四話
前回のあらすじ
前科、じゃなくて初戦果。
次の日の朝、俺はカリスの提案で武具店で買った旅装束一式に身を包んでいた。
「そんな格好で旅なめてんのか」とはちょっと丈夫な普段着しか持ってないことを知られたときのカリスのお言葉である。
丈夫な布で作られた旅人用のチュニックとズボン。それと身体をすっぽりと包む前開きローブのセットで駆け出し冒険者に人気の商品らしい。
「どう? どう? 似合う?」
本来なら旅人用の服の上から皮鎧を着てローブは夜など気温が下がった時だけ着るのが一般的らしいが俺の場合皮鎧ですら装備すると動きが鈍くなるので代わりにローブを常に着て防御力を高めている。そのせいで見た目魔法使いである。魔法使えんけど。
まあ今の俺の力量的には魔法の使えない魔法使いみたいなもんだから大体間違ってないだろう。
「似合うけどさー、軽装過ぎない? 皮鎧ぐらい買えるでしょ?」
「イニャスのやつが嫌がったんだ。 動けなくなるって」
ゲーム風に言えばあれだ。装備するにはステータスが足りない!みたいな?
無理矢理装備することもできるがその場合はステータスにマイナス補整がかかるパターンだ。
「で、武器は?」
「自前のがあるよ」
剣としては使えないけどな!主に用途は鈍器です。もしくはこう、両手で鞘を持って槍みたいに使ったりとか。
もっともこの聖剣は大剣に分類される大きさだから扱いづらいったらないのだが。重いから予備の武器も持てない有り様。これはひどい。
当面の目標は鍛えて標準的な防具を装備できるようになることである。でも正直鉄の鎧とかを身に付けてる姿は自分でも想像できない。
そんなわけで装備を整え、それから食糧を買ってライナードの方も装備の一部を旅に適したものに変えていて準備は万端。
ローランたちも十日ほどとはいえ旅をするため武器の整備や物資の補充を済ませたようだ。
ちなみに今回の護衛の依頼料は銀貨十枚。
えーと、銀貨は大銅貨十枚分で大銅貨は銅貨十枚分。銅貨一枚で一番安いパンが一つ買えるから・・・依頼料はパン千個分ということか。
ちなみに大銅貨一枚で食堂で標準的な成人男性が満足できる量とそれなりの質の食事ができるとされている。まあ家計預かっていた身としては使いすぎだろって感じだけど。俺なら銅貨五枚で満足できるもの作れるのに。
こほん、それはともかくだ。
それだけで考えると銀貨十枚というのはそれなりの値段のような気がするが武器の整備、アイテムの購入などで銀貨五枚弱使ったらしい。武具や冒険者のアイテムは高いのだ。俺の装備一式だって全部で銀貨六枚もした。
十日以上かかる依頼にこれは安すぎないだろうかと思って聞いたら護衛の依頼なんて危険地帯だったり要人の護衛でもない限り高額にはならないとのこと。
一応過度に魔物に襲われたり予想外の事態が起こったりしたら追加料金、というのが暗黙の了解なのだそうだ。
ふうむ、こういった冒険者の金銭感覚も身につけたほうがいいのかな。
村から出発して早数日。旅は順調である。
魔物が出ないわけじゃないけどなお基本的に俺の出番はない。ポジション的には一人だけレベル低くてパーティに入れられないキャラみたいな。もしくはイベントで同行してるサブキャラ。
守られる対象であるというのは男としては悔しいものがあるけどそれだったら強くなれという話だ。
そんなわけで旅の合間はひたすら修行である。
振るわれる槍を鞘で受け止める。その威力に軽く身体が浮いたがなんとか転ばずに踏ん張れた。
「受けんじゃねえ! 流すか弾け!」
言われた通りにローランが繰り出す槍を弾き、受け流す。慣れない動作に時折身体に傷ができるが気にする余裕はない。ただローランの動き、そして槍にに集中する。
「よし、次は俺に打ち込んできな」
こっちはもう息が切れているのに容赦なしだ。
でもやらねばならぬ。やらねば強くなれんのだ!
そんな熱血的なノリで気合いを入れて聖剣を振るう。振り下ろしたり人体急所目掛けて突いたりするが全部あっさり防がれる。というか打ち合う時の音が軽い。
ならば思いっきりやってみようと剣を思いっきり振りかぶりフルスイング。
渾身のはずの一撃はあっさり防がれたけどほんの少しよろめかせることに成功した。 まあそれ以上にこちらの体勢が崩れたのだが。実戦じゃ使えんわ。
そんな感じで数度打ち込みローランが息を吐いて構えを解くのを確認してから俺も構えを解いた。あー怖かった。
ここ数日の修行でどうにか防御だけならマシというレベルになった。といっても防御に集中した場合だが。
攻撃に転ずるとなるとまだまだ隙だらけらしい。
横を見ればライナードは三匹のゴブリンを苦もなく倒している。
彼も冒険者としてのやり方を学ぶために訓練しているのだが成果が段違いである。まあ現役の兵士と比べることが間違いなんだろうけども。
「へっ、やるようになったじゃねえか。 まだびびってんのと狙いがわかりやすいのがちょっと気になるがな」
槍術と棒術の師匠をしてくれているローランが満足そうに頷いているからそこまで酷くないのだと思っておこう。あと急所狙いは力の無さを補うためですよ?
「そう言うなよローラン。 臆病なほうが生き残れる」
修行開始して数日の素人に高いレベルを求めるローランをアンリが諌めてくれた。
ちなみにこんな森の中で修行できるのはアンリが周囲を牽制してくれたおかげである。
「おっと、イニャス怪我してるじゃないか。 ちょっと待ってろよ・・・ほれ!」
アンリが何事かを呟くと傷が淡い光に包まれ跡も残さず消えた。痛みもないし完全に治ってる。なにこれこわっ。
「今のは?」
「癒術だ。 なんでもどっかの誰かが魔法の代わりに編み出したらしいぞ。 詳しいことは知らないけどな」
「そんなノリで使えるんだ・・・」
魔法はたしか魔族を含めた人間以外の人族が使える特殊な力だったかな。お城にもエルフで魔法使える人ががいたはずだ。
癒術、というのは見たのは初めてだけどどうやら回復魔法の類いらしい。・・・どついう仕組みなんだろうか。
なんでも便利だが使える人は少ないのだとか。そう考えるとアンリが万能過ぎない?
ローランの修行が終わったら次はカリスの修行だ。
カリスの修行は投擲術が主で、修行内容は歩きながら石や枝といった落ちてる物をひたすら投げるだけ。一応投げやすいフォームやコツなんかも教えてくれるが最終的には経験が物をいうらしい。
幸いこっちに関してはそれなりに才能があったらしく武器で攻撃するより石投げたほうが強いという悲しい事態になっている。
「ほらそこー! もっと手首使って! 鋭くだよ鋭く!」
まあ安全に戦えるに越したことはない。後ろから石投げて援護できるだけでも全く戦ってない今よりマシなのだ。
というか目標の一つであるヒモ脱却がいまいち出来てない気がする!少なくともサポートキャラの立ち位置から抜け出したい。そのためにも修行には手を抜けないのだ。
でもそろそろ手が痛んできたのですが。あ、まだ続けるんですかそうですか。
そんな絶賛修行中、現状戦力外の俺が活躍できる数少ない場が料理である。
野外だけど大丈夫かと思われるかもしれないが今まで時間は無駄にあったから家庭料理だけでなくアウトドア料理も勉強したのだ。
もっとも例のごとくアウトドアしようとすると街の周囲が血に染まるので実際に野外で料理したことなんて数えるほどしかない。言ってて涙が出てくる。
まあアウトドア料理なんてかっこつけて言ってるけどぶっちゃけそんな手の込んだ料理は作れなかったりする。というかアウトドア料理自体がただ焼くだけよりマシなもん作るってレベルだからね。
そもそも旅に調理器具は最低限が基本だ。調理器具はかさばるし重いのでそれこそ隊商みたいに大勢でもともと大荷物でじゃない限り持ち歩けない。少人数なら刃物と小さな鍋だけで十分なのだ。そう考えると飯盒ってチートじゃね?あれ一つで大体できるしかさばらないもの。
それにまともに料理ができるほど多彩な食材を持ち歩くなんて不可能に近いしね。一見簡単そうなスープだって持ち運べる水に限りがある以上近くに川でもない限り作れないし。味付け?塩と香草があれば上等でしょ。
というわけで今日のゴハンは火で軽く炙ったパンに香草で焼いた獣肉とチーズを挟んだバーガーもどきである。切実に野菜が欲しい。
「んー、ちょっとこの肉切れないわ。 ちょっと誰かナイフ持ってない?」
「持ってるよ。 はい、これ」
「ありがと。 ・・・ねえ、このナイフ王家の紋章付いてるんだけど」
「・・・イニャス?」
だ、だって切れ味良いんだもの。
得意分野でも怒られたりするけど私は元気です。
ちなみに修行だけどローランとカリス以外にライナードからは引き続き基礎訓練を、アンリからは冒険者、というか旅人としての常識なんかを教わっている。
おかけで多少体力もついたし武器に振り回されることも少なくなった。もっともまだ扱いきれてはないんだけど。
こんな感じで修行しながら旅をしているおかげで予定よりも遅れてしまっている。
追い付かれるのを心配してたんだけど女神さまの話ではエルザはまだ王都から出てないらしい。
戻ってきてから数日留まっているみたいだけどどうしたんだろう。こちらとしては余裕ができるのでありがたいんだけどね。
俺の意図が伝わって俺を連れ戻すのではなく魔王を倒す気になってくれていればいいのだが。
今回女神さまとの会話がなかったのでオマケの小話。会話文のみ。
「うーん・・・」
『あれ? どうしたんですかイニャスさん』
「あ、女神さま。 ほら、旅に出てそろそろ半月経つけど自分の力不足が実感できてね・・・」
『無理ないですよ。 イニャスさんは旅を始めたばかりなんですから』
「それでも、だよ。 早くみんなの役に立てるようになりたいよ」
『ふふ、向上心があるのは良いことですね。 ところでイニャスさんにはこうなりたいという目標はあるんですか?』
「目標・・・うーん、そうだなぁ。 ・・・ワイルド、なんでどう?」
『ワイルド・・・ですか?』
「うん。 俺はどうもひょろっとしてるでしょ? だから頼れるワイルドな感じになりたいなって」
『はあ・・・えっと、具体的には?』
「えっと、筋肉むきむきとか?」
『き、筋肉むきむき・・・』
「いざって時は素手で敵を倒したり、あとは血の滴る肉を丸かじり! とかワイルドっぽくない?」
『ダメです』
「えっ?」
『ワイルドはダメです』
「え、ちょっと? 女神さま?」
『イニャスさんにはイニャスさんらしさというものがありますから。 憧れは大事でしょうけど自分の適性を伸ばすのも大事なんです』
「あ、はい。 ・・・そんなにダメかなぁ、ワイルド」
本編にはうまく入れなれなかった会話とかこういう感じで書いていけたらいいなぁ。




