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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
束の間の休息
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女を敵に回すなかれ

 円華side



 一般に、男と言う生き物は女に貪欲な生き物であり、性に目覚めると女子の体型を意識して観察してしまう。


 それは自身の子孫を残す上で適切なめすを見つけるためとも言われているが、思春期の男子にしてみればただただ珍しい、可愛い女子を観察しているだけのようだ。


 特に、身体のラインが出やすい体操服や水着の女子を見ると、男子という生き物は下心を隠そうとしながら観察を始めているものだ。


 つまり、言いたくはないが海やプールで水着の女を見ている男の大抵はエロい目を向けていると言えるのではないだろうか。


 まぁ、例外として俺みたいに性欲が皆無な人間も存在することも忘れてはいけないがな。


「円華よ~、こんなに水着女子が居る中で本を読んでるってどういう心理?」


「どういうって言われても、態度で示した通り。半裸に近い女子を見ても何も感じない、以上」


「スクール水着よりも出てる面積が広い女子だっているぜ~?」


 基樹は覗きの常套手段じょうとうしゅだんである双眼鏡で遠くの女子を見ながら俺と話している。


 これを黙認している俺はと言うと、ビーチパラソルの影で愛読書であるシェイクスピアのテンペストに目を落とす。


 流石に復讐劇の教科書とも思っているハムレットでも、内容を暗記していて500回も読み直していると飽きる。


 ビーチサイドは人通りが多く、下手な話はできそうにない。


 それに近くには部外者の雨水が居て、タオルとかココナッツジュースを持って立っている。


 絶対に自分用じゃなくて和泉のために用意したものだな。


 基樹が双眼鏡を手に持ったまま俺に近づいてくれば、小さく低い声を出して呟く。


「クラスの競争からリタイアするって話だけど、具体的にどうやってすんだ?2学期の特別試験か何かでわざと完敗するつもり?」


「いろいろ考えてはいるけど、何もせずにフェードアウトするには目立ち過ぎた。俺に敵対する奴らが人質としてクラスメイトを使ってきた以上、今後もその手を使って行動を制限してくる可能性もある。俺がクラスメイトを守る理由がないことをアピールするためには、手っ取り早く俺1人に標的を絞らせた方が良い」


「その『いろいろ』の中でも、今の最良の方法は?」


「……初心に返ることかな。転入当初に考えていた最初の作戦を俺自身で実行する。手っ取り早く、なおかつ俺から人を避けられる最善の方法だと思う」


「うわぁ~お。でも、それって諸刃もろはじゃね?」


「今までの人生で、リスクを背負わずに何かを成しとげられた例は残念ながら皆無だ」


「周りから避けられる、最悪の場合で拒絶されるかもしれないけど……やるのか?また孤独になるかもしれないんだぞ?」


「それは今更だ。この学園に来てからの今までが、俺には恵まれていたんだよ。……前もって言っておく。成瀬たちのこと、頼んだぞ」


 基樹は頷きも首を横に振ることもなく、静かに目を閉じた。


 それが受諾じゅだくの意味なのかどうかは、今の俺には判断がつかなかった。


 この会話の3分後。


 遂にと言うか、やっと女子グループが合流した。


 麗音たちがビキニ姿で来た中で、1人だけパーカーを着ていてヘッドフォンをしている奴が目立つ。


「お待たせ、暑い中でごめんね?」


「謝罪の意思があるなら、冷たいジュースでもおごってくれますかね?」


 緑の迷彩柄の水着を着ている麗音が胸の谷間を強調するように前のめりになって言ってきても、視線を逸らして皮肉を言うことで無反応を装う。


 性への関心はなくとも、目のやり場に困るのは確かなんだよな。


 麗音、ピンクの水着の久実、黒い水着の成瀬、そして、花柄の白い水着の和泉。


 今……本当に下心なしで今気づいたことだが、うちのグループの女子って巨乳が多いんだなぁ……1人美乳が居るけど。


 女子を一定時間で交互に見て考察していると、横から左頬をつねりながら引っ張られた。


「変態。日に日に度合いが増してるね」


「……そうだった、こいつの前で変なことを考えている時点で墓穴掘ってることになるんだった」


 つねられた状態で横目を向けると、銀髪ヘッドフォン女の見た目にさっきから抱いていた疑問を問いかける。


「おまえ、なんでプールでパーカー着てるんだよ。……多分、下に水着を着てると思うけど」


「無暗に人前で肌をさらしたくない」


「それ、プールに来る意味ないんじゃねぇの?」


「うるさい、ほっといて」


 最近、恵美からの当たりがきついです。


 何度目かの実感かはわからないが、初期の頃に戻っているのではないだろうか。


 そう思うときもたまにあるのだが……。


 頭をかいて溜め息をついていると、恵美はどこか恥ずかしそうに頬を染めて上目遣いをしてくる。


「その……円華は、見たい?私の……水着」


 こういうことを言ってくる時があるから、どっちなのかわからない。


「見たいかどうかって言われたら……第3の選択肢としてどっちでも良い。俺は誰かに何かを強制することが嫌いだ」


「……ふ~ん」


 納得したのかはわからないが、恵美は自分の意志でパーカーを脱いで水色のビキニを露わにした。


 その表情が不機嫌なのが気になるが。


「怒ってんのか?」


「怒ってないよ」


「いや、その仏頂面からして怒ってるだろ」


「怒っっってないから!!」


「……はい」


 まずい、これは話題を逸らした方が良いかもしれない。


 そうだ、こういう時は見た目を褒めよう。そうすれば、機嫌が直るかもしれない。


「い、いやー、それにしても、恵美も含めてうちの女子は全員水着のセンスが良いなー。いやー、本当に可愛いー」


「棒読みじゃなくても気持ち悪い」


 バッサリ斬られた。ちょっと傷ついた。


 よ、よし、ここはさらに話を逸らそう。


「そう言えば、女子の水着でビキニが選ばれる理由の1つに意外な見解があることを知ってるか?」


「……意外?」


「実はビキニみたいにツーピースの水着だと、身体の線や体型をあまり目立たせないんだそうだ。つまり、極端に太ってない限り、誰でも――――」


「それって、遠回しに私たちが太ってるって言ってるのかしら?」


 今の雑学を聞かれたのか、恵美だけでなく成瀬たちからも怒り交じりの冷たい目線を向けられ、いつもは温和な和泉すらも頬を膨らませて怒ってることをアピールしてくる。


 うっすらと殺気も感じるんですけど。


 基樹と雨水に助けを求めようとしても、目を合わせてくれない。


「円華っち、弁解があるなら聞こうじゃないか?」


 久実が拳を握って見下ろしてきて、背後に炎の幻覚が見える。


 やっべぇ、女子全員を敵に回してしまった。


「アハハハっ……いやー、本当にみんな可愛いなー……なんっつって」


 次の瞬間、久実の強烈なボディーブローが水下みぞおちにクリーンヒットした。



 ーーーーー

 基樹side



 円華は倒れて施設内の休憩室に運ばれ、女子たちはプールを満喫中まんきつちゅう


 俺はと言うと、ビーチサイドで女子たちがキャッキャしている所を見ながら双眼鏡を使って周りを観察中。


 すると、目の前を男の腹筋で隠される。


「おい、貴様のそのレンズの向こうにお嬢様を向けたが最後、その目を使い物にできなくするから覚悟しろ」


「怖いねぇ~、生憎あいにくと俺は水着女子は水着女子でも、お姉さま方にしか興味がないでぇ~っす」


 双眼鏡を外して笑顔を向ければ、雨水は目を細める。


「貴様のその完璧なまでの弱者を装った笑みを見ると嫌悪感を覚えるな。前から聞こうと思ていたが、おまえは一体何者だ?」


 やっぱりか、流石にこの前のあれはやり過ぎたかな。


 接触は避けてるつもりだったけど、まさか人が多いこんな所で聞いてくるとは思わなかった。


「何者って言われてもなぁ……ただの異常な高校生。それだけっすよ」


「確かに貴様は異常だ。だが、世界にはその異常さを隠さない者も居る。それこそ、おまえの近くに居る椿円華がそうだろう。……貴様の目に、あの男はどう映る?」


 この男、もしかして俺の正体を探るように見せて、円華のことを探ってるのか?


 余計なことに首を突っ込まないほうが身のためだというのに。


 笑みを作ったままで一応は質問に答えておく。


「ただの素直になることが下手な親友。それ以外は特になぁ」


「なら、聞き方を変えよう。貴様はどこまで、椿円華の過去を知っている?」


 雨水の目は真剣で、俺の思考の先を行っているのが察知できた。


 円華は話したのか、自分の過去を。


 おそらく、知られても差し障りがない程度に話は変えたんだと思うが、それでも誰かに話すとは思っていなかった。


 ここは負けたことをアピッとくか。


「いや~、俺ってこんなキャラじゃん?円華にそんなに信用されてないんすよね。元軍人ってことぐらいしか知らないぜ?……もしかして、雨水くんはそれ以外のことを知ってるとか?羨ましい~」


「……どうだろうな」


 雨水も俺のことを信用してないみたい。別に良いけどさ。


「話はそれで終わり?なら、俺はお姉さま方のビキニ観賞に戻るとするかな」


 再度双眼鏡のレンズを覗くと、雨水は小声でこう呟いた。


「嘘をつき続ける人間を信用するほど、俺は人が良くはない。しかし、貴様のように嘘の境地に達するのは、半端な覚悟ではできないよな」


 辛そうな、哀れみを込めた目を向けられた気がしたが、聞こえてないふりをした。


 俺と雨水は育った環境が違い過ぎる。


 人生そのものに対して嘘をつき続けてきた俺は、生き抜くために人を騙し続けるしかなかったのだから。


 雨水が要ちゃんの元に戻っていくのを見送り、やっと1人になれる。


 そう思ったんだが、そうもいかない相手がもう1人居ることを忘れていた。


「基樹くん……ちょっと、良いかしら?」


「瑠璃ちゃん…」


 そう言えば、彼女にもやり過ぎたことがあったなぁ。


 いや~、絶対に正体がバレない自信があったし、助けたんだからあれくらい許してもらえるかなぁって……。


 誤魔化すべきか、それとも……素直に話すべきか。


「あなたに聞きたいことがあるの。返答次第によっては、私はあなたにずっと不信感を向けざるを得なくなるわ」


「うわぁ~、何それ、怖いっ!!つか、今の瑠璃ちゃんの目が既に怖いっすわ」


 苦笑いしながら言うが、それについては触れられずに「付いてきて」と言われたので、人が少ない暗い所に連れていかれた。


 そして、着くと同時に俺の後ろにある壁に手をつかれた。


 所謂いわゆる、壁ドン。人生初でちょっと驚いている。


 と言うよりも、普通は男子が女子に壁ドンするんじゃないかな。


「単刀直入に聞くわ……あなた、蜘蛛柄の仮面を着けた男のことを知らない?」


 や、やっぱりそれの話になりますよねぇ~~。

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