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紅い月  作者: 瑞鳳
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月紅

初投稿ですので至らない点があるかと思いますが読んでやって下さい。

突如として世界に広がった色があった。


その色は赤色、いや紅色だろうか。


血の色にも似たその色こそが暗い夜空を照らす明かりとなった。



そうして、それこそが世界を混乱へと導く空に悠然と浮かぶ紅い道標となった。



___……‥‥


瞼を閉じていても感じ取ることの出来る光が目を差した。本能的にそれが1日の始まりである朝を迎えたこととだと悟る。だが眠いものは眠い。わずかばかり日差しに抵抗を試みる。しかし学校に遅刻するのも嫌なのですぐに観念した。

薄く目を開く。強烈な眩しさに『うっ、』っとなる。まだ光に慣れていない僕の目には明る過ぎるほどだ。視界全体が白で塗りつぶされている。けれども人間の目とは凄いものですぐにこの明るさにも慣れてきた。視界に色彩が現れ、僕の部屋が露わになる。露わになったのでとりあえず部屋の中をぐるりと見渡す。

するとカーテンが閉じきれておらず、そこから陽射しが漏れているのが確認できた。しかも何の偶然か、はたまた嫌がらせかはわかりはしないが、その陽射しは丁度僕の寝ていた枕元に降り注いでいた。

まだ眠気は抜け切れてはいないがその偶然をたまらない程に恨めしく感じる。しかしやはり眠たいので何だかどうでも良くなる。

もう一度部屋をぐるりと見渡して、「とりあえずカーテン開けるか……」と、たまたま目についたものに対して行動を起こそうと立ち上がる。カーテンを窓の両側に勢い良く追いやると部屋の中とは比べのもにならない程の光量が注がれた。その眩しさに眠気は吹き飛ぶ。

ようやく冴えた脳みそが部屋の中の空気がこもっていたことに気づいたため窓も開けることにした。解放された窓からは心地の良い風が入り込んでくる。残暑厳しい季節とはいえ季節的には秋である。朝晩は過ごしやすくなってきてくれた。昼になるとまた人間を殺しにきている、と思われる太陽の陽射しが襲ってくることであろう。


窓枠に手をつきそんな事を考える。


開かれた窓からは住宅街が眼下に映っていた。

静けさを感じる朝ではあるものの人の生活感からか慌ただしさも混じっている。『当たり前』、そのように呼ぶことのできる景色が広がっていた。

その中に“今となっては”当たり前になった存在もあった。


『いつの間にか自然な景色として受け入れていたな……。』


そんな事が頭をよぎった。視線の先には朝を迎えたことにより、多少は存在感というものを抑えつつも堂々としたたたずまいで空に浮かぶ月。

よく“知っていた”、黄色ではない。

よく“知っている”、紅色のだ。


そして、ふと考える。

今、自分は15歳で中学3年生だ。あの日から何年経ったのだろう。

母が行方知らずに、いや、違う。“いなくなった”日からどれほどの時間が過ぎて行ったのだろう。

あの時の僕は何歳だっただろうか。

小学5年生だったから10歳だ。



そうか……、母を消したあの月はもう5年間も空に浮かんでいるのか。





5年も前の昔のこと、夜も深くなり日付も変わろうかという頃合いにそれは突然に起こった。

赤い光の柱が空高く昇って行ったかと思うと、その光の柱は夜空で黄金に輝く月を貫いた。するとどういうことであろう。黄金であったはずの月は瞬く間に紅色に変色していった。


赤い柱が輝きを失い辺りが薄暗さを取り戻した頃には既に、夜空に浮かぶ月は深紅の輝きを放っていた。



突然に現れた紅い月。

世界中を混乱に陥れるには十分な現象であった。


『世界の終わり』、『宇宙人からの攻撃』


根拠の全くない個々の想像や考えが駆け巡った。暴走したメディアや国家の要人からの不用意な発言を真に受けた民衆が自棄になって、暴動やそれに伴う略奪などが行われた国もあるようだ。日本でこそ起きはしなかったが、それこそ甚大な災害が起きた後の様な混乱ぶりであった。


しかし、本当の災害はこれからだった。

世界中で異形の生物が突然現れ始めたのである。これらは日本では『妖怪』と呼ばれるもので、現れたと思いきや人間を襲い始めた。そして日に日に増す《化物》は世界中で新たな混乱を巻き起こした。


交通網を遮断し、都市や街を破壊して回る。


軍隊をもってして鎮圧しようと考えた国もあったが、近代化された軍事力であっても効果は“ある程度”止りでしかなかった。それが人間であったなら致命傷であっても《化物》にとってはかすり傷でしかないのである。腕らしきものが吹き飛んでも瞬く間に再生する。さらには苦労して斃したとしても、むしろ増えていく個体数。

軍隊とはいえ人間の集団だ。そんな状況を目の当たりにして士気なんか維持できるはずがない。

徐々に押し潰されるのは誰の目にも明らかであった。


それを嘲笑うかのように世界の各所にて出現し、人々を無差別に襲って回る《化物》達。夜になると更に凶暴性を増すといわれ、どれだけ大きな都市であっても夜に出歩く人はいなくなった。


正体がわからない為に恐怖し、得体が知れない為に対策を講じようともなす術がない。


日を重ねるにつれ《化物》は数も増え、大型種も出現した。

もはやどうしようもない。多くの人々はそのように感じ、諦めた。なすすべもなく《化物》の胃袋に収まる未来を嘆き絶望した。

しかしそんな状況にあって決して諦めていない国家があった。


日本だ。


遥か過去には妖怪騒動があったがそれを鎮める人間もいたことは確か。

今までは『物語』や『創作』の出来事と思っていたが現状を考えればそうは思えなくなっている。ならばそこから解決策もしくはヒントを得ようと試行錯誤したことが功をそうした。


どの国家にも見出せなかった対化物の対抗策を見つけ出すことに成功したのだ。



それにより首都東京周辺に住まう妖怪共の殲滅に成功。

まだ人手不足は否めないが自衛の範囲内では問題ない。

世界における日本の地位は他の追随を許さないまでの飛躍。


その功労者こそ陰陽師だ。

古く日本を陰より護り管理していた力のある者。

それこそ僕の一族。

過去最強とうたわれた陰陽家、安倍晴明の末裔、土御門家だ。





……‥‥......


テレビの雑音が響く部屋。

今の時間は朝の食事時。


斜め前に座っているのが冬樹さん。

僕の恩人でもあり、僕の保護者でもある。

そして正面に座っているのは冬樹さんの妹の白雪。

小学生ながらこの家の家事全般をこなしている働き者だ。


正面に座っている白雪が先ほどから誰かに何かを話しかけていた。対して冬樹さんの方は黙々と食事を進めている。テレビ画面には『謎の集団、自警団の実態』という、ここ2週間同じニュースを飽きもせず繰り返すのが見える。

それを僕は、まるで自分がここにいないかのようにボーッと眺めていた。


「ちょっと……、お兄ちゃん聞いてる?」


揺さぶられることによってようやく白雪の話し先が自分であることに気が付く。白雪は何故だか実の兄を呼び捨てにし、僕のことを『お兄ちゃん』と呼ぶ。

まあ、それはさておき何もかも全然聞いていなかった。というより話しかけられていることに気が付いてすら無かった。


「あぁ……、ゴメン白雪。ボーッとしてた」


こういう時は下手な言い訳よりも正直にいった方が身のためでもある。


「今日の夜ご飯の材料を買いに行かなくちゃだから一緒に行こうって、今日の夜は何がいい?」


「なんだ、それなら“本当の”お兄ちゃんにまかせなさい、一緒に行ってあげよう。今日は偶然にも仕事が休みなんだ。いやホントにたまたま、」


「冬樹には聞いてない。で、お兄ちゃんどうかな?」


白雪の冬樹さんへのいつもの態度と決してめげることのないいつもの冬樹さんに思わず笑みがこぼれてしまう。


「そうだね、学校が終わったら買いに行こう」


僕の苦笑交じりとなった答えに冬樹さんの方は釈然としない、という表情を見せたが白雪は素直に喜んでいた。

いやった!放課後デート、と飛び跳ねていた。


そんな様子を微笑ましく思いつつ眺める。

しかしテレビから現実に引き戻す聞き慣れたメロディーがきこえた。そしてアナウンサーが『それでは最後に占いコーナーの時間です』と言っていた。

占いなんかには興味も何もないが僕たちはこのコーナーをアラームの代わりとしている。

家を出る時間は8時。

このコーナーの始まる時間は7時55分だ。

それが意味することは……、そこに思い当たりハッとする。


「やばい白雪、急いで!」


結構大きな声で呼びかけたために白雪は驚いた後にわたわたしていた。けれども僕の意を汲んですぐさま準備をしている白雪が傍目につく。しかし急いでいる時に限って何かが起きるものだ。


例に漏れず、こんなにも忙しい時に限って某コンビニの入店音が家中に鳴り響いた。

これは我が家へ訪問者が現れた証しだ。ようはインターホンが鳴り響いたのである。


「え、あ……、は、わわわわ」


突然の来客者にただでさえてんてこ舞い舞いな白雪は『来客者への対応』と『急いで準備』の板挟みとなって容量オーバーとなっていた。結果として、どちらとも何も出来ていない。


「白雪は準備していて、僕が出るよ」


「わっ、ご、め……んなさい」


自分がただウロウロとしていた事に気が付いたのか顔を真っ赤に染めている。

そんな白雪に「気にしない」と声をかけて頭をぽんぽん、とした。照れているのか子供扱いが不満なのかはたまた両方によってなのかは解らないが、うーっ、っと白雪が声というより鳴き声に近いものをあげる。

訪問者がいるのでそれに反応も出来ずに対応のために向かった。


あまりの間の悪いタイミングでの来訪に対して不機嫌さを隠そうともしない声で、インターホンから「どなたですかー」と問う。すると、かなり聞き覚えのある声で「朝早くにすみません、朝比奈でーす」と返答が耳に入った。

朝早くの来訪者はクラスメイトの朝比奈であったのだ。

朝比奈とは一緒に学校へ行っている友達の一人。もしかして時間が過ぎても来なかったから迎えに来たとかかな?などと思って慌てて時間を確認する。8時に待ち合わせ、けれども今の時刻はその1分前であった。

では何故、と思い混乱しながらも朝比奈を出迎えるために玄関に行く。

カチャリ、と扉の開く音がたつ。と、同時に朝比奈の方から「おはよう、秋瀬」とあいさつの言葉がかけられた。こちらもおはよう、と挨拶をする。


「ごめん、まだ準備終わってないんだけど……」


混乱した頭の朝比奈来訪の結論は『来るのが遅い』と断定して先に謝る。

すると朝比奈は途端に苦い表情をした。

『あぁ、今日は早く学校に行くつもりだったのかな……。先に行っててもらおうか』

僕がそんな考えを思い巡らしていることも知らず、朝比奈は変わらない表情で続けて言った。


「あー、川辺からな、“今起きた”ってふざけた内容のメールが届いたんだ」


「……、あぁ。そうなんだ」


苦い表情の理由が自分でなくて良かった。

けれども川辺という名のクラスメイトであり、お隣さんでもある人物の暴挙に朝比奈から苦い表情がうつった。


「なんか、大変だね。朝比奈は」


心の底からの同情をする。

そんなこちらの感情が通じたのか、朝比奈は表情は苦いながらもそれに笑みを浮かべた。


「本当に、全くだ」




それからしばらくしても川辺は来ない。

白雪も仕度を終えて川辺家の扉の前にいる。


「何かあったのかなあ……」


心配そうな顔をしている白雪に対し、朝比奈の方は目に見えてイライラしていた。


「おっせぇ……、呼ぶか」


「そうだね。もう一度呼び鈴を鳴らしてみようか、ってうぇ?」


朝比奈に同意を求めようと彼の方へ顔を向けた。そこで目に映ったのは、大きく足を振り上げた彼の姿だ。一体何をしようと?いやそんな事は常識の中に生きている人間には想像もつかなかったであろう。事もあろうに朝比奈は、かかと落としの要領で合金性の防犯扉を蹴破ったのだから。

扉の消えた玄関口からズカズカと中に入りそして川辺へ平然と言う。


「あまりにも遅い、なんかあったのか?」


特に理由がないなら殴る、と脅し文句も付け足した。

人間堂々としていると、どれほどおかしな行動をしていようと一瞬の間は気が付けない。そればかりか被害者であるはずの川辺ですら「あーあー、ドア飛んじゃったよ。どうすんのコレ?」と呑気な言葉を吐いている。

おかしいはずだ。

この状況はおかしいはずなのだ。

しかし、呆然としている僕と白雪をそっちのけでギャーギャー言葉を交わしている2人になんだか考えている自分がどうでもよくなってきた。


「今日から学祭の準備期間だろうが。早めに迎えに行くっつたろ」


「眠いんだよ。こちらとしてもいろいろね、ほら、あるんだよ」


ねえ、と僕に話を振ってきたが意味がわからない。

悪い気はしたが曖昧に笑い川辺の問いを流した。


「でも……、そっかー。もうそんな季節か……、あ、でもでも秋瀬と姫ちゃんは初めてなんだよね。うちの学園の学祭、もとい文化祭!すっごいよー、主に規模的な意味で」


今年の春に僕達は転校してきた為に、僕と白雪は初めてのことだらけである。初めて学園に入った時もその大きさに驚いた。そして、その後も驚かされることばかりだ。

と、ここでおずおずとした声が一同の耳に入る。


「あ、あの皆さん……。その、そろそろ時間が……」


白雪の声を聞き川辺が腕時計を確認する。

何故か全員がそれを注目する。


「あと5分でチャイム鳴るから、急ごう!」


お前のせいだろ!と朝比奈が川辺をはたいていたが、僕も白雪もフォローはしない。


「奨さん、遅刻はよくないです」


「姫ちゃんに言われるとこたえるな……」


白雪の真剣そのものの表情にバツの悪そうな顔を川辺はした。

しかしまだ学校へは向かっていない。このままでは本当に遅刻してしまう。


「文句は学校に着いてからにしよう」


僕の切り上げの言葉に朝比奈は「そうだな」と言ってしぶしぶながら矛をおさめる。そして僕は白雪と笑いあった。

なんのかんの言いつつこのような日々が楽しいのだ。


「行こっか」


白雪は「うん」と大きく頷いて僕の差し出した右の手を両手で覆う様に掴む。そのまま白雪は僕のことを引っ張った。


「おにーちゃん!走らなきゃ」


「わかったって」


未だに離されていない小さな手に引っ張られながら僕達の学園、桜見学園へと走り出した。



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