新しいスマホ
翌朝、島の沖に来れば、そこにはボートではなく普通のより少し小さな飛行機が在った。
ターイム!え?何?これってどう言うこと?
普通、こんな飛行機を国を通さずに用意することは可能なのだろうか?
いや、無理だろ。どういうコネを使ったら飛行機が手に入るんだよ。
俺と共に来ている恵美と麗音はそれぞれ違う反応をする。
恵美の方は飛行機を見ても特に驚くようなことはなく、麗音の方は俺と同じくらい唖然としており、頭を押さえる。
「本当に、大企業の後ろ楯があると普通じゃありえないこともやってくれるよね……」
「大企業?どこの話だ?」
「最上コーポレーションって会社がある。私のおじいさんが設立したらしくて、今は社長は別の人だけど、お父さんのコネで、生活面とかで支援してもらってる。情報とかITの分野で世界に進出している大企業……らしいけど」
その会社、名前だけ聞いたことある気がする。
確か、世界でも有数のIT会社じゃねぇか。
世界中の表と裏の情報を管理しているって噂があるくらいに。
「おまえ、凄い所のお嬢だったんだな」
「まぁ、それでもここに住んでる分には関係ないけどね。経営は完全に向こうに任せてあるらしいから」
3人でジェット機をじっと見ていると、後ろから師匠の声が聞こえてきた。
「飛行機に目が釘付けになっているとは、おまえたちもまだ純粋な心は持っているようだな」
「師匠、俺だって一応まだ高1なんですから、純粋な部分は残ってーー」
後ろを振り向きながら反論しようとすれば、そこに居た小さな幼女を見て目が点になる。
その幼女と目が合えば、彼女は俺に表情を変えずに手を小さく振ってくる。
あの子、見覚えがある。確か、俺が1人で居るときに話しかけてきた赤毛の不思議系の女の子だ。師匠の隣に立っており、手を繋いでいる。
端から見たら、誘拐犯と誘拐された子供だし、ロリコンとロリ。
師匠の場合はそんなことを絶対にしないと信じている。
信じては……いる……がぁ……。
幼女は師匠の手を離して俺に近づいてくると、目の前に立って見上げてくる。
「お兄さん、もうバイバイなの?」
「あ、あぁ、そうなんだ。解決しなければならない問題が生じてしまったからな」
「かいけつ……しょうじ……?」
「あーっと、悪い奴が居るから、退治しに行かなきゃいけねぇんだ。俺は正義の味方だからさ」
「そういうことなの?また、お兄さんは難しいことを言うの。もっとわかりやすく言ってくれないと、チカには難しいの」
「そ、そうだよなー、悪い悪い」
どうしてだろうか。
今俺の両隣に居る女子から冷たい目線を向けられており、遠くからは師匠に警戒心の乗った視線を向けられています。
え?これってもしかして、俺ってそういう奴だと思われてない?
いや、違うから。
全っ然違う。
俺、どっちかと言うと年上の方が良いし。
師匠が急いで近づいてきては、幼女の頭の上に軽く手を置いては俺に半目を向ける。
「娘に必要以上近づくな。おまえの毒牙で汚されてしまう」
「って、ちょっと待ってください!!自分の弟子を何だと思って……え?」
師匠に条件反射でツッコミを入れそうになれば、頭が急に冷静になり、頭の中にもろに『・・・』を浮かべて思考が停止した。
数秒ののちに再起動し、絶叫してしまう前に右手で自身の口を強く押さえ、師匠と幼女を交互に見る。
「し、師匠……?今、え?俺……聞き間違いをしたんすかね?今……娘って……」
「あぁ、娘の知佳だ。前に会ったようだが、何も言ってなかったのか?」
「あ、は、はい……って、ことはですよ?師匠って……既婚者……だったんすか?」
少しの間沈黙が流れ、師匠は溜め息をついて呆れたような表情をする。
「俺は養子なんてとってない。このことから、結果は見えてこないか?バカ弟子」
「あっ……で、ですよねー」
知らなかった。
ずっと師匠は未婚だと思ってた。
あれ?もしかして、俺ってそこら辺のことに鈍いのか?知らなかった。
それにしても、あの師匠と結婚できるほどの女性って一体……。
こんなスパルタの塊である堅物に、惚れるような女が想像できねぇ。
師匠が飛行機を出発させる準備をしている間に、優理花さんや東吾さんがわざわざ俺たちを見送りに来てくれた。
「本当はもっと一緒に居たかったわ。話も聞きたかったし」
「す、すいません……。けど、優理花さんのおかげで、俺のやるべきことが見えてきました。本当にありがとうございました」
俺が頭を下げると、優理花さんは戸惑って手を横に振る。
「そ、そんな…あたしは別に何もしてないから、礼なんて要らないっての」
「えっ……」
優理花さんの今の言葉の中で、俺は知佳ちゃんが言っていたことを思い出した。
『優理花ママも、よく『っての』って言うの。お兄さんと言い方が同じなの』
あれ、本当だったんだな……。何か、複雑じゃないけど……不思議な感覚だ。
優理花さんは俺の反応に少し首を傾げていたが、すぐに何かを思い出したような反応をし、ポケットからあるものを取り出した。
「これ、もしもの時のためにって主人から預かっていたものなんだけど、あなたに受け取ってほしい。良いかしら?」
「高太さんから?でも、これって……」
渡された物は白いスマホだった。
高太さんから預かっていたものってことは、重要なものだと思うけど。
「あなたの武器の力を本当の意味で使いこなすために、必要なものと言っていたわ」
「白華の力を……わかりました、ありがとうございます。なら、俺は……」
俺もズボンのポケットから黒いスマホを取り出せば、優理花さんに渡す。
「これを、高太さんが戻ってきた時に返してもらえますか?その時に、俺が『お世話になりました』って言っていたことを伝えてください」
「うん、確かに預かったわ」
白いスマホをじっと見て、俺は試しに白華の鞘にはめ込んでみる。
スマホから次の音声が発せられた。
『ダウンロード、及びアップデート完了。氷刀白華は、椿円華様の武器となりました』
これで、本当に白華は俺の刀となったような気がする。
変な感覚だけど、今ならこれをもっと上手く使えると思えた。
「また来たくなったら連絡しろよ?いつでも待ってるからな」
「うん……まぁ、考えとく」
「そこは頷くだけで良いんだよ!!恵美は本当に俺に対して冷たいな」
「おじさんが暑苦しいから、私が冷たい対応をして温度調節しているんだけど?」
「それはっ……よ、余計なお世話だろ、うん」
恵美と東吾さんが話し合っている所を見て、麗音は目を細める。
「大人に対してその対応はどうなのよ……」
「東吾おじさんは精神年齢が私と同程度だから問題ない」
「それは本人の前で言っていいの?」
「おじさんはそう言うのを気にしない人だから、別に良い。……どこかの誰かさんみたいに小さいことで怒ったりしないし」
「ちょっと、それは誰のことよ?」
麗音がジロッと睨むと、恵美は半目を向けて口の端を上げる。
「さぁ~、誰のことでしょうね~」
「うっわ、何よ、その顔。感じ悪っ」
「性格が極悪な女には絶対に言われたくないんですけど」
「はぁ?言ってる意味がわからないな~」
本当にこの2人は……。
俺が言い合いが激化する前に間に入ろうとすれば、師匠が飛行機の入り口から少し大きな声で俺たちを呼んだ。
「準備ができた。さっさと乗れ、時間が限られているんだろ?」
「あ、はい、師匠!」
俺たちは飛行機に乗り込み、その時に知佳ちゃんと師匠をさりげなく見た。
「行ってらっしゃいなの、パパ!」
「ああ、良い子にしてるんだぞ?知佳」
「うん!!」
師匠がパパと呼ばれた瞬間に吹き出して笑いそうになったのを耐えたが、それは当然本人に見透かされており、俺は離陸する前に頭に鉄拳制裁を受けてしまった。




