一連の標的
今回のターゲットは、ポーカーズよりも捜すのが困難だ。成瀬から聞き出した情報だけが頼りの状態で、どうやって引き摺り出すかな。
記憶を消す、もしくは上書きする力を持った装置。それは異能具と同等かそれ以上の武器だ。
しかし、武器で良かったと思う。薬で目覚めた能力だった場合、俺のプランは2つとも使えなくなるところだった。
「どうするかなぁ……手がかりは……これ1つ」
スマホの写真で先程のメールのアドレスを撮らせてもらったが、今はカードとして使えない。今使えば、成瀬を消される可能性が高いからな。
両目を閉じていろいろと悩んでいると、いきなり頭に少し強い手刀をくらった。
頭を押さえながら見上げれば、恵美が少し怒ってる表情で俺の前に立って見下ろしていた。
「何故にチョップした?」
「人の部屋に入ってくるなり、すぐにボーッとしている円華が悪い。これからのことを話すって言ったのに、何も話が進んでない」
「あぁ~、そうだったな。なんせ、成瀬の話が衝撃的だったからさ」
恵美たちには、既に成瀬のことは話してある。
「彼女が住良木のことを覚えていたって話?私も聞いた時は驚いたけど、成瀬ならあり得る話なんじゃないかと思う。だって、学園長の孫娘なんでしょ?」
「……あぁ~あ」
言われて思い出した。そう言えば、成瀬ってそうだった。
……いや、逆におかしいだろ。あの学園長の孫だからこそ、この状況はあり得ないはずだ。
あの爺さんが成瀬の記憶だけを残しておくわけがない。
あいつを危険に巻き込むようなものだ。
なら、可能性が1つに絞られてきた。
何も、普通なら成瀬をクラス委員にする必要は無かったんだ。
クラスの誰でも代用は効く。
なのに、その中でも学園長の孫娘を選んだ理由……。
学園長の知らない所で、その孫娘を利用しようとする誰かが存在する。
そいつが、記憶消去をした奴らと繋がっている。
もしくはその武器を持っている。
話を聞いた時に、そのことに気づくべきだった。
これは、緋色の幻影の一連のプランだったんだ。
それも、俺があの時に引き金を引いてしまった。
俺はうすしお味のポテチを食べてる麗音を見る。
「麗音、学園長には監視の目はあったのか?」
「ん?学園長が今回の件と関係あるの?」
「今回の件だけじゃない。俺が接触したこと……麗音が菊池を殺すこと……あの時のメール……そして、3人以外の記憶消去。全てが学園長も監視対象になっていなければ、一連のことは成立しない」
「話が所々見えないんだけど、一応答えておくわ。組織は学園長のことも監視していた。確かジャックが担当だったはずだけど」
ジャック……そう言うことか。
奴は全てが合理的だと資料に書いてあった。
きっと、麗音の起こした事態も利用した。
それで俺に脅しのメールを送った。
そして、俺と麗音の衝突の結果によって複数の対応を想定していた。
ジャックめ……倒しても俺たちを追い詰めてくる。
「ジャックの当初の目的は、学園長を牽制することだった。そして、俺と恵美はそれにまんまと利用されそうになった」
おそらく、奴の予想では成瀬が何らかの形で俺たちに麗音の記憶があることを伝えるはずだった。
「俺たちが今の思考に辿りつくことで、成瀬を精神的な人質にするつもりだったんだ。関係ない成瀬を巻き込んでしまうかもしれない危険によって、俺たちがためらうことを読んで……。そして、学園長が俺たちに協力しないための人質としての価値もあったんだ」
改めて恐ろしい男だ、ジャック。
成瀬の行動1つで、俺たちは八方塞がりになるところだった。
BCの話では、あの強制ワードゲームには最高責任者の許可はなに1つ無かったらしい。
ジャックが学園長に成瀬のことをちらつかせ、実行できるように根回ししたとも考えられる。
学園側の発案だった場合、誰の許可印も要らないのかもしれない。
いろいろと辻褄があってきた。
話を聞き、麗音は言葉を失うが、恵美は軽く手を上げて俺を見る。
「でも、それって途中からあくまでも憶測だよね?本人に聞かないとわからないんじゃない?その話が本当なら、学園長も私たちと同じで住良木のことを覚えているはずだし」
恵美さん、今、とんでもない提案をしました。
「それ、言ったな?おまえ、それがどういう意味かわかっていて口にしたってことで良いんだよな?なぁ?」
半ギレで聞くと、恵美は数秒してからハッと気づいたようだ。
この場でわかっていないのは麗音だけ。
「ちょっと、2人だけでわかってても、あたしは仲間外れにされてるんだけど?学園長と時間を合わせられる伝でも……。あっ、そっか……」
言ってて麗音も気づいたようだ。
俺はこの学園に来てから、複数回も奴と接触して力を借りている。
今度も奴の力を借りなきゃいけないらしい。
……姉さん、これは試練なのか?俺が動こうとすると、あの女が何かと関わってくるのは。
でも、しょうがねぇよな
胃に穴が開かないことを祈るばかりでだ。
ーーーーー
その日の夜。
やる気ねぇ……と言うか、やりたくねぇ……本当のことを言うと関わりたくねぇ。
この言葉を心の中で何度も復唱しながらも、俺は自分の部屋でうちの本家の次期当主に電話をかける。
すると、すぐに出たみたいでそのイラつかせる声が耳に入ってきた。
『ハ~イ、円華ぁ。もう、この前会ったばかりなのに、もう電話してくるなんて、よっぽどお姉ちゃんのことが大好きなのねぇ~』
「黙れ、BC。本当は夏休み期間中はもう接触はしない気だったのを、わざわざ電話したんだ。頼みたいことがある」
『ふ~ん。お姉ちゃんにお願いしたいことがあるのね。この前は変なゲームの件で助けてもらったから、無償で聞いてあげるわ。何をしてほしいの~?』
もう2言だけでイライラする。
しかし耐えろ、俺。
「学園長にもう1度会わせてほしい。確認したいことがあるんだ」
『え?それは奇遇ね。この前、学園長と一緒に会食したことがあったんだけど、その時にあの人の方からも今度、学園長室にあなたを連れてくるように頼まれたのよぉ』
「その会食って、もしかして例のゲームが終わった後に開かれたんじゃないか?」
『え、ええ、その通りだけど……。何?学園長と会った時に何かあったの?』
「……悪いが、今のあんたに言っても意味がない。上手くことが運んだら、あんたにも話す。明日、学園長室に行ったら会えるのか?」
『タイミングが悪かったわね、少なくとも5日間はあの人の時間は割けないわ。……もしも、何か困っていることがあって手が必要なら、サポートに真央を送ることもできるけど?』
「考えておく。でも、今はいい。あんたの駒を借りるのは気が引けるからな。今は俺のカードで何とかする」
『そう、わかったわ。……あなたのその利用できるものをカードっていう言葉でくくるの、涼華さんと同じね』
「当たり前だろ。姉さんの影響は強く受けるさ。……過ごした年月はあんたを超えてるんだ。その分、本家への憎しみも増していたけどな」
最後に皮肉を言って電話を切れば、俺は久しぶりに落ち着けるベッドに寝転がった。
あぁ……静かだぁ……。
恵美も居ないし、麗音も彼女の部屋に居る。もしもまた口論になっていたとしても、壁は厚いし防音もしっかりしているから大丈夫。周りに迷惑をかけることはない。
レスタも今はスマホを充電しているのをきっかけにお休みモード?になっている。
無音が心地よく感じるのは、罪島に行ってから雪崩のようにいろいろなことが起こったことによる精神的な疲れが原因だろう。
今、自分の部屋のベッドに体を預けるまで、気を張っていたと思う。この学園に戻ることで、俺はまた敵の城に入り、狙う側でもあるが狙われる側にもなったと言うことだ。そして、どっちの立場にしても不利な状況にある。
それを打開するためにすべきことはもう頭の中に浮かんでいるが、それは例の記憶消去ができる武器を回収しなければ実行できない。
「学園長に会ったところで、未来には役立つが今の俺が知りたい情報は多分入らないよなぁ。麗音の話では、記憶消去に関する異能具を持っている者は存在する。だけど、その存在は謎に包まれている。ポーカーズの誰の部下かもわからず、どこのクラスかもわからない。……知られたら記憶を消している可能性もあるな。……記憶を消す相手に対抗する方法か……」
今までにないタイプのターゲットだ。
正体を突き止めることができたとしても、その記憶を消されるかもしれない。
俺がいくら白華や凍らせる能力を持っていても、戦う状況にならなければ役には立たない。少し未来が視える力も通じないかも知れない。
記憶……ある意味最強の能力の1つかもしれないな。
接触できたときを想定して、どうしたら追い詰めることができるかを考えていると、充電しているスマホに電話が鳴った。
BCからの嫌がらせかと思って画面を見れば、そこには意外な人物の名前が書いてあったので、何かあったのかと思って出てみる。
「もしもし」
『あっ、もしもし、椿くん?私々、和泉要だけど、今時間あるかな?』
「和泉……あまり話してやれる時間はないけど、どうかしたのか?」
ちなみに、俺はEクラスの奴らと岸野先生、そしてBC以外には電話番号は知られていないはずだったし、教えてもいない。
和泉はどうやって番号を調べたんだろうな。
『何かあったわけじゃないんだけどね?と言うか、これから何かしたいってことで相談したかったんだ』
「あのムカつく執事にご相談ください。それじゃーー」
『あ~、待って待って!!単刀直入に言うから電話を切ろうとしないで~~。……椿くんって、意外とせっかちだね』
「悪い悪い。最近、気を張りつめることが多くてさ」
『そうなんだ。じゃあ、そんな君には気分転換に持ってこいかもしれないね。明日、私とデートしてほしいんだけど、良いかな?』
「・・・はい?」
え?今……和泉さんは何とおっしゃいました?
勘違いでなければ、俺、今、1年生の中でもトップ10に入る美少女にデートに誘われてるのでしょうか?
いやいやいやいや、無いでしょ。無い無い。
だって……え?俺、和泉とクラス違うぜ?俺はEクラスで、あっちはAクラス。
接点は数えるほどしかないし……まず、どうして俺なんだろうか。
3秒くらいでここまで心の中で呟いていると、和泉が話を続ける。
『良いかな?って聞いてるけど、実を言うと椿くんに拒否権は無いんだよね。だって、私は椿くんに《《お返し》》をしてもらう立場にあるんだから』
「お返し?ちょっと、待ってくれ。あーっと……」
『もしかして、忘れちゃったかな?私がこの前のゲームを止めるために協力した条件として、椿くんに後日お返しを要求するって言ったんだけど』
思い出した、確かにそう言う約束してた。
「あぁぁ……そう……だな、確かにそうだった」
一体どれだけの金と能力点を払わされるのかと焦ったのも記憶に新しい。しかし、それとデートは何の関係があるんだろうか。
『私、椿くんとはクラスを通してだけじゃなくて、個人的にも仲良くしたいって思ってるの。だから、私とデートしてくれることが、君から私へのお返しだよ?……嫌、かな?』
「そうじゃない。けど、いろいろとうるさいだろ?きっと。特に、あの執事様が」
『雨水にはもう言ってあるから大丈夫。相手が君なら安心だって言ってたよ。……ただ、どうしてかはわからないけど、家からロングライフルを手配していたなぁ』
それ、安心の意味が絶対に違うよな!?
何か変なことをしたら、問答無用で俺を狙撃する気満々だよな、あのアホ執事!!
「はぁ……随分と唐突だけど、幸い明日は何も予定はねぇしな。了解した、明日は和泉に合わせるさ」
『じゃあ、明日の朝10時に街の大きな本屋さんで待ち合わせしよ。今からちょっとドキドキだね』
「くれぐれも心臓とストレスにお気をつけください。じゃあ、切るぞ?」
『うん、おやすみなさい』
電話を切ると、俺は寝転がった体勢で目を閉じ、明日のことと記憶消去対策のことを同時進行で考える。
和泉とデート……そもそも、デートって何をするんだ?わからないがなるようになる……だろう、多分。
考え事にも行き詰まっていたし、彼女が言っていた通り気分転換にもなるかもしれない。
何か得るものが1つでもあれば、上出来かもな。




