表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
記憶を辿る化かし合い
106/495

記憶泥棒の噂

 基樹side



 夏休みも後半に入ってきたけど……暇だなぁ。


 俺の予定では、この時期に彼女を作ってランデブーするはずだったのに、女の子と遊ぶ機会がないんだよね。


 マジ悲しい。


 やることがないし、女の子をナンパでもしようかと外に出て地下街をブラついていると、変な光景が目に入った。


 映画館の近くを通りかかった時のことだ。


 うちのクラスメイトで俺のダチである椿円華くんが、あのAクラスのマドンナ、和泉要ちゃんと手を繋いで……映画館に入っていっちゃったんですけどー!?


 どゆこと!?だって、円華って恵美ちゃんに気があるんじゃ……もしかして、二股ふたまたかける気かよ、あいつ!!


 初めの目的から変更!


 狩野基樹、偵察を開始します!!


 バレないようにサングラスをかけ、さりげなく2人から2つ後ろの列に並び、少し耳を傾けてお話を聞きましょうか。


「椿くんは、映画見る時に何か食べたり飲んだりするのかな?」


「雑音になるから、飲み食いはしないようにしてる。周りの観客への迷惑にもなるからな。特に、ポップコーンなんてもってのほかだと思ってる」


「あ~、確かにカサカサって音が苦手な人も居るよね。私は映画を見たら夢中になっちゃって気づかないけど」


「集中力が高いんだな、うらやましい」


 雑音とかポップコーンの話は良いから、何の映画を見るのかを話してくれよ、監視できないだろ!!


 俺の心の叫びが届いたのか、要ちゃんが映画のパンフレットを開いて円華に見せる。


「デートって言ったのに、サスペンス映画なんてムード無いよね。けど、この『皇帝ゲーム』って原作が凄く面白いんだ」


 皇帝ゲーム。


 確か話の内容は、深夜の学校に集められた男女合わせて27人が、皇帝と呼ばれる謎の存在の奴隷になり、命令を忠実に守れば生かされ、守らなければ即死。


 命令の内容は回数が増えるごとに、内容はエスカレートしていく。


 それだけなら普通のデスゲームだけど、命令を守ることができれば生存ポイントというものが与えられ、命令違反をポイントを払うことで無かったことにされ、ポイントはメンバー間で譲渡じょうとも奪うこともできる。


 人間の本性や駆け引きが人気の作品だ。


「へぇ。俺は読んだことないけど、和泉が面白いって言うなら楽しみだな。でも、少し意外だ。あんたは王道系のジャンルが好きなんだと思ってた」


「う~ん、私は別にジャンルで好き嫌いは無いかな。時代劇も好きだし、アニメもよく見る方だし。面白いものに、区別なんて無くない?」


「それもそうか」


 話をしていると、あっという間に2人の番になり、チケットを買って行ってしまった。


 俺も同じチケットを買ってバレないようについていき、離れてもなく近くもないシートに座る。


 原作が人気なだけあり、ほぼ満席状態だった。


 映画は原作に忠実に物語が展開していき、デスゲームお馴染みのグロいシーンも再現されている。……それにしてもこの映画、本当だったらR18じゃないの?だって、主役とヒロインのあの絡みのシーンなんて、絶対にヤっ……ウッウン!!何でもないっす。


 映画が終わり、俺は周りより早く外に出て、2人の反応を見ようとする。


 すると、あのいろんな意味でR18の映画を見たというのに円華はあの無表情を崩さずに平然と出て来て、要ちゃんはと言うと真っ赤になってる顔を両手で隠しながら、俯いて出てきました。


 と言うか、円華以外の人は全員、気まずそうに出てきたんだけどさぁ……。


 円華の反応が異常なんだよ、どうしてあれを見て平然としていられるの。


 あの無表情王子、意味わかんない!!


 映画館を後にし、レストランに向かった2人。


 しかも、ファミレスですよ。俺、1人でファミレスに入る勇気ない!


 そんな所に好都合にも2人の話せる女子2人発見。


 すぐに中に入り、円華たちに気づかれないように女子に近づく。


「ハロー、瑠璃ちゃんに久実ちゃん、相席OK?」


 話しかけたは良いが、瑠璃ちゃんにはギロッと睨まれ、久実ちゃんには「お?」と『おまえ誰だ?』って目を向けられた。


 急いで鏡を見れば、さっきからずっと着けていたサングラスを外してニコッと笑む。


 すると、安心したような2人に笑顔で「その顔はキモい!」と言われた。


 何?この同じ男でも円華と俺の対応の違い!!理不尽過ぎて、もう泣きそうなんすけど……。


 とりあえずは久実ちゃんの隣に座らせてもらい、少し遠くの方で座っている円華と要ちゃんを指さす。


「俺、今あの2人を尾行中なんだけど、手伝ってくれない?」


「……見るからにデートしているように見えるわね。円華くんはまだ、性には目覚めていないと認識していたのだけど。もしかして、私たちが知らなかっただけで2人はもう……」


「え、えー!?いや、ダメだよ。そんなの絶対にダメ!!だって、円華っちには恵美っちがーーむぐっ!!」


「は~い、久実ちゃん、1回落ちつこうか~?」


 俺は久実ちゃんの口を手で塞ぎ、これ以上言わせないようにする。


 それを言っちゃったら、円華と恵美ちゃんの2人から制裁を受けちゃうよ、この子!!


 瑠璃ちゃんは気にしていないようだが、ずっと円華たちの方を見ている。


 ……やっぱり、気になるよねぇ。


 俺も少しだけ2人の方を見ると、1人の面倒くさそうな男が近づいていくのが見えた。


 これ……大変だぞぉ?



 ーーーーー

 円華side



 よくもまぁ、学園はあんな映画を見せることを許可したものだな。


 あれは3年生限定の視聴にすべきだ。


 学園内で性犯罪を促進しようとしているようなものだぞ。


 時間が12時を回っていることもあり、和泉と共にファミレスに入った。


 店員に案内された席に対面するように座れば、俺はオムライスを、和泉はカルボナーラを頼んだ。


「さ、さっきの映画……の、事なんだけど……」


 和泉が気まずそうに、話題として映画のことを出そうとしている。変な空気になる前に先手を打つか。


「ああ、あれは凄かったな。主人公が裏工作をするタイミングや、皇帝の正体には気づいたけど、まさかヒロインを生かすとは思わなかった。ほとんどのデスゲーム系って、大概ヒロインとか主人公は殺すスタイルだからさ。ハッピーエンドとはいかなかったけど、納得がいくエンディングではあったと思う」


「そ、そうだよね。うん、私もそう思ってたんだ」


 そこから先は嫌な沈黙が流れ、いたたまれなくなってテーブルの上に置いてある氷入りの水を一口含んだ。


 すると、和泉は苦笑いをした。


「……やっぱり、他の男の子と居ると緊張するね」


「えっ……あっ、悪い。もしかして俺、気を使わせてるか?」


「ううん、そんなことはないよ。君こそ、私に気を使わなくても良いから」


「気を使ってるように見えるか?」


「う~ん、いつも通りだね」


 注意:俺と和泉は数回しか会っていない。


 なのに、いつも通りと言われる複雑さ。


 和泉は急に窓の外を見ると、黄昏たそがれているような表情をする。


「私ね、今まで近くに居た男の子って雨水だけなんだ。彼、私に他の男子が近づくと悪口を言って遠ざけるから、小学校の頃から通算しても、雨水以外では君が初めての男の子なんだよね。だから、ちょっと浮かれてるかも知れないね」


「……そうか。つまり、和泉と雨水は幼なじみってことだな」


「うん、そうなるよね。でも、そう言ったら雨水怒るんだ。『私はただの一執事です。それ以上でもそれ以下でもありません』ってね」


「頭硬いなぁ、あのアホ執事は。その性格が災いして、友達いなかったんじゃねぇの?」


 半目で言えば、和泉はクスッと笑う。


「うん、そうだね。雨水は私の執事ってことを意識しすぎて、友達は居ないかも。……椿くんの方はどうなの?幼なじみって居るのかな?」


「俺に?……俺は……」


 姉さん以外とは、積極的に人と関わろうとしなかったしな……けど……。


『ボクたち、友達になろうぜ!』


えんちゃん、かずちゃん、一緒に遊ぼ!』


 ……思い出したくもないことを、思い出してしまった。


 薄く微笑み、頭を横に振る。


「居ないよ。俺にそんな存在は居ない」


 今回の話は俺が話したくないと思ったので、強引に話を反らす。


「そんなことよりもさ。和泉……そろそろ、俺たちの()()()をしないか?そっちの方が、俺としては話しやすい題材だと思う」


「……そうだね。せっかく2人っきりなんだし、誰にも横槍を入れられずに意見交換でもしようか。……と言うのも、本当のことを言うと、椿くんに相談したいことがあったから、デートに誘ったんだけどね」


 はい、納得がいきました。


 ですよね、何か……うん、そうだろうとは思ってました。


 純粋にデートってことはないんだろうなって、はい。


 別に浮かれてないから、気にしてないんで。


 ……やっぱり、ちょっと泣きたいかも。


 そう心で呟きながらも、表面上平然として聞く体制に入る。


「……何かあったのか?今度はぐらかしたら、もう聞く気はないからな」


「手厳しいなぁ、はぐらかしたつもりはないのに~」


 少し落ち込んだような様子の和泉だが、すぐに少し真剣な表情になった。


「私ね、生徒会長さんから直接頼みごとをされたんだ。これについて情報を集めてほしいって」


 スマホで何かのページを出せば、俺に見せる和泉。


 画面には、『記憶泥棒の掲示板』と出ていた。


「記憶泥棒?」


「うん、とっても奇妙なサイトでね?名前の通り、記憶を盗むんだって。投稿者は匿名とくめいで記憶を盗んでほしい人の名前と、どういう記憶を盗んでほしいのかを書いたら、本当にその人のその書いた内容の記憶が無くなるみたい」


 そうか……記憶泥棒……ね。


「でも、それって学園の七不思議的なものなんじゃねぇのか?本当にそんなのを信じる奴なんて居るのかよ?」


「実例が多いことで、方法はわからないけど信用されてるみたい。記憶を盗む報酬として、投稿者のお金とポイントをもらっていくんだって」


「匿名なのに?どうやって……」


 独り言のつもりで呟いたが、和泉は両手で頬杖をつき、軽く頬を膨らませる。


「全然わからないし、謎過ぎるよねぇ。椿くんは、これについてどう思う?」


「どう思うって言われてもなぁ…。あの女が意味もなくそんなオカルトめいたものの情報を欲しがるとは思えない。……わかった、俺の方でも調べてみるさ。何かわかったら連絡する」


「うん、ありがとう」


 満面の笑みで和泉が礼を言ってくれたが、ある猫被り女のせいで人間不信になっている俺は何もときめかない。


 あれさえなければ、イチコロだったに違いない。


 鉄の精神を貫いていると、和泉は俺の右手を両手で握り、上目遣いの潤んだ目でじっと見つめてくる。


「本当にありがとう。椿くんが助けてくれるなら、心強いよ!」


「っ!!……そ、そうっすか……」


 それ、反則。男にやったら、ダメ、絶対!!


 パリンッ!!


 どこからかはわからないが、ガラスのコップが割れる音が聞こえてきて正気に戻る。


 音のした方を見ると、2つ後ろのテーブルの客の所に店員が向かっていくのが見えた。


「お、お客様、大丈夫ですか!?」


「問題ない、私のことは、気になさらず」


「はぁ……しかし……」


「お気に、なさらず……!!」


「は、はは、はいー!!」


 店員は恐くなって、片付けてすぐに離れていった。


 何だ?あの茶髪の女の客。えらく機嫌が悪そうだな。


 気にせずに和泉の方を向き直ると、俺は向こうの方から近づいてきている1人の男の存在に気づいた。


 あれ?あのドレッドヘアに何か見覚えがあるような……。


 気のせいだろうか、傲慢ごうまんな態度で道の真ん中を通りながらこっちに近づいてきている気がする。


 気づかないふりをしながら、必死に目線を窓側に反らす。


 関わりたくねぇ、気づかれたくねぇという気持ちを表していたのだが、その不自然な態度が災いしてしまった。


 奴が2メートルに近づいてきた所で、和泉が心配そうな表情になってこう言ってしまった。


「椿くん、どうしたの?大丈夫?」


 名前を呼ばれてしまった。


 すると、奴はこちらに近づいてきて、俺と和泉のテーブルの前に仁王立ちをした。


「おぉ、君たちはミス和泉とミスター椿ではないかね!このような低俗な庶民の場所で会うとは偶然ではないかね」


 最っっっっ悪‼


 俺は少し俯いて他人のふりを決め込もうとするが、和泉がニコッと笑って挨拶してしまった。


「こんにちは、幸崎くん。本当に偶然だね?でも、ファミレスを低俗なって言うのは酷いんじゃないかなぁ?」


「ふむ、しかし、このような1つも星がないレストランに、高貴な私が来ること事態が本来はナンセンスなことだ。私は前言を撤回するつもりはないが、このレベルが低すぎるレストランは私が客として来てやったことに対して感謝をするべきだろうねぇ」


 来たくないなら、とっとと帰れ。


 そう言ってやりたいが、言葉を交わすのも嫌だ。


 和泉は俺と幸崎を交互に見ると、首を傾げる。


「私は時々声をかけられるから知ってるけど、椿くんも幸崎くんと知り合いだったなんてね?彼、男の人の名前はなかなか覚えないんだよ?雨水のこともまだ覚えてくれてないし」


「へ、へぇ……」


 嬉しくねぇ~。


 なんなら、今すぐにでも俺のことなんて忘れてほしいくらい。


 記憶泥棒さんに早速依頼したい気分だ。


 幸崎は頼んでもないのに俺の長椅子の隣に座り、腕と足を組みやがった。


 体つきが良いせいか、今の俺が座れている椅子の面積は全体の3分の1である。


「ミスター椿は面白いボーイだ。この私が気分よく名を名乗ろうとしたのに、庶民の分際で興味がないと言い放ったくらいだからねぇ。さぁ、ミスター椿よ、今度こそ私の自己紹介を聞いてもらーー」


「だから、聞く気ねぇし、興味ねぇって」


「ハっハっハァー!!やはり、面白い!!」


 全然面白くねぇし、おまえ、声が無駄にでかいんだよ‼うるっせぇよ‼


 俺と幸崎を見てクスクスっと笑い、和泉は「まぁまぁ」と内なる怒りをなだめる。


「ここで知り合ったのも何かの縁だよ。自己紹介くらいは聞いてあげても良いんじゃないかな?」


「……和泉がそう言うなら、仕方ねぇか。……ほら、聞いてやるから、小さい声で言えよ?」


 1万歩譲って自己紹介を許すと、幸崎は俺の言ったことを聞いてないのか大きな声で「ハっハっハァー!!」っとまた大声を出して笑いやがった。


「そんなに聞きたかったのかい、ミスター椿。興味ないと言いながら、結局私の自己紹介を聞こうとするとは、これが低俗世間で言うツンデレというものかな?だが、良いだろう!特別に私の名を教えてやろうではないか!!光栄に思うが良い!!我が名はーー」


「なぁ、時間かかりそうだからドリンクバーに行ってきて良いか?」


「だ~から、聞いてあげようって。幸崎くんはこういうキャラだから友達が少ないんだよ~」


 和泉が必死に止めて来るので、もう死んだ目になりながらも無心で幸崎の話を聞き流す。


「我が名は幸崎ウィルヘルム!!今はCクラスを手中に収め、ゆくゆくは世界を支配する、神に選ばれし者だ!!」


「あー、はいはい、そうですかー」


 俺はもう力なくパチパチと手を叩き、和泉はニコニコっと見てるだけ。


 和泉はよく、こんなのが居て疲れないな。


 ……それにしても、Cクラスか……転入当初に絡んできた奴がリーダーだと思っていたが、奴が退学してリーダーはこのナルシになったのか。


 こんなのがリーダーで、Cクラスは大変だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ