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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
記憶を辿る化かし合い
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デート終了

 円華side



 ただいまの時間、2時50分。


 ファミレスを出る時に幸崎と別れることができたのはとても心の救いになった。


 あれ以上一緒に居たら、胃に穴が開いていただろう。


 デートも中盤に入り、俺はこの機会を利用して家電量販店に寄った。


 そこで和泉も欲しいものがあったようで、1度別れてそれぞれの目的のコーナーに向かう。


 俺はカメラコーナーに向かい、デジカメやビデオカメラを見渡す。


 ずっと居ると店員に話しかけられてしまうが、専門知識がないために観察しなければ、何ができて何ができないのかがわからない。


 機械音痴ってことではないが、昔1度だけ訳がわからずに姉さんのPCのキーボードを触っていたら、全部のデータを消去してしまったという悲惨なエピソードを持っている。


 それにしても知らない機能とかが多く、どれがよくてどれにどんな機能があるのかが全くわからん。


 仕方なく周りに店員に居ないかを捜していると、右隣から誰かが俺の方に近づいてくる。


 道を開けようとさりげなく後ろに下がると、その誰か……と言うか、肩よりも少し長い黒髪を三つ編みにしている眼鏡をかけた女子に見覚えがあるような気がした。


 自然に口から「あれ?」っと発してしまうと、目の前を通りすぎようとした女子は「ぇ?」っと俺の方を向いて足を止めてしまった。


 この丸メガネにすっごく見覚えがあるんだよなぁ……。どこだっけ、どこかで……それも、何度も見た気がぁ……。


 頭でこの女子の情報を記憶から必死に探すと、ある名前が頭に浮かんできた。


「あのっ……その、もしかしたらだけど……伊礼瀬奈いれい せな……か?」


「あっ、はい!……は、初めて話しかけられちゃいました。椿くん……それとも、椿さんって呼んだ方が良いですか……?」


 同じクラスではあるが、初対面に近いこの状況。


 しかも、伊礼は俺を恐がっているのか緊張しているように見える。


 困った、これは今までにないパターンだ。


 思えば、今まで関わった学園内の女子は強いハートを持った者ばかりだった。


 親族であるBCを除き、恵美や麗音、成瀬、久実、和泉は俺が元軍人という経歴があっても物怖じせずに友好的に接してくれた。……約1名を除き、恐い目で睨まれる時もあったけど。


 しかし、今目の前に居るクラスメイトはそれとは真逆な女子だ。


 さて、意図せず話しかけてしまったこの状況、どうやって切り抜けようか……。


 まず、提示された選択肢を、今後関わるかは別として選んでおいた方が良いか。


「とりあえず、伊礼の好きなように呼んでくれて良いぜ?なんなら、呼び捨ての方が気が楽だ」


「そ……それは!……ハ、ハードルが……高いです……から、その……じゃあ、椿くん……で」


 途切れ途切れだが、何を言っているのかはわかったので「じゃあ、それで」と返す。


 ここで会話が終われば、自然と『夏休み明けに学校で』っと言う流れで別れることができる。


 それが理想的だ。


 しかし、伊礼は聞きづらそうだが何とか聞き取れる声で聴いてきた。


「あの……椿……くんは、カメラに、興味があるん……ですか……?」


「え?あ、あぁ~、興味があるかって聞かれればそうだけど、俺が欲しいのはビデオカメラなんだよな。でも、どれにどういう機能があるのかがサッパリで、店員に教えてもらおうと思っていたところだ」


 何気無く言えば、少し目を見開く伊礼。


「えっ……でも、ここの店員さんって生活用品には詳しいですけど、趣味に関する機器についてはよく知らないんですよ?この前だって、私がフルハイビジョンのビデオカメラを探していたら、店員さんからハイビジョンの方を渡されてしまって、しかも画素数が低いからデジタルズームが難しくて……」


 ……ヤバい、何を言っているのかが全くわからなくて、一瞬頭がフリーズした。


 ハイビジョン……フルハイビジョン?デジタルズームって何?


 ブツブツと喋りながら店員への不満を述べる伊礼に、苦笑いを向けることしかできない。


「あーっと、伊礼はビデオカメラについて詳しいんだな。良かったら、どれが良いのかアドバイスしてくれないか?」


「そ、私なんかがアドバイスなんて、とんでもないです!!」


「いや、俺はこういう分野は初心者だからさ。少しでも知識がある人の声が無いと不安なんだ。だから、頼むよ。今のところ、頼れるのは伊礼だけだし」


 両手を合わせて少し頭を下げると、伊礼は「わ、わかりました」と快く受けてくれて、俺には何が何だかわからなかったが、とりあえずは良いものを買えたみたいだ。


 ……気のせいだろうか。


 俺はこっちを見ている集団の危険な視線を感じて注意を向けていたが、伊礼と別れるとすぐにそれは消えた。何か……嫌な予感がした。


 -----


 目的を終えて外で和泉を待っていると、彼女がすぐに合流した。


「欲しいものは見つかったのか?」


「う~ん、探していたものではあったけど、まだ買えないかなって。だから、何も買わずに出てきちゃった。椿くんは何を買ったの?」


「俺も何も。それにしても、俺の勝手な提案で予定を変更させて悪かったな」


「ううん、気にしてないよ。私も寄る理由はあったから。じゃあ、最後に私が行きたい所に行くね?」


「もう最後か……時間があっという間に感じるな」


「そうだね。私もそう思うよ」


 和泉が最後に行きたい場所は、アクセサリーショップだった。


 店内はピアスやネックレス、キーホルダー、ブレスレットなどの装飾品だらけだ。


「ちょっと待っててね?ちょっと取り寄せるのに時間がかかりそうだから」


「あ、あぁ……了解だ」


 和泉が何やら店員と話しているのを確認すると、初めて来る場所なので注意深く品を観察する。


 アメリカに住んでいた時に女装をしていた時が懐かしい。よく男からアクセサリーが送られてきてたな。


 イヤリングとか、チェーンのネックレスとか、指輪とか。


 ストーカー行為をされ、1度男だとバレそうになった時は焦ったなぁ……。


 何気なく並べられている多くの髪止めのピンを見ていると、自分の前髪を触ってどれだけ長いかを再確認する。


 今度、前髪だけでも切るか。髪のせいで前が最近見えにくいんだよなぁ……前髪?


 改めてピンを見ると、俺は柄にもないことを思いつき、気になったものを手に取ってみた。



 和泉の用件は終わったようで、小さな袋を持って戻ってきた。そして、2人で噴水公園に立ち寄った。


「待たせちゃってごめんね?男の子がああいう所に居ても、つまらなかったよね」


「そうでもねぇよ、意外と楽しかったぜ。……それよりも、和泉は何か買ったのか?」


 俺が小包を見ると、和泉は中を開き、2個のキーホルダーを取り出した。


 それは金属を花びらの形に加工してあり、椿の花の模様が入っている。


「これって……」


「私からのプレゼントだよ?今日のデートに付き合ってくれたお礼ってことで、ずっと前からオーダーメイドで作ってもらっていたの」


「……そうか。ありがとな、和泉。凄く嬉しい」


 自然と表情が緩んでしまい、俺はすぐに普段使っている方のスマホにキーホルダーを付ける。


「喜んでくれたなら良かった。内心、要らないって言われたらどうしようって思ってたから」


「人からもらう物は、要らないなんて言わない。それは相手に失礼だからな。でも、悪いな。俺の方は何もなくて……」


「ううん、私がそうしたいって思ったからそうしただけなんだから」


 時間を確認すると、もう5時を回っていた。


「あっ、もう5時を回ってたんだ。30分までには戻るように言われてるんだよね。……少し残念だけど、もうここで解散にしようか」


「いや、送るよ。彼氏じゃねぇけど、デートの最後ってそう言うものだろ?」


「それじゃあ、その言葉に甘えようかな!」


 デートの最後、俺は定時までに和泉をマンションまで送った。


 結局、このデートで得たものは……小さくは無かったな。

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