しい女性になっているはずだよ」


「言っている意味が分からない」


 軽い女だと思われたくないから、ここは言葉を切る。


「そう?う~ん……じゃあ、単刀直入に言おうか」


 仮面の男は一旦区切り、口元に笑みを浮かべた。


 そして、曲が終わる直前に耳元に顔を近づけてこう呟かれた。


「一目見た時から、君に一目惚れしたってことだよ。最上恵美さん、あなたが好きだ」


「……ぇ」


 何かを言おうとする前に、曲が終わってパートナーチェンジに入って混雑してしまう。


 そして、何も言わずに仮面の男は私から離れて行った。


 自分でもわからずに、何かを確かめようと彼に向かって手を伸ばした。



 ----



「ちょっと待って!!!」


 手を伸ばしても誰も居ない。


 それは当たり前。


 ここはパーティー会場の講堂じゃなくて、アパートの私の部屋だから。


 伸ばした手も、天井に向かっている。


 身体を起こして頭を両手で押さえて唸ってしまう。


 毎夜毎夜、あの日からずっと同じ夢を見てしまう。


 だって、しょうがないよ。


 いろいろと疑問は残っているけど、人生で初めて告白されちゃったんだから。


「ぅ~~~~~……好きって……一目惚れっておかしいよぉ……。それに、円華のあの反応もおかしい!!」


 円華は大声で驚いていたけど、二言目に言われた言葉はこれだった。


『告白……かぁ。うん、良かったんじゃないか?おめでとう』


 反応が思ったよりも全然薄かった。


 しかも、祝われた。


 精神的なダメージが……。


「もっと……何か……残念みたいな……嫉妬してくれたって……」


 別に付き合ってるわけじゃないから、嫉妬はしてくれないのかな。


 一緒に居る時間は長いし、大切って思ってくれているのも知ってる。


 だけど、それは絶対に恋愛的な意味じゃない。


 朝起きては毎日のように、思い出しては落ち込むを繰り返している。


 いい加減に立ち直りたい。


 身支度をしてから軽く朝食を食べてから部屋を出ると、そこに予想外の人物が居た。


「随分と遅い登校ね」


「住良木……」


 住良木が私の部屋の前に居るなんて、天変地異の前触れとしか考えられない。


 露骨に嫌な顔をしてやると、あっちは人目が無いから猫を被らずに睨んでくる。


「何よ?その顔は」


「いろいろと悪い予感しかしないから。もしかして、行く先々にトラップが……」


「無いわよ、そんなの。失礼ね」


「あんたには無礼なくらいが調度いい」


「ふ~ん」


 無視して横を通り過ぎると、後ろから住良木がついてきた。


「ちょっと、用も無いのにあたしがあんたに会いに来るわけないでしょ?」


「私には関係ない」


「こっちにはあるのよ」


「うるさいな。あんたに構ってる余裕は無いの」


 主に心の。


 構わずに通学路を歩くけど、住良木が勝手に話を始める。


「あの仮面舞踏会の後から、円華くんの様子がおかしいことには気づいているでしょ?」


 おかしい……か。


 確かに特別試験が終わった翌日からのここ3日間、円華は変だった。


 心ここに在らずと言うか、誰とも深く関わろうとしない。


 1人で居ることが本当に多くなった。


 最初はクラス競争からフェードアウトすることが目的だからだと思っていた。


 だけど、最近はメールをしても返信は来ないし、電話をかけても出てくれない。


 誰かと関わることを、本当に避けている。


 そして、時々目にするんだ。


 彼のとても辛くて苦しそうな顔を。


「あんたは何も思わないの?心配とか思わないわけ?」


 ……思っているに決まってるじゃん。


「どうして、そんなに冷静なのよ。信じられない!」


 冷静……?そう装ってるだけだしっ…!!


「最上だって気づいてるんでしょ!?円華くんがまた、1人で何かを抱え込もうとしてるって!!」


 足を止めて、振り向きざまに住良木の腕を強く握る。


「いっ!ちょっと、痛い。痛いって!!」


 すぐに手は振りほどかれた。


「これでも私が、冷静に見える?」


「我慢してるって言いたいわけ?」


「我慢じゃない、時期を見ているだけ。円華は今……そっとしておいた方が良いと思うから」


 住良木の目は、納得できないと訴えている。


 今すぐにでも、円華をどうにかするべきだって。


 どうにかするにしても、その方法がわからないのに。


「住良木だって聞いたでしょ?キングが円華の前で自殺したって。それが精神的にショックだったんだよ」


「キングが自殺なんてにわかには信じられないけど、円華くんが嘘をついているとは思えないしね。でも、それだけであんなに孤独になろうとする?」


「……わからない。でも、今までとは根本的に違う意味で、円華は誰とも関わろうとしていないんだと思う」


 特に私には、あんなことがあったわけだし。


 胸に手を当てて鼓動を確認すると、思い出しただけでも心臓の音が速い。


「そんなこと言われたって……じゃあ、何時まで様子を見るつもり?」


「とりあえず、1週間じゃ足りないってことは確かだね」


 結局は通学路を2人で歩くことになり、一緒に地上へのエレベーターになることになった。


 お互いに空気が重いことは、自覚していたと思う。


 円華は昔の状態に戻ってしまった。


 他人を寄せ付けず、孤独を選んでいる。


 でも、前とは違う所が1つだけある。


 円華は今まで、自分の中の何かの存在とその思考に気づいていなかった。


 だけど、キングがその存在に気づかせてしまった。


 円華は『闇』を自覚し、そして戦おうとしている。


 今の私には何もできないし、円華自身が何もさせようとしてくれない。


 だから、1人で何とかすると言うなら、信じて見守ると決めたんだ。


 私にできることを見つけるまでは。



 ーーーーー

 円華side



 誰も助けてなんてくれない。


『誰の助けも求めない』


 俺は1人だ。


『1人の方が気が楽だ』


 俺は呪われている。


『そして、力を手に入れた。誰にも負けない力を』


 俺は大切な者を守りたい。


『俺は全てを壊したい』


 大切な者を守り、潰すべき者を潰す。


『邪魔するなら、誰であろうと完膚なきまでに叩き潰す』


 はぁ……やっぱり、『こいつ』の考えは俺と並行なんだな。


 英語の授業の時間に、頭の中でずっと独り言を呟いていると『闇』の声が一々聞こえてくる。


 最悪だ。もはや闇はこの身体のもう1人の同居人になっている。


 今までは、戦いの最中に眼帯を外した時にしか出てこなかった。


 身体の所有権は俺にあるにも関わらず、頭に声が響いてくる。


 鏡を確認しても、両目の瞳には変化はない。


 あのキングと接触した夜から、ずっとこの状態だ。


 自覚したのは、目覚めてから恵美と話している最中のこと。



 -----



 恵美が告白がどうとか言っていた時、一応反応として驚いてはいたが、内心では頭の中に響いた声にも注意を向けていた。


『恵美は目障りだ。今すぐにでも、殺してしまいたい』


「っ!!」


 突然のことで咄嗟とっさに頭を押さえてしまい、恵美はそれに対して表情を曇らせて腕を握ってくる。


「どうかした?」


 心配している。どうにか返答しないと。


 何て答えればいい?


「あ……いや……その……。告白……かぁ。うん、良かったんじゃないか?おめでとう」


 恵美の場合、何でもないと言っても納得しない。


 だからと言って、今のことを言うわけにもいかない。


 話を逸らそう。


 そして、すぐにでも部屋を出てもらうしかない。


 どうすれば……。


 思考を巡らしていると、口が勝手に開いた。


「『……殺したい』」


「……え?」


 今、俺は何て言った……?


 怪訝な表情をしている恵美を、目が勝手に睨みつける。


「『鬱陶うっとうしいんだよ、おまえ!!』」


「んぁ!!」


 身体が勝手に動いて恵美を押し倒し、両胸を鷲掴みしてそのまま服を引き破る。


 ピンク色の下着が露わになる。


 彼女は目を見開いて俺の目を見ており、身体が震えているのがわかる。


 ダメだっ……止まれ!!


 事が起こる前に手を止め、恵美から離れる。


「円……華?」


「はぁ……はぁ……出てってくれ」


 今、ここに恵美が居るのは危険だ。


「……嫌だ。今の円華は絶対に変だよ。1人にできるわけ―――」


「頼むから出てけ!!……傷つけたくないんだ。だから、今のうちに……」


 怒気を孕んで声を荒げながら近くにあった上着を投げつける。


 恵美は一瞬悲しそうな顔を浮かべたが、すぐにその上着を羽織って胸を隠しながら玄関に行ってくれた。


 事の重大さを察してくれたんだ。


「……迷惑かけて、悪かった」


「迷惑なんて、思ってないよ。……バカ」


 そう言い残して、恵美は部屋を出てくれた。


 壁に背中を預け、そのまま床に座りこむ。


 目を閉じ、自分の中の闇に語り掛ける。


「……恵美を傷つけることは、俺が許さない」


『俺自身がやりたいことでもか?』


「おまえは俺じゃない」


『いいや、俺はおまえだ。もう1人のおまえだ』


「俺はおまえを認めない」


『……勝手にしろよ』


 その後、闇からの声はしばらく聞こえなくなった。


 身体を乗っ取られるかもしれない恐怖。


 これからは、自分のことも警戒しないといけないのか。



 ---ーー



 キングはとんでもない置き土産を残してくれたものだ。


 自分の中の敵が本格的に動き出したとなると、俺は周りと行動を共にすることが難しくなる。


 親しい者であればあるほど、闇は傷つけようとするかもしれないからだ。


 これからクラスの競争や特別試験の最中に何かを仕掛けてくるかもしれないというのに、何時爆発するかもわからない爆弾を抱えていたら復讐のための一手を決めることができないかもしれない。


 右手に目を向けると、一瞬だけ紅氷で覆われた獣の手に変わったような幻覚に襲われた。


 自分の力が……変化が、恐い。


 今までは眼帯を使ってギリギリの所を制御できていた。境界線を越えない戦い方をしていたんだ。


 それが今回、キングは俺をその境界線の向こうに押し出してしまった。


 せめて、キングに復讐することができれば、心の安定させることができたかもしれない。


 それもタラレバだけどな。


 考え事をしているだけで授業は終わってしまい、昼休みに入る。


 誰も近づかない内に教室を出て、そのまま屋上に上がる。


 人が居ない内に、購買で買って置いたパンを頬張って噛んで飲み込む。


 いつまでもこんな人を避けた生活が続くとは思っていないし、続けようとも思っていない。


 それでも……まさか、姉さんが居なくなった後で最も恐れていたことが起きてしまうとは思わなかった。


 椿涼華は、俺にとって鞘と呼べる存在だった。そして、俺は姉さんの意志に従う刃だった。


 鞘を失った抜き身の刃は、危険以外の何者でもない。


 そろそろ午後の授業が始まる。


 屋上を降りて教室に行こうとすると、ドアの前に人の影があることに気付く。


「何時からそこに居た?基樹」


「……逆に、何時になったら気づくか試してたんだけどな~」


 基樹は姿を現し、俺に歩み寄る。


「いつものおまえなら、すぐに俺に気づいていただろ?なのに、俺がここに来てから約10分。ずっと、フェンスの前に座って心ここに在らずって感じだった」


「……そうかもな」


 素っ気ない返事をすれば、基樹は言葉を続ける。


「気づいてるんだろ?恵美ちゃんも瑠璃ちゃんも、麗音ちゃんだって、おまえのことを心配している。クラスメイトの皆、おまえの変化に気づいている」


「……だから?」


「何を思い詰めているのかは知らないけど、1人で解決できないことなら、俺でも誰でも頼れよ。見てるこっちだって、何もできなくて歯がゆいんだ」


 基樹は真剣な顔をして、俺の左肩を掴む。


 本当に心配してくれてるのかもしれない。


 それでも、俺はその手を振り払った。


「言ったはずだ、基樹。今のおまえは、成瀬の影。おまえは、おまえの成すべきことをしろ。俺のためを思うなら、今は放っておいてくれ」


「……助けてほしいことがあったら、ちゃんと命令しろよ?」


「ああ、わかってる」


「説得力ねぇなぁ~」


 2人で教室に戻り、午後の国語の授業を受ける。


 後ろの席からは、恵美の俺を気にする視線を強く感じる。


 それに気づいている素振りをすれば、俺は自分に負けたことになる。


 昔からは想像もつかないが、今の俺にはかけがえのない友ができた。


 仲間ができた。


 利用できる使い捨ての道具じゃない。


 だから、傷つけたくないと思っている。


 少なくとも、俺は。


『仲間なんてくだらない。どうせ、昔みたいに裏切られるというのに。あの夜のことを、忘れたわけじゃないだろ?』


 うるさい。品定めはもう終わっている。


 俺は恵美たちを信じている。


『信じる……か。綺麗な言葉で自分を飾り立てようとするなよ。椿円華の本性は、冷酷無慈悲な悪だ』


 俺は変わった。もう、衝動で暴れる俺じゃない。


『変わった?違うだろ。ただ善の皮を被って本性を隠しているだけだ。不要なものは切り捨て、邪魔なものは容赦なく排除する。それが、おまえだ』


 黙れ、おまえを認めないと言ったはずだ。


 おまえの言う事は全て、俺をまどわすための邪念だ。


『何時まで、そんなことを言っていられるかな……。忘れるな。おまえが見えていないもの、気づいていないことを闇は知っている。おまえがいくら俺を否定しようとも、闇は消えないんだよ』


 認めなくても、闇がもう1人の俺であることは事実なのかもしれない。


 それでも、俺はこいつを抑える術を知らない。


 消し去ることもできなければ、抑えつけることもできない危険な存在。


 内に秘めた闇は、俺の大切なものを壊そうとする。


 俺はもう1人の自分と、どう向き合っていけば良いのだろうか。


 この問題が解決するまで、他クラスから俺個人を標的にされるのは極力避けたい。


 相手をしても良いのは、あのBクラスの暴れ馬くらいか。


 それ以外にも、俺に注意を向けている者は多くいる。


 フェードアウトするには、成瀬と麗音だけでは足りない。


 どうするかな……。

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