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42.父子の思い

「ふわぁー。」

大きな溜め息と共に椅子に崩れ落ちた林田。どうやら緊張でかなり気を張っていたらしい。皆もそれぞれ息を整えている。

「それにしても名前を覚えてもらえてるなんて。」

「社員全員の名前覚えてる人だからな。」

「全員!?」

天馬が驚くのも無理はない。500人近くいる社員を、古株から新入りまで全て把握しているのだから。

「立花さんもあんな感じになるんですね。」

いつものトーンで竜胆が言う。

「あんな、って?」

「子供に返ったみたいな感じです。

 頭を撫でられた時は特に。」

「本当に親子みたいでしたもんねー。」

自分では分からないが、顔に出てるという事だろうか。指摘されるとどうしていいか分からなくなる。

「そんな事はどうでもいいだろう!

 明日に備えて準備するぞ、大きい仕事なんだから。」

「誤魔化しましたね。」

そんな声は無視して、パソコンにUSBを挿す。

俺の様子に諦めて、竜胆はプロジェクターを起動させる。ぐったりしていた林田ものろのろと動き出して、スクリーンを準備する。

どんなにふざけていても、仕事モードにきっちり切り替えられるのが、このチームの良いところだ。



「まず建物のコンセプトから考えないとな。」

「そうですね。」

書類に再度目を落とすと、概要の欄を見る。

【全世代の消費者が、憩いの場として気軽に使える。】

【実際に商品に触れたり試したりできる、第二のショップとして活用。】

この2点しか書かれていない。

「ざっくりしすぎだろ……。」

「すごい簡単な書類っスね。全部丸投げみたいな。」

林田が口を尖らせて文句を垂れる。

「社長の書類はいつもそうだ。」

「え、社長が作られた書類!?

 い、いや、こういうのもいいと思いますー。」

「今更遅い。」

冗談を言いつつ頭を抱える。多少の知識があれば進めやすいんだろうが。

「あの、思ったんですが。」

菅野が控えめに挙手しながら、発言する。

「ん?何だ?」

「私達には専門的な事は分からない訳なので、

 消費者の気持ちでこんな店が良いとか、

 こんな風にしたいっていうのを出してみる

 というのはどうでしょう?

 できるできないは一先ず置いておいて、

 私達が使いたくなるお店を考えてみませんか?」

菅野の提案はなかなか新鮮なものだった。

すぐに完成品を考えるこれまでとは違って、夢見る店を考えてみる。それはまるで。

「子供の頃に思い描く、理想の家やお城やお店みたいに。」

幼い頃、紙いっぱいに大きな家を描いて、ここが俺の部屋、ここが母さんの部屋って言いながら、その家に住む2人を想像していた。

大人になって、できる事しか考えなくなったけど、あの頃みたいにしたい事を考えてもいいのかもしれない。

「そうだな。じゃ、理想の店、考えてみるか。」



「それ可愛すぎないか?」

「えー、逆に竜胆さんのは渋すぎです!」

「でも夏依ちゃん、これは子供しか入れないよー。」

「そうですかね?」

「うん。てっちゃんは……それ何を目指してるの?」

「え?ロケットかな?

 配線とかわざと見せてさ、格好良くない?」

「少年は集まりそうだね…。」

「立花さん。それはマスターの店になってます。」

「ん?あ、そうか。

 いや、喫茶店って言ったらマスターの店が

 一番に思い浮かぶからさ。」

「ふふ、分かりますけどね。」

「あ、はるちゃんのオシャレだね。窓はステンドグラス?」

「ううん、シーグラスで柄を作るの。憧れなんだ。」

「へー、可愛いね。」

「なぁ、隣のショップと通路繋いでさ、

 わざわざ外出なくてもいい様にしたらどうかな?」

「それ良いですね!雨の日とか面倒ですし。」

「外壁は白より柔らかめの色入れた方が良くないですか?」

「夏依ちゃん、そのカラフルなのはやめよう?」

「分かってますよ!」



皆の意見と笑いが飛び交う。

今までだって自由な発想で商品を考えてきたけれど、こんなにも無邪気に楽しく考えた事はなかった気がする。寧ろ、してはいけない事の様に考えていた。

それなのにこうしてやってみると、こんなにも色んなアイディアが飛び出していく。子供に戻った様な、そんな気持ちで。

「これを求めていたのかな……。」

「何ですか?」

「いや、何でもない。」

社長はこれを求めていたのかもしれない。

いつも真剣に商品や消費者と向き合ってきたけれど、確かにこれが“仕事”になってきていた。

だからもっと、ただ好きだった頃の様に。

こんな商品を作りたい、とひたすら考えていた頃の様に。

稚拙で奔放で、それでいて熟思していて真っ直ぐで。

途端に、去り際に頭を撫でられた事を思い出す。

あれは、エールだ。

社長としてではなく、父親としてのエール。

……やってやる。見てろよ。

予想の斜め上を行くくらいのとびきりの店、作ってやるよ。

俺達はあんたが集めた、最強のLTPなんだから。


 

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