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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
偽りだらけの舞踏会
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似通った思考

 円華side



 廊下を欠伸をしながら歩いていると、イヤホンから聞こえたある音が耳に入って思わず足が止まってしまった。


 周りを見るが、特にどこのクラスからも監視されている様子はない。


 恐らく、すべてのクラスが鈴城の招待を俺が受けると思っていたことだろう。


 行くかよ、時間の無駄だ。


 すぐにまた歩行を再開し、校舎を出て地下に向かおうとすると、エレベーターの前にEクラスのグループが居た。


 川並に入江、戸木とき


 クラスの中で、いつもつるんでる3人組だ。


 俺はあの麗音が起こした殺人事件から、クラスの奴らから針のむしろな扱いをされている。


 話ができるのは、恵美たちだけ。


 あいつらが居なかったら、居場所は無かっただろう。


 だけど、あいつらだけに絞るのは甘えな気がする。


 自分でいた種だから、自分で処理するしかないだろ。


 もう時間は経った。少しずつでも亀裂を埋める努力をする時期だ。


 3人に歩み寄り、警戒心を解いて声をかけてみる。


「よっす、3人とも。何の話してんだ?」


 いきなり後ろから声をかけられ、3人は肩を震わせてこっちを見れば、俺の顔を見て『椿!?』と驚きの反応を見せる。


「今、おまえ、俺たちに話しかけたのか?」


「まぁ……周りにおまえたちしか居ねぇしさ。クラスメイトに話しかけたらダメなのか?」


「いや、そうじゃなくてさ……。俺たち……その……」


 川並がどこか思い詰めたような顔をし、入江も戸木ときも俺と視線を合わせてくれない。


 そりゃそうか。クラスメイトと俺は、あの事件以来お互いに関わろうとしなかったんだから。


 俺の方は、復讐のことやいろいろなことで頭がいっぱいで、クラスの奴らに何の期待もしていなかったから関わらなくても良いと思っていた。


 クラスメイトたちは、あの一件以来俺のことを邪魔な存在だと思っていたのだから、関わりたくなかったのかもしれない。


 どちらかの意識が変わらない限り、歩み寄ることはない。


 それなら、自分から変わるしかない。


 そして、人の心を開かせるためには、まず敵対心が無いことを示すことだ。


 効果的な方法としては……。


 後ろめたい気持ちが顔に出ている3人に、できる限りの笑みを向ける。


「俺……さ、みんなが思うような奴じゃないんだ」


「……え?」


 責められるとでも思っていたのか、気の抜けたような顔をする入江。


 露骨に肩をすくめ、俺は大きな溜め息をつく。


「クラスから居ない者扱いされたり、避けられたり……正直、大分ショックだった。俺だって、今はただの高校生なんだぜ?」


「椿……」


 入江が同情と罪悪感を抱いた顔をする。


「友達が欲しいって言うわけじゃないけど……クラスメイトとして、少しぐらい仲間意識を持ってほしいとは思う。俺だって万能じゃない。みんなと力を合わせないと、できないこともある」


「た、例えば?」


「誰かと趣味について話すこともできないし、鬼ごっこだってできない。ゲームで対戦もできないし、人手がないと多数決だって勝てないだろ?1人でできることなんて、たかが知れている」


 まぁ、それに気づいたのもつい最近なんだけどな……。


 あれ?これ……何時、気づいたんだっけ。


 入江は頭の後ろをかき、俺と2人を交互に見る。


「何か……俺たち、椿のことを誤解してたのかも……な」


「お、おい、入江?」


「だってさ、川並。椿のおかげで、俺たち今生きてるようなものじゃん?ほら、この前の変な特別試験って、椿が攻略法を見つけたって話だしさ。椿が俺たちをめようとしてるなんて……まだ信じられないよ」


「……は?それ、何の話だよ?」


 聞き逃さずに聞き返すと、戸木が入江の襟を掴んで後ろに引っ張る。


「おまえ、それを本人の前で言うか、普通!?」


「だって、俺、どうしても……椿が悪い奴には見えないから!!」


 戸木を振り切り、入江は俺にスマホのある画面を見せてきた。


 川並も同じ気持ちなのか、止めようとする戸木の腕を掴む。


 スマホに映し出されるのは、一通のメール。


『椿円華は、自身の目的のためにクラスメイトを危険にさらそうとしている。彼の本性は――――凶悪な復讐鬼』


 これは……一体……。


「椿と最上がみんなと言い合いになった日の夜にさ、クラスの何人かにこのメールが一斉に送信されたんだ。どこの誰から送られたのかはわからないけど、これが原因で椿はクラスの中でグレーな存在になったんだ」


「……マジかよ」


 俺の目的を知っているのは、学園側と恵美たちだけだった。


 緋色の幻影が、俺を孤立させるために取った手法がこれだったのか。


 恐怖の象徴である本人に確認を取るわけにもいかず、それならば避けるしかない。


 もしもの時に数を利用する戦法を、前もって潰されていたのか。


 ポーカーズか、それとも麗音か?


 どちらにしろ、俺とクラスの亀裂を生んだ原因が他にもあることがわかった。


 だけど、俺はこれを否定できるのか。


「復讐鬼……か」


 小声で呟くと、川並は不審な目を向ける。


「これ……本当なのか?おまえは、自分の復讐のために俺たちを危険に巻き込もうとしているのかよ?」


「……ここで俺が違うって言ったところで、信じてもらえる可能性は低いよな。だから、どっちを信じるかはみんなに任せる。けど、1つだけ確かに言えることがある」


 3人の目を真っ直ぐに1人1人見て、深呼吸をして言う。


「俺がみんなを危険に巻き込もうなんて、思うわけあるかよ」


 言葉では何とでも言えるのはわかっている。


 クラスからの信頼も無いだろうし。


 しかし、入江は俺に笑顔を向け、川並は肩に手を置いてくれた。


「そうか。じゃあ、俺はおまえを信じるぜ」


「俺も、椿のことを信じるよ」


「川並……入江……」


 戸木はまだ疑いの目を向けるが、今は鳴りを潜める。


 そして、エレベーターが到着してドアが開く。


「ほら、エレベーター来たし、ゲーセン行こうぜ」


「あ、そうだな。椿、一緒に行くか?」


「いや、今日は良い。また今度誘ってくれ。……必ず行くから」


 地下までは一緒に降り、そこで川並たちと別れる。


 戸木の疑いが晴れていないのに、下手に近づきすぎると余計に怪しまれるからな。


 それにしても、昨日の教室でのあの視線の正体がやっとわかった。


 回りくどくも遠回しに俺の動きを封じてくる。


 前の俺だったら、それで苦しめられていたかもしれない。


 1人で何でもしようとし、孤独を選んでいただろう。


 それでも、今の俺は違う。


 助けを求められる者たちが居る。


 俺はみんなを助け、みんなも俺を支えてくれる。


 もう、1人じゃない。


 みんなを助けるため、そして復讐のためなら何だて利用するさ。


 思い出したくもない自分の『過去』すらも……な。


 イヤホンに意識を集中すると、そこから聞こえてくる声に冷や汗が流れた。


「……やっぱり、バレたか。面倒なことになったなぁ」


 イヤホンから流れてくる声に集中していると、ふと最近であった奇妙な女のことを思い出した。


 ……まさか、な。



 ーーーーー

 瑠璃side



 鈴城さんの出したもう1人の生徒の名前に聞き覚えがあった。


 夏休みにウォーター王国で会った緑髪の不思議な雰囲気をした男子生徒。


 梅原改の名前を聞いて、恵美は目を見開いて言葉が出なくなっている。


 梅原くんの存在が、何か彼女に影響を与えているのは間違いない。


 質問をした本人を差し置いて、柘榴くんが面白がるような顔をして幸崎くんを見る。


「おいおい、似非貴族えせきぞく。Cクラスからはおまえ以外にも選ばれていたみたいだぜ?誰だよ?『国を治める長のみが参加するのは当然だ』って言った野郎は。それとも、自分の威厳いげんを守るために、わざと出ないように命令したんじゃないのか?」


「ふむ……ミスタースカーレッドは何か勘違いをしているようだねぇ。非常にどうでも良いことに、私はその梅原改という庶民のことを知らないのだよ。前にミスター椿にも言ったが、私が覚えるべきは見目麗しいガールやレディであって、ボーイの名前を覚える気にはなれないからねぇ」


「だが、おまえの所に鈴城が認める有力者が居たという事実が重要だ。今はおまえがクラスを取り仕切っているかもしれないが、いつかその梅原って野郎がおまえの椅子を奪うとも限らねぇ。危うい……実に危ういねぇ」


 柘榴くんの言い回しを物ともしないことをアピールするように、幸崎くんは制服のポケットから手鏡を取り出して自身の顔を見る。


「ふむ、やはり、私の顔は美しい。この美しい貴族である私が、名も知らぬ庶民に負けるビジョンは全く見えない。常に私が唯一無二のナンバー1なのだから」


「説得力が皆無ですね。あなたは半端なCクラスですよ?ナンバー1を自称するのであれば、そこに居る柘榴くん、和泉さん、そして最後に鈴城さんを倒して、Sクラスに君臨する必要があるのではないでしょうか?」


 木島さんの挑発を受け、柘榴くんは次に彼女を凝視する。


「おまえ、そんな悠長なことを言っている余裕はねぇだろ?おまえの魂胆こんたんは丸見えだ。そこの似非貴族を俺たちにぶつけている間にEクラスを潰すことで、疲弊ひへいしているCクラスに攻撃をしかける。違うか?」


「ノーコメントで。私の考えはともかく、坂橋くんがどう動くのかはわかりませんので」


 坂橋くんは傍観者を気取ろうとしていたようだけど、彼女に名前を出されて話に参加せざるを得なくなった。


「俺?俺は俺の動きたいように動くさ。気分によってEクラスを足止めするか、Cクラスを追うかを決める。まぁ、俺と木島は一枚岩じゃないってことだけは伝えておこうかな」


 笑顔を作って言うけど、これは同じクラスの木島さんに対する敵意を表していることにも繋がる。


 1学期はお互いに敵対するつもりは無かったけれど、2学期になってどちらがクラスの上に立つのかをはっきりさせようとしているのがうかがえる。


 和泉さんは周りの探り合いを見ては両手で頬杖をつき、柘榴くんを見つめる。


「柘榴くんはどうなの?1学期は私たちとも幸崎くんとも衝突しようとしなかったけど、2学期には昇級することを狙ってるんじゃないのかな?」


「はっ、くだらねぇ。おまえも似非貴族も、潰そうと思えばすぐにでも潰せるんだぜ?俺の気まぐれで生かしてやっていることに感謝してほしいくらいだ。おまえらで遊んでやるのは、二の次だ。今の俺にとって重要なことは、クラス同士のぬるい茶番劇じゃねぇ」


 1度言葉を区切り、柘榴くんは私と恵美に不適な笑みを向ける。


「おまえたちEクラスを痛めつけることさ」


「あなたがその気なら、私たちも受けて立つわ」


 真っ直ぐに彼を見て返せば、面白いとでも言うようにクフフッと笑ってきた。


 恵美も何も言わないけれど、柘榴くんに鋭い眼光を向けている。


 そして、私たちの言い合いを静観していた鈴城さんは、椅子の肘掛けに右肘を置いて体重をかけて深い溜め息をついた。


「やはり……退屈だな、おまえたち」


 侮辱とも挑発ともとれるその言葉によって、場の空気は一瞬で重くなった。


 その中で、最初に反応したのは和泉さんだった。


「それって、どういう意味かな?鈴城さん」


「ああ、悪い。悪意は全くないんだ。ただの今日の茶会の感想と取ってくれ。おまえたちには、何の変化もないんだなと思っただけだ」


「それは聞き捨てなりませんね。私たちは日々、自己を高めるために努力しています。何も変化がないということは、ありえません」


「江利、それは自己評価だ。自己評価よりも、他者評価。断言しよう、おまえたちでは私を満足させることはできない」


 1人1人を見渡し、女帝の目は最後に恵美を捉える。


「この中でまだ希望があるとすれば、おまえくらいか?小娘」


「残念だけど、私はあんたと勝負する気は全くない」


 みんなの視線が一瞬だけ、恵美に集中する。


 それは当然のこと。


 自分たちよりも下位に居るEクラスの女子が、女帝に少しでも実力を認められた。恵美よりも実力が劣ると見られたのだから。


 だけど、次の鈴城さんの一言が、この場に居る全員の敵意を買う。


「いっそ椿円華と戦う方が、幾分いくぶんか面白そうだ」


 その場に居た者の円華くんへの感情が先行した。


 友情、敵意、憎悪、興味、好意、プライド。


 それぞれの感情が、彼に手を出すことを許さないという強い意志を示していた。


「おい、鈴城。調子に乗るんじゃねぇぞ?椿を潰すのは、この俺だ」


「ミスタースカーレッドの出る幕はないだろうねぇ。ミスター椿は、私の退屈しのぎに調度良いボーイなのだ。私の邪魔をするのなら、ボーイでもガールでも容赦しないよ?」


「みなさん、血の気が多いですね。しかし、安心なさってください。彼は私が相手をするので」


「椿くんは人気者だね。でも、私は幸崎くんも賛成かな。雨水もそうだよね?」


 和泉さんに振られ、雨水くんはバツの悪そうな顔で「ま、まぁ…はい」と目を逸らして答える。


 私もここで前に出ないと、彼の協力者を名乗れない。


「私の仲間に手を出そうとするのなら、クラスの総力を挙げてでも、あなたと戦うわ。鈴城さんっ…!!」


 恵美は周りの声を目を閉じて聞いていて、目を開けると周囲を一望する。


「さっきの話題に戻そうか。私から円華がどう映ってるか、だっけ?」


 恵美の目に宿るのは静かに輝く光。それを隠すつもりもなく、周囲に伝える。


「口は悪いし、面倒臭がり屋だし、意外とはっきりしない所は多いし、ろくなことを考えないし、デリカシーはないし……。それでも、あんたじゃ今の円華には勝てないよ。いろんな意味で、円華は強いからね」


 それは、恵美から鈴城さんへの明らかなる侮辱。


 それを女帝は余裕の表情で受け止める。


「そうか……。それは勝負するのが楽しみだ。これは、椿円華を誰が先に破滅させるかの競争になりそうだな」


 やっと楽しみができたというように薄く笑みを浮かべ、鈴城さんはティーカップに注がれている紅茶を飲み干す。


 気づいたら、いつの間にか綾川さんが彼女の後ろに立っていた。


 いつの間に……。


「では、ここらが落とし所だろう。みんな、今日は集まってくれたことに感謝しよう。そして、訂正する。やはり、多少は変化があったようだな。それが見れただけでも満足だ。……では、解散」


 息苦しかった茶会が終わり、すぐに中庭を出ていく者がほとんどだった。


 その中で最後に出ようとした私と恵美に、鈴城さんが歩み寄る。


「瑠璃と小娘……椿円華への情報提供、ご苦労だったな」


「……何の話かしら?」


「隠すな。ここにはもう、私とおまえたちしか居ない。……気づいていないとでも思ったか?ここでの話が盗聴されていることはわかっていた」


「盗聴?何を証拠にそんなことを言っているの?」


 恵美が聞くと、鈴城さんは自身のスマホを取り出した。


「さっき電話した理由は、確かに紅茶の代えが欲しかったからというのもあるが、確かめたかったのだ。市販の盗聴器が使われている場所で電話をすれば、微弱なノイズが流れてくる。それが決定的な証拠となる」


 迂闊うかつだった。


 私は昨日、円華くんから彼が参加しない意思を示され、盗聴器を持って行ってほしいと頼まれた。


 だけど、それでもおかしい。


 ここに現れるのは各クラスの主力ばかり。


 その中で盗聴なんて選択肢を取るとは、普通は思わない。


 盗聴を予想しても、スマホを通話状態にしていると思うはず。


 それなのに、どうして盗聴器を使っていると言い当てることができたのか。


 私の疑問を見透かしたのか、鈴城さんは腕を組んで話を始める。


「スマホで盗聴、あるいは録音することも可能だろう。しかし、もしもスマホをテーブルの上に出せと言われたら?何も工作はできなくなる。若者の多くが持ち、かつ電子的な工作に重宝するのはスマホのアプリだ。それを危惧するのは当然だろう。それなら、スマホで工作していると疑わせ、他の物で音声情報を得ることを思いつくのが必然だ」


 彼女の説明を聞いて、2つの意味で驚きを感じてしまう。


 盗聴を見透かされていたことはもちろん、彼と私の落ち度。これはボイスレコーダーを使っても良かったと思う。


 私が驚いたのは、鈴城さんの言い回し。


 昨日の円華くんからの作戦の説明の仕方と似ている。


 思考が彼と似通っている。


 私と恵美が絶句したのに満足したのか、鈴城さんはここに居ない男に向かって言葉を発してから、綾川さんと一緒に中庭を出て行った。


「私から逃げられるとは思わないことだな。期待しているぞ、椿円華」

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