過去からの繋がり
クラス対抗人狼ゲームは1日目から2日経過し、人狼の麗音が何時襲っているのかは知らないが、2人が能力点を奪われて寮に謹慎になった。
未だに麗音が人狼だと言うことを疑われることはなく、目に見えない人狼の恐怖に震えているクラスメイトたち。
俺も麗音からいろいろなことを疑われており、精神的に疲れている。
爪を立てられて、あの人狼から引っかかれないようにするので精いっぱいだ。
1人で教室に入れば、クラスの女子がある1人の男の周りに集まっているのが見えた。
生徒会役員のイケメン、石上真央だ。
どうしてSクラスの彼が来ているのかが気になりながら自分の席に着くと、こちらを見て俺の存在に気づいて真央が女子を宥めて近づいてきた。
「おはようございます、椿さん。お待ちしていました。少し、お時間よろしいですか?」
「えっ…俺に?別に良いが、何の用だ?」
「すいません、ここでは話しにくい内容ですので…」
「わかった、なら屋上に行くか?今なら誰も居ないだろうからさ」
「そうですね、行きましょうか」
終始笑顔を絶やさずに言う真央と、対照的に、朝から気だるげな表情をしている俺は屋上に向かった。
「それで、今は人狼ゲームの期間中だろ?ほかのクラスの俺と居るよりも、自分のクラスの人狼を捜した方が良いんじゃないか?」
「その件は、僕の優秀なクラスメイトが目を光らせていますよ。今回は、あなたとは敵同士ではありますが、塩を送るのも悪くはないと思いましてね」
「…随分と余裕だな?」
「はい。けど…僕は絶対に勝てる勝負をしていても詰まらないじゃないですか?ほら、ゲームでもレベル99でするイージーモードって、初めはサクサク進んで良いと思いますが、中盤に来る時には、何の爽快感もなくて退屈になるでしょ?」
「悪いが俺はゲームをしたことはないんだ。まぁ、そう言う感覚はよくわからないが、塩をくれるなら受け取っておくに越したことはないな」
「そうですよねー。…っと、言いますが、これは僕からの塩というよりは、生徒会長からの伝言なんですがね?」
「生徒会長?」
真央は白のY-シャツからスマホを取り出して俺に見せてきた。
黒い画面に、赤い字でこうメッセージが書かれていた。
ーーー
私が考えた人狼ゲームは楽しんでくれてるかしら?
懐かしいわね、あなたが私に初めて負けたゲームをモチーフにしたのよ。
今のあなたなら、相手が私じゃないんだから楽しませてくれるわよね?
信頼しているわよ♡
byブラックチェリー
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このメッセージを見て、思わず真央のスマホを地面に叩きつけようとしてしまいそうになるほどの憤りに耐えた。
真央にスマホを返せば、俺は近くにあった壁を、拳を握り、勢いよく殴った。
痛みで怒りは大分消えたが、血が出ている俺の手を見て、真央は痛々しげな表情をした。
「大丈夫ですか?いきなり壁を殴るなんて、びっくりしますよ。…もしかして、会長と面識がおありで?」
「…ああ、最低最悪の女だ。深く語るつもりはない。…今の俺は機嫌がすこぶる悪い。あの女に関することを聞こうとしてるなら、今すぐに突き落とそうとするからやめておけ」
「その方が良さそうですね。今は深入りしませんよ」
そして、真央は俺の肩に手を置けば「確かに、塩は渡しましたよ?…ここからは、早い者勝ちの競争ですね」と言って、先に屋上を下りて行った。
真央を見送れば、俺は朝礼のチャイムが鳴るも、壁に背を預けて座ってしまい、動けなくなってしまった。
「姉さん…これも、試練なのか…?」
この世にはいない姉さんに、小さな声で問いかけてしまう。
しかし、当然ながら、それに誰も答えてはくれない。
そんな状態のまま10分くらい経つと、俺は頭を後ろの壁に勢いよくぶつけ、衝撃で頭を覚醒させる。
やめろ…俺は何のために復讐すると誓ったんだ?…あの女ぐらい、越えて見せろ!!
両足に力を入れて立ち上がって教室に戻ろうとすれば、そこに両手を白衣のポケットに入れているサングラスをかけた担任が屋上に上がってきた。
「お?ここに居たのか、椿。転入してから一週間経たずに朝礼をサボるとは、中々の身分だな」
「…すいませんね。少しアクシデントが起きまして」
「あっそーかい」
「…聞かないんですか?」
「興味がないからな。どんな理由が在ろうと、おまえが朝礼に居なかったと言う事実は変わらん」
「はぁ…ですよねぇ。1時間目には出ますよ…失礼します」
屋上を出ようとすれば、岸野先生に「ちょっち待った」と言われて足が止まる。
振り返れば、早速タバコを吸っている先生がこちらを見ていた。
「おまえ…自分が書いた転入の際の志望動機、覚えてるか?」
「当たり前です。あの時は、転入だけでどうして志望動機なんて書かなきゃいけないんだって思いましたけど、正直に自分の思いを書き殴りましたよ」
「ふぅ…復讐なんてしても、死んだ姉貴は帰ってこねぇぞ?」
「帰ってくるなんて期待していると思いますか?子ども扱いしないでくださいよ」
「俺に言わせれば、おまえは青いガキだよ」
「青リンゴだって、腐らなければ赤いリンゴになるんですから、いつまでも子どもと思われるのは心外です」
「おまえの場合は、青いリンゴに赤い絵の具を塗り、熟したリンゴのように見せようとしているだけに見えるな」
煙草を口にくわえ、煙を吸っては天井を見上げて吐き出した。
「ぷふぅ…おまえはまだ、青リンゴのままで良いんだよ。死んだ人間のために復讐なんてしたって意味はない。死んだ人間が望むのは、残った者の幸せだって言うだろ?」
何をわかったようなことを言ってるんだ、この柄の悪い化学の教師は。知ったような口を聞くな。
っと言いたかったが、それは飲み込んだ。流石に、面と向かって担任に刃向う『力』を、俺はまだ身に付けてはいない。
生死を分ける状況を体験しているだけあって、俺はその者が自分にとって危険かどうかを見極める特技がある。
このヘビースモーカーの男は身の周りから、只者ではない、敵に回してはいけないと言う空気が伝わってくるのだ。
だからこそ聞きたい。
この人から一般論ではなく、この人自身の言葉を。
「先生、進路相談のために、1つだけ質問をしても良いですか?」
「何だ?授業があと2分で始まるから、手短にな」
「俺の姉さんは、この世界に存在する、少し大きな理不尽に殺されました。そして、その殺しも自殺だと処理されました。姉さんが死んだと言った男の顔は覚えてませんが、先生と同じでサングラスをしたあの男は、真実を隠して嘘をつくことに耐えているような表情をしていました」
「いきなり、過去の話か?すまんが、俺は他人の身の上話に興味はないぞ?」
煙草を床に捨て、踏んで火を消しながら先生は言った。
「その男を、俺は殴りました。どれだけ殴っても、その男は俺に抵抗しようとしませんでした。今思えば、俺から殴られることで、何かに許されたいと思っていたのかもしれませんね」
「……なぁ、その俺が親近感を覚えそうな男のことで、ちょっと聞いても良いか?」
「何ですか?」
「その男、殴られながら泣いてなかったか?」
言われて思い出してみるも、相手が涙を流していたのかまではわからない。
それほどまでに、あの時は怒りに飲まれていたから。
「あの日は冷たい雨が降っていたので、よくわかんないです。…けど、俺の目からも、その男のサングラスの下からも、温かい何かが流れていたんじゃないですかね。錯覚かもしれませんけど」
岸野先生は背中を見せて、短く「そうか」と言った。
そして、俺も先生に背中を向けて深呼吸をした。
「じゃあ、ここからが本題です。過去の女のためにする復讐は罪だと思いますか?誰かのためにする復讐は、虚しいと思いますか?」
「虚しいねぇ…。そんなのは、女を口実にした自己満足だ」
先生の声色が低くなり、真剣なものに変わる。
「それに過去に囚われた復讐なんて、残るのは虚無感だけだ。空いた穴が塞がるわけじゃない。それに、誰かのためにする復讐なんて言ってはいるが、死んだ人間に踊らされているだけなんだよ。死人の操り人形にだな」
死人の操り人形か、否定できねぇな。
では、この問いにはどう答えるんだろうか。
「なら、自分が望み、自分が幸せになるためにする復讐は、どうですか?虚しいですか?」
「…どうだろうねぇ…」
溜め息をついて、自身の頭を粗くかく岸野先生。
そして、シェルターの空を見ながらこういった。
「その場合は人を殺さなければ、ギリギリ大丈夫なんじゃないか?そう言う復讐者なら、悪くはないさ。ちゃんと、自分の未来を見据えている」
「肯定…するんですか?」
「否定はしないってだけだ。だが、過去に囚われている奴よりは、幾分かはマシだと思うぞ?」
「そうっすか……どうも」
素っ気なく礼を言えば、岸野先生はフッと笑って「珍しく先生っぽくしたような気がするな」と言い、俺の頭にポンっと手を置く。
「おまえに興味が湧いてきた。俺からも1つ質問だ、答えてくれるか?」
「俺に答えられる範囲なら」
先生はサングラス越しに目を合わせ、眼を光らせる。
「おまえは、何のために復讐をするんだ?」
その質問に対し、俺は少し真剣な表情をし、姿勢を直して小さく笑んだ。
「俺が自分の足で立つため。これは、俺が前に進むための復讐なんだ」
「…っふ、そうかそうか。じゃあ…がんばれよ、復讐者」
そう言って、岸野先生は、俺に背中を向けまま小さく手を振って屋上を下りて行った。
その時にチラッと屋上のドア横を見ていたような気がする。
気になって俺も降りる際にドア横を見ると、そこにはクラス委員で優等生のはずの麗音が隠れるようにして立って居た。
「何してんの?」
「そ、そのぉ…椿くんを呼びに行こうとしたんだけど、先生と話してるのを邪魔しちゃいけないと思って…」
「そうか、白い猫女にも、人に気を使う頭は在ったのか」
「ちょ、ちょっと、その言い方は酷くない!?」
「うるさい、さっさと教室に戻るぞ?人猫」
「変な呼び名を付けないでよ!!」
ギャーギャーうるさい麗音の騒音も、今は気にならない程に心は落ち着いている。
そう言えば、こいつには一応伝えておくか。
「なぁ、麗音」
「な、何?」
少しニヤリと笑い、目の前に居る人狼を見てこう言った。
「おまえを犠牲にしなくても、この規格外な人狼ゲームに勝てる方法、見えてきた」




