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きみ想い  作者: njxmrf
2/9

出会い

今回の話は特にわかりにくいと思われます。すいません。

あとあと、説明のような文章を書くので、

がんばってください。


 登場人物


 音蔵真琴(おとくらまこと)‥‥時雨の幼なじみ

 影宮皐月(かげみやさつき)‥‥時雨の姉

 かく‥‥?

僕__影宮時雨(かげみやしぐれ)

彼女__伏見縹(ふしみはなだ)

僕らが出会ったのは4月の中頃で、

桜が、散ったときだった。



 僕がまだ13歳で中学2年生に進級したとき、僕は生きる気力なんてなかった。でも、死ぬこともしなかった。ただ時間だけが流れていく、毎日を送っていた。

 感動も色もなにも映らない世界で、僕は絶望していた。こんなにも意味がない世界にいて、死にたかった。

 だけど、死ねなかった。

「時雨、今日一緒に…帰ろう?」

 学校が終わって幼なじみの真琴が気遣って誘ってくれる。本来ならありがたいはずなのに、僕は疎ましかった。

「真琴」

「なに?」

「もう僕に構わなくていい」

 そう言って真琴から逃げる。

 僕には、他人の優しさが苦痛でしかなかった。

 走って学校を出た。周りは誰かと笑っている生徒ばかりでどうしようもなく、居心地が悪かった。

 僕にはもう、純粋に笑いかけてくれる人はいないから。悔しくて、苦しかった。

 

 家に帰ると、庭にある桜が満開で美しかった。

 美しいと思えたことに、驚いた。

「僕はどうして、生きなければいけないんだ?

 いつまで、生きなければいけないんだ?」

 応えを仰ぐように、空を仰ぐ。

「そんな答え、求めてもないくせに」

 振り返ると、姉さんが笑っていた。

 身体が、心臓が、凍りつく。

「なんで、いるの…?」

「失礼な奴だな。この家は私の家でもあるんだぞ」

 当たり前のように、姉さんは振る舞った。

 当たり前なんだろうが僕にとって、姉さんがこの家に帰ってくるのは異常としか思えなかった。

「何のために、帰ってきた?

 どんな権限があって、この家に帰って来れたんだよ!!」

 僕が敵愾心をむき出しに叫ぶと、姉さんは冷たい目をして僕を見た。姉弟(きょうだい)なんかじゃない、ただの敵のように僕を見る。

「やはり、お前は出来損ないだよ。

 親父が死んで少しは変わったかと思ったが、無駄だったようだな」

 姉さんの言葉は心に真っ直ぐに突き刺さる。

「心配しなくても、お前なんぞ殺さない。そんな価値もないからだ。影宮の血筋の正式な跡取りの価値はなくなったに等しいからな」

 私が親父を殺した瞬間に───

 姉さんは声を上げて笑う。晴れやかな笑みに僕は恐れを抱く。

 そう、姉さんは父さんを殺した。

 僕が12歳になった時、僕が家を継ぐと決まった時、父さんがそれを宣言した時、

 姉さんは父さんを殺した。

「今日は仕事で来た。裏山の主を殺せとの命令だ」

「!…そんなことすれば!」

「あぁ、ここら一帯の土地は壊滅するんじゃないか?裏山の主はおそらく、この土地を司っているのだろう。」

 姉さんはおかしくてたまらないようだ。笑いを抑えきれずにいる。

「やめろよ、姉さん…」

──瞬間、

 僕は地面に押しつけられていた。四肢の自由を奪われ、首には刃物をつきつけられていた。

 姉さんの目には殺意しか込められていなかった。

「時雨、勘違いするなよ。言ったよな、おまえを殺さないのは殺すほどの価値がないからだ。

 仕事の邪魔するなら、お前は敵として殺す」

 姉さんはきっと何の迷いもなく、僕を殺すことができる。姉弟だからというしがらみなんてないのだろう。

 「時雨、泣いているのか」

 嘲笑う姉さんの前で、僕は泣いてしまった。

 もう、本当に僕と繋がった人間なんていない。

 僕はもう、独りなんだ。

「…れ」

「なんだと?」

「殺して、くれ…」

 もう、いいじゃないか。

 死んだほうが、あの世で、

──あいつに会える…

「姉さん、僕は姉さんの邪魔をするから。

 殺してくれ…」

 

「だからおまえなんかに殺す価値なんてないんだよ。おまえは弱いから死にたがる。強くなろうともせず、死のうとしても、他人の手にかかりたがる」


 姉さんはそう言うと、僕の右足の太股を斬りつけた。血が溢れ出てくるのがわかる。

 僕はどうして即死させてくれなかったのかと、姉さんに非難がましい目で見る。

「姉さん…?」

「私はどうしてこんなやつのために、悩んで、苦し まないといけなかったんだ…

 どうしてこんなやつのために、親父は死んだ?」

 あぁ、そうだ。その通りだ。

 直接殺したのは姉さんだけど、そうさせたのは僕なんだ。僕が強ければ、何の問題もなかった。

「選ばせてやるよ、時雨。

 このまま血を流して出血死するか、

 痛みを堪えて裏山に来て、私に殺されるか」

 やっと僕は死ねる──そう思った。

 

 どれくらい時間がたったのかわからない。視界が霞んで、暗闇に堕ちるのかと思っていたけどなにも見えなくなった。意識が消えてしまいそう、僕の血液とともに流れていく。

 どこへ───空へ───

 僕は今、幸せを感じている。

 太股の痛みは未だに感じるけれど、それすらも悦ばしいことだ。だって、確実に死に近づけているのだから。

 僕は僕のために死ぬ。

「…く、」

 あぁ、僕はどうかしている。

 もう死ぬから、もう呼べない名前が頭に浮かぶ。

 僕はもう、死ぬから。 誰でもない、僕のために。

 僕は死ぬと決めたんだ


「─────く─」

「─────くぅ──」

「───────────か、、、くぅ───」

 決めた瞬間、声がする。

 何か、必死に叫んでる。

 僕にはその声が、叫びが、どんなものであるのか分かった。

───無駄だよ。わかってるんだろ?

   もう、失ったこと

 それを伝えてあげたいのに、僕は動こうとしない。

 だってもう、手遅れだろう?

 あんなに叫んでも、戻らないんだろう?

 僕らは独りになったんだ。

 辛くて、絶望の世界に取り残されたんだ。

 僕は戯れに、最後に名前を呼ぶことにした。




「──くおん──」


 その名前を呼ぶと、

 僕の周りの景色は一変していた。

 目に映る光景は、

 炎に焼かれる桜の大木と、

 叫び続ける女の子。


「かく──かく──かく──かく──かく──いかないで!!もう独りにしないで!!独りはもう嫌だ、いってしまうなら、私も連れて行って!一緒に死ぬ!──かく──かく──かく──かく──」

 

 女の子は泣きじゃくり、桜に向かって叫ぶ。

 僕はその姿をが、何よりも美しいと思った。

 絶望のなかで、希望に縋るその姿、

 銀色の髪で、明らかに外人の整った顔、

 縹色の瞳。

 伏見縹───

 火を纏う桜の花びらに包まれて、必死に叫んでいる。

 僕は何もかも忘れて、女の子を抱きしめた。それでも叫び続ける女の子。僕は耳元で囁いた。


「───もう、独りじゃない

 僕も独りだから、傍にいるよ

 消えたりしない。死んだりしない。

 きみを残して、独りにさせない」


 女の子は「かく…」と呟くように叫ぶと、声を殺して泣いた。失うことに流した涙は今、事実を受け止めた証に代わった。

 桜は散ってしまった──

 縹の大切なものと共に──


          これが僕らの出会いだった。

 

語り───時雨


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