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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
記憶を辿る化かし合い
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勝手にしろよ

 円華side



 俺が3人を片付けた後、麗音の方も有野の処理は済んだのを確認した。


 そして、有野のスマホの電話が鳴り、画面に出ている名前を見ては、警戒せずに電話に出た。


「もしもし……初めまして、柘榴恭次郎くん?」


 皮肉の意味を込めてそう言ってやれば、電話越しに30秒ほど沈黙が流れ、クフフッと不気味な笑い声が聞こえてきた。


『ああ、初めまして……だな、椿円華。驚いたぜ、どうやって記憶泥棒の正体を当てた?』


「言う必要は無いだろ。こっちの動きはそっちに筒抜つつぬけなんだし。こっちの裏切り者……いや、おまえが裏切らせた成瀬の件が解決済みなことを知っているはずだ」


『おかしいなぁ。そのことまで知られているとなると、有野はおまえの記憶を消さなかったってことになるのか?』


 柘榴の声に本当に疑問を感じている節がある。


 やはり、奴の予定では俺と接触するのはもっと後だったようだ。


 しかし、こっちの情報を親切に教えてやる義理はない。


「自分で考えろよ。BクラスとFクラスのリーダーなんだろ?ちゃんとした頭が付いてるなら、すぐにわかるはずだ」


 珍しく少し挑発するように言ってやると、クフフッとしゃくさわる笑い声が聞こえてくる。


『頭が居なくなって自暴自棄になっていた女装男が、何をぬかしてやがるんだかなぁ。まぁ良いぜ。この際、おまえの記憶があろうが無かろうが関係ねぇ。こっちはこっちでもう動いてるんだ』


 この男、本当に俺が隻眼の赤雪姫だった時のことも知っているのか。


 それよりも……動いてるだと?柘榴の重要なカードである有野は今俺が捕らえた。


 そうなると、俺のわかる範囲で残る重要なカードは1つだけ。


 その使いようは……。


「残る片割れを使ってどうするつもりだ。これは推測だが、そっちの武器は2つそろって真価を発揮するはずだ。記憶が消されていなければ、記憶を植え付ける方は使えないんじゃないか?」


『おいおい、何の話だぁ?伝説の暗殺者様を相手にしてるのに、動きが読めるようなちんけなことをするわけねぇだろ。……まぁ、発想としては30点って所だな』


 柘榴のこの余裕そうな口振りからして、有野のことは予想外だったにしても許容範囲のようだ。


 まさか、俺が気づいていないだけでどこかにきょを突かれるようなミスを犯したのか?


 ……やべぇ、全くわかんない。


 奴は他に何かを異能具を所持しているのか?


 それとも、俺の裏をかくような策が存在するのか?


 不安を悟られないように冷静に話を続ける。


「何をするつもりだ?おまえがどんな策を考えようと、俺はその全てを潰す」


『威勢がいいなぁ。だが、そんな熱くならずにクールに行こうぜぇ?どうせ、おまえは身動きが取れないんだからなぁ』


 スマホから通知音が流れてきた。


『おまえのスマホに今、添付データを送った。親切心でな。これを見たら、おまえは絶句するだろうなぁ』


 電話を維持したまま、スマホに来たデータを開いて見る。


 データは地下街のマップ上で、青い点が2つと赤い点が複数広がっている。


 青い点にはそれぞれ『最上』と『成瀬』と書いてある。


 このデータ、見覚えがありまくりなんだけど。


 ……これ、もしかしてとは思うけど……。


 俺が察して黙っていると、柘榴が話を続ける。


『Bクラスの中でも、戦闘に特化した奴らだ。女2人くらいわけないぜ。さぁ、どっちを助ける?片方を助けられたとしても、もう片方は終わりだなぁ。……それとも、止めてくださいって俺に頼みこむかぁ?後で俺に土下座してこれば、今回だけは引いてやってもーー』


「アッッッホらしい」


『……あぁ?』


 俺はやる気も駄々も失せ、呆れ交じりの深い溜め息をついた。


「いやぁ……うん、確認するけど、Bクラスの奴らなんだな?」


『それがどうした。それよりも、さっきの溜め息は何だ?おまえのことは調べつくしてるんだよ。おまえにとって、最上恵美は特別な存在だ。そして、成瀬瑠璃は重要な手駒てごま。どっちも失うことはできない女のはずだ』


「……だから?」


 無感情で淡々と聞き返せば、柘榴はフッと笑う。


『そんな興味のない振りをして、俺にあの女どもに人質としての価値がないと思わせようとしても無駄だぜ?俺は1度やると決めたことは……やる』


 脅しに来てるよ、この人。


 今の俺には全然怖くないんだけど。


「へー、あっそー」


 呆れてしまい、脱力感でやる気のない声しか出ない。


 柘榴に対する反応は思いっきり素だし、あっちが勝手に深読みして脅しに来るのは別に構わない。


 結論から言おう。


 俺はあの2人に関して、全く心配はしていない。


 だから、先のことを見通した上で柘榴にこう言うことができる。


「勝手にしろよ」


 電話をこちらから切り、有野のスマホの電源をオフにする。


 そして、自分のスマホで電話をかけるとすぐに相手は出てくれた。


「もしもし、恵美。こっちの条件はクリアした。あとは、状況によって臨機応変に頼む」


『了解。あとは任せて』


 それだけで電話は終わり、隣に居た麗音と共にスマホの画面を確認する。


「成瀬……どうやら、柘榴に一矢報いたようだぜ?」



 ーーーーー

 瑠璃side



 椿円華が柘榴恭史郎と電話をする30分前。


 自分に何の記憶もないけれど、私は利用された。


 それも、大切なクラスメイトを裏切る形で。


 円華くんは、私に事実だけを伝えて責めてこなかった。


 それが辛いということを知りもしないで。


 ……いいえ、彼の場合は気づいていて、あえて責めなかったのかもしれない。


 だから、私なりに償いをしようとBクラスの柘榴恭次郎のスマホにハッキングを仕掛け、サイバーウイルスからの位置情報を入手してそれを円華くんに送信した。


 それが、私にできる唯一の彼への償い。


 許されるとは思っていない。


 これは自己満足かもしれない。


 それでも、そうせずにはいられなかったから。


 柘榴恭史郎の噂は耳にしたことがある。


 裏をかくことに長けており、証拠を残さずに不正で非道な方法でBクラスまで上りつめた男。


 そんな彼が、利用した私をこのまま野放しにしておくはずがない。


 私からウイルスの技術を確保し、記憶泥棒を使って能力点のポイントを着々と確保しているBクラス。


 そのリーダーのやることに予想を立てることも不可能だけれど、警戒はしなければならない。


 人質にでもなって足手まといになる気はないもの。


 自己満足の償いが終わり、次に個人的に気になったので近辺の監視カメラにハッキングをかけて今のBクラスの状況を確認してみる。


 近辺に監視の目が働いているのではないかと思ったからだ。


 案の定、パソコンの画面に1人か2人、アパートの周りをウロチョロしているBクラスの生徒が把握できた。


「変なマネをさせないようにしているってわけね。ストーカー容疑で訴えたくなるわ」


 溜め息をつきながら、外出ができないのを理解して他のBクラスのメンバーの状況を範囲を広げて確認してみる。


 すると、1つの監視カメラから奇妙な映像が見えた。


 5人くらいの男子のグループが、まっすぐにこのアパートに近づいてきているように見える。


 サイバーウイルスの情報をパソコンの画面上に出し、リアルタイムでどう進んでいるのかを確認する。


 Bクラスの生徒を表す赤く点滅している点が5つ集まっていて、それが画面上で徐々に近づいてくる。


 それに気づくと、スマホにブーッブーッと電話の着信音が鳴る。


 画面を見ると、発信者は『非通知』となっている。


 恐る恐る電話に出ると、聞いたことのない男の声が聞こえてきた。


『よぉ、成瀬瑠璃。……俺が誰かわかるか?』


 この一言で、確証はないけれど誰なのかは直感できた。


 今の状況からして、避けて通れない相手だ。


「柘榴恭史郎くん……よね?これは何のマネかしら。あなたの奴隷が怖い顔でEクラスのアパートに近づいてきているわ」


『フッ、流石はあのサイバーウイルスの開発者だ。こっちの動きはわかってるってわけか。それで、その情報は椿円華には伝えたのか?どうせ、ウイルスによる位置情報をあいつに送ったんだろ』


「どうでしょうね。少なくとも、敵であるあなたに言う気はないわ」


『そんな目の敵にすんなよ。俺はEクラスなんてありの集団は眼中にねぇんだからな』


「……それなら、どうしてEクラス全員のスマホに私のウイルスを感染させたの?必要ないはずよ。時間の無駄だわ」


 彼の言葉は矛盾している。


 私たちを敵と思っていないのなら、これは要らないことだと思う。


『そうだな、確かにEクラスは俺の敵じゃねぇ。いつでも全員退学にする手はある。……だが、それだと腹の虫が治まらねぇ奴が居るのさ。そいつを精神的に追い込むためには、おまえたち残りの働き蟻どもは俺の玩具になってもらわねぇと困るってわけだ』


 スマホを持つ手に力が入り、もう片方の手で拳を握って怒りを抑える。


「悪いわね。私たちはじゃじゃ馬よ?とても、あなたのようなお利口りこうさんの手に負えるとは思えないわ」


『じゃじゃ馬を調教するのが楽しいんだろ?とにかく、あいつを……椿円華を潰すまでは、おまえらEクラスは俺の玩具だ。精々楽しませてくれよ、大事な大事なクラスメイトのためによぉ。……そうだ、手始めに今回のゲームは鬼ごっこだな』


「……鬼ごっこ?」


 復唱すると、電話越しにクフフッと不気味な笑い声が聞こえてきた。


『今のEクラスにとって、おまえは重要人物だ。その成瀬稲美が使い物にならなくなったら……奴はどう思うかなぁ?』


 今の一言で全てを察した。


 Bクラスの複数の生徒がこのアパートに向かっている理由は、私だ。


「何もしていない女子に暴力をふるうつもりかしら?お里が知れるわね」


『この学園は力が全てだぜ?暴力だって立派な力のカテゴリーだ。……何なら、今外に居るEクラスの奴らを全員すぐにリンチにしてやろうか?』


 電話越しでも伝わってくる。


 この男は本気だ。


 宣言したことは本当に実行するかもしれないという恐怖を与えてくる。


 そして、今の私には何もできない。


 みんなを守れる力がない。


 だから、頭で考えるよりも先に口が動いてしまった。


「狙いは私でしょ。Eクラスのみんなは関係ないはずよ?」


『なら、アパートから出て逃げ回れよ。さもなければ、有言実行する。蟻どもと心中したいって言うなら止めねぇけどな。念のために言っておくが、鬼ごっこは地下街の中だけ。時間は……そうだな、朝の6時までだ』


「……わかったわ。私が逃げ切ったら覚悟することね、このことを学園に直訴するわ。あなたが暴力で来るのなら、こちらは事実を使ってあなたを追い詰める」


『クフフッ……楽しみにしてるぜ』


 柘榴くんの不適な笑い声を最後に電話が切れた。


 私は今、完全に柘榴恭史郎の手の平の上で踊らされている。


 察するに、サイバーウイルスを彼に渡した時もこういう脅され方をしたんでしょうね。


 時間がない。


 早急に外出用の服に着替え、アパートを出て円華くんに電話をかける。


 しかし、取り込み中なのか出てくれない。


 この時、彼のあの言葉を思い出す。


『俺が最悪な状況下にあったら諦めてくれ。助けることはできない』


 電話に出れないということは、その最悪な状況なのかもしれないわね。


 誰かの助けは期待できないし、危険に巻き込みたくないので1人でどうにかする。


 自力で彼の言う鬼ごっこを逃げ切るしかない。


 こうして、こちらも円華くんの気づかない所で戦いが始まっていた。

 

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