無敵の男
12月8日 立花探偵事務所
「知らせが2つある。」
ソファーに腰掛ける不知火が唐突にきりだす。
「前回の倉庫襲撃事件をふまえてこの辺りの警備を強化することが決まってな。
他所の県から協力者団体が1つこっちに事務所を移すことになった。」
「へー、どんな人なの?」
春人は机に積んである書類に目を通しながら返事をする。
「尋問のスペシャリストって聞いてるけどな、
詳しくは俺もまだ知らんのだわ。」
「ふーん、もう一つは?」
書類に集中しているのか、適当な返事をする春人。
「もう一つは、ここの事務所に最適な人物が見つかった。」
その言葉を聞いて、春人の手が止まる。
「不知火さんが言ってた戦闘要員の話?」
「あぁ、お前は充分強いけどな、それでも1人でやれることは限られてる。
ここらでもう1人くらい戦える奴が必要だと思ってな。」
不知火は周りを見渡し、鈴音が居ないことを確認するとタバコに火をつけようとする。
が、春人の後ろに控えていた、梓にひったくられると、そのままゴミ箱に捨てられる。
「あぁっ!!またかよ!」
叫びも虚しくゴミ箱に吸いこまれていくタバコを見送る不知火。
「タバコ。嫌い。」
「ご愁傷さま。」
淡々と言い放つ梓と、どこか馬鹿にしたような春人を少し睨んだ後
「ちっ、まぁいいや。」
不知火は諦めたように言葉を続ける。
「新しくここに入れたい奴なんだけどな。
話を聞く限りでは、相当戦える奴みたいなんだわ。
ただ…」
「何か問題あるの?」
「ただな、そいつは異世界に飛ばされる前から、この辺りを仕切ってた暴走族の頭でな。
素直にこっちに従うとも思えないんだよな。」
不知火は少し息を吐くと
「それでも会ってみる気はあるか?」
不知火の言葉に、春人は薄く笑うと、
「上等だよ。」
市内。深夜の公園。
「最近奴はこの辺りに仲間を連れてたむろしてるらしいんだが。」
不知火と2人で深夜の公園に赴いた春人は辺りを見回す。
「確かに、こっちに向かってくる単車の音が聞こえるね。」
「ん?そんなの聞こえねぇぞ?」
「あぁ、俺は身体強化の魔法常にかけてるからさ。」
何でもないように言う春人と、あまり理解出来ていない不知火がくだらない会話を続けていると、
不知火にも聞こえるような、バイクの音が近づいてきた。
続いて、公園の中に4台のバイクが入ってくると、5人の男と2人の女が、バイクから降りて春人達の方へと向かってくる。
「なんか、いかにもって感じの子達だね。」
春人はバイクから降り、こちらに向かってくる集団をみて、そんな感想をこぼす。
バイクから降りて何やら話しながら近づいてくる集団の先頭を歩く、目が眩むような金髪をトサカのようにたたせた、ガタイのいい男が春人の視線に気づいて話しかけてくる。
「なんだよ?俺の顔になんかついてる?」
男は春人にガンを飛ばしながら距離を詰めてくる。
春人は怖がったそぶりも見せずに不知火に尋ねる。
「不知火さん、この子が例の?」
「あぁ、コイツだ。」
2人は短く会話を交わし、その後不知火は春人から距離をとる。
「はじめまして、安達和哉君。」
依然春人にメンチをきる男に爽やかな笑顔で話しかける春人。
「あぁん?誰?あんた。
何で俺の名前知ってか知らねぇけど、舐めてたら潰すよ?」
春人の態度に苛立ちを募らせた男、和哉は更に春人との距離を詰め、顔がくっつく程の距離で睨みつけてくる。
「いや、君が相当腕がたつって聞いたからさ、
是非うちで働いて貰えないかなって思ってスカウトにきたんだよね。
俺は立花探偵事務所の立花春人。
異能力者犯罪を専門に色々やってるんだけど、
人手が足りなくてね。和哉君さえよければうちで働いてみない?」
春人は落ち着いた様子で和哉に問う。
が、
「俺は誰かの下につく気はねぇよ。
つーか、俺より弱ぇ奴の言うことなんか何で聞く必要があんの?」
尚も強気な和哉に対して、先程まで穏やかな雰囲気だった春人は一変して表情を冷たくし、
「自分より弱いやつね…
じゃあ試してみる?」
春人を中心に普通の人間ならば立っていられ無いような突風が吹き荒れる。
和哉の後ろでニヤニヤしながら様子を見ていた取り巻き達は春人の圧によって飛ばされていくも、至近距離に居る和哉はびくともしない。
「おもしれぇ。
異世界から帰ってきてから、ろくに喧嘩できる奴もいなくて飽き飽きしてたとこだ。
てめぇのその余裕かました面凹ましてやるよぉ!!」
和哉は叫ぶと春人の顔面目がけて拳を振るう。
「短距離転移」
一瞬で和哉の背後に現れた春人は、姿勢の崩れた和哉の体を押し倒そうとするも、
「しゃらくせぇ!!」
和哉はその崩れたたいせいからそのまま裏拳を放つ。
和哉の戦闘センスに驚きながらも春人は突然飛んできた裏拳を軽くいなすと、1度バックステップし、距離をとる。
「今の避けるなんて、なかなかやるじゃねぇか」
「和哉君こそ、なかなかの勝負感だよ。」
短く言葉を交わすと再び距離を詰め、激しく殴り合う。
手数は圧倒的に和哉が多いものの春人は尽くを軽くいなしていく。
むしろ手を抜いているかのようで和哉のフラストレーションは溜まっていく。
「あぁぁっ!!ムカつくなぁ!テメェっ!
いいさ、てめぇがそのつもりなら、マジで完膚なきまでに叩き潰してやるよ!!」
和哉は叫ぶと、1度距離を取り。
「パーフェクトタイム!!」
和哉がそう唱えると明らかに雰囲気が変わる
「これから先、俺は無敵だ!!」
「おっと、マジでやばそうだねこれは。」
明らかに雰囲気の変わった相手に対して少し焦りの表情を見せる春人に、目にも止まらぬ速さで突っ込んでくる和哉。
「グランドスマッシュ!」
大きく振りかぶり拳を突き出す和哉の攻撃を、すんでのところで回避する春人。
行き場を失った力は、空気を揺らしその振動で公園の地面が割れる。
その振動を間近で受けながらも和哉の攻撃を避け続ける春人。
「ちょこまかとうっとおしいな!!
テメェ!!ヤル気がねぇなら失せやがれ!!」
いくら攻撃を繰り返しても避けるだけの春人にいい加減嫌気がさしたのか、和哉は攻撃の手を止め春人に怒鳴る。
「いや、俺は君を勧誘しに来ただけだからね。
でも、どうしても俺の力が知りたいなら」
そこで1度言葉を止めると、
「覚悟しろよ?」
春人が言葉を発した瞬間先程まで戦闘音や、春人と和哉のオーラでざわめいていた公園から全ての音が消えた。
まるで、木々や地面、空気さえも死んでしまったかのように息をひそめる。
先程春人を中心に吹き荒れた突風とはうって変わって肌を刺すような死の気配だけが空間を支配する。
その圧倒的なオーラに和哉はなす術もなく地面へと膝をつくと、
「…すげぇ」
と一言呟いた。
翌日、立花探偵事務所
「つー訳で、今日からここで厄介になる、安達和哉っす!よろしくっす!!」
昨日の出来事はなんだったのか、事務所内には明るく自己紹介する和哉の姿があった。
「…立花。この頭の悪そうな男はなんだ。」
「ん?今日から一緒に働く和哉君だよ、仲良くしてね梓ちゃん。」
「梓姐さん、よろしくっす!」
「触るな。それに、貴方の方が年上。」
「先に組に入ってたのは姐さんですから!年なんて関係ねぇっす!」
「組って呼び方は止めてくれない?」
梓に近寄ろうとする和哉から逃げる様に春人の後ろに隠れる梓。
それを苦笑いで眺める春人。
いつも以上に賑やかな事務所の奥、リビングの扉が勢いよく開くと、
「…うるさ」
目に見える黒いオーラを出しなら鈴音が呟く。
「「「ごめんなさい。」」」
安達 和哉19歳
身長176cm
体重74kg
転移先 地下闘技場
ジャンル バトルアクション
異能力パーフェクトタイム
容姿 明るい金髪をトサカのように逆立たせていて、筋肉だけで出来ているかのようなガタイの良さだが、体重もそれほど重くなく、着痩せするタイプ。
転移されたのは2年程前で、転移前は土木作業員として働きながら暴走族の頭をしていた。
転移された先は地下闘技場で、そこを牛耳るチャンピオンを倒すことが目的だった。
能力のパーフェクトタイムは3分間限定で、自分の能力を大幅に上げることができる。
本人も言っていたように、無敵、とまで言われる能力、まだまだ秘密がありそうだが…




