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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
束の間の休息
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出来損ない

 恵美side



 平和的解決。


 そう口にした柘榴恭次郎は不敵に笑い、次は誰が刃向かってくるのかと言った目をしている。


 雨水を投げさせたのは、私たちに取り巻きの1人である平の身体能力を見せつけて脅威と感じさせると同時に、私たちに対する挑発も意味していると思う。


 文句があるならかかってこい、全部捻り潰してやる……と。


 私は住良木の背後に回り、小声で話しかける。


「住良木、少しの間だけ私を隠して」


「……どうするの?」


「柘榴恭次郎の『声』を聞く。何が目的なのか、真意を確かめる」


「了解。任せる」


 住良木がさりげなく一歩前に出て私を隠してくれた。


 首にかけているヘッドフォンを片方だけ右耳に当て、柘榴の心の声に意識を集中する。


 ……大丈夫、ちゃんと聴こえる。


 聴こえてくるのは、ドス黒い憎しみの声。


 憎しみを向ける相手と、その相手の大切なものを全て壊したいという異常な欲求。


 そして、その憎悪の対象は……。


「……どうして、円華なの?」


 柘榴は円華に対して憎しみの感情を持っている。そして、深い復讐心に繋がっている。


 でも、それは円華に対するものと言うよりは、彼は柘榴の目的のための通過点みたいなものという認識なのが伝わってくる。


 円華はただの1人に過ぎない。


 あの男の深い憎悪は、彼を含めた大きな集団。


 その憎しみの理由については、触れて過去を視なければわからない。


 それでも、1つだけ確かに言えることがある。


 この、円華と関わりがある者の全てを潰そうとしているこの思考。


「間違いない。私たちに対する行為はとばっちり以外の何でもない」


 ヘッドフォンを外したら、馬鹿らしくて脱力感が半端ない。


 何だ、ただのとばっちりか。なんとも迷惑極まりない。


 こういうのって、国で表したら敵国と友好関係結んでいる国全てを潰そうとするという何とも面倒臭いスタイルだよね。


 最終的に世界中から集中攻撃されるパターンの奴。


 RPGのテンプレ魔王系キャラですな。


 痛い、こういう痛いキャラって本当に存在するんだねぇ……。


 取り巻きを観察してみよう。


 さっきの身体能力が異常すぎる平と、ギャルっぽい見た目をしている肌が黒い軽そうな女、絵に描いたような猫背の不良男、そしてガリ勉っぽい眼鏡男。


 何だろう?取り巻きのこの……どこかで見たことがあってもおかしくないようなお決まり感。


 テンプレがテンプレを呼んでいるというか……テンプレのバーゲンセールか!!


 珍しく心の中でツッコんでいると、時間としては3分も経っていないけど、一触即発しそうな雰囲気を感じる。


 成瀬と和泉、柘榴の会話になっていない会話に耳を傾けてみよう。


「この状況で手っ取り早くできる平和的解決の仕方を教えてあげるわ。あなたたちが私たちの目の前から1秒でも早く消えることよ」


「仲良くしてくれよ。Bクラスだけを除け者にするのは悲しすぎるぜ」


「それなら、仲良くしているFクラスのみなさんとご一緒したらどうかしら?あなたの望む通りに遊んでくれるんじゃないかしら」


「あいつらで遊ぶのはもう飽きてんだ。そろそろ、他の遊び相手が欲しいんだよ。おまえや和泉のような奴が面白そうで狙ってるんだけどなぁ」


「ごめんねぇ~。私も柘榴くんとは仲良くしたいんだけど、周りの子とか雨水が警戒が強くてさぁ~」


 ちなみに、さっき投げ飛ばされた雨水は狩野と久実がすぐにプールから回収しました。一応、生きてます。


 平行線の話は続き、痺れを切らせて柘榴が成瀬の腕を掴んだ。


「良いから、俺の暇つぶしに付き合えよ」


「離しなさいよ、強引な男は好かれないわよ?」


「好かれたいなんて思わねぇなぁ。女が欲しくなったら、俺の色に染めてやる方が面白ぇ。何だったら、おまえよりも……」


 柘榴は成瀬から離れ、何を思ったか住良木を押しのけて私に近づいてきた。


「最上恵美……おまえみたいに何考えてるかわからねぇ女が好みだなぁ」


「……げっ」


 まさかの不意打ちエンカウント!?


 いやぁ……面倒で一言も言葉を交わしたくない。


 だけど、コマンドで『逃げる』を選択できそうにない。


 男に迫られるなんて、耐性ないんだけど。


 円華にそういう迫られ方されたことないし。


 ……って、ここで円華は関係ないじゃん。


 何をどうすれば良いのかわからずに無言を貫き通していると、柘榴が馴れ馴れしく、強引に肩に腕を回してきた。


「何だぁ?もしかして、男に慣れてないのか、おまえ?てっきり、椿とヤることはやってると思ったんだけどなぁ」


 ……あっ、ダメだ……キレた。


「……っさいな」


「あぁ?今、何つった?」


「うるさいなって言ったんだけど、聞こえなかった?もしかして、耳の病気?あ~、そういうことか。あんたって人の話を聞かない人なんじゃなくて、耳が壊れてるから聞けない人だったんだね。それなら不便だね、同情するよ。その使えない耳、切り落としたらどう?」


 殺意を込めてそう毒づいてやれば、柘榴の顔が悪い笑みになる。


「……クフフフっ、良いねぇ。俺に対してそんな口をきいてくるとか、本当に笑わせてくれるぜ、Eクラスの女って奴は。増々……無理矢理にでも……あいつから奪いたくなるっ……!!」


 顎を上げられ、柘榴に顔を近づけられる。


 えっ……ちょっと……ありえないんですけど!?


「ちょっと、あなた、それは―――――」


「やばいやばいやばい、絶対にあいつキレるって―――――」


 成瀬と狩原が柘榴を止めようとした瞬間。


 その前に、柘榴の背後に誰にも気づかれずに立っていた男が彼の肩を掴んで私から離した。


「止めなよ。……その子、嫌がってるのが表情からわからない?」


「てめぇ……誰だ?」


 その男は緑髪長い前髪をコンコルドで挟んでおり、体格は中性的だった。


 特出して何か秀でているものがあるようには見えない。


 柘榴は彼に対して何かをするでもなく、ただじっと見ている。


 緑髪の男は私を庇うように立ち、柘榴に邪気を一切感じない笑顔を向ける。


 それに対して、柘榴は薄ら笑いをする。


「何を笑ってやがる?」


「君の笑顔を真似しただけさ。他意は全くないよ」


「見たことが無い面だな」


「ごめんね、俺も君のことを見たことないや。1年?どこのクラスかな?」


 何だろう、この光景。


 さわやかな笑みをしている人が、何の敵対心も警戒心も向けずに柘榴と言葉を交わしている。


 それが信じられない。


「それについては、俺がおまえに最初に聞いたはずなんだがなぁ?」


「あ~、そうだったね?ごめんごめん。それなら、俺から自己紹介するよ。梅原改うめはら あらた、1年でCクラスです。よろしくね」


 その名前が聞こえた途端、私は頭が真っ白になった。


「嘘……」


 梅原改……。


 改……。


 ア……ラ……タ?


 何で?


 どうして?


 アラタなら……本当に、目の前に居る人が私が捜していたアラタなら……。


「っ……!!」


 頭が急に痛くなり、両手で押さえてうずくまる。


 周りに友達が集まって、心配して声をかけてくるけど何を言っているのかがわからない。


 急に脳内で映像が流れてくる。


 ーーーーー


 映るのは、お父さんとお母さん。


 お父さんは悲しそうな顔をしていて、お母さんは取り乱していた。


『ちょっと待ってよ、高太……あの子を別の人に預けるってどういうこと!?』

『優理花……すまない。狩原の襲撃でわかったんだ。奴らの狙いはーーーだった。復活した組織からーーーを守るためには、そうするしかない。この島に居たら、また緋色の幻影に狙われることになる』

『そんなっ……!!そんなのって……!!』

『ごめん……俺だって、本当はそんなことはしたくない。全ては……俺が重ねた罪のせいだ』


 ーーーーー


 知らない映像が流れ込んでくる。


 わからない、重要な名前だけが聞こえない。


 誰の話をしているの?


 わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない、わからない。


 激しい頭痛のせいで、意識が保てなくなる。


 私の中で、何かが崩れていく。


 そして、そのまま……目の前が真っ暗になった。



 ーーーーー

 円華side



 こんなことは何度もあった。


 自分の存在について疑問を覚えるのは日常茶飯事だ。


 だから、『すぐに立ち直れる』『時間が経てば、いつもの調子に戻れる』ってずっと言い聞かせる。


「いつもの調子って……俺、いつもどうしてたっけな」


 トイレで顔を洗って頭をいて、自暴自棄にならないように耐える。


 鏡を見ると、染めていた黒髪の中に茶色い髪の毛がまばらに出ているのが確認できた。


 この茶髪は誰からの遺伝なんだろうか。


 瞳の色は?目とか鼻、口、耳の形は?性格は?


「変だなぁ……今まで以上におかしくなってるよ、俺」


 自分で自分に呆れてしまい、深呼吸すれば感情がリセットできた。


 大丈夫だ。今の俺は冷静だ。ちょっと取り乱しただけだし……今更、こんな答えのでないことで悩んでどうすんだよ。


 鏡で目の腫れが治まっているのを確認し、みんなの居るプールに戻る。


 今の精神状態でどんな顔をしていれば平静だとアピールできるか考えながら恵美たちを捜していると、すれ違った男子2人の呟きが耳に入る。


「なぁ、Eクラスの女が突然倒れたらしいぜ?」


「ああ、見た見た。あのいつもヘッドフォン着けてる銀髪の女だろ?目立つから嫌でも覚えるって。近くにBクラスの柘榴とかCクラスの梅原も居たって話だろ?何か揉めてみたいだけど」


 反射で俺の左手が、男子の片方の肩を掴んでいた。


「おい……その話、知っていることを詳しく聞かせてくれるか?」


 話を聞き終えると、すぐにウォーター王国内の応急処置室に向かって走った。


 成瀬たちの所にBクラスのグループが近づいたこと、柘榴が恵美に強引に迫ろうとしたのを梅原が助けたこと、そして、恵美は急に苦しみだして気絶し、成瀬や和泉たちが付き添いながら梅原が抱きかかえて運んだことや、Bクラスの奴らは拍子抜けしたようにその場を去ったことを聞いた。


 柘榴のことはこの際どうでも良い。


 問題は恵美と梅原が接触してしまったことだ。


 恵美が梅原のことを認知してしまったことだ。


「どうして、今日はこんなに最悪なことが続くんだよっ…!!」


 応急処置室に到着すれば、すぐにベッドに横になっている恵美が視界に入る。どうでも良いが、隣のベッドではずぶ濡れの雨水が寝ていた。


 そして、成瀬たちが俺に焦った表情で近寄ってきた。


「円華くん、ごめんなさい!私たちが付いていながら、こんなことになるなんて……」


「私が悪いんだよ、威圧的な柘榴くんを止められなかったから」


 成瀬や和泉の言葉には反応せず、背中を窓に預けている、緑で長い前髪をコンコルドで挟んでいる男に近づいて無言で右肩を掴んだ。本当だったら首を絞めてやりたかったが、運んでくれたのはこいつだと言うことで自分を抑えた。


 梅原は平静の表情で見ては、ニコッと笑いかける。


「この手……何かな?俺、君の気に障るようなことをした?」


「………悪い。おまえは……恵美を助けてくれたんだもんな。……感謝はされても、怒りをぶつけられる理由ねぇよな。本当に悪い、すまなかった。……ありがとな」


「どういたしまして。大事にならなくて何よりだったよ」


 俯きながら小さな声で謝罪してから礼を言い、恵美の顔を見てから応急処置室を後にしようとする。


「ちょっと、円華っち、どこに行くの!?」


「……恵美のこと、頼むわ。俺にできることは……もう、何もないから」


 その場を後にしようとすれば、その前に梅原が声をかけてくる。


「本当に良いのかな?見ず知らずの俺なんかよりも、君が居てくれた方が彼女も目が覚めた時に安心すると思うよ?」


 笑顔でそう言ってくる梅原に、表には出さないが怒りが込み上げてくる。


 わかっていて言っているのか、それとも何もわからずに言っているのか、それはあの何も読み取れない笑みからは伝わらない。


 それでも、梅原の言葉は神経を逆撫でする。


 だけど、俺にこいつに怒りを向ける資格はないんだ。


「恵美を助けたのは梅原だろ。現場に居なかった俺には、ここに居る資格もない。後のことは……おまえに任せる」


 そう言い残し、応急処置室を出てしばらく歩いていると、後ろから麗音が追いかけてきた。


「椿くん……ねぇ、椿くんってば!!」


 うっせぇな。無視だ、無視。今はおまえの猫かぶりに付き合ってるほど、心の余裕はねぇんだよ。


「聞こえてるでしょ?何で無視するの?一体何があったの!?」


 黙ってろよ。頼むから、1人にしてくれよ。


「あぁ……もう……いい加減にしなさいよ、椿円華!!」


 手を掴まれ、苛立って後ろを向いて睨みつけようとすると、麗音は既に怒りの形相だった。


「……何があったのか、あたしにも話せないの?」


「話したところでどうにもなんねぇよ」


「じゃあ、こっちの状況把握のために話してよ。さっきの梅原って人に対する態度は何?凄く怒ってるように見えたんだけど?」


「……そうなることは覚悟していたつもりだったけど、いざ実現してしまうとどうして良いかわからなくて、どうしようもなくて……何もできなくなっていた。バカみたいな話だろ」


 覇気を感じない目で自嘲じみた笑み浮かべ、そんなことを口走ってしまった。


 麗音は心配するような表情をして俺を見てくる。


 同情する気かよ、うざってぇ。


「Cクラスの梅原改って、何者なの?」


「わからねぇ。だけど、恵美がずっと捜していた男……らしい。前にあいつが寝言で『アラタ』って言っていた。そして、この前、梅原も恵美を……そして、俺のことを知っているような言動をしていた。あいつに必要なのは俺じゃない。あの梅原改なんだ」


 麗音は首を横に振り、今の言葉を否定する。


「そんなことないよ!!だって、最上さんは円華くんのことをっ……!!」


 何かを言いかけていたみたいだが、その前に言葉が詰まった。言うことを躊躇ためらっているように見える。


「恵美は……何?俺のことを必要としてるって?なら、それは俺の能力だ。ポーカーズに対する復讐心だ。俺自身のことなんて、どうも思ってるわけないだろ?自分のことが何もわからない……出来損ないの俺なんかのことをさ」


 その時の俺は絶望を絵に描いたような表情をしていたに違いない。


 麗音は目を見開いて、何て声をかければ良いかわからずに動揺しているように見える。


 彼女の手を振り払おうとするが、強く握られていて離れない。


「……離してくれないか?」


「離さない」


 麗音は俯いたまま言う。


「頼むから、1人にしてくれ」


「今のあんたを1人にしたら、どうなるかはあたしでも予想がつく。自暴自棄になって、本当に見なきゃいけないことが見えなくなる。そして、壊れていくに決まってる。そんな状態の円華くんを、放っておけるわけないでしょ!?」


 顔を上げて真剣な目で言ってくる麗音に、視線を逸らしてしまう。


「……鬱陶うっとうしい」


「そう言われても、一緒に居る」


「はぁ……何でだよ?俺にとってもそうなように、おまえにとっても俺は利用する対象でしかないはずだ!!過干渉してくるなよ!!」


「そうやって、人の心を勝手に決めつけてるんじゃないわよ!!」


「っ……!?」


 麗音は俺を壁に押し付けて視線を合わせる。


「どうして、何もかも自己完結で決めつけようとするの!?人の心は、証拠とか論理じゃ説明がつかないものなんだよ!?それがどうしてわかんないのよ、この分からず屋!!」


 そう言って、麗音は額を俺の胸に当てる。


「側に居させてよ……今だけでも隣に居させてよ。壊れていく円華くんなんて見たくないんだよ」


「麗音……」


 本当なら、ここで普通の恋愛小説とか漫画なら、主人公は目の前に居る女を抱きしめているのだろう。


 それが意中の相手だろうと、そうでなかろうと関係なく。


 でも、俺はそうできなかった。そうしようとは思えなかった。


 頭の中にずっと、恵美との思い出ばかりが浮かんでいたから。


 もう俺が取り戻すことができない、もう隣には居られない、白銀の髪をした女のことしか考えられなかったんだ。

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