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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
偽りだらけの舞踏会
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深夜の特訓

 円華side



 誰もが寝静まっている時間の深夜2時。


 丑三うしみつ時と言われるこの時間に、噴水公園に到着。


 俺は周りを確認してから、竹刀袋の中から白華を取り出す。


 睡眠時間を削ってでも、やらなきゃいけないことがある。


 夏休みに罪島に行った時、リンカーの襲撃を食い止めたあの日から、身体に力が溢れてくる。


 左目に意識を集中して瞳を紅に染める。


 白華を抜刀して右手で握り、ズボンのポケットから十徳ナイフを取り出しては手を傷つけて血を出してみる。


 血が手を伝って白華にまで流れれば、少し刃のイメージをしただけで右手の形状が変化する。


 血が急速に増幅して凍っていき、肘から下が白華と同化し、紅の氷刀になる。


 右手に力が集中する。


「試しに振ってみるか」


 軽く遠くに生えている木を目掛けて、氷刃ひょうじんを振るってみる。


 本当に、自分としては軽く振っただけだった。


 それが空気を狂わせて強風を生み出し、木を乱して数えられないくらい葉を散らしてしまう。


「・・・嘘!?」


 もろに驚いてしまい、ほぼ裸状態になってしまった木を凝視してしまう。


 いやいや……いやいやいやいや。


 ありえなくない?


 こんなに強化されてるなんて、普通想定しなくない?


 あぁ……やっぱり、使う前に確認しといて正解だった。


 もしも実戦でいきなり使おうとすれば、力の反動に耐えられなかったかもしれない。


「これは、しばらく温存だな」


 あのリンカーとの戦闘で感じた手応えは残っている。


 だけど、あれは衝動任せだった。


 冷静な状態でも、使いこなせなければならない。


 理想は精神世界で、狩原と戦った時の感じだ。


 氷刃に手のイメージを集中させると、少し大きな氷の籠手こてになる。


「俺の思った通りに形状を変えられる血の氷……か」


 これを自由に使うことができれば、戦闘面で強力な武器になる。


 現実ではまだ使ったことはねぇけど、人狼の鎧を使うことができれば良いんだけどな。


 ポーカーズ、リンカー、他にも戦わなければならない敵が居るかもしれない。


 茶会の盗聴で、俺に明確な敵意を向けている者は判別できた。


 Dクラスの木島江利、Bクラスの柘榴恭史郎と内海景虎、そして、Sクラスの鈴城紫苑。


 Cクラスの幸崎ウィルヘルムは……様子見と言ったところか。


 Fクラスの全体は柘榴の駒である以上、数では圧倒的にBクラスが有利。


 友好関係を築いているAクラスがどう動くか……。


 どこかのクラスに先手を打たれる前に、手を伸ばせる範囲は広げておくか。


「手を伸ばす……か。今、できるかな」


 全く別の所に思考が回り、右手の使い方の応用を思い出す。


 氷の右手と近くに在った電柱を交互に見て、イメージを固める。


 そして、電柱の上に向かって勢いよく手を伸ばした。


「届け!!」


 氷の籠手は伸びていき、電柱の上を掴むことに成功する。


「……万能過ぎて怖いんですけど?」


 苦笑いを浮かべながら籠手を戻し、手を開いたり閉じたりしてみる。


「伸縮自在なのか。融解度が関係しているのか?氷の温度調節も、無意識のうちにできるようになっているのかもしれないな。……それにしても」


 この氷の籠手には欠点がある。


 それを補うためにも特訓をしようと思ったわけだが、一体どうすれば良いのか思い浮かばない。


 ……いや、浮かぶは浮かぶけど、抽象的過ぎるし苦手なことなんだ。


 身体よりも、精神的な問題だ。


 頭が固いんだよなぁ、俺って。


 自分の凝り固まっている思考力に呆れて溜め息をついてしまう。


「溜め息をついたら、幸せが逃げちゃうよ?」


「何だよ、幸せって……今の俺に幸せとか考えている暇は――――え!?」


 自然な感じで話しかけられてそのまま応答してしまったが、この時間に誰かが居るのはおかしい。


 深夜だぞ?誰が起きてるんだよ。


 周りを見渡すと、ベンチに座っていた私服姿の恵美が軽く手を振って「おっす」と挨拶してきた。


「おまえ……こんな時間に何してんだよ?」


「夜の散歩。寝れなくて寝ている円華を苛めて遊ぼうかと思ったけど、部屋に居なかったから」


「寝れないって……何かあったのか?」


「別に円華に言う事じゃないよ。原因はただのストレスだから」


「また、麗音と喧嘩でもしたのか?」


「あんなのにストレスを感じるわけがない。人間としてのレベルは私の方が上だし」


 いや、いつも言い合いの時に頬膨らませてるだろ。じゃあ、あれは何?


 聴いてもまともな返答が返ってきそうにないため、「あっそーかよ」と素っ気なく返した。


 恵美は俺の右手を見ると、驚きもせずにただ凝視してくる。


「……なぁ、そんなに見られると気まずいんですけど?」


「あ、ごめん。ただ、具現化できるようになったんだと思って」


「まぁな。でも、使いこなせているわけじゃない。あの時の人狼の鎧は、まだ試せてねぇからな。だから、完全に使いこなすために特訓しようとしてる。スタートラインすら見えていない状況で」


「ふ~ん……じゃあさ、ちょっと気分転換しよう」


「……は?」


 露骨に半目を向けるが、恵美がベンチから立ち上がって近づいてくる。


 そして、微笑んで手を軽く前に出してきた。


「ダンスの練習、しようよ」


「すいません。唐突で言っている意味がわからないんですけど?」


「だから、特別試験に向けて、社交ダンスの練習しようって言ってるの。ほら、右手元に戻して、手を取って?」


 恵美は言い出したら、ほとんど聞かない性格をしている。


 ここは仕方なく、こっちが折れるしかないか。


 右手の氷の籠手に意識を集中すれば、形が白華の柄と右手に戻り、元になった血は地面にしたたり落ちる。


 籠手を解除すると、氷は元の血に戻るのか。


 柄を鞘に戻して竹刀袋に入れ、近くに置いておく。


「正直、社交ダンスの練習なんて必要ないんだけど」


「私が踊り方がわからないの。教えて?」


「曲も流れてないのにか?難しいことを言うよな」


「基本的なことだけで良いから。早くしようよ」


 やれやれと言いながらも手を取り、腰にもう片方の手を回して身体を引き寄せる。


 恵美は急に頬を紅くし、顔を逸らした。


「ち、近いっ……!!」


「しょうがないだろ。ダンスの姿勢はこんな感じなんだよ。文句言うなら、付き合わねぇぞ?」


「……文句言わない、から、このまま……やる」


「了解」


 それから俺は、ダンスのステップやターンなどの基礎の基礎を恵美に教えること40分。


 どうにか、素人が見れば形になっていると思うレベルにまでは近づけた。


 踊りながら、恵美が不意に呟く。


「多分、当日は円華と踊ることは無いんだよね」


「……そうだな。目的は他クラスの奴らの仮面の下を暴くこと。同じクラス同士で踊っているよりも、他クラスの男子と踊って、仕草やちょっとした会話の中から相手を探る方が重要だし」


「円華以外の男と踊ることになるんだ……」


「しょうがねぇだろ」


 落ち込んでいるのを軽く流し、深く考えないようにする。


 ぶっちゃけ、恵美が他の男と手を繋いで踊る所をイメージすると、少し複雑な気持ちになった。


 だけど、俺には特別試験での目的がある。


「まぁ、誰とダンスしたって変わんねぇよ。おまえはどうかわかんねぇけど、俺は誰が相手でも完璧に踊れる自信あるし」


 そう、誰でも関係はない。


 どちらのパターンでも、両方踊れるように中学の時にアメリカで練習した。


 それを今回の試験で生かす必要があるな。


「……ふ~ん」


 恵美の頬が急にプクッと膨らんだ。


 ……あれ?


「……怒る必要ある?」


「怒ってない」


「いや、怒ってるだろ?おまえ、怒ると頬が―――」


「怒っっってない!!!」


「……はい」


 その後も不機嫌な恵美と踊りの練習をし、朝を迎えた。


 結局、寝れなかったので、2人とも授業中に爆睡してしまったことは言うまでもない。 



 ーーーーー

 ???side



 キングさんが入室しました。

 エースさんが入室しました。

 クイーンさんが入室しました。


キング「遂にこの時期が来てしまったか。憂鬱ゆううつだな」


クイーン「仮面舞踏会は3学年合同ですからね。キングにとっては退屈の一言でしょう」


エース「キングはまた、傍観するおつもりですか?」


キング「どうしようか。面白いことが起きそうだったら、俺もちょっかいかけてみようか」


クイーン「例の私たちを追っている彼にですか?」


キング「まぁな。そろそろ、俺も遊びたい時期なんだ。ジャックを行動不能にし、ジョーカーの玩具を倒した男を、俺も間近で見てみたい」


エース「キングが奴に接触するのは危険ではないでしょうか?もしも、奴に気づかれた場合、憎悪をあおることになります」


クイーン「確かに、話を聞いた限りだとジャックは椿円華の怒りを買ったが故に敗北したとか。我々の正体が知られた瞬間に、彼が牙を剥くのは必然かと」


エース「奴はこともあろうに緋色の幻影を敵に回している。こっちが取るに足らないとみなしていたが故に、幹部の1人を失う始末だ。この際、すぐにでも椿円華を排除するのが妥当です」


キング「そうくなよ、エース。俺はこの状況を楽しんでるんだ。ただの暇つぶしの玩具かと思えば、あいつの器は俺たちと同等。しかも、あいつは組織の生み出した2つの薬の力も持っている」


クイーン「歴代でも、2つの能力を持っているのは珍しいケース。それが敵に回っているのが、何とも歯がゆいですが♪」


キング「そう、歯がゆい、厄介、だからこそ、楽しいのさ。椿涼華は退屈しのぎの玩具でしかなかったが、その弟が俺たちを脅かす存在になっている。あの女は死んでもなお、俺を楽しませてくれる。喰うか喰われるか、この弱肉強食の遊び場に相応しいじゃないか」


エース「キングは奴を高く評価しているようですが、あの道化師は奴をもえさとしか思っていないようです。ジョーカーが椿円華を潰そうとした場合、どのようにするおつもりで?」


キング「どうもしないさ。俺とジョーカーでは思考が違う。椿円華で楽しみたい俺と、奴を餌にして大物を潰したいジョーカー。使っている頭が違えば、思考なんて千差万別なのは当たり前だ。椿円華がジョーカーに潰されるのなら、それまでの玩具だったってだけさ」


クイーン「では、私が彼を倒すのも考慮していただけるのでしょうか?」


キング「止めはしない……が、ジャックの二の舞になるのだけは勘弁してくれ」


クイーン「ご心配なく。私が彼を倒すとは言っても、遠回しな意味ですので。直接手を下すのは、彼に恨みを持つ駒ですので」


キング「復讐者には復讐者というわけか。その駒は使えるのか?」


クイーン「ええ。私の助力もありますが、彼も個人的に椿円華を潰すために外堀を埋めているようです。あれならば、おそらく……。危惧すべき点はありますが」


エース「クイーン、おまえの出番はない。この俺が早いうちに、あの男を殺すからな」


キング「エースは頼もしいな。……それなら、俺が舞台を用意させてもらおうか」


クイーン「舞台を用意?キング、何をするおつもりですか?」


キング「これはエースと俺の話だ。おまえに話す必要があるのか?」


クイーン「い、いいえ!!出過ぎた真似を致しましたわ。それでは、失礼しま~す♪」


 クイーンさんが退室しました。


エース「俺はキングの命令に従うだけです。椿円華を殺せと言うならば、すぐにでも」


キング「だから、そう急ぐなって。俺が場面設定をしてやる。今回のパーティーを使ってな」


エース「?」


キング「椿円華が、この3学年合同の特別試験を利用しないはずがない。何かしら仕掛けてくるのは明らかだ。それを利用して、俺が奴を誘い出す」


エース「そう言うということは、キングは奴の策を見通しているということになりますが?」


キング「まぁな。粗方は予想がつく。仮面舞踏会という状況を利用するなら、手は限られているからな。万が一にも、椿円華がこの試験に参加しないとは考えられない」


エース「では、その仮面舞踏会の日が奴の……」


キング「最後になるかもしれないな。おまえの実力次第だがな、エース」


エース「必ず、キングにあだなす者を排除いたします」


キング「楽しみにしている。では、今日の会合もこれまでだ」


エース「承知。失礼いたします」


 エースさんが退室しました。


 画面の中の全てのコメントが消えた。


 クイーンは個人的に椿円華を潰そうとし、エースは椿円華を過小評価し、キングのために殺そうとしている。


 ジョーカーの目的は、大罪人である最上高太を殺すこと。


 面白みに欠ける展開だ。


 この先も、俺以外の『誰か』の計画通りに進むのでは面白くない。


 俺がさらに高みに上がるためには、さらなる混沌が必要だ。


 組織の頂点を蹴落とし、全てを支配するために。


「俺が全てを終わらせる……偽物ではなく、この俺が」


 パソコンを閉じ、右耳に着けている黒いキングのピアスを触る。


 そして、近くにあった円形の小型のクラッカーを手に取る。


 これは小型だが、人1人なら粉々に破裂させるほどの爆発を起こす。


「とりあえずは、心を折るところから始めるか。復讐者にとって、屈辱的な方法で」


 これは小型だが、人1人なら粉々に破裂させるほどの爆発を起こす。


「そこから先は、希望か絶望か。決めるのは、おまえ次第だ……復讐者くん」

ついにキングが動き出す。


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