表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/65

48.予想外な事

それから2週間の間。

俺達6人は参考になりそうなカフェを廻ったり、内装を担当してくださる空間デザイナーの上尾瑠璃(かみおるり)さんとの話し合いを進めていた。

最初に会った時、社長の紹介で来られる専門家というのがまさか女性とは思わず、驚きで二の句を継げなかった。

「女じゃご不満かしら?」

それが馬鹿にされていると勘違いした様でつり目を更に上げて、怒りオーラを全開にさせた。

「とんでもない。私達のチームも半分は女性ですし、

 今の社会は女性の方が良い仕事をされますからね。

 ただ社長のお知り合いなので、勝手に頑固親父の様な人を

 想像してしまいまして。

 不快な思いをさせてしまった様で申し訳ありません。」

何とか思っている事を伝えると、警戒を緩めてくれた様だ。

「こちらこそ初対面で失礼な事をしました。この会社の

 方々は男尊女卑の概念がない様で安心しました。

 時代錯誤な人間を相手にする事が多いもので。」

どうやら相当嫌な事があったらしい。デザイナーという専門職に就いていると、女性である事が受け入れられない場合も多いのだと言う。

第一印象は気難しい人かと思っていたが、話してみると論理的ではあるがセンスのある人で、なかなかに話が弾んだ。

内装を手掛ける上では、

「どうしてもできない事以外は何でもできます。

 なのでとりあえず何でも提案してください。」

と言われている。

アンケートの結果をある程度まとめたら、また上尾さんを含めて話し合いの場を設ける事になった。

この2週間の間で1つ良かった事は、菅野が誰にも誘われなかった事だ。



そしてあれから2週間後の月曜日。

11月に入ってぐっと冷え込む様になった。社内だからと油断すると風邪を引いてしまうだろう。

「くしゅん!」

「大丈夫か?風邪引かないでくれよ?」

「大丈夫です。すみません……。」

朝のエレベーターの中はまだフロア程暖房が効いていない。サーモンピンクのセーターも効き目は薄いらしい。

少しでも暖まればと肩を寄せる。触れ合った肩がじわりと熱を帯びる。俺だけかと思ったけれど、隣から小さく

「ありがとうございます。」

と聞こえて安堵する。

そうしていると12階でエレベーターが止まる。

この時間だし当然と言えば当然だが、誰も乗ってこなくて良かったと、それにも息をついた。



「立花さん!おはようございます!」

島崎が俺達に一番に気付いて挨拶をくれる。

「おはよう。」

「期待しててくださいね。結構良いと思うんで。」

「ありがとう。ただな……。

 無記名だからどれが島崎のか分からないぞ?」

「……あ、あぁ!そっか、忘れてた……。」

がっくり肩を落としてショックを受けている。

言い辛かったけれど今後もし、良かったでしょう?と聞かれて嘘をつくのも心苦しいから正直に伝えてしまった。

申し訳ない事をしたかな、と2週間前の発言を悔やむ。

でも悪いとは思いつつ、笑ってしまいそうになる。

ちらと見ると菅野も同じ様で、目が合った瞬間、

「ぶ、ははははは!」

「ふふふ、はは!」

我慢していた分、吹き出してしまった。笑われている本人はというと、呆気にとられている様だ。

「あぁ、可笑し……。ごめんごめん。

 島崎って結構天然なんだな。」

「え、いや、そうですか?」

「私も思わず笑ってしまって、すみません。」

「いや、それは良いんですけど……。

 急に笑い出すからびっくりしましたよー。」

事態が把握できたらしい島崎が苦笑いする。

「お二人が笑うから、注目の的ですよ。」

その言葉に周りを見ると結構な範囲の人達が、じっと俺達を見ていた。

顔を見合わせてこの状況に恥ずかしくなった俺達は、2人して耳を赤くしてそそくさと課長の元へと急いだ。


「何だか楽しそうだったね。」

俺達を見るなり笑顔でそう言われるから益々恥ずかしい。

槇課長の事だしからかうつもりでもなさそうだから、余計にタチが悪い。

「騒がしくしてしまって、すみません。」

「いや、そんな事はないよ。

 ただ皆君達の事が気になってしまうみたいでね。

 仕事そっちのけになるから少し困っているかな。」

今度は冗談交じりで言うが、槇課長の口から出ると冗談かどうか分りづらい。苦笑いで謝っておいた。

「じゃ、これね。全員分挟んであるから。」

「ありがとうございました。

 皆さん、ご協力ありがとうございました。」

早々に切り上げる事にしてエレベーターまで戻っていく。



が、呼び止められる。

「立花さん、今日お昼ご一緒できませんか?」

「ちょっと抜けがけしないでよ!」

「お弁当作りすぎたので食べてください。」

「それ作りすぎたんじゃなくて余分に作ってきたのね!」

「私、夜空いてます!!」

女性社員がわらわらと集まってきて一斉に話し始める。

お昼の誘いには謝り、押し付けられた弁当はそっと押し返す。夜空いてます、に対してはそうですかと返しておいた。

「はい、ストッープ!!」

見かねた島崎が喧嘩を始めだした女性社員達を止めてくれた。

「島崎君、邪魔しないで!」

「邪魔も何も、立花さんが引いてますから!」

その言葉に俺へと視線が集まる。どうやら相当な顔をしていたらしい。すみません、と言いながらおずおずと下がって行った。

「ありがとう。助かった。」

「いえいえ、お安い御用です。」

今度こそ、と呆然としていた菅野を連れて進んでいく。


そしてもうすぐというところで行く手を塞ぐ男が。よく見ると前回菅野をデートに誘おうとしていた男だ。

顔を緊張で強ばらせつつ、頬には赤みが。性懲りもなくまた誘おうとしているのか?

本来なら俺が止めたりしちゃいけないのだろうが、気分はさながら姫を守る騎士で、大きな任務が課せられているのだと自己暗示。

「あの一度お食事に行っていただけませんか、」

直球できたな。

「だから、」

「立花さん!!」

「行かせないって、え、俺?」

「はい!」

どういう展開だよ。菅野じゃないのか?

それならそれで良いけど、どうして俺が誘われてる?

「えっと、」

「だめです。誘わないでください。」

「え?」

どう答えようかあぐねていると、菅野が前に出ていて。その後ろ姿を見ていると珍しく尖った声が。

「誘われても行かせません。行きませんよね?」

振り返った厳しい顔に確認されて、

「は、はい、行きません……。」

と答えるしかなかった。

「そういう事ですので失礼致します。」

一礼して、俺に行きましょうと促す。

目の前の男同様、展開に頭が着いて行けていないが促されるままにエレベーターに乗り込む。扉が閉まってしまった頃、やっと思考が追いついた。

「さっきはありがとう。何か……びっくりしたな。」

「立花さん、気を付けてくださいね。

 誰に狙われてるか分かりませんから。」

真剣な顔でそう言われると何とも言えない。先程のやり取りをもう一度思い返す。

まるで俺を守るかの様に前に出て、はっきり発言する姿は有無を言わせぬ強さがあって。

…格好良かったな。

いつもは見せない姿にまたも惚れてしまうのだった。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ