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LOST SAMURAI

作者: くをん
掲載日:2013/12/04

読んで下されば誰でも構いません。少しでも楽しんで読了して下されば感謝感激です。


 世の中と言うのは非現実的なモノだ。これは俺のとあるカテゴリーから導き出された1つの空想科学論理の決定的なパネルであり、その非現実的なるモノ―――それは偶然でも無く必然でも無く気付いた時にはそこに浮上していた解読不可能な古文書みたいなモノだ。

 例えるなら俺達人間は凡そ500万年以上前から人類と言う1つのカテゴリーを形成していてそこから様々な歴史を経過してきた。そこに現在がある。

 だが、科学の発展は進歩するにつれて多くの矛盾や謎を繰り返し生み出してきた。最近では道徳的矛盾が顕著に為ってきたみたいだ。しかし俺が言いたいのはそんな難解な事等では無い。俺はダーウィンでも無ければソクラテスでも無い。俺の頭の中は非論理的な数々の矛盾が絶えず絡んでいて起死回生のプチビッグバンを繰り返し、残ったのは紛れも無いジャンク(ガラクタ)だ。俺は頭が少し可笑しいのだ。そんな事をサラリと言ってのけるほど頭が可笑しいのだ。決定的な社会のはぐれ者。世間で言う『イタイ』人―――。

 だが非現実的為るモノを表現する事は実に簡単だ。例えて言うなら空気。つまり人間が本来必要としている酸素そのもの。

それのどこが非現実的なのだ?と、問われれば俺はこう答えるだろう。酸素が存在してる事自体が非現実的なのだ―――と。

成る程確かに酸素と言うモノはこの俺達が住んでいる星、地球の生態系を保つ事に寄与している。それは既に科学的にも立証されてるし誰もが知っている事だ。だが、酸素が存在してる意味は?と、問われれば誰でもが答えられる問題では無い。

人類の祖先が現在の俺達21世紀の人類まで多岐に渡り酸素の事は無論どの学者が考察しても科学の基礎知識としてあるいは代用品として様々な活躍をしてみせた。

だが、酸素の存在意義は果たしてどこにも無い。確かに生物にとって必要不可欠だと言う事はもう既に理解している。良く分かってる。

ではなぜ地球、若しくは太陽、月、その他の惑星や銀河系と称されるモノは生まれ存在し、細かい原子の粒子が化学反応を示し、または起こし、酸素を生み出したのか?

それは生物の生きる意図はある程度解釈されつつある現代において生物の生きる意味が良く理解されていない。要するに俺が言いたいのはこの世に酸素が存在する事と同様にこれからの自分の人生の生き方をどう解釈し生きていくか?―――そう言う事が言いたいのだ。酸素は空気中に絶えず存在している。俺達が母親の腹から産まれてやがて意識が芽生えて物心ついた直後、突然何時の間にか酸素が浮遊してる事に気付くのだ。地球上の至る所に。

そしてこれからの人生設計をその様なあらゆる角度から考察し全神経を集中しながら浮世離れした黄金の国ジパングで一獲千金を狙う亡者達がこの国には腐るほどいる。

それは世の中で言う所謂フリーターでありニートでありプータローであり引きこもりであったりする。そしてその中の1人であるこの俺様―――和磨包(かずまつつむ)も現代に警鐘を鳴らす(?)社会に適応出来ない非社会主義者だ。

そして今日も俺達は現実と言う過酷な誰が引いた訳でも無い教科書通りの人生のレールを勝手に分解して組み替えてより楽な生活へと逃避したり休んだり嘲笑して時には遊んだりもするのだ。そしていつの日にか我等のアメリカンドリーム為らぬジャパニーズドリームを確立しようと目論んでるのだ。しかも真剣に。そしてその組織名は―――

ニート、フリーター、プータロー、引きこもりの頭文字(イニシャル)を取って『NFPH』―――通称『ロストサムライ』―――その心は『あの日何かを失くした日本人』である。

ロストサムライはその隠された秘宝を巡る為、今日も真剣にプレゼンを行う。まるでプロジェクトXの様に―――。唯、目的はやはり金だった。


 今日も俺はあらゆる事を討論する為に(基本的に金銭目的だが)友人である市川末蔵(すえぞう)と彼の家で勝手にプレゼンを行った。その主題は次の通りだ。


 ―――あらゆるPS3のソフトをやり込んではトロフィーコンプして有名に為り最終的に世界的なゲームプロデューサーにまで伸し上がる―――


 「成る程。中々良いアイディアだ。脚本としては筋が通ってる」

 市川末蔵(すえぞう)は言う。顎を摩り剃り残した髭のラインに人差し指が思いっきり這ったりしてそれを何度も繰り返す。上下左右に往復し摩擦された髭は唯、ポツネンと直立不動だ。

 「―――だが、これには時間が必要だな。それに世界的なゲームプロデューサーと言う夢は大きくて良いが、少しでしゃばり過ぎだ。せめてオンラインゲーム上の全てを総なめにしてその攻略法をネットで公開した方が遠回りだが国内のユーザー達の支持も得るし着実なステップアップにもなる。つまり最終的に海外にも手が届く機会が増えるだろう」

 市川末蔵(すえぞう)は下唇を舐めた。俺も思わず頷く。そう。俺達はマジなのだ。

 「まるで全国の美味いラーメン屋巡りをしたラーメンマニアならではの発想だろ?」

 俺はケケケと気味の悪い笑みをひたむきに(こな)す。市川末蔵(すえぞう)もそれにつられて舌をペロリと出してお茶目な悪代官みたいな気持ちに為りそれが表情に刻銘に浮かび上がっていた。

 「もう1つ例を挙げるとすれば地味でお転婆な童顔女子高生がある運命の日を境に死後の世界の(あやかし)達とド派手なバトルを展開するお巫女様へと強制的に転職するみたいにな」

 暫く気味の悪い顔を突き合わしていた俺等は更なる討論を検討する。次の展開に先走ったのは市川末蔵(すえぞう)のこの言葉が切っ掛けだった。

 「だが、なるべく費用は掛からない方が良い」

 「そりゃ最もな意見だ。俺達の計画のメリットはそこにある。需要が利益を超えたら本末転倒だからな」

 俺達は彼がどこから持ってきたのか巨大なホワイトボードを使って何度も討議を醸し出した。青や赤や紫や黒のマジックインキで書かれた文字や正体の分からない意味不明な図形やメモリ、グラフ等を用いて過去の失敗例や成功例をたくさん並べてみて慎重に研鑽を重ねる。トーマス=エジソンもビックリの必要以上の研究っぷりだ。唯、肝心のお(つむ)の方に関してもトーマス=エジソンはビックリするだろう。そして俺達は無職!トーマス=エジソンは果たしてビックリするだろうか?3度目の正直とはこう言う事を言うのか?いや、それは間違いかも知れない。これは3度目の正直とは似ても似つかない問題で単純な2度手間では無く3度手間だ。だけどもし俺達の思考回路に何か変なモノが紛れ込んでいてそれが俺達のIQを阻害していたとしてもきっとトーマス=エジソンはこう言うだろう。

 『失敗も成功の元』だ―――と。成る程、納得出来る。さすがはアメリカンドリームを現実にした(?)男だ。ジャパニーズドリームももう直ぐそこだ。何しろ『失敗も成功の元』なのだから。これはどこか安西先生のセリフに似ている。誰もが知っているあの名言だ。

 『諦めたらそこで試合終了ですよ』―――成る程。納得出来る。

 しかし、俺達には時間が有限にある訳じゃ無い。そう―――『NFPH』つまりは『ロストサムライ』のメンバーは今はまだ19、20そこそこだから若い内はハッちゃけていて楽しいだろうがそんな事言ってられるのも今の内。そう―――俺達はこれから社会と言う荒波に立ち向かう準備を整えなければ為らない。小鳥が空を飛ぶ準備を始める様に俺達もそう―――『ロストサムライ』のメンバー達もそれぞれがそれぞれに考えてる事や思っている事、その気持ちや心が別々である様にそろそろこれから練る作戦を実行に移す時が確実にやって来るのだ。

 その時、俺達のアジト(※市川末蔵(すえぞう)の実家)に外界からの使者がやって来た。

 ―――ピンポーン。ピンポーン。

 「全く誰だ?」

 ―――ピンポーン。ピンポーン。

 「ハイハイ。分かりましたよ。そう言えば親父と御袋は今、旅行中だったっけ?」

 市川末蔵(すえぞう)はそう言って愚痴を零すと3階の今いる彼の部屋から2階のリビングのインターホンに向かって少し落ち着かない素振りでドアを開けると無言で駆け下りていった。

 俺は少なからず彼の事が羨ましかった。彼の家は日本で言うその昔から代々伝わる富豪の一家で詰まる所地主だった。だから彼はそんなブルジョアジーの暮らしっぷりで現在のこの不況の時代を満喫出来る訳で両親は不仲に為った事が無いらしく、今でも頻繁に旅行に出掛けたりするのだ。彼、市川末蔵(すえぞう)は1人っ子だしもう20(ハタチ)で成人したのだし両親が居なくても別に支障は無いのだ。彼は朝は自宅で昼は出前、夜は俺達ロストサムライのメンバーと一緒に豪快な外食を共にする。因みに彼の両親の旅行先はワイハだった。ワイキキビーチでフラダンスでも踊ってるのだろう。俺は都内のゲームクリエーターの専門学校に通っていたが途中で退学して今は1人暮らし。家賃と奨学金の支払いに板挟みにされて血と汗と涙に塗れて泣きながら高自給の厳しいバイトを掛け持ちして何とか月々を遣り繰りしていると言う有り様だった。

 ―――ピンポ!ピンポ!ピンポ!ピンポ!ピンポーン!

 何かメッチャ呼び鈴のチャイムを連呼する音が聞こえてくる。何だやっぱりアイツか。

 「ういーす」

 インターホンを片手に市川末蔵(すえぞう)はかったるく声を出す。そのディスプレイに映っていたのは黒髪のウェーブ掛かった女だった。

 「全く!遅せーっつの!何分待たせんだよ。このハゲ!」

 口調がとんでもなく荒々しい。気の強い彼女はその画面越しでも良く分かるほど眉間に皺がよっていた。両端の白い八重歯がギラリと光る。全く。恐ろしい女だ。しかも市川末蔵(すえぞう)はハゲて無い。断じてハゲて無い。決してハゲて無い。そしてハゲて無い。何度も言う様だがこれで最後だベイビー。やはりハゲて無い。―――そう。ハゲて無かったのだ。

 「つーか勝手に入って良かったんですけど。前に言わなかったっけ?今家両親が居ないんで」

 市川末蔵(すえぞう)はボリボリと頭を掻きながら面倒臭そうに応対する。まるで性質の悪いクレーマー相手にマニュアル通りに対応する企業戦士サラリーマンみたいだ。

 「全く。レディーを待たせんなっつーの。こっちだっていつもいつも暇って訳じゃ無いんだからね」

 橋水八重子(やえこ)は軽く悪態を吐く。こちらの息が吐かぬほどズバズバと言葉の螺旋が連なってビシバシ飛んでくる。俺達男組は2、3分程それを聞きっぱなしでウンザリして気持ちが穴の開いた風船の様に萎んでゆく。そしてげんなりとした倦怠感が何時までも残る。

 ―――そう。ここでお気付きに為ったかも知れないが俺達『ロストサムライ』は何もむさ苦しい男だけでは無いのだ。そのメンバー構成も常にランダムで変動していて多少支障をきたし別にその名前の由来通りに拘ると言う事も無く女性メンバーも参加OKとしたのだ。そしてこの毒舌女はロストサムライ結成時からずっとここに安住している世にも珍しいある意味ではかなり貴重な存在だ。唯、男使いがとんでもなく荒い。彼女、橋水八重子(やえこ)は別に努力する訳でも無く無理している訳でも無く元々そう言うキツーイ性格なのだ。この世の全ての男連中を下僕の様に扱うその感性はある意味で天賦の才の領域にある彼女特有の男性蔑視と言う科学のメカニズムに触れられない愛の結晶体だ。

 しかしロストサムライのメンバーは何もこれだけじゃない。まだまだ他にも曲者揃いでモノホンの実力者は皆無。ある意味でオメデタイ連中と言えるだろう。何せそのメンバーの基本構成は『NFPH』(ニート、フリーター、プータロー、引きこもり)の集合体なのだから。それもまだ若く、ホントにムカつくほどざっくばらんで直向きに自由主義に走って行くどこまでも青春を求め抜くエネルギーに満ちた扱い辛い大人なのだから。

 「―――んで?今日のプレゼンのテーマは?確か和磨(かずま)が用意する約束だったよね?」

 彼女、橋水八重子(やえこ)はどことなく抜け目が無い。まーそれもその筈。こんな世の中の負け組候補達(それも男ばっか)の相手を週に何度もしているのだから。恐らく彼女の中には強靭な精神を内に秘めた天文学的に見積もっても足りない位のエナジーが備わってるのかも知れない。

 「これで御座います。八重子(やえこ)様」

 市川末蔵(すえぞう)(おもむろ)にホワイトボードをガラガラと彼女に見える様に引っ張り出す。

 「ふーん。どれどれ?」

 暫く彼女、橋水八重子(やえこ)はそのホワイトボードに書かれていた図面やグラフ、記号や文字、数字等をジロジロと眺めていた。目を細くしてブツブツ独り言を言って集中に集中を重ねては何度も読み返す。

 「どーでごぜーますか?八重子(やえこ)お嬢様」

 和磨(かずま)がゴマ擂りをしてそう言うと女王(フォーチュン)八重子(やえこ)は思いっきり被りを振る。

 「ダメダメ。全然こんなの話になんない。これならパチスロに人生を懸けた方がまだ利益があるわ」

 彼女はそのウェーブ掛かった黒いロングヘアーを手で(さば)きながら呆れた様な表情をして少し眠そうに欠伸をしてみせた。問題外―――と言った風情だ。

 「やっぱりかー。チクショー。結構良い線言ってると思ったのになー。中々どうして世の中と言うものはこう敗者に対して厳しく出来てるんだろーな」

 俺は思わず寂しげに唸って腕組みをする。ズドーンと腹部にショットガンを食らったみたいに背中を丸め胡坐を掻いて腹に陰りが差し込む。

 「いやいやでもさー。俺はそんなに悪くないと思うよ。何せ和磨(かずま)はゲームクリエイターの専門学校に通ってるんだもんな」

 市川末蔵(すえぞう)は多少俺に気を使ってくれている。俺は彼が腹の中で何を考えてるのかが妙に知りたくなった。好奇心と言うヤツだ。そして俺はすかさず言う。

 「いや、もう俺そこ辞めたんだわ。言わなかったっけ?」

 そう。俺はもう既に最後の手段である社会の一員たる資格をも放棄してしまったのだ。なんかこんなセリフ吐くのも正直辛い。恥辱と汚辱に塗れてどこかに穴があったら入りたい。そんな気分だ。

 「だけど、お前にはその知識と経験が残ってるだろ?そこ辞めたとしても。それだけでも一応価値はあるよ」

 「ありがとよ。友よ。だけどな現実はそんなティラミスの様に甘くは無いんだよ。アミーゴ」

 知識と経験か。俺は独り塞ぎ込んだまま暫く考えてた。果たして例の専門学校をそのまま通っていて無事卒業したら俺の嘗てのゲームクリエイターへの夢は開いてたのであろうか?その知識と経験とやらを武器として。答えはNOだ。現代の不況じゃ一流企業は愚かロクに大学も出ていない俺はどっかの子会社の末端組織の一員としてそのゲームなんたらの知識と経験を最終兵器に一生を下層階級のリーマン人生を送る事に為るだろう。もちろんそのゲームクリエイターと言う肩書きだけで。だからこそ俺は自分の人生をドロップアウトしたのだ。この際だからいっその事アウトローにでも為って若き青春を送るのも悪くない。つまり遊びたかったのだ。現実逃避したかったのだ。それがロストサムライを結成した切っ掛けだ。ゲーム業界?論外。その言葉を口にするのは100年早い。夢のまた夢だ。ゲームの『ゲ』の字しか知らない俺の出る幕は無い。どの道楽な人生なんて有り得ないのだ。

 「だったらこー言うのはどう?」

 不意に失意のどん底に陥っていた俺の眠りを妨げる(女神(ビーナス)と呼ぶには少々大袈裟だが)甲高い声が意識の中枢で真空管が破裂する様にパリーンと音を立てて呼び覚ました。

 「こー言うのって?」

 俺と市川末蔵(すえぞう)が声を合わせて彼女―――橋水八重子(やえこ)に視線を注ぐ。彼女は躊躇う事も無く、だが決してはしゃぐ事も無く、至ってシンプルに真面目にこう答えた。

 「『RPGツクール』って知ってる?」

 「『RPGツクール』?」

 俺と市川末蔵(すえぞう)は今度は顔を見合わせてどっちつかずの変に奇妙な気分に為り、その疑問を彼女に向けて反芻して声を揃えて口に出した。

 「そう。『RPGツクール』」

 「何だそりゃ。聞いた事無いな。それはゲームか何かなのか?」

 「そう。強いて言うならゲームを作るゲームって所かしら」

 「成る程。そー言えば俺の専門学校在籍当時にいた知人が妙にそのゲームに詳しくて話が浮上したら盛り上がってたのをさり気無く聞いた事ある」

 「ゲームを作るゲームか。そりゃ珍しい。過去に言う所の『学校をつくろう』とか『プロサッカークラブをつくろう』みたいなものか?」

 彼女―――橋水八重子(やえこ)は大きく被りを振った。自慢のロングヘアーが乱れる。

 「そんなのよりももっと大規模よ。何せこのシリーズはRPG(ロールプレイングゲーム)だけじゃなくて他にも『アクション』『2D格闘』『シミュレーションRPG』『タクティカルRPG』『シューティング』『恋愛シュミレーション』『キャラクター』『3DCG』『音楽』―――etc.

 とにかくいーっぱいジャンルがあるんだから。それも途方も無くね」

 「そんなにあんの!?」

 俺は驚嘆した。

 「こりゃロストサムライ以来始まってのドデカい仕事だな」

 「しかもこれ、ゲームって言っても並の容量じゃないわ。PS3みたいなハード機器だったらまだマシだけど、それ以前の『RPGツクール4』『RPGツクール3』は元祖プレイステーションだから1枚のメモリーカードじゃ足りない位。だから基本的にパソコン用のヤツでやった方が良いかもね。もちろんデスクトップの」

 「パソコン用のもあるのか?」

 「当たり前よ」

 橋水八重子(やえこ)はさも不機嫌そうに言う。どこかドスの利いた声だ。

 「パソコン用の場合メモリ容量を気にしなくて出来るんだからこっちを買った方が絶対良い筈。他にもディスプレイ解像度やハードディスクの空き容量があればより綿密に私達ロストサムライのクオリティの高いオリジナルゲームを作成する事も可能。他にもOSの問題とかインターネットに接続してライセンス認証とかしなくちゃだけどその点は特に問題無いでしょ」

 「でも何で今更ゲームなんだ?」

 「俺達の目的はあくまで一獲千金だって―事忘れてないか?」

 和磨(かずま)末蔵(すえぞう)が意味も無く野次る。無目的な時代遅れの小規模な学生運動でも起こしかねない危ないヒッピーみたいだ。

 「心配ご無用」

 橋水八重子(やえこ)は一点張りだった。おお。さすがはこの点に関しては一般常識を兼ね備えた(れっき)とした大学生だ。―――そう。橋水八重子(やえこ)は実は私立の一流大学に通っている和磨(かずま)達に比べたら超エリートなお嬢様なのだ。

 「実はこのゲームクリエイトごっこをして金を稼ぐ事は超可能なのよ」

 だが、そんな彼女の目的もやはり金だった。

 「成る程?ゲームクリエイトごっこってーのは所謂その『RPGツクール』なるもので俺達為りにゲームを作成し、どっかの企業に売り飛ばすってオチか?」

 「ノンノンノン。違いまーす。でもオシイ」

 「オイオイオイ。一体何すりゃいーんだよ。出し惜しみしてないでサッサと用件だけ言え」

 さすがの市川末蔵(すえぞう)もイライラしてきたみたいだ。思わず眉間に皺が刻まれる。

 「確かにそんな事可能だったらとっくに提案してたわよ。だけどいきなりどこぞの素人の何者か分からない身元不明のパンピーが巨大な某ゲーム会社に郵送で例の『RPGツクール』で作成したゲームを採用すると思う?そんなのメチャクチャよ。物事には論理と言うものがあって少しも妥協や矛盾は許されない。そんな郵便物が届いたら社員の人達が不審がって脅迫紛いの時限爆弾でも仕込んであるのかと勘違いして即刻警察に届け出る所。ご丁寧に住所まで記載されてるから賞金狙う所かこっちが賞金首掛けられてライバル達に差付けられてハッピーエンディングを迎えるのはその猛者達だけ。私達は言うまでも無く牢獄。ライバル達は―――そうねえ。多分、警察から表彰されて時の人として少しだけ騒がれる。そんな所かしら」

 和磨(かずま)末蔵(すえぞう)はチョッと腑抜けた。思わず両肩がガクンと落ちる。

 「何だよ。結局精々時の人かよ。呆気ねー」

 「当たり前でしょ。そもそも私達に懸賞金懸ける位なら警察も苦労しないわ。元々住所がバレてんだから不審人物の特定にそう時間掛からないわ。そうでしょ?」

 「なーるへそ。んで?そのゲームクリエイトごっこってーのは?」

 和磨(かずま)は少し眠たげに親指の甘爪を剥がしながら多少興味無さ気にそう言う。段々厭きてきたみたいだ。

 「実はパンピー向けのゲームクリエイト大会ってーのが開催するのよ。しかもネット上で」

 ―――ピンポーン―――

 ここで新たなお仲間の登場だ。

 「何だよー。結構良い所だったのにー。邪魔すんなっつーの!」

 インターホン越しの相手に向かって思いっきり悪態吐く捻くれヤローの市川末蔵(すえぞう)。そして果たして肝心のその相手とは?

 「―――へ?何のお話?せっかく差し入れ持って来たのに扱い酷くない?」

 相手はどこかインテリジェンスを気取った痩せっぽちのメガネ君。コンビニの袋を掲げながら戸惑いを隠し切れない様子だ。

 「だーかーら。今、家両親共にワイキキで踊ってんの。ビーチでワイハ。YOU KNOW?分かんなかったらもう帰って良いよ。差し入れは玄関所置いといてくれ。それじゃーサヨナラーカメハメハ!」

 「チョッと扱い更に酷く為ってるよ!僕だって立派なロストサムライの一員でしょ?君の両親がハワイに言ってる事位、結構、結構だよ」

 メガネ君は(おもむろ)に中指でずれたご自慢のメガネを器用な手付きで丁寧に持ち上げる。息が少し荒く、疲れているみたいだ。元々彼は虚弱体質なのだ。

 「OK.早く来いよ。皆待ってるぜ。ワイハで」

 「ワイハで!?もう良いよ。入っちゃうよ?」

 インターホンの受話器を置くと不意に橋水八重子(やえこ)が尋ねてきた。

 「誰?まー大方想像つくけど」

 「ビーチでワイハ。フラダンス。ヒッキ―アミーゴ、カメハメハ」

 「なーんだ。教授か。アイツこの前医者に余命1年と持って半年って宣告されたらしーけど大丈夫かな」

 「―――良く通じたな」

 「余計な心配するな。アイツはアイツで良く頑張ってると俺は思うよ。独断と偏見だけど。人生細く長くじゃなくて太く短く生きろ。まさに金言だね。奴は奴なりに残りの時間を楽しんでるのさ」

 恐らく1番楽しんでるのは例の教授と呼ばれた痩せっぽちメガネ君じゃなくてコイツ等だろう。そして更に和磨(かずま)が追い打ちを掛ける。

 「まーせめてもの救いはあの世へ逝った後、両親に多額の生命保険金が入って最後の最後で親孝行出来るってーとこかな?―――つーか今気付いたんだけどその金って俺等の懐にくる事ってあり得るのかな」

 結局話はまた金の方向へ動くのでした。ああ。TIME IS MONEY.

 「残念でした。それは100%有り得ない。そしてそんな事で何か工作して俺等の懐にマネーロンダリングしたらそれこそ横領罪で一生を棒に振る事に為るぞ」

 「チッ。やはり一獲千金の夢は儚く難しいな。そして美しい」

 「振り向くな。君は美しい」

 「何か。うるさいね。あんた等。そんな事しなくても和磨(かずま)末蔵(すえぞう)だったら何かとんでもない如何わしいコースに人生が流転していって最終的にオジャンになるからどっち道早いか遅いかよ」

 まるでシャビ=エルナンデスみたいなキラーパスを送り込む女―――橋水八重子(やえこ)

 「如何わしいと言えば教授の病気も何か如何わしい香りがプンプンするんだよね。確かR指定じゃ無かった?」

 果たしてR指定の病気なんてこの世に存在するのか?これが神様の悪戯だとしたら相当嫌なヤローだ。てゆーか、最早それは神様と崇め奉る程、崇高な存在なのか?

 「R指定の病気―――その名も―――」

 「どーもご無沙汰でーす。何ですか?皆さん怪訝な顔をして。分かった。『エクソシスト』でも見てたんでしょー?これから夏本番ですからねー。だからってハメ外し過ぎちゃダメですよ。あの映画ホントに怖いんですから。若しかしてディレクターズカット版見ちゃったりなんだり?」

 メガネ君登場。いや、教授か?

 「―――いや…いやいやいや。勿論そんなそんなそんな損な話なんかしてないよ。今時エクソシストなんて古いよ。なー皆?」

 「あ…あたぼうよ!俺達の目的は何だ?一攫千金だ!だから気にすんな。な?な?教授」

 「何を気にするんです?」

 今度は教授が怪訝そうな顔に為った。因みに彼の名前は松野樹(しげる)だ。

 「も、もちろん気にする事なんて何も無いのよ。だからこれからの人生を精一杯生きてよ。ね?ね?だから気にしないで教授」

 「だから何を気にするんです?」

 教授の言葉が重く彼等3人のハートに圧し掛かる。全くこれだからタイミングと言うヤツは好きに為れない。

 「俺達はなー教授。良く聞け。何もお前の事でこんな暗い顔してると本気で思ってるのか?」

 またまた怪訝な顔をした末蔵(すえぞう)はそう言う。

 「―――あ。そー言われて見ればそーですね。1番説得力ありますねそれ」

 実は教授の事で皆そんな怪訝な顔をしていたなんて口が裂けても死んでも言えない。

 「―――んで?一体どんなお話を?」

 パッと急に表情が明るくなった彼は割と単調に譲歩してきた。

 「R指定の病―――」

 「R指定?―――の何?」

 そこで橋水八重子(やえこ)が軽くミスった和磨(かずま)の頭を小突く。

 「いや、だからだからー最近のFF(ファイナルファンタジー)の最新作がR指定に為ったとしたらこの先どーなるのかなーって。そんな事議論してたのよ」

 「―――そう。最近じゃゲームにも年齢制限してるじゃん?だから現代の小学生達に夢や希望が届き難いんじゃないかなって―――もちろんファンタジーの」

 「そこで考え出したのが俺達の議論―――!」

 和磨(かずま)が進んで立ち上がる。

 「ゲームが無いなら作れば良い!」

 市川末蔵(すえぞう)もつられて立ち上がる。

 「そこで今回のテーマは―――」

 橋水八重子(やえこ)お嬢様までいきり立って立ち上がる。そして3人で―――手を合わせて叫ぶ。


 ―――『RPGツクールで大儲け!一獲千金狙っちゃおう!』―――


 ―――パチパチパチ―――

 疎らな拍手。もちろんそれは1人だけ。教授事松野樹(しげる)だ。

 「成る程。そー言う事だったんですね。今回のテーマは。それで皆さんあんな難解そうな顔を―――」

 何とかこの場は切り抜けたみたいだ。それにしてもこんな奴等にFF(ファイナルファンタジー)の将来の安否を不安にさせるとは。それが事実にしろ無いにしろあの某大手ゲーム会社にとってもとんでもなく良い迷惑だ。と、言うか大迷惑この上ない。

 「―――んで?このミッションの策はあるのか?橋水八重子(やえこ)

 俺は頭を摩り摩りボーっとした視界の中、懸命に(こら)える。さっき小突かれたのが相当効いている様だ。

 「フルネームで呼ばないでよ。もちろん作戦が無い訳じゃ無いわ。でもその前に諸君。君達はこの名を聞いた事はあるかな?」

 

―――『月夜見(ストーリーテラー)』―――通称『TUKURIBITO(ツクリビト)』―――


「な、何か偉大なる人物の影がチラホラ見えてきてる感じがする。オーラみたいなモノかな?一体そいつは何者ですか?」

和磨(かずま)は唇を震わせ興奮した調子で思いっきり疑問を露呈する。プロのロッククライマーが前人未到のクレバスを想起させるツルツルした表面に凹凸の無い100メートル級の崖に挑戦する時の緊張感と心境は似ているのかも知れない。

「一体誰なん?そのTUKURIBITO(ツクリビト)ってーのは?」

末蔵(すえぞう)は無表情だ。余り興味をそそられないらしい。

 「―――あ。それなら僕知ってますよ」

 なんとまたしても教授が爆弾発言。コイツ意外とトラブルメーカーだったりして。

 「え―――?マジ?ウソでしょ?教授。シッカリして。遺言残すにはまだ早過ぎ―――」

 「チョーップ!」

 今度は和磨(かずま)の出番だった。八重子(やえこ)の脳天にソレが直撃する。脳天直撃!セガサターンだ。

 「イター」

 「―――んで?そのTUKURIBITO(ツクリビト)だっけ?そのお方は何者なんですか?」

 「簡単に言うと、『ネット上の魔術師』です」

 痩せぎすな身体を奇妙にくねらせながらまたメガネ君特有の中指でメガネを押し上げて決めポーズを取る教授。

 「彼には色々なあだ名が付いてるんです。今言った『ネット上の魔術師』だとかさっき言った『月夜見(ストーリーテラー)』だとか。でも最もポピュラーなのが『TUKURIBITO(ツクリビト)』です」

 「だからそいつは何者なの?一体全体そいつは何をやらかしたの?」

 末蔵(すえぞう)がヒリヒリする頭を右手で擦っている八重子(やえこ)を横目で見遣りながら多少苛立たしげにそう言った。

 「彼はね。いや彼女かな?と、言いますのも本名、年齢、性別、その他一切諸々不明の正体が分からない伝説の詐欺師です。と、言いますのもそこの所もまた不明なのですが殆ど推測で論理を組み立てていく話の非常に巧い謎の青年実業家と言った所でしょうか?」

 その場にいた全員が両腕を組んだ。試行錯誤しているみたいだ。

 「青年実業家?」

 「―――はい。そうです。まーこの場合女性は含まれないのですが、女の人なら裏社会の高給キャリアウーマン。そんな所でしょうか?」

 「何で詐欺師なんだ?」

 「そうですね。簡単に言うと日本のバブル期と同様なんですよ。これは僕の個人的意見なんですが我が国日本が高度経済成長期を経て所謂バブルと言う金の物差しみたいなモノに踊らされましたよね?例えば一般人のサラリーマンが高額なお金を支払って毎日タクシーで帰宅するとか若い連中なんかは毎晩ディスコで踊り狂ったり。だけどバブルが弾けた丁度90年代の初頭、僕たちがまだほんの赤ん坊の頃に突然不景気に陥りました。それがバブル崩壊―――」

 「成る程?世の中全て金で買えると信じ切っていた連中が一気に地獄のどん底に落とされた。まるでケータイでエロサイトに突入(アクセス)した高校生が振り込め詐欺にそれをネタにして間違って振り込んだのと手口が似ていると?」

 「いや、確かにそれも一種の詐欺の常套手段だと僕も認めますがTUKURIBITO(ツクリビト)

場合(ケース)はそれと似て非なるモノなんです」

 話は続く。

 「僕がバブルを比喩的に表現したいのはバブルの土地高騰と言う点についてだけです。土地高騰と言うのはその土地の値段―――つまり価格の事なんですがあの時代はその土地、例えば分譲マンションやアパート、一軒家や有料駐車場程度が建てられるスペースさえあれば問題無かった。何故ならばその土地を買い占めて放って置けば土地の値段が急速に膨張していくんですから。まるで人生ゲームの最後の賭けでディズニーランドやら何やらを倍の値段で売却するのと同じ事です。しかも誰もがその事を決して疑ったりした事が無かった。ここが盲点です」

 「へー。つまりその時代の俺達のパパママ連中はバブル崩壊を予想すらしていなかった。ってー事?」

 「その通り。簡単に言えばそんなとこです」

 「でもそれと例のTUKURIBITO(ツクリビト)との関係は?」

 厄介な事に教授の話はまだ続く。

 「それはですね何も特別不思議な事では無いと僕は密かに睨んでいたりします。何故ならばさっきの例を挙げたとおりに要約すると、これは架空の仮想空間(バーチャルリアリティ)を利用した事に為ります。それは土地と言う名のある種の俗悪な需要であり、それに利潤を追求した消費者が最終的には破滅の一途を辿る事に為る。つまりある種の振り込め詐欺と言うかどちらかと言うとアポイントメント商法に近い気がします。若しくはまだ年端もいかない若手のホステスがブランド物のバッグを質に入れてまでホストクラブに入り浸って自己破産する。そんな所でしょうか?

 それでここで1つのキーワードと言うか共通点があるんです。何か分かりますか?」

 「えーとスイマセン教授。俺達ニートなんで。NFPHなんで」

 完全白旗ムード一色のNFPHの連中。こんな連盟(若しくは徒党?)直ぐに解散してしまえ。

 「何、単純な話です。云わば勢いってーヤツです」

 ―――勢い?その他3名唖然。しかし何とか食って掛かる。

 「成る程。勢いね。確かに今挙げてきた例を辿るとどれも人間の本能てか欲望が剥き出しに為ってる感が否めないのも無理ないな」

 「その通りです。バブルの土地高騰もアポイントメント商法も若いホステスが自分の身を売って稼いだお金を1日で使い果たして豪遊するのも全て勢い。

だから彼(若しくは彼女)―――TUKURIBITO(ツクリビト)はネット上の魔術師と呼ばれてるんです。もうお分かりですよね?皆さん」

「あーなんとなく分かった様な」

「つまりTUKURIBITO(ツクリビト)はネットと言う1つの仮想空間(バーチャルリアリティ)に勢いを利用して(トラップ)を仕掛けては幾人もの健全なユーザー達を騙して一儲けしてる。とんでもないヤローだって事か」

まーロストサムライも似た様な組織(NFPH)なのだが。

「その通り。彼(彼女)TUKURIBITO(ツクリビト)は待っているんですよ。様々な所謂所のイベントをネット上で開催してはそこでユーザー達を拾い集めバブルが崩壊する時を。そのあまりに巧みな手際から正体不明の点まで今まで数々のユーザー達から逆に賞賛を浴びてるほどです。これも僕の推測なんですが恐らく彼は自分が捕まるまで最高の悪役を演じ切る積りの様ですね。ルパン3世みたいに。決して楽しんでるのでは無いのですがそれと同時にこの上ないスリルをモノにして自分に酔ってるんです。意外とナルシストな奴だな。等と僕は時々思ったりします。これはある種の中毒(ジャンキー)です」

こうしてやっとこさ教授のお話は終わりました。どうもお疲れ様です。

「ってー事はさ。私が偶々見付けたパンピー向けのゲームクリエイト大会って―――」

思わず休息に入ったのも束の間。橋水八重子(やえこ)がまるで狂った様にポツリと言う。

「あーそれですか。それは僕も知ってますよ。ネット上のヤツでしょう。優勝賞金300万円の。これは明らかに奴の仕業に違いないですね」

教授はまたもや中指でメガネを押し上げる。透明なレンズが室内の天井に備え付けられた蛍光灯に反射してキラリと光沢を放つ。

 「それは分かってるわよ。でも―――でも、折角の一獲千金を狙えるチャンスなんだよ?ここで退いたらロストサムライの名に汚名を塗ってしまうわ。それでも良いの!?」

 彼女はそう言うが元々ロストサムライに誇り高き精神等宿ってはいない。何せNFPHの集まりなのだから。多少例外が混じっても結局NFPHなのだから。

 一同沈黙。

 「もう!そんなんだから出世出来ないんじゃない。こーなりゃ銀行強盗でもおっぱじめてみる?」

 ―――しかしここで黙っていないロストサムライの救世主が現れた。

 ―――ピンポーン―――

 最後の来客者がその瞬間幕を開けるが如く盛大なチャイムを打ち鳴らした。


 ―――えー本日は我が○△県市民協同組合における無人島外泊ツアーキャンペーンに御参加下さいまして誠に有難う御座います―――

 フェリー乗り場では拡声器越しに中年の男が初夏の日差しを浴びながら額に汗して何度も先程の言葉を連呼している。ワイシャツによれたチノパンを穿いて首には『○△県市民協同組合』と表記された白いタオルを巻いている。特にこれと言った特徴が無い普通のオジサンだが今回のこの企画の立派な添乗員―――つまりツアーコンダクターってヤツだ。

 「ふーやっぱ6月つっても初夏の日差しはキツイわね。それにしても鳴り物入りでここまで来ちゃった訳だけどホントに大丈夫なの?皆」

 ロストサムライ最後のメンバーは(あかつき)ツバメ。正真正銘の女だ。女性メンバーは橋水八重子(やえこ)1人では無かったのだ。(あかつき)ツバメは栗色のショートカットの髪の毛を右手で器用に纏めながら白いキャミソールの上に半袖のジャケットを羽織り下はデニムのショーツに高さ8センチの厚底ブーツを履いていた。腕には幾つものブレスレットが嵩張る様にカチャカチャと音を鳴らし、左耳に銀色のピアスをしていた。割とカジュアルで派手な格好だが小柄で細身な彼女の体躯からしては上手く着こなせてる。決して流行に乗り遅れてる風も無くかといって時代遅れな印象が初対面の人でも薄く見えるのだから不思議と言えば不思議だ。胸元には金色のレイバンのサングラスをぶら下げている。

 「あー問題無い」

 和磨(かずま)は口をあんぐり開けてかったるそうに答える。

 「てゆーかここまで来れたのが奇跡みたいなモノだから」

 市川末蔵(すえぞう)は目がマジだった。

 「チョッと!私の言った通りに為ったんだから感謝してよね。皆」

 橋水八重子(やえこ)は思わず口を尖らせる。

 「それにしてもホントに上手くいくのかな?僕ら以外誰もいないですよね。このツアー明らかに」

 教授は心細げに不安を小声で露呈する。辺りをキョロキョロとしどろもどろに落ち着きが無い。

 「恐らく他のエントリーした連中は先に島に到着してるんだろ?心配いらない」

 もちろん彼等ロストサムライは観光の為にこんな所まで態々出向いた訳では無い。

 目的は唯1つ!真実は何時も1つ!NO1に為らなくても良い!元々特別なONLY1!オンリーロンリーグローリー!

 彼等ロストサムライはもんの凄く気合が入っていた。まー表面上はやはりNFPHと断定しても差し支えないだろう。だが―――

 今回のこのツアーは奴、TUKURIBITO(ツクリビト)のお得意の(トラップ)が仕掛けてあるのは言うまでも無い。正に計画的犯行と言うヤツだ。

 結局、RPGツクールによるゲームクリエイト大会にエントリーしたロストサムライは最終選考まで通ったみたいだ。ホンマかいな。ツイテイケへん。って思うだろうが、何、何の不思議も無い。何故ならばこのツアー自体がある種のカラクリで出来ていた事をその場の皆は覚ったからだ。

 これは最終選考に受かったと言うよりTUKURIBITO(ツクリビト)が誘導したと解釈した方が正しいのかも知れない。もちろん賞金300万は奴の異名『ネット上の魔術師』を髣髴とさせるモノ、連想させるモノ―――に違いないからだ。

 つまり賞金300万は完全な嘘っ八。これは完全な詐欺である。

 そこに堂々と乗り込んだバガボンド(バカモノども)は誰もが失笑するこの企画に敢えて乗ってやったのだ。ある程度パソコンを経由した人ならば誰もが知っているであろう奴(もちろんTUKURIBITO(ツクリビト))の術中にハマる事は無かった。それも当然と言えば当然の結果だった。しかーし事態は更なる展開を見せる。

 「えー無人島―無人島に到着しまーす」

 フェリー乗り場のオッサンはある一定の声音でツアーコンダクターの役目を果たす。全く○△県市民協同組合だかなんだか知らないがこれで食っていけるんだから良い身分だ。

 「無人島ってまんまやんけ」

 ケラケラと思わず笑うロストサムライ一行。フェリーから降りた後、ツアーコンダクターのオッサンは余裕をかましてるNFPHに向かって何やら意味深な発言をする。

 「気を付けろよ。ゲームはもう始まっている」

 ―――は?

 そう言ってそのオッサンはフェリーのエンジンを唸らせ去って行った。

 全く意味が呑み込めなかったロストサムライ一行は取り敢えず周囲を見渡す。そして直ぐにある異変に気付く。

 「―――なあ?」

 「何だ?」

 最初に不審を感じたのは他の誰でも無い市川末蔵(すえぞう)だった。どこか落ち着かない不安げな表情だ。そして更に言葉を続ける。しわがれそうな今にも泣き出しそうな声で。

 「これって例のイベントだろ?その―――TUKURIBITO(ツクリビト)ってー奴の。それにしても可笑しくねーか?こうして見てみると俺達以外に人様が入った気配が微塵も感じられねーんだけど」

 さっきまでの余裕の笑いは何処へやら案の定人様のいる気配は微塵も感じられない。ケータイも圏外。更に追い打ちを掛けるが如く会話はポツリポツリと続く。

 「あ―――ああ。でもそれもその筈。だ、だってさーこれってある程度の常識人為らば誰もが知ってるTUKURIBITO(ツクリビト)様々の(トラップ)であって誰もこんな陳腐な詐欺ツアーになんか参加しないからだよきっと」

 「でもチョッと待って皆。確か招待状って私達ロストサムライって言う1つのグループで貰ったんだよね確か」

 橋水八重子(やえこ)が目と口を尖がらせて鋭いテンポで何時になくハキハキと物事の論理を追求してくる。誰もそれに異存は無かった。

 「―――ええ。そうですよ。もちろん。ホラ招待状だってここに」

 彼女の言葉に逸早く反応した教授は綺麗に包装された例のその招待状をよれたショルダーバッグから取り出した。

 「何々?どーしたの?皆黙り込んじゃって。いきなりトラブル?もーサイテー」

 (あかつき)ツバメは1人だけ呑気だった。自由気儘な彼女は本心をあてども無く露呈する。

 「チョッと。その招待状貸して」

 ―――ピンときたら110番。既にこの時この瞬間に事態は不吉な方向へと走り去って行くのでした。

 招待状にはこうある。


 ―――えー拝啓。ロストサムライ様。初めまして。私は通称『ネット上の魔術師』『月夜見(ストーリーテラー)』事、TUKURIBITO(ツクリビト)です。君達5人組には敬服します。とてもとても素晴らしいゲームを拝見させて戴きました。シナリオはもちろんの事、奇抜な発想によるイベントの分岐、個性的なオリジナリティー溢れるキャラクター。壮大なファンタジー。迫力満点のバトルシステム。現代グラフィックデザイナーを髣髴とさせる創造性に富んだダンジョン構成。思考を張り巡らす多彩なサブイベントやミニゲーム等、どれもこれも私の想像を遥かに超えるモノでした。改めて敬服します。謝辞。

 そこであなた方の今回の『エキサイト=エキストラ』が最終候補作としてノミネートされた事をここに告げます。そこであなた方をある無人島企画ツアーに参加される事をここに表します。

 授賞式は6月15日。詳しくは公式ウェブサイト上に時間と場所が指定されています。

 最優秀作品は賞金300万円と賞状と楯(※尚、受賞作による漫画化権、出版権、放映権等の諸権利の全ての優先権は私TUKURIBITO(ツクリビト)に帰属するモノとします)。


 ―――敬愛するロストサムライ様へ―――TUKURIBITO(ツクリビト)より―――


カーカー。何処かからカモメの鳴く声が聞こえてくる。

 「コレのどこがおかしいんです?」

 教授は無表情でそう言う。メガネのレンズが光沢を放つ。

 「私達、ロストサムライのメンバーを奴(TUKURIBITO(ツクリビト))に教えた事なんて無かったよね?」

 「そりゃそーだろ?だって―――ってまさか…!」

 「何で私達のメンバーの数を知ってるの?」

 ザザーン。ターコイズブルーの波の音が微かに彼等5人組の鼓膜の内側に空しくこびり付く。

 「―――そ、そー言えばそーね。じゃー犯人はまさか」

 (あかつき)ツバメはゴクリと生唾を飲み込んだ。追い打ちを掛ける様に橋水八重子(やえこ)は続ける。

 目的は唯1つ!真実は何時も1つ!NO1に為らなくても良い!元々特別なONLY1!オンリーロンリーグローリー!

 「ええ。そーね。まず私達5人組の中にいるとみて間違い無さそーね」

 ザザーン。ターコイズブルーの波の音が微かに彼等5人組の鼓膜の内側に空しくこびり付く。

 「オイオイオイオイ。マジかよチョッと待てよ。それは幾等なんでも早とちり過ぎやしないか?俺達は元々昔から(※たった2、3カ月前です)ロストサムライとしてやってここまできたんだぞ。仲間を裏切るなんてそんな真似する奴がこの中にいると本気でそう思ってるのか?」

 何やら話がダークな展開に為ってきたので思わずそれを静止しようともがく男。その名は和磨包(かずまつつむ)。しかし彼等の傍若無人の言動はやがてモンスターと為って暴れまくる。

 「結局の所―――僕達にはたった2、3か月程度の絆しか無かった。そう言いたい訳ですね」

 教授は教授らしく如何にも冷静な視点で物事を感知する。果たしてそのメガネの奥の真相とは―――!?

 「おもしれ―じゃねーか。乗ってやるよ。俺は最後まで生き残る積りだがな。あくまでも」

 今度は市川末蔵(すえぞう)が徐々にその本性を現してくる。これは立派なサバイバルゲーム。精神的残虐性を備えたバトルロワイヤルみたいだ。

 「チッ。勝手にしやがれ!」

 和磨(かずま)は舌打ちをする。思わず暗いおぼろな目つきで周囲を見渡す。

 「決まりね。ツバメはどーする?」

 「決まりも何も従うしか無いじゃない。とにかく私は私なりに皆に付いていくわ。でも―――」

 ―――でも?

 何か言い淀んでる(あかつき)ツバメに皆の視線が集中する。凝視してくる彼等の視線はそれぞれが欲と欺瞞に塗れて擬態する。ある種の闇のカモフラージュ。それぞれが既に悪の化身であるピエロに踊らされてるのだ。唯、その中に唯一1人だけジョーカーが潜んでいる。

 「これって。何かの映画みたいなシーンと似てるんだよね。さっきから思ってたんだけど。何て言ったっけな。あの映画」

 「もしかしてそれって『LOST(ロスト)』じゃない?」

 橋水八重子(やえこ)が何とか考えあぐねた挙句、思い付いたそのタイトルを言ってみた。

 「そーそーそれよそれ」

 「でもそれって確か映画じゃないよな。アメリカで一時期流行ったドラマかなんかだろ?」

 和磨(かずま)がどこかやり切れない口調で自ずと反応する。

 「それもシーズン1の1番最初。確か飛行機が不時着した場所に生き残った人達がそれぞれの思惑を胸に無人島で生活するってヤツ」

 「詳しく言えば事故だろ事故。それに無人島つっても変な生き物がそこには確かいて妙な経歴を持つ連中が共同で生活していくんだろ。例えば元軍人とか。でも実際俺シッカリ見た事が無いから分からんが」

 市川末蔵(すえぞう)は捻くれた口調で素早く反応する。だが、価値のある情報はそこでストップした。

 「―――成る程?予め『ロストサムライ』を知っていたその張本人の犯人さんは態々その映画『LOST(ロスト)』に(ちな)んで俺達を呼びよせたってー訳か。中々洒落の通じた茶目っ気タップリのスカしたヤローだ」

 和磨(かずま)は1人苦笑する。余程可笑しかった訳では無い。毒々しい皮肉交じりの溜め息がそこにいる皆の前に響き渡る。

 ―――こうして俺達のどこかふざけた気味の悪い無人島を舞台にしたツアーは何時の間にか始まった。


 「でもさあ」

 「何?」

 海岸から森の茂みを歩いていく途中、(おもむろ)(あかつき)ツバメはそっと傍にいた橋水八重子(やえこ)に呟いた。

 「一体全体TUKURIBITO(ツクリビト)ってー奴は何考えてるんだろーね?私等をこんな所に呼び出して。何より動機が不明なのよね。私が知る限りじゃ」

 それに対して橋水八重子(やえこ)はこう答える。

 「良い?ツバメ。奴はね。いやこの際だからTUKURIBITO(ツクリビト)と呼ばして貰おう。TUKURIBITO(ツクリビト)は前にも言ったけどプロの詐欺師なのよ。あくまでネット上の。その姿を見た者は誰一人としていない。これはある種のギャンブルよ。彼は私達に挑戦状を申し込んだってー訳よ。これから先、何が起こるか分からない。つまり彼は私達を利用して1つのアドベンチャーゲームをしようと目論んでる訳よ。だから自分の身は自分で守らなくちゃ。それよりも何よりももしツバメが犯人だったとしたら、こっそり親友である私にだけ教えなさい。もちろんウソは無し。小学校からの仲でしょ。さー白状しなさい」

 「な―――八重子(やえこ)。勘弁してよもー。私が犯人な訳無いでしょ。男漁りは好きだけど何もこんな無人島までやって来る動機がこの私にあるって本気で思うの?」

 ツバメは苦笑した。橋水八重子(やえこ)も多少頬を緩ませたがその表情はどこか締りがあった。そして尚も続ける。

 「もちろんそんな事思ったりしてないわよ。あんたの性格は知り尽くしてるからね。だけどあの3人組に手出しちゃダメよ。あいつらは野獣。それに犯人かも知れないんだから」

 「いやいやいや。どーしたの?八重子(やえこ)。熱でもあるんじゃない?あの3人組に手を出すんだったらグリズリーに身を売った方がマシよ。一応言っとくけど私は犯人じゃないわ」

 「―――そう。なら良いけど」

 しかしそんな会話をしてる最中でもとても安心出来なかった。なぜならこの無人島の森はまるで樹海の様に深く、全てを飲み尽くし暗闇へと彼等の足を運んだからだ。

 男3人組は3人組で何やら色々とやっていた。

 教授は何かあった時の為と言い(ホントは記念に)持参してきたビデオカメラを撮影していた。そしてその途中和磨(かずま)が何かに反応した。何処からか草の微風に吹かれるサラサラした音と複数の野鳥の囀りと羽ばたく声が聞こえる。

 「―――ん?」

 「ん?どしたん?和磨(かずま)

 「何か今聞こえなかったか?」

 「チョッと驚かさないで下さいよ」

 教授が思わず縮み上がる。

 「どんな音だ?」

 「何か言葉では言い表せないジーってゆー機械音。てゆーか視線?」

 「はー?視線?」

 呆気にとられた末蔵(すえぞう)は呆然と虚空を見据える。空は綺麗に晴れ渡っていた。しかしそれにすぐさま答えたのは意外にも教授だった。

 「そ、それならこれですよ。このビデオカメラ。今ちょうど撮影してるとこですから」

 「いや、そんな事は俺にだって分かるさ。でも何か感じるんだよね。何者かの視線が」

 「ジョーダンだろ?お前犯人に恨みでも持たれてるんじゃねー?」

 「てゆーか俺が犯人だったりして」

 「ハッハッハッハ」

 NFPHの最も将来性の薄い和磨(かずま)末蔵(すえぞう)は高笑いする。まるで余裕シャクシャクと言った風情だ。しかし教授は相変わらずカメラを回して付近を撮りまくってた。彼等のジョーダンに付いていけず一心不乱に余所余所しく撮りまくる。

 しかし(あなが)和磨(かずま)の耳はシッカリとその『音』をキャッチしていた。それはまるでリスや小鳥を呼びよせる巣箱みたいに近くにある木々に設置されてあった。中を覗けば小さいレンズが剥き出しに為っている。所謂隠しカメラだ。

 ジー。

 無機質な機械音が不自然な程不似合に自然の森の奥深くで何時までも鳴り響いてた。


 「ねー!皆。見て!何アレ?」

 発狂した様に最初に声を上げたのは他でも無い橋水八重子(やえこ)だった。

 「何。コレ」

 呆気に取られてそう呟いたのは(あかつき)ツバメだ。

 「―――城…?だよな。あの奥に見えるのは」

 和磨包(かずまつつむ)もさすがに口を開けて呆然とその方向を見詰めていた。

 「それにしても大層な門構えだな。周りに壁囲わなきゃ無意味だぜ。これじゃパリの凱旋門と一緒だ。それにしちゃちゃっちいけど」

 意外な反応を見せたのは市川末蔵(すえぞう)だった。先程の余韻もあってか暫し楽観な態度である。

 「何でこんな孤島に―――。それもこれは立派な西洋の代物ですよ。この凱旋門にしても奥のあの小さなお城にしても」

 カメラを尚も撮り続ける教授。意外と抜け目のない奴だな。やっぱりコイツも所詮NFPH―――か。

 取り敢えず先へ進むロストサムライ一行。小さな凱旋門を潜ると突然周囲の景色が一変した。

 何と全員が例の凱旋門を潜った後に上に設置されていた鉄格子が突然ガシャン!と言う音を立てて落下した。呆然とした一行だったが、その後にとんでもない不思議な出来事と出くわした。

 何と周囲にある筈のないモノが空から降り注いできたのである。それは光り輝く剣だった。金色に光ったソレは周囲に壁を創るが如く連なり鎖の様な連携で辺りを埋め尽くした。一本の高さは優に10メートルを超え、ロストサムライ5人組を見事に封じ込めてしまった。まるで光の護封剣みたいにピカピカと輝き憎たらしい位に周囲を囲い埋め尽くしていった。

 「オイオイオイオイ。マジかよ。マジですか?ロストサムライ危うし。みたいな?」

 常に世間や社会情勢に危機感を抱いていなきゃいけない20前後の若者5人は危機意識0だった。NFPH。ロストサムライだった。

 しかし1人だけそれにそぐわないモノがいた。そう―――橋水八重子(やえこ)だ。

 「チョッと!チョッと!チョッと!何よコレ。ジョーダンじゃ無いわよ。人間技じゃねー!」

 猛然と突っ走ってその光り輝く剣の壁に向かって彼女は走っていった。無論、誰も止める者は皆無だった。

 ドンドンドン!

 「チョッとー!ここから出しなさい!コラ!」

 何回もそう怒涛の様に疾駆してはその光の剣にタックルやエルボー、またはボディーブロー等を容赦なく連発する彼女―――橋水八重子(やえこ)。しかし一体どこで彼女はこんな技を覚えてきたのだろうか?謎はやはり深まるばかりだ。

 その時、何処かから拡声器越しにまるで園内放送の様に何者かの声が聞こえてきた。

 ―――そう。他でも無い。TUKURIBITO(ツクリビト)だ。

 「えー。ロストサムライの皆さん静粛に。君達5人組は最早私の術中の(トラップ)にハマってしまった。えー繰り返します。ハマってしまった。だから尚更抵抗は止めなさい。チョッとそこの御嬢さん。いえ、お姉さん。いや、オイ、女!止めろっつーの!ババア!止めろよ!てゆーか他の奴等!止めろ!アイツ!あの女!万が一結界壊したらお前等取り返しのつかない事に為るぞ!」

 「―――あ。TUKURIBITO(ツクリビト)だ」

 ボソッと呟いたのは(あかつき)ツバメだ。他は誰一人として沈黙を貫き通してる。直立不動だ。そして橋水八重子(やえこ)は悪足掻きを止めた。館内放送にやっと気付いたみたいだ。

 「―――あ。TUKURIBITO(ツクリビト)だ」

 ボソッと呟いたのは橋水八重子(やえこ)だ。他は誰一人として沈黙を貫き通してる。直立不動だ。

 「―――え。えー失礼しました。では改めてロストサムライの皆さん。こんにちは。私は通称『ネット上の魔術師』『月夜見(ストーリーテラー)』事、TUKURIBITO(ツクリビト)です。

 これからあなた方5人組を私の館にお招き致しましょう」

 その時間髪入れず橋水八重子(やえこ)は質問を浴びせ掛けた。もちろん通称『ネット上の魔術師』『月夜見(ストーリーテラー)』事、TUKURIBITO(ツクリビト)に対して。

 「ねーあんた。ホントにあのTUKURIBITO(ツクリビト)?」

 少し間が空いた。だが、TUKURIBITO(ツクリビト)は平然とこう言った。

 「ええ。もちろん。他に誰だと言うのです?」

 「なーんだ。じゃー最初から私達の中に犯人はいなかった。そー言う訳ね」

 ロストサムライ5人組はホッと胸を撫で下ろした。思わず安堵の表情を見せる。

 「いや、そー言う訳ね。と、申されても私にはどー言う訳だかサッパリ」

 戸惑いを隠せないTUKURIBITO(ツクリビト)。意外な一面を見せる。と、言うかこれが彼の本性なのかも知れない。

 「じゃーここから出してよ。今すぐ」

 最早タメ語。上下関係無し。TUKURIBITO(ツクリビト)面目丸潰れ。

 「いえいえ。そー言う訳にはいきません。てゆーかあなた方が自ら来たんでしょう?この私―――通称『ネット上の魔術師』『月夜見(ストーリーテラー)』事、TUKURIBITO(ツクリビト)に招待されて。だから結界は解きません」

 「はー?」

 「ざっけんな!」

 「汚いですよ!やり方が!」

 「正々堂々とやりなよ!」

 ブーイングの数々。全くTUKURIBITO(ツクリビト)も大迷惑だ。ロストサムライと言う厄介な相手を選んでしまった。今更後悔してももう遅い。『日本を元気』にと言うキャッチフレーズがあったが十分元気ではないか。少なくともこいつ等―――NFPHは。

 「―――フ。言いたいだけ言えば良い。ここから出たいのならば私との勝負を受けて貰わねば為りません。取り敢えず中へ―――」

 そう言うとあの遠くから見た西洋のお城みたいな館が解放された。ギーと金属の擦れる凝り固まった音が聞こえる。

 「ヨッシャー!行くでー皆!」

 気合だけは十分過ぎる程あった。やはり普段の生活でパワーを消費してない分だけその身体の内部には異常な程エナジーが満ち足りてあった。


 彼等ロストサムライは走った。幾つもの廊下を走り幾つもの階段を駆け上がった。中は迷路の様に入り組んでは無かったが様々な(トラップ)が仕掛けてあった。

 最初の(トラップ)に引っ掛かったのは(あかつき)ツバメだった。全員でイケイケモードの時に動くタキシード姿の人形(※イケメン)に幻惑を掛けられそのまま付いて行って闇の中へ。男連中はそれに気付かずに先へGO!GO!因みに橋水八重子(やえこ)は『Bセン』だったのでなんの心配も無かった。気にせずGO!

 2つ目の(トラップ)に引っ掛かったのは市川末蔵(すえぞう)だった。偶々ワイハに旅行中だった両親から電話が掛かってきた。元来ホームシックな彼は仕方なく電話に応対。足止めを食らう。

 他の連中は気にせずGO!

 因みに彼は両親からお土産をせがんだ。しかし彼は気付かなかった。今ここにいるのはどこの国でもない地図にも載っていない絶海の孤島。無論、先に述べた様にケータイは繋がらない筈。一体彼は誰と話して誰にお土産をせがんでいたのだろうか?答えはもちろん闇の中へ。それが彼の冥途の土産と為った。

 更に奥へ奥へと突き進んでいく勇敢な紳士淑女。メンバーは残るは3人。ロストサムライ始まって以来の大仕事だ。ラストミッションと言っても良いかも知れない。そんな折に遂に第3の(トラップ)に引っ掛かった者がいた。

 ―――そう。橋水八重子(やえこ)だ。

 元来勉強熱心な彼女にも弱点はあったのだ。それは権力と栄光と野心と野望。彼女の最大の目的は―――金。やはり金だ。もちろんそれは今まで公にされていないが元々ここの無人島に来た彼女の最大の理由は、奴―――TUKURIBITO(ツクリビト)の身柄確保及びその懸賞金にあると言っても良い。彼女の金銭欲はとてもとても鋭い。彼女は走ってる最中にまず光り輝くモノを見付けた。銀色に光るそれは500円玉だった。後の2人はそんな事気にもせず(てゆーか気付かずに)その場を通り抜けた。

 しかし彼女はそれをネコババしたのだ。するとその2、3メートル先に今度は紙幣を見付けた。1000円札だ。舞い上がった彼女はそのまた先に10000円札を見付ける事に成功。こうして彼女は既定のコースから外れて仲間達と別れ少しづつ闇の中へ。最後に悲鳴のようなモノが聞こえたが誰も気づく者はいなかった。

 さーこうして残るは2人と為ってしまった。和磨(かずま)と教授だ。

 まさに男2人組。だが、彼等は2人とも今の今まで仲間達とはぐれた事に気が付いていなかった。そして事件はまたしても間髪入れずに起こった。

 徐々にスピードを上げていく和磨(かずま)に対し逆に徐々にスローダウンしていく教授。遂に彼は膝を付いてしまった。

 「どーした教授!大丈夫か?」

 今に為ってやっとこさ仲間達の異常に気付いた和磨(かずま)はそう言って一度立ち止まった。振り返ると教授はガクンと肩を落とし苦しそうに胸を押さえている。

 ―――まさか。和磨(かずま)は嫌な予感がした。しかし今更引き返す事は出来ない。かと言って仲間を見捨てる事も悔やまれる。これ以上犠牲者を出さない為にも和磨(かずま)は教授に恐る恐る近付いた。必死の形相で呼吸を繰り返す教授。そして言う。

 「教えて下さい。和磨(かずま)さん。本当に僕はあのヤブ医者の言うとおり余命1年と持って半年なんでしょうか?」

 ヤブ医者と言うのは教授の通っている国立病院の医師の事だ。無理も無い。最近では医療ミスなんてしょっちゅうだし、医師のモラルの低下も世間では叫ばれてる。世の中が腐り切ってる何よりの証拠だ。現に今、目の前にその犠牲者がいるのだ。

 正直言って和磨(かずま)は教授に何を言って良いのか分からなかった。言葉が見つからないまま時間だけが空しく過ぎ去っていく。事実―――教授の心臓の病は重い。

 「そ―――そんなのウソに決まってるだろ!?シッカリしろ教授。大丈夫だ」

 ウソも方便と言うか実際の所その教授の余命がどの位のモノかは今の和磨(かずま)には分からなかった。とにかく必死に元気づける様に喋り続ける。教授が気を失わない為にだ。

 何処かの小説で読んだのだが現実に例えば重症患者が救急車で運ばれて応急処置を行っている時、その患者が気を失わない為にわざと救急救命士が喋り続ける事があるらしい。偶々それを思い付いたのかそうでは無いのか分からないが和磨(かずま)はとにかく喋り続ける事に専念した。

 死にかけの教授は言う。

 「―――ぼ、僕の事は構わず―――皆の為にも―――」

 「良し分かった!」

 しかし決断は早かった。そこが和磨(かずま)のウィークポイントでもある。『急がば回れ』では無く『善は急げ』―――。そこが和磨(かずま)のウィークポイントでもある。

 こうして和磨(かずま)は最後の砦であるこの西洋チックな大聖堂の大広間までやって来た。


 「フフフ。意外と速かったではないか。しかしお前1人だけとは」

 無論それは犠牲者を野放しにしてシカトして突っ走って来たからだ。残ったのは和磨(かずま)1人だけ。

 少し紫に近いどす黒い悪魔神官が着ている様なフード付きのローブを羽織った謎の人物がそこにいた。もちろんTUKURIBITO(ツクリビト)だ。

 「テメー好い加減にしやがれ!『ネット上の魔術師』だか『月夜見(ストーリーテラー)』だか知らないが調子にノリ過ぎだ!覚悟しろ!」

 「フフフ。君は私の本当の正体を知らない。私はね、こう見えても唯の詐欺師でもマジシャンでも無い。あの光の剣を見ただろう?君はもう永久にここから出られないのだよ。私を倒せるのなら話は別だがね」

 そう言ってTUKURIBITO(ツクリビト)はクックックと苦笑交じりの高笑いをする。

 ―――チッ。どーすれば良い?和磨(かずま)は己の内奥で深く考える。奴は確かに人知を凌駕するほどの奇術師だ。だが―――

 俺には今、仲間達との結束がある。―――そう。言うなれば誇り高きNFPHとしての『絆』が―――。

 ロストサムライの伝説はここから始まるのだ。そして今は亡き伝説のメンバー市川末蔵(すえぞう)、教授、橋水八重子(やえこ)(あかつき)ツバメ―――そして他でも無い和磨包(かずまつつむ)

 TUKURIBITO(ツクリビト)は言う。

 「フフフ。どーした?恐ろしくて身が竦んでしまったか。まーそれも無理も無い。何故ならばこの私は唯の奇術師じゃない。ホントの正体は体内に媒体された『気』を自由自在に操るサイキッカーだ。今からお前にその真の魔術を食らわしてやる」

 TUKURIBITO(ツクリビト)はそう言うとホントにウソでもまやかしでも無い膨大な『気』がまるで竜巻の様に彼の周りを覆い隠し身震いがする程のオーラを纏い始めた。こんなものを生身の人間が食らえばたちまち木端微塵に為ってしまうであろう。

 しかし―――だがしかし。事態は思わぬ展開を見せる。和磨(かずま)がふとニヤリと奇妙な笑みを浮かべたのだ。奇怪な何もかもを歪ませるホントに不可思議な笑みだった。

 「ククク。サイキッカーね」

 今度は和磨(かずま)が高笑いする番だった。

 突然彼(もちろん和磨(かずま))の体内から眩い光が閃光の様に弾け飛び周囲を埋め尽くす。

 「何ぃぃぃぃ―!」

 声に為らない声で驚嘆の叫びを上げるTUKURIBITO(ツクリビト)。何かホントアホみたいだ。

 しかしそれも無理は無い。何と和磨(かずま)は己の中にある真の力である『気』を抑える事無く滝の様に怒涛の如く放出していたからだ。しかもその発信源は何とTUKURIBITO(ツクリビト)からだった。

 そう―――。驚く事無かれ。これがTUKURIBITO(ツクリビト)の正体。TUKURIBITO(ツクリビト)和磨包(かずまつつむ)本人だった。仲間達との2、3カ月間で培われてきたロストサムライ(NFPH)のつながり云わば『絆』―――。

 それがこの混沌とした社会に不思議な輪と為って縁を生み、TUKURIBITO(ツクリビト)と言う存在を育んできた。TUKURIBITO(ツクリビト)は最早『陰』の存在―――。陰を照らし消滅させるのは『陽』。それが今、この場にいるモノホンの和磨(かずま)本人である。くどい様だが。

 和磨(かずま)はその数奇な運命に立たされた『あの日何かを失くした日本人』―――。つまり『ロストサムライ』だ。だが、和磨(かずま)は敢えてその名を口にしなかった。最後のけりを付ける為、自らを『OKURIBITO(オクリビト)』と呼んだ。『ロストサムライ』の名は仲間達あってのモノ。それを忘れては為らない。

 「俺がお前でお前が俺で―――。全くとんでもねー食わせ者だぜお前はよ!この俺様OKURIBITO(オクリビト)が直々に成敗してくれるわ!」

 そう言った和磨(かずま)は体内に放出される気を精神統一して集中させ膨大な量を誇るエナジーで遂にそのTUKURIBITO(ツクリビト)との決着を付けた。これがこの奇怪な物語の事実上の終止符(ピリオド)を打ったと言っても過言では無いかも知れない。


 ―――ガヤガヤガヤガヤ。

 ここは所謂『東京ゲームショウ』の会場。新作のゲーム機器やゲームソフトの体験版をいち早くプレイしたいが為に様々な客でごった返していた。殆どが子供やオタクみたいな連中が楽しめるオアシスであり憩いの場―――。

 その中でも特に注目を惹いたのは他でも無い『ロストサムライ』が提供したプレイステーション用ゲームソフト『エキサイト=エキストラ』だ。

 何でもこれは最新のハード機器と様々な電子回路を複合して作成した特殊なヘルメットを被って眠るだけで誰でも手軽にまるで実体験の様な臨場感溢れるゲームの世界を堪能出来ると言う3Dを飛び越えた正に『夢』の様なビックリゲームだ。

 ―――そう。彼等は最初に言った様にアメリカンドリーム為らぬ『ジャパニーズドリーム』を実現したのだ。まーでもまだその具体的な話は持ち上がっていなくてこのゲーム『エキサイト=エキストラ』もあくまでまだ試作品段階だが。

 あの日―――もちろん例のTUKURIBITO(ツクリビト)との決戦を交えたあの無人島での出来事―――。実はあれは全て彼等ロストサムライの自作自演。―――そう。演技だったのだ。ホントは誰も死んでなどいない。しかし1つだけ誤算があった。

 事の発端は(あかつき)ツバメが市川末蔵(すえぞう)の家に来てから始まった。それも『土壇場』で。

 「どーせ作るんだったらさもっとスケール大きくしようよ。『RPGツクール』なんかに頼らないでさ」

 部屋の中へ入るなり(あかつき)ツバメはそう提案した。しかし誰もがTUKURIBITO(ツクリビト)なんかには負けたくない。事実、その時には既に例の『ネット上の魔術師』『月夜見(ストーリーテラー)』事、TUKURIBITO(ツクリビト)は存在していたのだ。パソコンと言う近代兵器を媒介してまるで電波霊の様に。だからこそと(あかつき)ツバメは言う。

 「良い?皆、良く聞いて。奴の作戦を逆手に取るのよ」

 「どーやって?」

 キョトンと為っている他の連中を尻目にやはりこいつ等はNFPHだなと自覚しつつツバメは話を続ける。

 「まず最初にもう1人のTUKURIBITO(ツクリビト)を私達がネット上で創り出す。んでもってそいつとのバトルをそのまま忠実にゲームとして再現するのよ。そうね。場所は絶海の孤島が良いわ。そこに幾つものカメラをさり気無く仕込んでCGで変な館でも西洋のお城でも良いわ。そう言うシチュエーションって大事よ。そー言う舞台(ステージ)を用意する。後は私達の誰かが1人でも良いから家庭用のビデオカメラを持ってその島に乗り込む。もちろんTUKURIBITO(ツクリビト)の招待状みたいな物をこっちで勝手に用意して。なるべくスムーズにいく為にはこちら側から都合の良い設定を用意しとくのよ。予めね。そんで肝心のシナリオだけど私達5人の中に犯人がいるってーのはどう?意外性やインパクトには欠けるけど最後までこっちのペースに持っていけるわ。後はマイクパフォーマンスやCG処理なんかで実際にTUKURIBITO(ツクリビト)本人との対決を作って自作自演する。そーすりゃモノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)だって度肝を抜かされるし一杯食わされたって思うじゃない。その映像をネット上で公開して多くの支持者(特にモノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)に騙された被害者達)を得るし良いPRになるわ。その内ホントにどっかのゲーム会社(特に中小企業)かなんかがうち等のその実体験に基づいたより高度でリアルなゲームに金懸けてくるかもだよ。そーすりゃ一獲千金よ。―――どう?やってみたくない?」

 一同、唖然と言った感じだった。最初の印象は。だが決して不可能では無い。絶海の孤島は例の○△県市民協同組合のあのオッサンが提供してくれた。何でもツバメの親類にあたる人らしい。あのオッサンも今思うと迫真の演技をしてくれたもんである。予めその孤島を下見していたロストサムライ一行は事前にその森の中のルートをシッカリと決めて把握してピンポイントの場所にカメラを仕込んだ。元々、彼等側には1台の家庭用ビデオカメラしか備えて無かったのでそれが映り込む心配も無かった。後はTUKURIBITO(ツクリビト)(ニセモノ)の声を録音して拡声器で調整して例の館に辿り着いた時にその声に反応して自作自演で演じれば誰の目にも錯覚としてモノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)が館の中にいるって信じ込む。あの光の護封剣も後からCG処理したニセモノ。全くどこまでもえげつない事をしたが最終的にこの一大イベントはネット上で騒がれ大成功を収めた。幾らかの企業がこのアイディアを活かしたシナリオをベースに著作権や放映権等を取り合っていたが、より多額の値段で請求した。こちら側が一歩も退かなかった為ある意味一獲千金の夢は叶ったがロストサムライにとってはまだまだこれからといった所だろう。

 めでたしめでたし―――と、言いたい所だがその後彼等ロストサムライに事件が発覚した。スキャンダラスな事件が―――。


 ここで1つ疑問が残る。ではモノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)は何処へ行ってしまったのか?結局この一連の事件によってまさか『ネット上の魔術師』『月夜見(ストーリーテラー)』をいや、もっと詳しく言えば一流の詐欺師を引退してしまったのか?

 結論を言えばそんな事は無かった。なぜならばTUKURIBITO(ツクリビト)の正体がこのロストサムライの大イベントによって必然的に浮き出てきたからだ。

 これは一体何を意味するのか?そう。答えは至ってシンプルかつ単純。犯人が分かったのだ。それは最早言うまでも無くロストサムライのメンバーの誰かさんだ。

 その犯人は教授だった。何で教授だったのか?順を追って説明しよう。

 今回のこの企画―――いや、ゲームか?まーそんな細かい事はどーでも宜しい。実はこのイベントには最初から最後まで様々な仕掛けが仕組まれていたのだ。

 あの女、(あかつき)ツバメが土壇場で来なかったらこの様な結末を迎える事は無かったろう。何故ならば彼女だけが唯一教授のホントの正体を知っていたからだ。他の者達は全くそんな事に気が付いていなかった。―――そう。皆無だったのだ。あの日、NFPH―――通称ロストサムライの連中が市川末蔵(すえぞう)の家に集ったあの日。教授が帰った後、すかさず(あかつき)ツバメは彼の正体について打ち明けたのだ。―――そう。教授の正体。TUKURIBITO(ツクリビト)だ。

 驚いた他3名は唖然としながらも新たな作戦を遂行しようと決心した。もちろん(あかつき)ツバメも同様だった。それが今回のミッションの本当の目的だったのだ。

 何せ今回のこの無人島ツアーにはTUKURIBITO(ツクリビト)が絡んでいる。それはモノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)である教授にとって参加し無い訳にはいかなかった。

 海老で鯛を釣るとはこう言う事を言うのだろう。つまり彼等ロストサムライ(※1名除く)は2重の(トラップ)―――つまりニセモノのTUKURIBITO(ツクリビト)を勝手に創作し、モノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)の度肝を抜く。それはある種の暗号の様なモノ―――。

 ロストサムライのメンバー(※1名除く)は真実を握っていた。それはモノホンのTUKURIBITO(ツクリビト)を知らないふりをしていて実は知っていたと言うメッセージ。つまり教授は初めから彼等ロストサムライに騙されていたのだ。掌の上で踊らされていた。

 ―――そう。放火犯が後から事件現場に戻る様にふとした切っ掛けでこのゲームは遂行された。人間の深層心理の奥底で彼等の騙し合い、巧みな攻防は続いたのだ。

 犯人であるTUKURIBITO(ツクリビト)―――つまり教授は確かに身近にいた。だが、それは言い換えれば彼を危険にさらす行為だと言う事に彼自身、気付いていなかったと言う事。

 伝説の詐欺師はこうして敗れた。ロストサムライの残った更に邪悪なメンバー達によってハメられ騙されてその真実を知る事も無かった。

 これは単純に策士策に溺れるとは当たってる様で全然意味が違う。いや、もしかしたら紙一重で当たってるかも知れない。それと言うのも彼(教授)は伝説の詐欺師であってそしてそれ以上に残りのロストサムライのメンバー達もとんでもない詐欺師だったから。

 あの時、教授が話したキーワードは『勢い』だ―――。例のバブル時代の土地高騰の話。

 あの日あの時その土壇場でそれを利用したのがロストサムライの他のメンバーだった。これは最早自業自得と言うか自分で蒔いた種が偶々彼にとって凶を育んでしまった。それ以外にない。そして言葉が見つからない。

 あの自作自演の喜劇は教授へのさり気無いメッセージ。やがて最終的には教授が真犯人として炙り出されれば全ては丸く収まった―――筈だった。

 もちろん今回のイベントである2重の(トラップ)も教授には簡単な役目しか与えてはいない。無論、それと言うのもあまりこちら側の作戦に気付かれない為の処置だ。教授には例のCGでの演技とホームビデオの撮影以外教えてはいない。そして最後の最後まで教授―――TUKURIBITO(ツクリビト)は真実を知る事は無かった。だが―――

 途中、予期せぬ事態が起こった。それは教授の寿命だ。

 教授はあの日以来、帰らぬ人と為った。彼自体、こんな奇想天外なエンディングを迎えるとは夢にも思わなかったに違いない。

 そしてそれは他のロストサムライのメンバーも言わずもがな同様だった。

 あの時、架空のTUKURIBITO(ツクリビト)はロストサムライに言った。自分達の中に最初から犯人なんていなかったと。それが引き金に為ったのかホッと安堵の息を吐いて教授は安らかに息を引き取った。こうしてモノホンの(?)TUKURIBITO(ツクリビト)を捕まえると言うロストサムライの真の目的は達成出来なかったのだ。

 しかも厄介な事に彼等は奇妙に罪悪感の塊へと誘われた。若しかしたら今回のミッションで彼、教授(若しかしたらTUKURIBITO(ツクリビト))に遠回しなプレッシャーを掛け過ぎてその反動で寿命が早まったのかも知れない。それに実際の所彼が犯人じゃない可能性もまだ残っているのだ。何故ならば全ては彼が死んだ事によって全てが闇に閉ざされてしまったからだ。しかも彼は元々同じロストサムライのメンバーであり仲間であり数少ない友達だ。表向きでは成功したこの企画も結果的には1人の人間を犠牲にして出来た偽りの自由でしか無かった。世の中では金で買えないモノがあったのだ。

 これがロストサムライ―――『あの日何かを失くした日本人』の真相だ。

 目的は唯1つ!真実は何時も1つ!NO1に為らなくても良い!元々特別なONLY1!オンリーロンリーグローリー!

 この結末は誰かが予想しえただろうか?いや、それは決してない。全ての真実は謎と言う闇に包まれていってしまったからだ。しかし1つだけ光明があった。

あれから数カ月が経ってもネット上にTUKURIBITO(ツクリビト)が現れる事は無かったからだ。それは一筋の希望の様な儚い懺悔の塊だった。そして残ったロストサムライのメンバーが出した決断は―――

―――TUKURIBITO(ツクリビト)の意志を継ぐ事―――

メンバーにとってそれは1つの手段であり良心の呵責だった。せめてもの償いと言うヤツだ。しかしそれは彼等にとってロストサムライにとって新たなトラブルの軌跡を辿る原因に為る事に他ならない。その時誰もが瞬間、こう思った。

―――もう2度とあんな目にはあいたくない―――  (了)


読んで下さった方々には深い深い感謝の念と敬意を以ってありがとうと言う言葉を贈りたいです。

また、この作品に関して評価を添えて下さればとてもありがたいです。

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