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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
記憶を辿る化かし合い
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初めての電話

 自分の部屋でメールを打ってた時のこと、大っ嫌いな女から電話が来た。


 何てタイミングで電話をかけてきやがるんだ、あの女は。


 遠回しに邪魔をして楽しんでいるようにしか思えないが、感情を押し殺して電話に出た。


「もしもーー」


『もしもし、円華ぁ~?あなたの大好きなお姉ちゃんですよ~~。も~う、素直に電話してこーー』


「うるせぇから切るぞ」


 淡々とそう言って電話を切れば、5秒後にまたかかってきたのでまた出る。


「もしもし」


『もしもし、私です。調子に乗りました、ごめんなさい。……何も切らなくても良くない~!?』


「うっせぇ。もう1回切って今後着信拒否すんぞ」


『それだけはやめて!!お姉ちゃん、自殺しちゃう!!……それでぇ、テンションを一定に保つので話をしてもいいでしょうか?』


「どうぞ」


『この前メールで調べてほしいって言っていたことの結果なんだけど、やっぱり桜田家の分家ぶんけの中に柘榴なんて名前は存在しなかったわ。何なの?その柘榴って』


 BCには、スマホの録音データを聞いた日にすぐ柘榴のことを調べてもらっていた。


 柘榴が俺のことを知っていることは驚かなかった。


 自分で言うのも何だが、学園中で俺のことを知らない者はいないってレベルだからな。


 しかし、彼のある言葉が引っ掛かった。


 桜田家の本家と分家の中でも、少数の者しか知らないことを奴は知っていた。


「柘榴恭史郎は俺のことを2代目と呼んでいた。これがどういう意味か、あんたならわかるだろ?」


 俺の問いに、電話越しにBCの息を吞む音が聞こえた。


『……それって……なら、彼は暗殺者としての涼華さんのことを知っているってことになるのよ?それは、彼女が暗殺任務で失敗したことを意味するわ』


「姉さんが……失敗……」


 ありえない。


 でも、ならなんで……。


 頭の中と現実が矛盾して混乱していると、BCが冷静に電話越しに俺の心を見透かしたように言った。


『あなたが今しなければならないことは、そんなことで頭を悩ませることかしら?違うでしょ。過去のことで頭を悩ませることは、夜に眠れないときにでもできるわ。今は、あなたがやらなければならないことに頭を集中させなさい。……もう、後悔はしたくないでしょ』


「BC……。何だよ、偉そうに」


「フフン♪偉いわよぉ。だって私は桜田家の次期当主で、円華のお姉ちゃーー」


「ありがとな、BC。おかげで正気に戻った。じゃあ、分家の俺はやるべきことが多いので失礼します、次期当主様」


『えっ、ちょっと、待っ―――』


 イラっとしたので皮肉交じりにそう言い、容赦なく電話を切る。


 そして、その後の折り返しの電話は来なかったのでメールを打つことに集中し、無事に送信することができた。


 『成瀬を頼む』っと。



 -----

 瑠璃side



 自室で机の上に突っ伏する。


 悩んでいると、私は無意識にこの体勢を取ってしまう。


「何でこんなことになっているのかしら……」


 まさか私の記憶がないだけで、Eクラスのみんなを裏切っていたなんて。


 それにしても……あの言葉は気に入らないわね。


 あの橋での会話の中、記憶泥棒を見つけてBクラスを追い詰める手段があると円華くんは言っていた。 


 だけど……。


『悪いけど、俺のプランを成功させるために、あえておまえには何も話さない。危険な目にあうかもしれないが、その時は俺に連絡してくれ』


 遠回しに足手まといだって言われている気がしてならなかった。


 私はそんなに信用されていないのかしら。


 自分への信頼に不安を感じていると、急にスマホの電話が鳴った。


 画面を見ると、電話は珍しい名前からだった。


 他の人なら出ないつもりでいたけど、この人なら良いかしら。


「もしもし。あなたが私に電話をかけるなんて初めてのことじゃないかしら。最上さん?」


『たまには……ね。ちょっとはげましてあげようかなって思ったから』


「やっぱり知っているのね。円華くんから聞いた?私、自分には全く自覚がないのだけれど、Eクラスを裏切ってBクラスに協力していたそうよ。幻滅したかしら」


 返答がこない。


 少し時間をおいてから、電話から冷静な彼女の声が聞こえてきた。


『……心、痛めてる?』


「えぇ……とても」


『責任感とかある?』


「あるわ。当たり前じゃない」


『なら、私は成瀬を責めないよ』


「えっ…?」


 責められると思っていた。


 淡々と、正論をぶつけてくると。


 最上恵美はそういう女だと思っていたから。


 円華くん以外の人には冷たくて、素っ気なくて、優しさなんて欠片もないと思っていた。


 最初に会った時から、印象が大分変わった。


 それとも、円華くんが彼女を変えたのかしら。


「そう……あなた、優しくなったわね」


『それは失礼。私は元から優しい』


 最上さんが今、電話越しに頬を膨らませているのが想像できた。


 あの子、喜怒哀楽がわかりやすいから。


 ここで円華くんなら『おまえは今までの言動を顧みろ』って言うんでしょうね。


「そうね、ごめんなさい。頭がちょっと上手く働いていないみたい。ショックが大きすぎて……みんなに申し訳なくて」


『……成瀬が責任感が強いのは知ってる。だから、それで自責の念があることもわかる。でもね……』


 電話越しに最上さんの深呼吸する音が聞こえる。


『それ、ただの時間の無駄だと思う。失敗したなら、それを取り返す方法を捜した方がいい』


「それはそうなのだけれど、円華くんは何も私に言ってくれない。私は使えないって思われてるのかしらね」


 つい弱音を言ってしまう。


 どうしてでしょうね、こんなこと誰にも言ったことがないのに。


 こんなことを言っても、最上さんの声は冷静で淡々としていた。


『……成瀬はさ、円華に何か言われないと何もできないの?本当にそうなら失望だね」


「も、最上さん……」


『円華が何も言わなかった、伝えなかったってことは、成瀬が自分で考えて行動できるって思ったからだよ。私は少なくともそう思う』


 本当に、彼は私のことをそこまで評価してくれているのかしら。


 にわかには信じられない。


『だって考えてみてよ。本当に役立たずで何もしてほしくなかったら、デリカシーの欠片もなく『何もするな、迷惑だ』って言っちゃうのが円華でしょ?遠慮しないでストレートに言うんだから、あいつは』


 それはあなたも一緒でしょ……っと言いたかったけど、そこは言葉を飲み込んだ。


「そうね、なら……私は私のできることをやってみるわ」


『そうだね……って、それは当たり前のことだよね。何か私にできることがあったら言ってよ、協力する』


「あなたにそう言ってもらえると、円華くんよりも心強いわ」


『円華は……多分、先まで見通してると思うから、成瀬が危険になった時にどうするかも考えているよ、絶対に』


「そうだと嬉しいわね。……あなたのおかげで、少し自信が戻ってきたわ。ありがとう……恵美」


『……え?あの、今ーー』


 追及されるのは恥ずかしかったので、すぐに電話を切った。


 そして、机の上に置いてあるパソコンを起動する。


「今私ができること……利用されたなら、こっちが利用し返すことよ」



 ーーーーー

 恭史郎side



 毒は即効性があってすぐに効果が表れるものと、遅延性でじわじわと効果を表して苦しめていくものが存在する。


 俺を毒で表すとすれば、後者になるだろう。


 じわじわと苦しめて、むしばんで俺の思い通りに屈服させる。


 そうやって俺はこれまでの人生を生きてきた。


 俺よりも弱いやつは圧倒的な力でひれ伏させ、力があるものはあらゆる手段で弱みを握って掌握していく。


 そのやり方が正しいかどうかなんて関係ない。


 世間の倫理的な縛りに興味はない。


 俺はそのやり方で血反吐を吐くような生き地獄を生き延びてきたのだから、これ以外のやり方を知る気もないし知りたくもない。


 結局は頭が足りないクズどもを従わせるだけの力を俺は手にしている。


 その事実だけがあればいい。


 このやり方で失敗したことは1度たりともないのだから。


 弱みがない人間なんて居ない。


 弱点は多くの者が持っている。


 もしもそれがない者が居たとしても、あらゆる手を使って弱みを作ればいい。



 ベッドの上でスマホのメールを確認していると、奴隷の1人から面白そうな話が届いていた。


 ---


 椿円華が、成瀬瑠璃と接触しました。

 裏切り者の存在に気づいたようです。


 ---


 へぇ、早いな。


 流石に記憶を消したとしても、伊礼瀬奈の件でこっちが動きを察知していることは気づいたようだ。


 あの道具の欠点があだになったか。


 俺がずっとスマホを見ていると、隣でバスタオルを身体に巻いたまま横になっている女が手と足を絡めてきた。


「ねぇ、いつまで私に放置プレイをするつもり?」


「こっちは面白そうなことが起きそうなんで、頭がもう賢者モードなんだよ。ヤる気が起きねぇ」


 素っ気なく対応する俺の耳に、女がフゥーっと息をかけてきて薄く笑みを浮かべる。


「私をないがしろにしちゃっても良いのかしらぁ。あなたにこの学園の秘密を教えてあげたのも、玩具おもちゃを与えたのも私なのよ?面白いことがあるなら、私を抜きにするのはフェアじゃないんじゃない?」


 女の瞳の奥に宿る紅に、背筋に電気が走ったような感覚を覚える。


 この女の名前は知らない。


 女は名前を名乗らず、自分のことを『クイーン』と呼ぶように言ってきたからそう呼んでいる。


 学園内では接点を持たないようにし、見かけても互いに他人のふりをしている。


 しかし、あの女はメールで異能具のことや今後起こるデスゲームの情報を俺に送ってくる。


 最初は面識がなかったが、1通のメールで俺はこの女を利用しようと考えた。


 ---


 柘榴恭史郎さん、あなたの復讐をお手伝いさせてもらえないかしら?


 ---


 俺が復讐心を抱いていることをクイーンは知っている。


 そして、その相手が誰なのかも。


 あいつを地獄に落とすためなら何だって利用すると決めていた俺は、すぐにこの女王と契約をしたんだ。


 全ては、俺を生き地獄に突き落とした片割れに心身ともに地獄を見せるために。


 クイーンの頭を左手で撫でながらスマホを操作し、クラスの中でも戦闘を専門にしている奴らにある命令を一斉送信する。


「そんな命令を出しても大丈夫なの?あの子、本当に怒っちゃうかもしれないわよ?」


「わかってないな、クイーン。俺は椿円華を怒らせたいんだよ。それにこれはボクシングで言うところのジャブ、遊びはまだ始まったばっかりだ。精々、おまえからもらった人形を有意義に使わせてもらうぜ」


 俺が言いながらクイーンの胸を揉むと「あんっ!」と声を出したが、次の瞬間には半目で手を軽くつねってきた。


「女の子を乱暴に扱うんじゃないわよ。調子に乗りすぎ。あなたと私は身体は交わっても恋人同士じゃあないんだから」


「恋人?そんな対等な関係なんて御免ごめんだな。俺は常に屈服させる、平等なんてありえねぇ。椿円華をぶっ壊した後は、おまえの心を奪ってやるよ」


「私の心はガードが硬いのよ?未だに誰にも許していないわ。それでも…奪えるのかしらぁ?」


 クイーンが挑発的な笑みを俺に向けてくると、俺はこいつの上になって彼女のあごを人差し指と親指で挟んで顔を近づける。


「奪って見せるさ。いい女は手中に収めないと気が済まねぇんでなぁ」


「楽しみね、あなたの能力で私を屈服させることができるのか。……でも、私たちの共通の目的を達成した後で、ね」


「わかってるさ。おまえは椿に消えてほしい、俺は椿を潰したい。お互いのためにも、あいつは必ず、確実に……な」


「そう、お互いのためよ。あなたが椿円華を倒してくれたら、私惚れちゃうかもね?」


「惚れさせてやるよ。おまえは俺の女にする」


 クイーンは俺の首の後ろに両手を回し、そのまま唇を重ねる。


 そして、俺はクイーンの巻いているバスタオルを上からがした。

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