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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
記憶を辿る化かし合い
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専用追加武装

 恵美side



 円華の計画のために地下街で待機していた時のこと。


 私はとっても不機嫌だった。


「円華の……バカ」


 どうして、私じゃなくて住良木と2人っきりになろうとするの。


 それを言ったら、和泉要とデートに行っちゃうし、成瀬と秘密で会っちゃうし、生徒会長と電話で話していることが多いし……。


 もしかして、私が気づかなかっただけで円華は女好きだったのかな。


 やっぱり、私って女としての魅力無いのかな……。


 円華にとって私は……。


 落ち込みそうになった時に、悩みの種の本人から電話が来た。


 計画通りらしいので、私の出番だそうだ。


 便利使いされてるとマイナス思考になるのが良いのか、頼られているとプラス思考になれば良いのか迷う。


 スマホに送られてきた添付データから、Bクラスの襲撃者を表す赤い点が複数、こちらに着々と近づいているのを把握した。


 今は午後7時。


 人通りの少ないが建物の多い通りに到着し、スカートの下のホルスターからレールガンを取り出す。


「円華の方が成功したら、遠慮なくレールガンを使っても良いってことだったけど……」


 敵もこちらの居場所を把握しているのはあらかじめわかっていた。


 だから、レールガンを他の人に見られないような場所を選んだ。


 襲撃者の動きを確認していると、画面上の彼らの動きを示す赤い点が私の居る場所から半径100メートルの地点で止まった。


 そして、カツンッカツンッと靴音を立てて何者かがこちらに近づいてくる。


 スマホの画面上には動きがない。


 成瀬の話では、BクラスとFクラスの生徒の位置情報は地下街や学園の監視カメラの情報をリアルタイムで自動的にデータに流れるようになっているらしい。


 なのに、近づいてくる足音と画面上の敵の動きが合っていないということは可能性が絞られてくる。


 足音と共に拍手が聞こえてきては、長い青い髪をしていてヴェネツィアマスクで顔を隠した者がゆっくりと歩いて私の前に姿を現す。


「流石はカオス……それとも、英雄さんの娘であるあなたの策かしら。どちらにしても好都合ね……会えて嬉しいわ、最上恵美さん」


 声からして女だとわかる。


 その女の発している、独特でまが々しいオーラ。


 これと同じ感覚を放っていた者を、私は知っている。


「あんたは……ポーカーズ!?」


 驚きを隠せない声を出してしまうと、女はフフフッと口を押えて笑う。


「そう、私はポーカーズの1人。クイーンって呼んでくれるかしら」


 クイーン。


 ポーカーズの中でも多岐の人脈を持ち、人を影で操ることにけている女という情報が入っている。


 ジャックとは違ってキングへの忠誠心は薄く、利己的な性格らしいけど……。


「私を追っていたBクラスの連中はどうしたの?」


「眠ってもらったわ。私の存在を知られるわけにはいかないから」


 眠ってもらったの意味が、その通りの意味なのか、それとも隠語なのかは見当がつかない。


「誰かを操ることしかできない女が、表立って私の前に現れるなんてね。ジャックと同じで、偽物を使ってたりして」


「あのキングの腰巾着こしぎんちゃくと私を同じにしないで欲しいわね。あんな小心者と違って、私は()()()は作らないの」


「……つまり、本物?」


「さぁ?人の心の声が聞こえるんでしょ?私の心を聞けばわかるんじゃないの?」


 挑発的な口調で聞いてくるクイーン。


 この女、私の能力を知っている。


 そして……もしかして、気づいている?


 だけど、あの時は偶然そうだっただけかもしれないし。


 ヘッドフォンを耳に装着し、意識を集中させる。


 しかし、あの時と……ジャックの声を聴こうとしたときと同じだった。


 ポーカーズの心の声は聞こえないし、過去を見ることもできなかった。


 円華が本当に知りたかったことを、知ることもできない。


 ジャックの過去も、今目の前に居るクイーンの心の声も聞こえない。


 最初は戸惑ったし、今もどうして聞こえないのかがわからない。


 腹部が気持ち悪い。


 それでも、スカートの下に隠していたホルスターからレールガンを抜いて両手で構えた。


「どうして……私の前に現れたのかがわからない。目的は何?」


「目的?そんな大層なものはないわ、ただの暇潰し。あなたかカオスに会って話をしてみたかっただけよ」


「話……?意味がわからない。緋色の幻影は私たちの敵。その上位層に居るポーカーズのの1人、クイーンも例外じゃない」


 銃口を向けられても、クイーンの余裕な声音はそのままだ。


 自信と不気味さを感じてしまい、仮面の女が放つオーラに膝をつきそうになる。


「そんなことを言っても良いのかなぁ?私は今機嫌が良いの。あなたの聞きたいことを1つだけ答えてあげても良いと思ってるのよ?」


「あんたの口にする言葉が真実だとは限らない。話をしている時間があるなら、あんたを捕らえて円華の前に突き出してやる」


「そう……それは残念……ねっ!」


 クイーンが右手を上に伸ばして指を鳴らすと、彼女の背後から緑色の蛇の機械が出現した。


 それは1匹だけではなく、10、20……少なくとも、すぐに100匹も。


「私のアニマルタイプのペットの一種『インクリーズスネーク』。この子たちは、私の定めたターゲットが生き絶えるまで噛みついて、流血させ続けるわよ」


「それって蛇じゃなくてスッポンにすればよかったんじゃないの?」


「いいえ、イメージ的に蛇で良いのよ……可愛いでしょっ!!」


 クイーンが右手を上げ、機械の蛇たちに号令するように勢いよく下す。


 蛇たちは私に迫ってきて、1匹ずつ飛び跳ねて襲ってくるのをレールガンの一撃で行動不能にする。


「無駄な努力ねぇ。1匹ずつ減らしたところで、あなたの体力とスマホのバッテリーが尽きるのが先よ?」


「そんなのは、やってみなきゃわからない!!」


「わかるわよ。英雄の武器の片割れ、レールガン。それを攻略するために、組織はいろいろと研究を重ねてるのだから。その性質も全て知ってるわ。その武器は一撃一撃が強力な電撃な代わりに、バッテリーの消費が大きい。消耗戦に持っていけば、負けることはないわ」


 その言葉を裏付けるように、蛇は間髪を入れずに次々と私に襲いかかってくるのでレールガンを乱射して対処する。


 バッテリー……残り20%。


 これ以上無駄に撃つことはできない。


 蛇の群れに背を向け、私は全力で走った。


「あら?抵抗するならまだしも、逃げるなんて無様ねぇ。それでも、あの最上高太の血を引いているのかしら?……それとも、あなたもフェイクなのかしら?」


「……え?」


 今の言葉……どういう意味?


 フェイクって偽物という意味の言葉。


 私が……偽物?


 それに、あなたもって……。


 この動揺している時間がまずかった。


 2匹の蛇に追いつかれ、左肩と右腕の服の袖を噛みちぎられてしまった。


「あっ!……今、服の替えがないのにっ……!!」


「服のことを心配している暇があるなら、命の心配をしたらどうかしら!?」


 走りながら人通りが皆無の裏通りの1本道に入り、網状のバリケードまで来る。


 両側を建物の壁に挟まれ、人が1人通れるかぐらいの狭さのこの道。

 

 そこに蛇の大群が密集する。


「あらあら、行き止まりみたいねぇ。ご愁傷様、チェックメイトよ」


「……その言葉、そのまま返してあげる」


 スカートを翻し、ホルスターを巻いている方と逆の太ももに巻いているベルトを見せる。


「レールガンを攻略しているのはわかった。こっちのバッテリーも残りわずか。危機的な状況なのは変わらない。だけど、1つ考えるべきだったね。……もうデリットアイランドから20年経ってるのに、何の対策もしないわけないじゃん」


 ベルトには六面の黒いキューブが付いており、それを取り出してレールガンの銃口に装着する。


 スマホのアップデート画面になる。


『専用追加武装【ガンキューブ】、装着。アプリ、ダウンロード……完了。マルチレールガン、使用可能です』


 まさか、もうこの追加武装を使うことになるなんて……ヤナヤツの備えって凄い。


 スマホの画面を操作し、『ガトリングモード』という文字を押す。


 キューブが変形して4つの銃口のガトリングガンの形になり、それを蛇の群れに向ける。


「この一直線上なら、全滅させられるっ……!!」


 両手で構えて引き金を引けば、4つの銃口が回転して電弾が連射される。


 蛇は1秒につき数十匹のペースで減っていき、その残骸を踏みながら前に進んでクイーンとの距離を詰める。


 30秒後、蛇の群れを全て再起不能にし、クイーンの仮面の前に銃口を向ける。


「どっちがチェックメイトだって?」


「……これは流石に、私も予想外だったわね」


 クイーンは両手を挙げて降参の姿勢を取っているが、それが本心ではないことは心の声が聞こえなくてもわかる。


 それでも、この状況を利用して問わなければならないことがある。


「さっき、私も偽物かもしれないとあんたは言った。……どういう意味?私以外に、最上高太の子どもだって思われていた子が居るとでも言うの?」


 クイーンは私の問いに答えない。


 代わりに、肩を震わせて笑いだした。


「……そうなのね。あなた、親子なのに何も知らされずにずっと育ってきたってことよねぇ。あの英雄さんにとっては、娘のあなたも利用するための駒だったってことかぁ」


「何の話をしているの!?お父さんは、誰かを駒扱いなんてしない!!」


「どうだかぁ。あの英雄さん、過去に何度も人としての一線を越えてるみたいだからねぇ。仲間も、愛する者も、家族すらも、全てが自分のための捨て駒。そう考えていたっておかしくないわよ」


「うるさいっ!!」


 怒りが込み上げてきて、クイーンの仮面の額に銃口を押し付ける。


「それ以上私の父を侮辱するなら、この引き金をバッテリーが切れるまで打ち続けてやる」


「どうぞ?それであなたの気が晴れるのならね。……って言おうと思ったけれど、時間切れのようね」


 クイーンの言葉に合わせるように、四方から白い霧が迫って広がる。


 そして、その瞬間に身体の感覚が鈍くなってきて膝をついてしまう。


「この霧……もしかして、ジャックの異能具!?でも、あれはっ……!!」


「ミストカーテンは椿家から回収させてもらった。大事な物を回収しなければならなかったのでな」


 霧の中から足音が聞こえ、ドクロマスクを着けた者が現れる。


「エース、遅いわよ」


「珍しく危機的状況だったようだな、クイーン」


 このドクロマスクを着けた者がエース。


 低い声からして、男だとわかる。


 エースは私を見下ろすと、手に持っていた三又の槍を私に向ける。


「英雄の娘……今ここで殺すか?」


「やめときなさいよ。キングの命令では、殺すのはダメみたいだから」


「……わかった」


 エースとクイーンは、私に背を向けて歩き出してしまう。


「待って‼……クイーン、あんたは一体、私たちの何を知ってるの!?」


 答えるとは思っていなかった。


 しかし、聞かずにはいられなかった。


 私はまだ、自分の中に答えが見いだせていなかったから。


 クイーンは声を聴いて足を止めると、私の方を見る。


「……2つだけ言っておくわ。今までのことも、そしてこれから起きることも、全ての元凶は……最上高太と私たちの主よ。そして、あなたが今後カオスと共に居るのなら、知りたくなかったと思えるほどの真実を知ることになる」


 クイーンの声が耳に届くと同時に、身体が思うように動かずに倒れ、動かなくなる。


 そして、そのまま……視界が歪んで、意識が薄れていった。

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