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カオスメイト ~この混沌とした学園で復讐を~  作者: カナト
始まりの場所
100/510

確立された道

 円華side



 高太さんの罪。それはイイヤツの心理操作の策にはまってしまい、多くの人を殺すことを選択したこと。


 しかし、それは本当に高太さんの罪なのか?


 結果的に殺してしまったことには代わりはない。でも、イイヤツが居なかったら生まれなかった惨劇と罪だ。


 高太さんがずっと苦しまなければならないなんてこと、そんなのって……。


 話を聞き終わり、俺は複雑な気持ちになる。高太さんが今背負っている十字架は、彼が自身をいましめるためのものだと俺は思う。


 2回、それも精神世界でだけだけど、俺は高太さんと会って感じたことがある。


 あの人の目は、そんな過去があるなんてわからないくらい……いや、今の話を聞いたからこそわかる。


 高太さんの瞳から感じる、優しいけれど強い眼光からは、何がなんでも大切な者を守るという覚悟を感じたんだ。


 俺にあの人と同じくらいの覚悟があるのだろうか。


 姉さんの復讐心を抱いている俺なんかには、純粋な守る覚悟を持つ高太さんは眩しく思える。


 優理花さんは考え込んでいる俺を見て、小さく息を吐いた。


「円華くんは今の話を聞いて、高太には罪がないって思ってる?」


「えっ……!?あの……まぁ……はい」


 この人、どうしてこうも俺の頭の中が読めるんだよ。俺ってそんなに顔に考えていることが出やすかったっけ?


 自分のポーカーフェイスに自信を失いかけているところに、優理花さんは話を続ける。


「……私も、この話を聞いた時に同じことを思ったから。だけどそのことを高太に言ったら、嬉しさと悲しさが入り交じった顔をしたわ」


「嬉しさと……悲しさ?」


「そう。そしてね、ちょっと怖いくらい真剣な顔でこう言ったわ」


 優理花さんは人差し指を立てた。


「『それがもしも限定されたり、誘導されたものだったとしても、そうすると決断したのは俺自身だから。決断した以上は俺の責任になる。だから、これは誰の罪でもなく俺の罪なんだ』ってね」


 決断した以上は、自分の責任……か。


 やっぱり、高太さんは凄いな。


 師匠と同じくらい尊敬できるかもしれない。


 優理花さんは、そんな凄い人の奥さんになったのか。


 そして、恵美はその2人の間に生まれたんだよな。


「……俺は、あの人に比べて覚悟が足りないのかもしれない。何をするにも優柔不断で、矛盾していて……。今では、俺は姉さんの復讐を果たしたいのか、大切な者を守りたいのかを選べない。これじゃ俺は、また失うことになるかもしれない。どうしたら、どちらか1つを選べますかね……」


 今回のリンカーの襲撃に際して、俺は恵美たちを守ろうとしたはずなのに能力に頼って敵を倒すことだけに思考を奪われてしまった。


 そして、挙げ句の果てには師匠が俺からみんなを護り、恵美によって俺は精神的に救われた。


 情けない。何が守るための復讐者だよ…‼


 身体に力が入るようになり、右手で拳を握る。


 すると、優理花さんはその温かい両手で俺の冷たい右手を被うように包んだ。


「あなたの中では、それは選択しなければならないことなの?」


「……重要な2つのことを同時にできるほど、器用じゃありませんから」


「そうね……でも、あなたがそうしたいと思って抗い続ければ、選ばなくても良いことになると思う。あなたはもう、大事な者を守りながら願いを叶える方法に気づいてるはずでしょ?」


 優しく微笑んでくれた優理花さんに、俺は目を少し見開いた。


「あなたが出会った高太や健人さんだって、1人で何でもできたわけじゃないわ。誰かに頼ることが苦手だったけど、それでもみんなで協力して困難に立ち向かい、一時的ではあったけど安らぎを得ることができた。私は、円華くんにもそうなれるように生きてほしい。だから、あなたにこの言葉を贈るわ」


 一旦言葉を区切り、少し潤んだ目で優理花さんはこう言った。


「今は無理かもしれない。でも、今は協力し合うために、誰かに助けてほしいって言えるように練習しよう……ね」


 何だろう。この言葉、どこかで聞いたような記憶がある。


 凄く安心する。


 そうか、俺は……あのとき、焦って1人で状況を打破しようとしていた。だけど、焦っても何も良いことは無かったんだ。


 精神世界で、俺は恵美と高太さんに助けられた。


 そして、狩原を倒す決意はあったけど、恵美を守りたいと言う意思は変わらなかった。


 それでも、2つの意思が入り交じることは無かった。


 じゃあ、俺の目指すべき形は……。


「……大切な守りながら、復讐を完遂する……。今の俺の実力で、それができるかはわからない。でも、俺だけで手が足りなかったら……」


 この島に来て良かった。


 高太さんとは本当の意味で会えなかったけど、優理花さんに会えて良かった。


 矛盾していると思っていた俺の目的を、実現する方法が見えてきたから。


「優理花さん、ありがとうございます。おかげで、今の俺がすべきことがわかりました」


「……力になれたなら良かった。なら、約束通り話したから私は行くね。ちゃんと休むのよ?」


「はい、わざわざ時間を取っていただき、ありがとうございした。」


 優理花さんは椅子から立ち上がり、ドアの前に立ってドアノブに手をかける。


 しかし、どうしてかはわからないけど、部屋から出ることに戸惑とまどっている。


 そして、少し無理しているような笑みを浮かべてこっちを向いた。


「円華くん……誕生日、おめでとう」


「えっ……あっ、そっか……。俺、今日が……誕生日……」


 数日前までは覚えていたけど、目覚めてすぐだと頭から抜けていた。


 優理花さんは部屋を出たので、俺はまた部屋に1人になる。


 動かせるようになった右手を前に上げ、手を広げる。


「16歳……か。別に何かが変わったわけじゃないし、実感はないんだよな。でも、変わるには良い節目かもしれないな……」


 少し静寂せいじゃくを感じていると、頭を整理しようとし、もう1度睡眠を取ろうとする。すると、ガチャっとドアが開いた。


 ちょっと待ってくれよ、俺が寝ようとしたら誰か来てないか?寝させないつもりかよ。


 目を開け、上半身を動かせるようになったので起こしてドアの方を見ると、そこに立っていたのは恵美だった。


 どうやら、麗音との口喧嘩は終わったようだな。


 さっきの俺の態度にまだ落ち込んでいるのか、どこかよそよそしい。


「お……おっす」


「あ、あぁ。……って、おまえ、そんな挨拶したことあったか?」


「う、うるさいしっ。……そんなのは別にどうだって良いでしょ」


 恵美は目を俺からそらしており、少しモジモジしている。


 俺は頭の後ろをかいて半目を向ける。


「……トイレ行きたいなら、先に行ってきてーー」


「違うから、失礼だし、デリカシーない!!」


「また川柳風……。冗談だって。おまえが何か緊張してるようだから、それをほぐそうとしただけだ」


「余計なお世話」


 恵美は俺に近づくと、椅子ではなくそのままベッドに座った。


「さっきはうるさい住良木のせいで聞きそびれちゃったけど、具合はどう?」


「少しずつだけど、動けるようにはなってきた。2日も寝てると身体が固まってくるな。また鍛え直しだ……いろんな意味でな」


 両手をグーパーと動かしながら言うが、恵美は特に反応はしなかった。


「そう言えば、円華はこれからどうするの?お父さんのことは少しは聞けたし、あとは……涼華さんのことを聞きたいんだよね?でも、予想外にお父さんが居ないし……。ごめんね、お父さんが居たら、話してもらえると思ったんだけど」


 恵美が申し訳なさそうに言えば、俺は首を横に振る。


「大丈夫だ、今は気にしてない。当初の予定とは違うけど、この島に来た意味はあったさ。いろいろなことを知れたし、得るものもあった。だから、明日にでも学園に戻ろうと思ってる。夏休みが終わる前に、やっておかなきゃいけないことを思いついたからな」


「夏休みの間にってこと?それって……」


 口の下に人差し指を当てて考えているが思いつかない様子の恵美。


 これ、絶対に言ったら怒るよなぁ……。


「麗音を、こちらのカードとして才王学園に戻そうと思ってる」



 ーーーーー



 ついさっき知ったが、住良木麗音が監禁?もしくは保護?されている場所は地下の部屋の1つだった。


 身体が上も下も動けるようになったのは夕方で、俺は1人で地下に降り、彼女が居る部屋の前に立って2回ノックする。


 すると、俺が来ることに気づいたのか、何の警戒もない声で「入って」と上から言われた。


 ドアを開けて入ってみれば、猫被りだった白髪の女は俺を見て怯えるでもなく、ただベッドに足を組んで座っていた。


「あたしに会いに来いと言って、次は自分から会いに来てくれるなんて、あんたってあたしに気でもあるの?」


「ざけんな。そんなわけねぇだろ」


「もう、冗談なのに。そんなに不機嫌な顔しなくても良くない?」


 麗音は素のままで俺に笑みを浮かべてくる。それが俺には背筋が凍るくらいに気持ち悪い。


 何を考えているのかがわからないからな。


 しかし、これから俺はこいつに『お願い』をしなければならない立場にある。


 ある程度は我慢しよう。


 麗音と対面するように立ち、壁に背中を預けながら腕を組む。


 態度は悪いが、この女に頼みごとをする時にへりくだるつもりはない。


「住良木麗音、おまえは俺に、これからどうしたら良いのかを聞いてきた。その時の言い方は、いかにも俺に責任を感じさせるようだったな」


「……何?もしかして、さっきのことを怒ってるの?」


 麗音が半目を向けてくるが、俺は口元をゆるめて首を横に振る。


「怒ってなんてないさ。ただ、ちょっと反省したんだ。確かに、俺は麗音のことを追い詰めてしまった、それも2回。それは俺の責任だ。……だから、俺なりにおまえに償おうと思った」


「ねぇ、何を言いたいのかが全くわからないんですけど?あたしが、あんたのその言葉を信じると思う?信じる前に疑えって言った本人を」


 下から目線で目を細める麗音に対し、欠伸あくびをしながら頭をかく俺。


「信じるかどうかはおまえが決めろ。信じてくれるならそれに越したことはない。だけど、疑うなら疑えば良いし、信じないなら信じないで良いとも思ってる。俺ができるのは、おまえに信じさせる要素を提示することだけだからな」


「……はぁ、少し変わったと思ったけど、その期待していない感は変わってない。でも、わかったわよ、話だけ聞く」


「そうか。それは良かった」


 まぁ、最初から話を聞かせるように誘導していたんだけどな。


 住良木麗音には、あまのじゃくの部分があることには薄々気づいていた。


 だから、やる気がない風を装いながら話すことで、俺が麗音に『話を聞かない』と言う予測を軸に話していると勝手にイメージさせ、それに反発するように話を聞く選択をさせた。


「単刀直入に言って、俺はおまえに学園に戻ってほしいと思っている。それも、こちら側としてだ。俺が責任をとって、何もできない状況からおまえを出す。それが俺の償いだ。そのための方法も2通り考えてある」


「ちっ、ちょっと待ちなさいよ!!あたしが言ったことを忘れたの!?学園に戻ったら今度こそ消されるんだって!!あんた、あたしに死ねって言ってるの!?」


 麗音の驚きと戸惑いはもっともだ。


 何の考えも無しにこんなことを言われれば、『死んでくれ』と言っているに等しい。


 無能の前に、そいつは無脳だな。


 しかし、それが本当に何の考えも無しに言ったらの話だ。


「死ねなんて言うはずがない。今の俺には、目的を遂行するだけの手が足りない。麗音が必要なんだ。だから、おまえが俺に協力してくれるのなら、あらゆる手を使ってでも障害は排除するさ。方法は考えてあるって言ったろ?」


 俺の言葉に考えるだけの説得力を感じたとは思えないが、麗音は思考を巡らしているように見える。そして、しばらくして口を開いた。


「その方法って言うの、聞かせてくれるんでしょうね?」


「当然だ。おまえには聞く権利がある」


 俺はついさっき思いついた計画を麗音に時々質問をしながら話した。


 それは自分で言うのもあれだが、成功する可能性は五分五分だ。


 それでも、できなければ何もできない。


 麗音は全ての話を黙って聞いてくれたが、所々で信じられないと言うように目を見開いていた。


「ーーってこと何だけどさ、良くてプランA、最悪でもプランBになる。それも、後者になれば負担が大きい。これを利用するかどうかは、麗音に任せる」


「……信じられない。どんな頭をしてたらそんなことを思いつくの?相手はあんたでも()()()()()かどうかわからない奴なのに、それを捕らえて利用しようとするなんて……」


「正しくは、捕らえて力を利用する……だけどな。俺の予測は今、おまえの話で確信に変わった。だったら、そんな強力な武器を利用しない奴は居ないだろ」


 俺がさも当然の様に言えば、麗音は呆れたように深い溜め息をつき、強い眼差しで見てきた。


「円華くんがそう言うなら、そうした方が良いんでしょうね。……決めた、あたしはその計画に乗る。誰かがこんなあたしを必要としてくれるなら、それに協力するわ」


「うわぁ、元殺人者さんから似合わない言葉が出てきた。寒気がする」


「ちょっと……それを大量殺人を犯した元・伝説の暗殺者さんに言われたくないんですけど?」


 麗音に言い返されて苦笑いをすれば、彼女はしてやったと言うように笑みを浮かべた。

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