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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
偽りだらけの舞踏会
158/495

仮面舞踏会、開幕

 恵美side



 特別試験『マスカレードダンスパーティー』当日になった。


 それぞれ自分で用意した衣装に着替えて、仮面で顔を隠しているクラスメイトが講堂前の受付の前に集合する。


 な、何だろう……周りからジロジロ見られて恥ずかしい。


 変かな……好きな水色のドレスにしたんだけど……。


 円華はタキシード姿をしていて、仮名は『レッドアイズ』。


 とてつもなく、ダサい。円華ってネーミングセンスが無かったんだね。


 黄色のミニスカドレスに身を包んだ『フルーティダイナマイト』こと久実は、周りをきょろきょろと見ては溜め息をつく。


「全く~、基っ……じゃなかった、ゴールドハンターは遅刻だよ~。ちゃんと連絡したの?円っ…うぅ、レッドアイズっち!!」


 久実の場合、彼女のことを知っている人が相手だと口癖のせいですぐにバレそうな気がする。


 円華は名前を呼ばれても無反応だった。


 仮面をしているからわからないけど、雰囲気から思い詰めているのが伝わってきた。


「レッドアイズっち!!聞いてるの!?」


「んぇ!?……あ、ああ……悪い、聞いてなかった。何かあったのか?」


「……ん~?」


 久実は首を傾げて円華のことをじっと見ていたけど、すぐに仮面から下の頬を膨らませる。


「だ~か~ら~っ!!ゴールドハンターっちにちゃんと今日がパーティーの日だって言ったの!?」


「言わなくても、あいつだったらわかっているだろ。そのうち来るさ」


 狩野が遅刻しているのもそうだけど、円華が心ここに在らずな感じも気になる。


 落ち着いているように見えるけど、何かを悟られないようにしているように見える。


 2人で何か企んでる?


 私が考えを巡らせている間に、青色のドレスに身を包んだ成瀬が受付の人に封筒を渡す。


 あの中にEクラスの名前と仮名の書かれた名簿が入っている。


 成瀬は全員の方に身体を向いて、会場である講堂の中を見る。


「もうそろそろで試験が始まる時間よ。みんな、気を引き締めて。遅れているゴールドハンターくんは、後で合流するのを信じましょう」


 そう言って、彼女は先陣を切って講堂に入って行った。


 順番に、他のクラスの人に押されながら入っていくと、円華が1人列から離れていく。


「レッドアイズ、どうしたの?」


「ちょっと、トイレ行ってくる」


「……ふ~ん」


「な、何だよ、その疑いの目は」


「本当にトイレなのかなって思って」


「……は?俺、もしかしてトイレに行かないマンガの世界の住人だと思われてないか?」


「そうじゃないけど……にわかには信じられない」


「はぁ……アホらしい。漏れる前に行くわ」


 円華は溜め息をついて行ってしまった。


 追いかけるのも気が引けたから、私はそのまま講堂の中に入って行く。


 講堂には大人のパーティーをイメージした装飾がされていて、白いテーブルクロスがかけられ長テーブルには庶民的な料理から高級料理まで並べられている。そして、生徒に飲み物を配っているスタッフ、交響曲第9番を奏でるオーケストラ。


 雰囲気作りに凝ってるなぁ……。


 成瀬と一緒に回っていると、他のクラスの衣装が一際綺麗に見える。


 やっぱり、自分に自信が無くなってくる。


 あの青いドレスの黒髪の女子とか、絶対に2年とか3年だよ。背中出して、変な色気をアピールしているし。


 ピンク色のワンピースドレスを着ている子は同い年かな、ちょっと緊張しているのが伝わってくる。


 肩までかかってる黒髪で長身の男子。雰囲気から年上だってわかるけど、ちょっと怖い。


 周りを観察していると、どこからか「あの人、綺麗過ぎじゃない?」とか「あれ、絶対に3年生だって。ドレス着慣れてるのわかるもん」という声が聞こえてくるので、興味本位で成瀬と行ってみる。


 人の波が勝手に分かれて、進行方向を邪魔しちゃいけないとでもいうように道が広がっていく。


 その長いベージュの髪をした仮面の女子は、藍色のロングドレスを着ていて怪しげな魅力を発している。


 雰囲気からチャラ男感が滲み出ている男子の1人が彼女に近づく。


「そこの綺麗なお姉さん、パーティーなんて抜け出して、俺と一緒に楽しいことしない?」


「……もしかして、私のことかしら?」


「そうですよ~。この会場の中で、あなた以上に綺麗な女性は居ないです」


 あ、この男、会場中の女子を敵に回した。


 女子はふ~んっと口の端を上げて笑む。


「そう言ってくれるのは、素直に嬉しいわよ?だけど、ごめんなさいね。私ではあなたとは釣り合わないわ」


「な、何でですか?そんなの、仮面をしているからわからないでしょ?」


 女子は頬に人差し指を当てると、口元の笑みを浮かべたままこう言った。


「あなたみたいな軽そうな男だと、すぐに私のSMプレイに耐えられなくて蒸発しちゃうから釣り合わないって言ってるんだけど?」


 空気が一瞬で凍った。


 S……M……?


 する方?される方?


 絶対にあの風格は女王様とかご主人様って言われる方だ。


 男子はその綺麗な女子の内面に幻滅したのか、逃げるように人混みに走って行った。


 この女の正体、生徒会長かな。


 ステージの方を見ると、見たことがない優男そうな男子教師がマイクを持っているのが視界に入った。


「みなさん、清聴してください」


 その優しそうな声を聞いた瞬間、その場に居た全員が話を止め、一斉に教師を見る。


 学年集会でも小声が聞こえるのに、今は全く聞こえない。本当にみんな、黙っている。


 緊張感が伝わってくる。


「3年学年主任の折原おりはらです。今年に入って、初めての3学年合同の特別試験ですね。試験の内容もそうですが、これを機に他の学年とも交流してほしいと思います。この試験で見るのは偽装力と情報力ですが、社交性を身に付けるきっかけにして欲しいとも思います。それでは皆さん、社交ダンスの準備をお願いします。体調が悪くなった人は、休憩所が設置されているので保険医の扇先生に見てもらうように」


 会場の端の隅にある休憩所を手で促し、扇先生は軽く手を挙げる。


 扇先生は黒髪長髪で誰にでも丁寧な口調の先生で、よく生徒の相談相手にもなっている……らしい。


 終始笑顔で話していた折原先生だけど、そこから本当に優しい人とは感じなかった。


 場の緊張感が高まり、多くの人が手近な男女でペアを組んでいる。


 その中でペアを見つけられなくて焦っているのは私だけ。


「だ、誰とペアを組めば良いんだろう……」


「そこの可愛い水色のドレスの方、俺と一緒に踊ってくれますか?とりあえずは」


「えっ……」


 引っ張られるように手を取られ、良いとも言ってないのに腰に手を回される。


 緑色の髪をした白いタキシードを着た仮面の男子は、口元に笑みを浮かべている。


「そろそろ、曲が始まると思う。だから、今は我慢して……ね?」


「う……うん」


 何だろう?この雰囲気。


 この人から感じるのは、危険でも恐怖でもなく、かといって安心でもない。


 透明。


 本当に、今私はこの人の手に触れていて、密着するぐらいに近くに居るのかがわからなくなる。


 まるで本当は存在しないんじゃないかって、私の幻覚なんじゃないかって錯覚しそうになる。


 この感じは……一体、何?


 そんな私の疑問などは関係なく、オーケストラは音楽を奏で始める。


 マスカレードダンスパーティーが、始まった。



 ーーーーー

 恭史郎side



 くだらない特別試験が始まった。


 男女で仲良く手を取り合い、教師どもにアピールするように社交ダンスの上達具合を披露する。


 ほとんどのクズどもは、ダンス評価に賭けているように見える。


 俺にとってはどうでも良いことだ。


 こんなパーティーはただの暇つぶしであり、あいつに対しての復讐の通過点に過ぎない。


 この試験でするべきことは、事前にやった。


 あの妙なメールの送り主は結局特定できなかったが、それは後の楽しみに取っておくか。


 ワイングラスに注がれている葡萄ジュースを飲みながら、ダンスを無視して壁際でスマホを起動する。


 態度で減点されようが、知ったことじゃない。


 どれだけ点数が減ろうが、それ以上の点を取ってプラスに変えれば良いことだ。


 スマホのメール画面を開き、この前届いたメールの内の1つを見る。


『椿円華を、私たちのクラスから追い出してください。


 そのためだったら、あなたに何でも協力します』


 それと同時に届いた写真のデータファイル。


 そこにはEクラスの名簿情報が書いてあった。


 それの信憑性を確かめるために、Fクラスの奴隷どもを利用してEクラスの奴らを全員マークさせた。


 バカは口が滑りやすい。


 誰にも聞かれていないと思って、帰り道にお互いのコードネームで弄り合っていたらしい。


 そのバカどもの名前とコードネームを照らし合わせれば、見事にヒットしていた。


 そうなれば、椿のコードネームである『レッドアイズ』もヒットすることになるが、ここで疑惑がある。


「あの椿が、クラスのクズどもの裏切りに気づかないわけがない。この情報は使い物になるかどうか……」


 一曲目が終わり、それぞれが次のペアと自己紹介をする。


 その中で、聞き逃さなかった名前がある。


「初めまして、レッドアイズです。よろしくお願いします」


 レッドアイズ……ねぇ。


 残念だぜ、椿。


 おまえはもっと、身内を疑うべきだった。


 しかし、勝負は勝負だ。


 屈辱の味を教えてやるよ。


 レッドアイズが椿だと目星を付けた瞬間、俺の視界にある女の姿が入った。


 見間違いかと思ったが、そんなはずがない。


 見たのは幼少期だったが、それでも成長したらそう言う姿になっていることは大分予想がついていた。


 ()()()()()を見ることは、俺の中の憎悪を膨らませる。


「そういうことか。…やっぱり、そうじゃねぇとおもしろくねぇよなぁ……2代目っ……!!」


 スマホを握る力が強くなり、画面が割れた。



 -----

 ???side



 一曲目が終わり、相手が交代する。


 落ち着いた風格があるところから、おそらく2年か3年。


 しかし、そのダンスの腕は最悪だった。


 相手の動きはぎこちなく、それに合わせて周りに不自然さを気づかせず、完璧に踊っている風に見せるのは至難の業だ。


 自分の動きたいように動かれて、こっちのアシストが薄くなる。


 目立たないようにするのが精一杯。


 1つの曲が終わるのに、精々5分から10分くらい。


 その間、この相手のフォローをしなければならない。


 あ~あぁ、焦ってリズムが狂ってきてるし、呼吸も合わせづらい。痛い、足踏まれた。


 さては、ダンス素人の癖に練習してないな。


「肩の力……抜いてください」


「……え!?」


「リラックス、リラックス。私がリードしますから、それに身体を委ねてください」


 笑顔を向けて言えば、相手は「は、はいっ!」と顔を真っ赤にして言う通りにしてくれた。


 あ~、これで少しは楽になった。


 周囲を躍りながら確認すると、こちらに視線を向けている者が多い。


 しかし、踊らずに壁際にいる正装を着崩した赤毛の男の視線は、ずっと黒髪の有名人の男子に向いている。


 と思ったら、一瞬こっちと目が合ったけど、すぐにそらされた。気のせいか。


 他にも周りを観察しながら、人混みの多い地点に躍りながら自然に集まる。


 そして、曲の演奏が終る。


 これでペアが変わる。


「ありがとうございました。また、ご一緒に踊れたら良いですね」


 内心では2度とこいつとは踊らねぇと思いながらも、口元だけ笑みを浮かべて優雅にお辞儀をして次のペアを選ぶ。


 周りの男子は私と踊りたいようで、次々と近くの女に見向きもせずに近づいてくる。


 その中で、人混みの奥の方から強い視線を感じた。


 その視線は静かに強くなり、こちらに近づいてくる。


 肩ぐらいの長い黒髪をしている、黄金の仮面をした男子だ。


「綺麗なベージュの髪をしてらっしゃいますね。良ければ、ご一緒に踊ってくれませんか?」


「髪を褒めてくれて嬉しいです。もちろん、私からもお願いします」


 相手の手を取り、腰に手を回される。


「こんなに美しい女性と踊れるとなると、少し緊張します」


「まぁ、お上手。女性になら、誰にでも言っているんじゃありませんか?」


「そんなことはありませんよ。あなたの美しさに比べたら、他の女性は色あせてしまいます」


「そんなことを言われても、本当の名前を教えるわけにはいきませんよ?これはあくまでも試験ですので」


「わかっていますよ。レディーの秘密を聞き出すほど、無粋な男じゃありませんから。俺のコードネームはタナトスです、よろしく」


「どうも。私は―――」


「ああ、言わないで。コードネームから当てさせてください」


 演奏が始まると同時に、私たちはお互いに静かにステップを踏む。


 次の種目はクイックステップか。さっきはワルツだった。


 それにしても、コードネームから当てるなんて、この男はどういうつもりだ?


 ダンスの最中に耳元に顔を近づけられて発せられるささやき声で、その疑問は頭からすぐに吹き飛んだ。


「おまえの姉には本当にお世話になったよ……赤雪姫アイスクイーン?」


「……まさか、そっちから来るとは思わなかったぜ、ポーカーズっ……!!」


 獲物が釣れた。


 しかも、会いたくて仕方がなかった男だった。


「俺が誰なのか、当てられるかな?」


「……言っても良いのか?当てられた瞬間、自信が無くなるかもしれない」


「良いさ。その言い方から、粗方あらかた目星はついてるんだろ?椿涼華が、何の手がかりも残していないはずがない」


 そうだ。俺はずっと、何日も、姉さんの手帳を見返してきた。


 その者は、世界をゲームと捉えている。


 その者は、人の裏を読むことに長けている。


 その者は、他を引きつけるカリスマ性を持っている。


 その者は、自身の快楽のためならば平気で人を殺す。


 悪逆非道なポーカーズの長にして、王。


「会いたかったぜ。ずっと、おまえを捜していた……キングっ!!」


 本当のコードネームを呼べば、キングは口元に不適な笑みを浮かべ、頭を軽く振って右耳に着けているチェスの黒きキングのピアスが輝く。


「良いねぇ、その憎しみと怒りに満ちた瞳。仮面の奥からでもギラギラしてる。さぁ、この時を楽しもうじゃないか?復讐者くん」


「望むところだ」


 お互いに口元に笑みを浮かべ、周りを気にせずに俺たちは激しく踊り合う。


 クイックステップとは、軽快でスピーディな踊りである。


 しかし、俺とキングの踊りは周囲には追い付けない程の圧倒的な差を開いた見せ方をしている。


 周りのペアは俺たちに魅せられて動きが止まってしまい、ただじっとこちらを見ている。


「会いたかった?それは光栄だ。どうする?ここで俺を殺すか?」


「そうできないから、おまえはこの機会を利用して俺に接触したんだろ?」


「心外だな。誘い出したのはおまえだろ?俺はその誘いに乗っただけさ」


「誘ったんじゃない。これはただのけじめだ」


「女装して、昔の自分を装うのがか?」


「そうした方が、おまえたちは釣れるだろ?」


「ああ、放っておくことはできない」


「だから、過去の自分を利用した。……そして、赤雪姫アイスクイーンは今度こそ終わりだ」


「……どういう意味かは聞かないが、また面白いことになりそうだ」


 もうそろそろで曲は終わる。


 ここで、キングとは別れなければならなくなる。


 その前に、これだけは言っておく。


 姉さんの思いを乗せて。


「ああ、楽しみにしてろよ。おまえは必ず倒す。涼華姉さんの仇は、この俺が討つ」


「残念だな、それは無理だ。憎しみの刃じゃ、俺には届かない。それを後で証明してやろう」


「……後で?」


 演奏は終わり、お互いに息切れせずに仮面の向こうの瞳を見る。


 黄金の仮面の奥で輝いていたのは、紅の瞳だった。


 俺たちのダンスを見ていた他のペアも、教師も、称賛と歓喜の拍手をする。


 皮肉なことに、この男との踊りは驚くほどに身体に馴染んだ。


 まるで、長年ペアを組んだパートナーのように。


「この拍手を受けての感想はどうだ?復讐者くん」


「決まっているだろ……吐き気がするほどに気持ち悪い」


「俺は面白かったけどな。……それじゃ」


 ペアの交代の直前に、キングは呟き声でこう言った。


「この余興パーティーの終了後、地下街の広場に来るが良い。舞台を用意してやるよ」


「……望むところだ」


 獲物が食い付いたと、キングは思ったことだろう。


 それは俺も同じだ。


 こちらの目的は、期せずして達成された。


 そして、これから先はおまえの言う余興を楽しむさ。


 クラス同士の騙し合いをな。

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