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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
偽りだらけの舞踏会
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花園館

 円華side



 自分の部屋で今回の特別試験について整理していた時のこと。


 インターホンが鳴り、また恵美か誰かだと思って警戒せずにドアを開けると、目の前に居たのは初対面の黒髪セミロングの女子だった。


 一目見て抱いた印象は、『長袖のY-シャツを着ていて暑くないのか』だ。


「椿円華様でよろしいでしょうか?」


「そうだけど、あんたは?」


 素っ気なく聞き返せば、彼女はスカートの裾をまみ上げてお辞儀をする。


綾川木葉あやかわ このはと申します。Sクラスに属しており、紫苑様の付き人をさせていただいている者です」


「紫苑……様?」


 つい最近、その名前を聞いたような気がする。


 若干記憶に残っているけど、すぐに思い出せそうにない。


 綾川は鞄から1つの薔薇柄ばらがらの封筒を取り出しては両手で俺に向けてきた。


「お受け取りください。紫苑様の茶会への招待状です」


 丁寧語で言ってくるが、拒否を認めない気迫が伝わってくる。


 しかし、これに行くメリットが果たしてあるのだろうか。


「参加しなかったらどうなる?悪いけど、こっちにはこっちの都合があるんだ。そっちの暇潰しに付き合っている時間はない」


「紫苑様は1年でも有力な方々と交流を持ちたいと言っておられました。招待されたのは、あなただけではありません。他のクラスの招待客、ご紹介しましょうか?」


 ご紹介と言っても、有力と言ったら候補は限られてくる。


 聞かなくても、大方は予想通りのメンバーだろう。


 それでも、確認しなければならないことはある。


「今わかっているCクラスと俺以外のEクラスの参加者を聞かせてくれ。それによって、行くかどうかを決める」


「承知しました。Cクラスからは幸崎ウィルヘルム様、Eクラスからは成瀬瑠璃様が招待されました」


「Cクラスは幸崎だけか?」


「はい、幸崎様だけです」


 梅原は招待されていないのか。


 有力者と見なされていないと判断するべきか、それとも……。


 考えすぎかもしれないな。


 とりあえず、綾川から封筒を受け取る。


「中身、見ても良いか?」


「どうぞ」


 許可を得てから、中に入っている紙を取り出して目を通す。


 会場は、Sクラスのみが入ることを許された花園館。


 時間は明日の午後4時。


「随分と急なんだな」 


「申し訳ございません」


 全然謝意のこもってない、業務的な謝罪だ。


 裏を返せば、おまえたちの都合なんて知るかってことか?


「ご参加いただけますでしょうか?」


「今すぐに答えを出すことはできない。明日、どうするかを決める」


「紫苑様は、あなたととてもお会いしたく思っておられます。何卒なにとぞ、ご参加されますように」


「約束はできない」


「……承知しました。そのむね、確かにお伝えいたします。それでは……」


 小暮の目付きが静かに変わった。


 それがわかった時には、俺は反射で見えない速度で突き出された平手突きを掴んで頭を横に傾けていた。


 シャツの袖からは、仕込みナイフが出ていた。


 攻撃が止められたにも関わらず、小暮は無表情を崩さない。


「流石ですね。何度も死の危機を乗り越えてきた戦士の条件反射でしょうか?」


「初対面の相手を警戒しないほど、平和な世界では生きていないんだよ。一瞬でも敵意を向けた、あんたの落ち度だ」


「それは残念です。あなたに嫉妬していたのかもしれませんね」


「嫉妬……?」


「こちらの話です。それでは、御機嫌よう」


 再度優雅なお辞儀をし、そのまま何事も無かったかのように行ってしまった。


 何故追撃しなかったのかと言うと、真央の居るSクラスと事を構えたくなかったからだ。


 ただでさえ上のDクラスやBクラスと敵対関係ができてしまったというのに、これ以上の敵は極力増やしたくない。


 特にSクラスに目を付けられるのはごめんだ。


 再度封筒を見ると、たまらず溜め息が出てしまった。


「茶会……か。あいつが参加しないのなら、出るメリットは……ないわけじゃないよな」


 ただ参加するだけでは意味がない。


 鈴城紫苑がどういう女かを知るためには、少し工夫する必要があるな。


 スマホをポケットから取り出すと、レスタが画面の端から出てきた。


『鈴城紫苑さんが戻ってきたんですね。ちょっと今後が危ぶまれます』


「ん?レスタはその鈴城って女を知ってるのか?」


『はい。実力者がそろっているSクラスの中でも、彼女に逆らえる人はそうは居ません。それほどまでに強力な相手なんです』


「恐怖政治でも敷いてるとか?」


『そういう感じではないみたいですよ?かといって、Aクラスのように信頼で構築されたクラスでもないようです。でも、信頼とか恐怖が無くても、Sクラスの皆さんは鈴城さんに従うんです』


「……不可解だな」


 記憶泥棒の一件から、柘榴は恐れを利用してBとFを仕切っているのはわかった。


 和泉はあの人当たりの良さと実力から、クラスの信頼を勝ち取ったのだろう。


 うちの成瀬や麗音も、少しずつではあるがクラスの信頼を得ているはずだ。


 俺が何かしろと言っても、それは恐怖で動くかもしれないけど。


 『恐怖』と『信頼』以外で人を動かすとなると、並みの人間では困難な手段を使ったのだろう。


 それを見極めるためにも、鈴城の能力を分析する必要があるな。


 問題は直接確認するか、間接的に確認するか。


 直接となると、柘榴や他の要らない奴らの注意まで向けることになってしまう。


 目的はあくまでも、鈴城1人。


 そして、俺への関心を失せさせる。


 おそらく、知らなくても良い情報をSクラスの誰かから聞いたのだろう。


 今までのこちらの動きを知られれば、警戒されるのは当たり前だ。


 自分よりも下だと思わせれば、警戒心も無くなるだろう。


 そうなると、初手としては間接的な方が良いかもしれないな。


 これ以上、要らない注目を浴びている余裕もない。


 明日まで時間もないし、早めに動くか。


「レスタ、成瀬に電話を繋いでくれ」


『もしかして、デートのお誘いですか?』


「違う。ただの業務連絡だ」


『そうですか、それなら了解しました!』


 レスタは敬礼し、明日のもう1人の招待客に繋いでくれた。



 ーーーーー

 瑠璃side



 茶会当日の放課後。


 やるべきことを終わらせて教室を出ようとすると、基樹くんが隣を歩いて来た。


「本当に1人で行く気?俺も付き添いで行っても良いんだぜ?」


「不要よ。あなたが一緒に来たら怪しまれるわ。あなたに変な注意が向けられたら、円華くんに迷惑をかけることになるでしょ?」


「基準は円華っすか……」


「当然よ。あなたのことはどうでも良いもの」


「きっついねぇ」


 両手を頭の後ろに回して苦笑いする基樹くんの表情は、誰もがそれを本当の気持ちだと思うもの。


 でも、私には演技に見えて仕方がない。


 誰にでも陽気で、常に笑顔を向ける狩野基樹。


 椿円華の影として、主のために動く冷徹な仮面の男『シャドー』。


「一体、どれが本当のあなたなのかしら…」


「ん?何か言った?」


「別に何でもないわ。私の意思は変わらない。あなたを連れていくつもりはないから」


 突き放すように行って早足で離れようとすると、後ろから「じゃあ、私が行く」と言う声が聞こえてきたので振りかえる。


「恵美…どうして、あなたが?」


「成瀬1人だと心配。私だったら、警戒を向けられても問題ないよ」


「……確かに、元Sクラスのあなたが居てくれるなら、鈴城さんの注意も自然とあなたに向くかもしれない。そしたら、それだけ私は周りを観察できる。良いわ、一緒に行きましょう」


「おいおい、俺は無しで恵美ちゃんは有りかよ」


 基樹くんの不満には反応せずに恵美と教室を出て、そのまま花園館に向かう。


 初めて入る場所にして、才王学園の中でも認められた者しか入れない聖域。


 まさか、私がこの場所に足を踏み入れる日がくるなんて思いもしなかった。


 閉ざされている両開きの門の前に立ち尽くしていると、恵美が平然と押し開けてしまう。


「こんなところで緊張している時間はないでしょ?さっさと入ろうよ」


「そうね、その通りね」


 館内に入ると、様々な花の香りが呼吸するたびに嗅覚を刺激する。


 中でも、薔薇ばらの香りが強い。


 招待状に会場の詳しい場所は示されていない所から、自分で探すしかない。


 そう思った次の瞬間、遠くから「おーい、成瀬さーん!」と私を呼ぶ明るい声が聞こえてきては、こちらに2人の男女が近づいてくる。


「こんにちは、成瀬さん。やっぱり、あなたも招待されてたんだね」


「その言い方からして、あなたも茶会のために花園館に来たようね。雨水くんは……和泉さんの付き添いかしら?」


「当然だ。鈴城紫苑は何を考えているのかがわからない女だからな。俺が側でお嬢様を守らなければならない」


「私は別に良いって言ったんだけど、どうしても一緒に行くって言うから…」


 苦笑を浮かべる和泉さんに同情しつつ、「私も似たようなものよ」と言って2人の視線を恵美へと促す。


「最上さんも、成瀬さんの付き添いなの?」


「……別に答える義理はない。あんたがそう思いたいなら、それで良いんじゃない?」


「そ、そうだね。ごめんね?変なことを聞いて。いきなり、馴れ馴れしかったかな」


 恵美は和泉さんに素っ気なく当たる。


 普通なら別のクラスだから警戒を解いていないという可能性も考えられるけど、彼女の場合は分かりやすいくらいに原因ははっきりしている。


 夏休み期間中に円華くんと和泉さんがデートをしていたことを、まだ根に持っているのだろう。


 そう思っていたのだけれど、和泉さんが謝ると恵美は動揺した顔で首を横に振る。


「そんな、謝られることじゃ……ない。その……私、いつも……ほとんど話したことがない人には……こう言う態度……とっちゃうから。別に……馴れ馴れしいとかは、思ってないから」


 少し頬を赤く染めて恥ずかしそうに言う恵美に対して、彼女の心境が大分改善されていることを理解した。


 私の観察力もまだまだね。


 雨水くんも、和泉さんに素っ気なく接したかと思えば普通に言葉を交わす恵美に、少し驚いているのが表情から読み取れる。


 和泉さんはそんな恵美の両手を取って、裏表のない明るい笑みを浮かべる。


「良かった!私、最上さんとは椿くんと一緒で仲良くなりたいなって想ってたんだ!これからも、よろしくね!」


「へ、へぇ……円華と……一緒……ねぇ」


 恵美の少し引きつった顔から、彼女と和泉さんの距離が若干開いたのを察した。



 ーーーーー



 花園館の中を回っていると、前で話している恵美と和泉さんの後ろで、私と雨水くんはお互いに周りを警戒している。


 そして、雨水くんが2人に聞こえないように声をかけてきた。


「成瀬瑠璃」


「何かしら?」


「今回、鈴城紫苑が開く茶会を、おまえはどう見る?」


「さぁ、私からは何とも。確かなことは、ただの楽しい交流会では終わらないってことだけよ。必ず、複数のクラスが何かしら仕掛けてくるはず」


「その意見には同意する。そう言う意味では、先手を打ったのはSクラスだな」


「ええ。準備期間を与えずに、参加するか否かを決めさせる。参加する人数が多ければ、それだけ鈴城さんが他のクラスへの影響力があることを認めさせる形になるし、断れば彼女に恐れを成して逃げたという噂が独り歩きする」


「二者択一を迫られた場合、前者の方がダメージは少なく、逆に策によっては鈴城や他のクラスに対する防衛線を張ることができる。だから、おまえも参加したのではないか?」


「私はそうよ。けれど、世の中には後者の方を選ぶ変わり者も居るわ」


 言われて気がかりだったのか、雨水くんは今さらの質問をしてくる。


「椿円華は来ていないのか?」


「周囲を見ての通りよ。私たちとは時間差で来るわけでも、1人で来るわけでもない。彼はボイコットしたみたいね」


「……やはり、俺には奴の思考が理解できない。一体、あいつは何がしたいんだ」


「さぁね。私は円華くんじゃないから、返答に困るわ」


 円華くんの根本的な目的は知っている。


 今回も、最終的にはそれに繋がっているはず。


 問題は、私と恵美でどれだけ引き出すことができ、隠しきることができるのか。


 中庭に到着すると、円上の薔薇の園の中心に1つの大きなテーブルが置いてあり、その回りには薔薇ばらの花言葉には似つかわしくない殺伐とした雰囲気が立ち込めていた。


 Dクラス 坂橋彰、木島江利


 Cクラス 幸崎ウィルヘルム


 Bクラス 柘榴恭次郎、内海景虎


 そして、上座に座って腕と脚を組んでいるSクラスの女帝、鈴城紫苑。


「遅かったな……要、そして瑠璃。時間ではないが、もうおまえたち以外は全員集まっている」


「……そのようね。お久しぶり、鈴城さん」


 テーブルの上に置いてあるティーカップに口をつけると、鈴城さんは不服と言う表情をして時計を見る。


「4時を回ったな。どうやら、今回の欠席者は2()()のようだ。……つまらない」

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