Dクラス内の決着
彰side
仮面舞踏会の結果を見た瞬間、現実を受け入れることがすぐにはできなかった。
Dクラスのポイントがマイナス?
しかも、今、勝手にポイントがEクラスの不良品どもに流れていく。
もうポイントはマイナスを刻んでいる。
その流れを止めることができない。
どうしてだ!?あり得ない!!
俺は確かにEクラスの裏切り者から情報を聞き出した。
それが確かなものだと確認もした。
椿の名前だって当てたはずだった。
どこで間違えたんだ!?
「……今は反省点を探している余裕はない。せめて、マイナス分を埋めないと……」
こうなったら、捨て駒からポイントを奪って……!!
周りの女を見れば、焦りと絶望が入り交じった表情をしている。
試しに駒の1人である宮田に近づいて声をかける。
「宮田……?もしかして、おまえ……」
「どうしよう、彰くん……あたし、ポイント…が……」
スマホの画面を見せてきて、ポイントが俺と同じようにマイナスを下回っている。
その他にも、捨て駒の女たちのポイントを確認すると全員がマイナス以下になっている。
こんな偶然、ありえない。
誰かが裏で工作しない限り。
「まだ気づきませんか?あなたが椿円華やEクラスに固執している間に、多くの物を失っていたということに」
「木島っ……!!」
蔑みの笑みを浮かべ、取り巻きの男を従えて俺の前に立つ木島。
「おまえ……一体、何をした!?」
「あなたはもう不要だと言う事ですよ、坂橋くん」
「何をしたって聞いてるんだよ。おまえの思考なんて関係ない!!」
木島は黒い笑みを浮かべる。
「わかりませんか?しかし、仕方のないことかもしれません。あなたと私では考え方が全く違いますから。あなたは自分のためだけに必要な人材をそろえようとする。しかし、私はクラスに不要な人材は排除する。要は個人の意志か集団の意志かの違いです。私が、あなたの自己中心的な考えに気づいていないとでも?侮らないでください」
木島の目からは、クラスを代表しての怒りを感じる。
俺は最初から、見透かされた上で踊らされていたのか。
だけど、何をどうして……。
会場内を見回すとある特定の1人が一瞬だけ不適な笑みを浮かべていることに気づいた。
俺と捨て駒だけがマイナスになっている。
Eクラスの名前を全員外した俺だけでなく、駒までも……。
「売ったのか……俺たちの情報を、他のクラスにっ……!?」
「さぁ、何のことでしょうか?あなたがそう思うのであれば、それでよろしいのでは?どうせ、私が何をしようとも、Eクラスにお熱だったあなたには証拠も掴めないのですから」
「木島……江利!!」
女の分際で、俺をバカにしやがった。
女なんて、全員俺の駒だった。
優しくすればすぐに言いなりになる、都合のいい道具だった。
道具だと思っていた存在に侮辱される。
これほどまでに怒りを感じることがあるか?無いだろ。
初めてのことだった。
俺は右手で拳を握り、人生で初めて女を殴ろうとした。
しかし、その前に複数の男に取り押さえられ、床に顔を押し付けられる。
その姿を、Dクラスだけでなく他のクラスの生徒も哀れむような目、もしくは面白がるような目で見てくる。
あぁ、そうだよ、俺は負け組になったよ。
ポイントがマイナスなんて、即退学だろ。
確か、あの夏休みに出てきた変な仮面のAIの話だと、退学=死だっけ?
もう絶望しかないじゃないか。
深い溜め息をついてしまうと、俺を見下ろしたまま木島が冷ややかな目を向ける。
「マイナス……でしたか。0以下ということは、価値も0以下と言っても過言ではありません。では、Fクラスでもあなたを買うことは可能なのではないでしょうか?」
「え、F……クラス、だと?!」
「はい。Dクラスには、もうあなたの席はありません。そして、敵対していたEクラスにもあなたの居場所は無いでしょう。であれば、Fクラスしか無いのではないでしょうか?」
木島はスマホのオークション画面を開き、俺の正体を当てたFクラスの生徒の名前を見せてくる。
「……そうか。おまえ、Fクラスに俺の情報を……!!」
「それは今、重要でしょうか?あなたが取るべき選択肢は退学と言う名の死を選ぶか、屈辱のFクラスにしがみついて生き残るかです。反省は後でしてください」
生にしても死にしても、最悪でしかない。
「あなたの駒だった女子は私が個人的に救済いたしますので、その点はご心配なさらず。誰もあなたに助けを求める者は居ませんので。それでは」
行きましょうと言い、木島はDクラスの俺以外の全員を連れて行ってしまった。
負け犬は1人と言う事か。
Eクラスに嵌められ、同じDクラスにも嵌められた。
Fクラス?上等だよ。
俺は俺をこけにした奴らを絶対に許さない。
誰の下に着こうとも、誰の上に立とうとも、俺を嵌めた連中を陥れてやるよ。
床に倒れていた惨めな状態から立ち上がり、Fクラスのエリアに向かう前にBクラスのエリアに向かった。
ーーーーー
真央side
また、結果を残すことができなかった。
Sクラスでありながら、また他のクラスに出し抜かれてしまった。
しかも、Sクラスの中からも正体を当てられている者が何人も居る。
こんな失態を犯してしまい、クラスメイトからの信頼をまた落としてしまった。
「どうするんだよ?Eクラスに負けてんじゃん。鈴城さんから任されたのに、この様かよ…」
「石上くんだけの責任じゃないでしょ。あんたたちが、彼女が居ないからって真面目にやらなかったのが問題なんじゃないの?」
「はぁ!?そんなことあるか。俺たちはちゃんとやってたんだよ‼」
「だったら、何で正体当てられてるの!?結局、あんたたちの力不足が招いた結果じゃない‼」
僕を責める声と、擁護する声がぶつかり合う。
あとを引いているのは、あの椿さんの属するEクラスに再度負けたことだ。
僕にとっては、これは再戦のつもりだった。
だけど、僕らの力は彼らに及ばなかったんだ。
「……やはり、あなたには荷が重かったと言うことだったのではないでしょうか?」
そう静かに呟いた綾川さんの声に反応し、彼女に注目が集まる。
「紫苑様は、1学期に失態を犯したあなたに挽回のチャンスをお与えになりました。しかし、その機会を生かすことができないということは、石上真央と言う男の器がその程度のものだったと言うことを暗に示しているとは思えませんか?」
その声に賛同するように、僕に非難の目が集中する。
僕の実力が、この程度?
Sクラスは最上位クラスとして、頂点でなければならない。
だけど、その条件を満たせていない。
これは僕の責任なのか。
僕の実力が、Sクラスと言う地位に適していないから…‼
「おまえたち、そう真央を虐めるな」
自責の念に囚われそうになった時、その声にその場に居たSクラスの生徒全員の耳が過敏に反応した。
声のした方に視線が向かえば、そこには制服姿の鈴城紫苑が立っていた。
「紫苑様…‼どうして、こちらに?今回の特別試験には参加されないのでは!?」
「何、最悪の場合を想定して顔を出しただけだ。木葉、正体を当てられた者たちは、何人だ?」
「14人です。ポイントによる取引は未だに成立しておりません」
「そうか。それくらいの人数ならばカバーできるな。わかった、私が保管していた資金を準備しておいてくれ。生徒の取引が開始する前に、前もって先手を打って置く」
「承知しました」
資金を準備…?
どう言うことだ?
この取引はポイントで行われるはずだ。
今回は財力は関係ないはず。
「どういう意味ですか?鈴城さん。取引はアビリティポイントで行われると説明に記載があったはずです。資金は意味を成さないのでは……」
「ポイントで行われるとはあるが、それはこの試験の期間内だけだ。それを超えれば、《《いつも通りに》》資金で引き抜くことは可能だ。それほどの財力を、貯蓄していればの話だがな」
いつも通り…?
資金で生徒を引き抜くことができるなんてルール、僕は聞いたことが無いぞ。
鈴城さんはそこまで見抜いていたから、今回の試験に参加しなかったのか。
「木葉、生徒のリストを作っておいてくれ。こんなくだらん余興でポイントを使うのは惜しい。金で解決できることは、金で終わらせろ」
「承知しました」
綾川さんがお辞儀すれば、クラスメイト全員を一瞥してから講堂を出て行った。
彼女に確認したいことがある。
僕は鈴城さんを追いかけて「待ってください‼」と呼び止める。
「鈴城さん……。あなたは、下僕の入れ替えには興味が無いと言っていた。だけど、今、試験が終わったタイミングで姿を現して救済措置を講じていた。あなたの行動は矛盾している。何がしたいんですか!?」
「……矛盾?それは物事を一方向からしか見ていないと言っているのと同じだぞ、真央。私の目的は、既に達成している。おまえが理解できていないだけだ」
「その目的って……何ですか?クラスの地位を維持する以上に、大切なことだったんですか?」
少し怒気を孕ませながら聞けば、鈴城さんは呆れたような流し目を向けてきた。
「日々目の前のことに全力で取り組むおまえのことだ。自身の前にチャンスがあれば、それに迷わず飛び込む姿勢は称賛に値する。しかし、私はそうじゃない。大局を見れば、今は地盤固めの方が重要だ。学園生活は3年もあるのだからな」
地盤固め……まさか!?
鈴城さんの狙いが見えた。
「あなたにとっては、どっちに転んでも自身にとって有利になっていたということですか…‼」
Sクラスが1位となって終わろうとも、そうでなかったとしても、彼女にとっては些細な問題だった。
いや、むしろ、後者の方が望ましい展開だったのかもしれない。
この人は、僕のクラスでの信頼を落とすことも狙いに入っていたんだ。
彼女が留学していた期間、Sクラスをまとめていたのは僕だ。
1学期に失敗したとはいえ、僕への信頼はまだ残っていた。
その信頼を落とし、自身に服従する者を増やすために。
「あなたは……そうまでして、僕が気に入らないってことですか!?」
「……そう思いたければ、それで良い。しかし、あえて言うのであれば……おまえの思想は、危険過ぎる。自身とその周りの者を滅ぼす程にな」
「また、意味のわからないことを…‼あなたは、いつもそうだ‼自分だけが全てを見通しているというような目で、僕らを見下ろす‼何様のつもりなんですか!?」
怒りを爆発させて問いかければ、鈴城さん……女帝は鋭い目付きで冷たい視線を向けてきた。
「周りの者が望むのなら、本当に女帝とでも名乗ろうか?」
「っ‼」
血の気が引くほどの恐怖が、背中を走った。
言葉が詰まった僕を見ては退屈そうな顔をし、足を進めて遠ざかっていく。
「今のおまえでは、私と対等には戦えない……」
彼女の言葉を追いかけて否定しようにも、恐怖で足が動かなかった。
やっぱり、僕の力は……彼女には敵わないって言うのか…‼
認めない。
僕の力は、こんなものじゃない…‼
必ず、奪い返してみせる。
Sクラスの頂点に立つのは、この僕だ。
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