五話
前回までのあらすじ
修行デイズ
それから更に数日が経った。村から出発してから十三日ほどか。
その間俺たち一行はほとんど魔物と遭遇することもなくラステルまでの道程を進んでいた。
流石旅馴れた冒険者というべきか。魔物の出やすい場所出にくい場所なんかはある程度把握してるらしい。おかげで旅だというのにしっかり修行に打ち込むことができた。
いやまあ全然強くはなってないんだけどね。一応防御は上達してるけど攻撃に関しては全然だったりする。
まあ鞘に入ったままの剣での戦い方なんぞだれが教えられるかって話なのだが。今は棒術の応用を習っているがそれで殴っても威力ないし。
「うう・・・」
とはいえ旅をしながら修行というのはなかなか疲れる。特にここ数日は寝ずの番も満足にこなせず夜はぐっすりと眠ってしまっている。それでも疲れが抜けきらないのだから自分の体力の無さに悲しくなる。
「ま、最初はそんなもんでしょ」
ちょっとだけへこんでいた俺にカリスはあっけらかんと言った。おま、人の悩みをそんな軽々しく。
「私だって最初から動けてたわけじゃないしそもそも急に強くなったって振り回されるだけよ? 焦るのは分かるがね、こういうのは一歩一歩地道に進んでくしかないのだよ」
「良いこと言ってるとは思うけどなにその口調」
「弟子を導く師匠風な?」
ポジション的にはそうだけども。
「ま、なんにせよ焦らないこと。 焦ったって碌なことにならないし今できることをやるべき、ってね」
・・・なんていうか初めてカリスを尊敬した。なお、それをそのまま口に出したら「私尊敬されてなかったのかよ!」と頭にチョップされた。
そして十五日目の昼過ぎ、俺たちはようやく港町ラステルにたどり着いた。
・・・のだがそれと同時に俺は熱を出してしまった。きっと旅と修行の疲れが一気にきたのだろう。悔しいが今の俺はこの程度なのだ。
そんなわけで俺は港町について早々、観光することもできず宿に引きこもることになったのだった。
ずしり、と頭が重い。ぼんやりとした視界で辺りを見回して宿の部屋であることを思い出す。思考が鈍い。
一日中寝込んでいたおかげかだいぶ楽になったがまだ熱は下がりきってないようだ。
とりあえず水でも飲もう。えーと、水差しとコップは・・・あれ、なんだこれ?手紙?
机の上に置いてあった手紙を広げる。ライナードからだ。
手紙によるとライナードは協力者との顔合わせに行っているらしい。まあ俺が倒れたからといって待たせ続けるのもあれだし。
そんでもってローランたち冒険者たちとは一旦別れた。彼らだってお金稼がなきゃいけないからこれは仕方がない。といっても同じ町にいるし困ったことがあればいつでも頼れとの事なのでその時は遠慮なく頼らせてもらおう。
はあ、とにかく熱が下がらないことにはや何もできそうにない。回復魔法も病気は治せないようなので今は安静にしていよう。
そういえばこの世界は魔法があったりするけど他の技能・・・例えばゲームなんかでいう『スキル』のようなものはないのだろうか?
そういうのがあれば非力な俺でも戦えると思うのだが、ちょっと女神さまに聞いてみよう。
女神さま、女神さまー?
『イニャスさん! ご気分はいかがですか?』
だいぶ楽になったよ。
『それは良かったです。 でもまだ休んでなきゃ駄目ですよ? ところでなんの用でしょう?』
ちょっと聞きたいことあって、この世界にスキルとかってないの?
『スキル・・・ですか?』
うん、俺あんまり外出たことないからそういう技術があるかどうか知らなくてさ。
『えっと、この世界にはそういったシステム、所謂世界の理のようなものですがそういうのはありませんよ』
そっかー、残念。やっぱカリスの言う通り地道に強くなるしかないか。
『あの、イニャスさん。 どこでこのような知識を?』
あー・・・うん、まあ話してもいいかな。
実は俺には前世の記憶みたいなものがあってね。こことは違う世界で・・・大したことは覚えてないんだけどそういう雑学?みたいなのはけっこう覚えてるんだよね。
『なるほど・・・イニャスさんから感じていた違和感はそれだったんですね』
違和感?
『はい。 なんといいますか、私とお話しできることもそうですしこう、魂の感じがイニャスさんは他の人とは違うなと感じていたんです。 勇者とも違う別のものを』
ふむ、さすが女神さま。そういうのもわかるんだ。
『もっともわかるのはそれくらいなんですけどね。 まだその事ががどのような影響を持つかもわかりません』
悪い影響がなければなんでもいいけど・・・あ、もしかしてエルザに監禁紛いのことされたのは!
『関係ないと思いますよ?』
あっ、そうですか。
女神さまとのお話が終わってそれからしばらくしてライナードが戻ってきた。
「顔色は良くなったな。 ほら、果物買ってきたんだ。 食べるだろ?」
わぁい!果物大好き!
熱出した時に果物剥いてもらうのって一種の醍醐味だよね。
「にしてもこんな風にお前と少し前なら想像もできなかった」
「そんなに?」
「正直驚いた。 最後に会ったときお前はエルザを受け入れてたように見えたからな」
あー、あん時はね・・・。
「・・・あの時はこれでエルザが楽になるなら良いと思ってた。 でも、1年ぐらい前かな? それぐらいからなんだかこのままじゃ駄目だって思い始めて・・・」
俺に依存し続けるエルザを見ていて不安になったのだ。自分が現状を受け入れていることでエルザの可能性を潰してしまっているのではないかと。
「それからは機会があれば少しの間だけでもエルザと離れようと思ってた。 そうするほうがエルザのためになるんじゃないかって思ってね」
「なるほどな」
まあヒモとしての生活に飽き飽きしたってのもあるんですがね。いやだってほぼ毎日家の中で過ごして同じ生活パターンとか辛い。箱入り娘かよってレベルだったし。
「それはともかく、ライナードはこれからどうするの? 護衛って話だったけど目的地には着いたし城に帰るの?」
「そうなるだろうな。 だが少なくともお前が自立できるまではいるさ。 もっとも一度は報告に戻るが」
「過保護」
「かもな。 だがそれだけ心配してるってことだ。 今みたいに病気になることだってあるしな」
はあ。自立は遠そうだなぁ・・・。
その時、地面が大きく揺れた。
「うわっ!?」
「今のは!?」
じ、地震かな?でも一回しか揺れてない。でもそんなこと地震じゃありえないよね?
ライナードが立ち上がって武器を持った。
「いいか、外を見てくるからお前はここにいろ!」
「俺もいっしょに・・・」
「駄目だ! 何があるかわからないしまだ熱があるだろう? ここで待ってるんだ」
ぐぬぬ、熱はもうほとんど下がったのに・・・!
ライナードはぐぬぬしている間に行ってしまった。ここで待ってろとは言われてけどまってるだけって不安なんだよね。
・・・やっぱこのまま待ってるなんてできない。様子だけでも見に行こう。
そうと決めたら服を着替えてローブを羽織り、剣を掴むと宿から飛び出した。
あとで加筆出来たらいいなあ