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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
記憶を辿る化かし合い
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長い夜の終焉

モチベーション下がってるなんて言ってられない。


ブックマーク登録してもらうためにも、感想をもらうためにもアイデアが生まれる限り書き続けるしかない。



 円華side



 成瀬から送信された追跡アプリを使って柘榴の居場所を探れば、すぐにBクラスの寮に居るのだとわかった。


 気を失っている恵美を担いでいくわけにはいかず、噴水公園に着いてベンチに下ろし、麗音に彼女を回収すようにメールを送信した。


「悪いな、恵美……おまえには苦労をかけっぱなしだ。自分が情けねぇよ」


 自分を責めるのは後にし、Bクラスの寮に行こうとすると、向こうから人影が近づいてくる。


 時間はもう11時を回っている。よっぽどの不良生徒でないと外には出ない。


 もしくは、この学園を管理している者たちくらいしか……。


 竹刀袋に仕舞った氷刀に手をかけて警戒心を発すると、それを察知したのか人影は両手を挙げて近づいてきた。


「おまえの殺気はあいつ譲りだな……椿」


「岸野先生!?」


 岸野は口元だけ笑みを浮かべて俺の前に立つ。


「どこに行くつもりだ?」


「売られた喧嘩を終わらせるために、王将を取りに行きますけど……それが何か?」


「やめておけ。少なくとも、決着をつけるのは今日じゃなくてもできる」


「それ、忠告ですか?」


「いいや、担任としての命令だ」


 岸野の声音はいつもと変わらないが、サングラス越しの瞳の鋭さがいつもと違う。


 この命令に違反しようとした場合、実力行使に移るのは目に見えている。


「柘榴から記憶操作の武器の在りかを聞き出して回収しないと、この夜は終われない」


「そうか。それなら、夜はもう終わりだ。ほらよ」


 ポケットから小型の懐中電灯のようなものを取り出して見せられれば、それを見て目を見開く。


「これって……!?」


「記憶泥棒の武器の片方だ。もう片方はもちろん回収したんだろ?」


「あ……ああ。でも、どうして先生がこれを?」


「なぁに、柘榴の部屋に行く機会があってな。仕事のついでに没収してきただけだ。これでおまえが、今夜柘榴に近づく理由は無くなった」


 そう言って、岸野先生はポケットにそれを仕舞ってもう片方の手を出す。


「椿、もう片方を俺に渡せ」


「……は?」


「聞こえなかったか?記憶操作の異能具、そのもう片方を渡せと言ったんだ」


「それ、本気で言ってるのか?」


「本気に視えないなら、おまえの観察力は底辺以下だな」


 俺は岸野先生を目を鋭くさせて見上げ、先生は俺を無言で見下ろす。


「2つとも俺のプランを実現させるための重要な道具だ。そして、奴らに復讐するための大きな一手になる」


「おまえの復讐を邪魔するつもりはない。だけどな、その2つの異能具をおまえが使うのは認可できない。記憶っていうのは、人の人生を狂わせる。おまえにその覚悟を背負わせることはできない。俺は涼華におまえのことを任された。その責任は果たさなければならない」


 初めて、この男から姉さんの名前が出てきた。


 そして、この男は俺の弱点を知っている。


「その言い方、ズルくないっすか?」


「自覚はしている。だが、ここで踏みとどまらせるのが先生としての、そして……言いたくはないが、おまえの兄貴になるはずだった男としての役目だ」


「……っ!!」


 俺は無意識に拳を握り、顔面を殴ろうとするが受け止められる。


「おまえの手は冷たいな。大切な者を見つけても、心はまだ凍ったままか?この冷たさと同時に静かになれ、おまえならそれができるはずだ」


 拳を降ろして深呼吸をし、ポケットに仕舞っていた記憶消去の異能具をしぶしぶ岸野に渡す。


「……麗音は学園に戻してもらえますか?俺ができないなら、先生にその役を頼むしかない」


「おまえがそれを望むならな。……忘れるな、俺はおまえと同じ復讐者だ」


 俺の肩に手を置いてそう言い、岸野は横を通り過ぎてベンチで横になっている恵美を横目で見る。


「いや、同じじゃないな。おまえの方が幾分かマシだ」


 岸野の後ろ姿を見てながら、俺は左目が紅に染まっているのを自覚した。


 そう言えばと言って足を止める。


「おまえ、俺の素性を知っても聞かないんだな?涼華の死の真相を。そして、誰があいつを殺したのかも」


 岸野の疑問は尤もだ。


 組織の関係者である以上、表だけでなく裏の側面からも姉さんの死がどう捉えられているのかを知ることもできるだろう。


 だけど、俺は敢えて聞かなかった。


「俺の復讐相手はポーカーズとあの白い騎士だ。あんたに聞けば、奴らの正体を知ることはできたのか?」


「あいつの死の真相を辿るなら、ポーカーズを追い求めるのは得策だろう。しかし、申し訳ないが、それを伝えることは不可能だ。組織の中でも、奴らの正体はトップシークレットだからな」


 ポーカーズのことはわからない。


 だったら、聞きたいことはもう1つある。


「本当に、姉さんは首を吊った体勢だったのか?」


 俺は2年前、この男から涼華姉さんは首を吊って死んだと伝えられた。


 だけど、ずっと腑に落ちなかった。


 いや、信じられなかったんだ。


 姉さんが自ら死を選んだという事実が。


「……いや、あの時はおまえたち家族を落ち着かせるために嘘をついた」


 岸野は煙草をくわえて火をつけた。


 そして、煙を吸って小さく吐いて重々しく言った。


「あいつの遺体を見つけた時……ボロボロだったな。全身がボロボロの状態で、床に倒れていた。何者かと戦闘行為をしていたのは間違いない。涼華が無抵抗でやられるような女じゃないことは、おまえもわかっているだろ?」


「……そうだな」


 姉さんは最後まで抗って死んだ。


 ただで死ぬような女じゃないのはわかっている。


 だけど、今でも信じられない。姉さんが誰かに敗北することが。


 俺は1度も本気の姉さんに勝ったことが無い。


 姉さんを追いつめた相手を、俺は超えることができるのだろうか。


 岸野は煙草を吸い、地下の天井を見上げて吐いた。


「だけどな、あいつ……。身体はボロボロのくせに、顔は笑ってたんだ」


「……どういうことだよ?」


「俺が知るか。死に立ち会ったわけじゃない。だが……絶望とは裏腹の顔を浮かべていたのは、確かだ」


 死の間際に笑みを浮かべていた。


 それは一体、誰に対する微笑みだったんだ?


 今は無き存在に、問いかけることを止められなかった。


「教えてくれよ……姉さん…‼」


 空虚に呟いて、それをえて先生は聞き流してくれた。


 岸野はメモリーライトを持ってその場を去っていた。


 そして、その20分後に麗音が合流し、恵美を運んでアパートに戻った。


 こうして、Bクラスとの長い戯れの夜は終わったんだ。



 -----

 敦side



 教師専用マンションの自室に戻り、回収した2つの異能具をデスクに置いて深呼吸をする。


 スマホを取り出し、ある人に電話をかける。


 電話の相手は、殺意を持つことすら許されない存在。


 俺を暗闇の中から光の道に救い出してくれた者の1人だ。


「もしもし……岸野敦です。ご無沙汰ぶさたしています、最上さん」


『敦くん……?どうしたんだい?こんな時間に。日本はまだ夜だろ?』


「はい……早急にあなたにご報告したいことがありまして、電話をさせていただきました。緋色の幻影の手から、奪われた記憶操作の異能具を回収しました」


『……そうか、ありがとう。君には感謝してもしたりないよ』


「確かに1つは私が回収しました。しかし……もう1つは椿円華が」


 電話越しに息を飲む音が聞こえた。


 そして、深呼吸する音が聞こえてから沈黙が5秒ほど流れ、冷静を装った声が聞こえる。


『彼は、どちらかのデータを見たのかな?』


「わかりません。しかし、あの反応から見て確認してないんだと思います。あとから確認するつもりだったんでしょう。……安心してください。涼華から聞いたあなたたちの秘密は、決して恵美にも椿にも話すことはありませんから」


『……信じてるよ、敦くん。これからも、2人のことをよろしく頼む』


 それを最後に、電話は終わった。


 流石に英雄と呼ばれている男と話すとなると緊張する。


 いや、あの人の奥さんと話す方がその数倍も怖いんだが……。


 制服から私服に着替えて深く溜め息をつけば、煙草の先にライターで火をつける。


「涼華……おまえは凄いよ。俺なら義理とは言え、弟がこんな運命を背負っていたら……普通じゃいられないな」


 今日はよく、あいつのことを思い出す日だ。


 さっき、椿にあの時のことを話したからか、当時のことが頭を過ぎる。


 花園館の広大な花壇の中央で、涼華が倒れている姿を見た。


 しかし、その体勢は不自然だった。


 仰向けになっており、胸の上で両手を重ねてあった。


 誰かが彼女を弔うために、そう言う風にしたように。


 そして、あいつのあの満足そうな笑顔……。


「涼華……おまえは最後に、誰と会っていたんだ?」


 死の間際に何を想い、笑みを浮かべたのか。


 その真相を知る術は、今の俺にはない。

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