最後の誓い
ー運命の1年前ー
辺りは夜の闇を溶かすように、緑の炎が燃え広がっている。
バイザー越しに目の前に映るのは、藍色の美しい髪を後ろで結んでいる女性
俺は彼女の頭を右手で掴み、炎を灯した左腕の手刀を腹部に貫通させている。
「んぶはぁ‼…っ…見事だ……。完全に、迷いを…捨てた……ようだな。……私の、想定を……ここまで、超えるとは…な」
『これが、俺たちの意志だ』
左腕を腹部から抜き、貫通した腹部は燃やして止血する。
自分が、今、何をしたのか。
わかっている。
自身の血に染まっている手を見て、自覚する。
目の前で倒れている、藍色の髪をした女教師を見下ろす。
手をかけたのは、俺自身だ。
『……』
こういう時、どんな顔をすれば良いのかわからない。
彼女は腹を貫かれようとも、虫の息になりながら口を開く。
「……満足…か…?これで……おまえたちの…目的は……果た…された…」
返す言葉が見つからず、仮面越しに見下ろすことしかできない。
「しかし…私が……ここで、倒れようと……おまえの、望みは……叶わない。私の、遺志を……継ぐ……者が……成し、遂げる…」
その言葉に腸が煮えくり返るほどの怒りを覚え、血に塗れた手で拳を強く握って震わせる。
『…それでも、俺は覇道を突き進む。それが、約束だからだ。その邪魔をする者は、誰であろうと踏み潰す。どこの誰であろうとも』
俺の答えが耳に届いたのか、彼女は悲し気な表情で目の色を変えて手を伸ばす。
「…ははっ……まさか、ここまでとは……思わなかったぜ。成長……したな。だけど……」
膝を突き、その手を取って強く握る。
『……これが俺の出した答えだ。誰に否定されようともかまわない』
「バカ野郎……。だけど、それも……仕方ねぇ…かもな。全て、オレのせいだ…」
彼女を自身の蒼きマントで包んで両手で抱きかかえ、緑炎の中を突き進む。
『涼華先生……あなたのことは、忘れない。俺の覇道の最初の犠牲者として、胸に留めておく』
緑炎を抜け、多くのバラが咲いている花園の中央に降ろす。
そして、胸の位置で手を組ませて祈りを捧げる。
『どれほどの屍を越えることになろうとも、辿り着いてみせる。――――希望と絶望のその先へ』
マントを身に纏い、その場を去ろうとすれば「待…て……」と弱弱しい声が耳に入る。
その言葉に足を止めれど、後ろを振り返ることはできない。
「げほっ…‼……おまえは、確かに…強くなった。……だけど……おまえのその願いは、叶わないだろうな……」
今の俺には、この装着している鎧を脱ぎ、彼女に最後に笑顔を向けることもできない。
「……これから、先……おまえを、超える…可能性がある者が、いつの日か……現れる……かも、しれない。その時、そいつは、おまえを―――」
彼女の言葉にドクンっと胸を打たれ、身体を震わせる。
『そんな相手……現れる、はずがない』
「ふっ……どうだろうなぁ?……そう言う奴、なんだよ……あいつは…さ……」
彼女は……椿涼華は、その言葉を最後に何も言わなくなった。
感情の高ぶりが抑えられずに振り返れば、俺の視界に飛び込んできたのは。
眠るように息を引き取った、安らかな笑みを浮かべた彼女の顔だった。
感想、評価、ブックマーク登録、よろしくお願いします。