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本心
時雨が、ここに来る気がした。何の根拠もない勘だけど、来る気がした。
来てはいけない。時雨はここに来ては行けない。
来るはずはないと分かっているけど、時雨は心を殺せることを知っている。消せない痛みをマヒさせることを知っている。
「…時雨が来るよ
ここに、来る」
「そ…う…
だめだな、わ…たし
こん、な…状態じゃ…時雨を…ころ
せな、い…」
「皮肉だけど、あなたは嬉しそうだ」
「ふふ…どうしてだろう…
ばれちゃう、から…かな…」
私に刺されて、血塗れでぼろぼろになりながらも玄幕遠子は未だに生きていた。雨で血は流れ、辺りは血で真っ赤に染まっている。もちろん、私も血で染められている。
玄幕遠子は苦しそうにしながらも、笑うことを止めなかった。涙を流しながら、笑っていた。悲しいくせに、笑っていた。
なんて、時雨に似ているんだろう。
「ねぇ、伏見、縹さん…
わた、しは…ず、と…しぐ、れが
す…き、だ、たの…」
いつからだろう…時雨が憎くなったのは…?