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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
束の間の休息
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繋がり

 円華side



「その後、お父さんと健人さんは2人の赤ちゃんを連れて罪島に戻ったんだ。そして、2人はお母さんと他の大人たちに大切に育てられた。本当に、島のみんなが実の子どものように思っていた。そのお父さんが助けたサンプルベビーって言うのが……」


「俺とアラタ……なんだな」


「うん…」


 サンプルベビー。


 緋色の幻影の実験によって、『希望の血』と『絶望の涙』を身体の中に投与された赤ん坊。


 だから、俺は2つの薬の能力を使えたのか……。


 これで、罪島の人たちが俺に言っていた言葉の意味がわかった。


 あの人たちが、赤ん坊の時の俺を知っていたからだ。


 それでも、まだ重要なことがわからない。


「俺とアラタ……梅原は、どうして桜田家の関係者に預けられることになったんだ?」


「それは、私も詳しいことは聞かされていない。何か過去の罪島に危険なことが起きて、円華たちをかくまうことができなくなったらしい……。だけど、その危機に誰が関わっていたのかは、最近わかったような気がする」


「罪島に危機って……高太さんは居たんだろ?あの人を追い詰めるほどの敵なんて居るのかよ?」


「私の知る限りでは1人だけ、その時代でお父さんと対等に渡り合えた人が居た。だけど……」


 恵美は言うべきかどうか戸惑っているように見える。


 目を合わせようとせず、自信の無さが伝わる。


「これが現実で起きたことなのかどうか、私にはわからない。だけど、そういう記憶があるってことは、私も聞いたことがないことが過去の罪島で起きたということになる。でも……」


「どんなことでも良い。それが事実でもそうでなくても、俺にとっては重要な何かかもしれないから。話してくれないか?」


 催促するわけではなく、ただ頼むだけ。


 焦っているわけじゃない。


 今は焦ってもしょうがないし、今は時間がかかっても事実を事実のまま受け入れることが大切だ。


 恵美は深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、躊躇ためらいも戸惑いも捨てて話してくれた。


「狩原浩紀は1度、緋色の幻影の刺客として罪島に襲撃に来ている。その結果、何かがわかって円華たちを罪島から離れさせた。その何かは、私にもわからない」


「狩原……か。やっぱり、あの男が出てくるんだな」


 わかっていたことだけど、俺の過去には高太さんと狩原が関わらざるを得ないんだ。


 でも、それよりも確かになった事実がある。


 俺は本当に桜田家の人間じゃなくて、名前も顔も知らない緋色の幻影の人間から生まれた実験体。


 ただ緋色の幻影のために働く奴隷として生み出された。


 本当は生きている価値がない子ども、それが俺なんだ。


 俯いて頭を片手で押さえ、怒りが込み上げてくる。


 絶望に飲まれそうになる。


「ばっっっからしいよな。何も知らずに緋色の幻影のことを敵視していたけど、多分、高太さんと師匠が助けてくれなかったら、俺も奴らと同じになっていたんだぜ?笑えてくるよ、最悪だ!!……俺の身体の中には、人間を人間とも思わない奴らの血が流れてる!!」


 実験のために生み出された?組織と運命を共にする運命?


 生まれた時から、運命を決められていた操り人形も同然だ。


 一体、何人の最低な大人たちの手の平で踊らされてるのか、考えただけでも嫌になる。


 恵美はただ黙って俺のことを見ていたが、首の後ろに両腕を回して抱きしめてくる。


 あまりの心境に抵抗も驚くこともできず、ただ恵美の胸の中に頭を預けていた。


「今は頭が混乱しているかもしれない。だけど、ちゃんと考えてみて。円華は今、緋色の幻影の駒じゃない。ちゃんとここに居る、椿円華なんだよ?だから、自分のことを悪く思わないで。円華が自分を否定するってことは、赤ちゃんの頃の円華を助けてくれた私のお父さんや、育ててくれたお母さんたち、そして、今まであなたのことを支えてくれた人たちのことを否定することになるんだよ」


「……」


「涼華さんや椿家の家族、健人さんに奏奈さん、成瀬や住良木、狩野とか久実、それに私やお父さんだって、円華に生きてほしいって思ってる。円華は必要とされてる。だから……自分を哀れまないで」


 恵美の言葉が、空っぽになっていた心を満たしていく。


 少しずつだけど、正気に戻りかけてくる。


「……俺……に……生きている意味……あるのか……?」


「あるよ。それは今までの円華が自分で証明している。私は何度もあなたに助けられたよ?円華が居なかったら、今ここに最上恵美は存在しない」


 自分の意思ではなかった。


 だけど、両腕が動いて胸に顔を埋めたまま恵美を抱きしめていた。


「……化け物呼ばわりされて、気持ち悪がられて、恐がられて……うとまれて生きてきた。だから、誰かから必要とされたかった、生きていて良いという証が欲しかった。そのためだったら、何でもした。強くなるために戦い方を身に付けた。姉さんに偉いって褒められたくて、勉強も頑張った。人を殺す方法を教わって、言われるがままに人を殺したこともある。人から必要とされたくて、そのために多くの人を殺してきた。今思えば……道に外れたことをしていたんだ」


 その結果が、血にまみれた最強の暗殺者『隻眼の赤雪姫アイスクイーン』。


 敵味方に関わらず恐れられ、そして尊ばれていた存在。


 必要とされたくて足掻あがいた末の、怪物オレの通り名だった。


「うん……必死だったんだね。辛かったんだね。わかるよなんて言えないけど、伝わってくる。私、認めてるよ。円華が頑張ってきたことが、無駄だったなんて思わない。その中で正しかったこと、間違ったこと、その全ての経験が今の円華を作ってる。あなたを助けてる。それがあったから、救われた人も居る。全部、繋がってる。円華が欲しがっていた繋がりは、もうできてるんだよ」


 顔を上げて恵美の顔を見ると、優しい微笑みを向けてくれた。


 そして、俺の両頬に手を添え、恵美はそっと唇を重ねてくる。


 温かくて柔らかい感触が、口を通して伝わってくる。


 しばらくの間、時が止まったかのような錯覚があったけど、恵美が離れるとすぐに現実に引き戻された。


「ちょっと元気になった?」


「……知るかよ」


 照れ隠しで素っ気なく返すと、恵美は笑顔で「そっか」と言った。


 結局、本当の名前はわからないし、桜田家に送られた原因は漠然としかわからなかった。


 それでも、自分がどういう人間なのかは分かった。心のもやは大分晴れた。


 あの頭の中に響いた声に対する違和感は残るけど……。


 あれが本当の母親の声なのだとしたら、組織の人間のはずなんだ。


 どうして、あんなに優しさと愛情みたいなものを感じたんだろうって。


 いろいろな謎は残っていて、それはいずれ解決しなきゃいけないと思っている。


 でも、今はもう1度、椿円華として生きていく覚悟ができた。


 あれ?そう言えば……。


「あのさ……結局、俺の円華って名前は一体誰が付けたんだ?」


 本当の名前じゃないにしても、名付け親は気になる。


 一体、誰が俺にこんな女っぽい名前を付けたんだ。


「えーっと……確か、お父さんだったかな……アラタも、お父さんが付けたはずだし」


「高太さんかよ……今度会ったら、一言文句言ってやる」


「それは……うん、好きにしなよ。止めないから」


 若干だけど、恵美が呆れているのが伝わった。


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