表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
きみ想い  作者: njxmrf
1/9

 登場人物


 影宮時雨(かげみやしぐれ)‥‥主人公

 伏見縹(ふしみはなだ)‥‥時雨の想い人

 稗田子凪(ひえだこなぎ)‥‥時雨の恩師



 雨のにおいがした。顔を上げて四角い窓に切り取られた空を見上げる。まだ雨は降っていないけれど、曇天の空でもうすぐ降り始めるのだろう。

 僕は読んでいた本をしまい、立ち上がる。

 行き先は決まっていた。

 

 彼女の元へ




 僕は外で傘をさして待っている。

 20分ほど待っていれば、彼女は姿を現した。

「おかえり」

 雨は小雨と呼べるものだけど、彼女か着ている着物は明らかに湿っていた。藍色の着物は濡れて、さらに濃くて深い色になっている。

 彼女の気持ちが映しだされているように。

 僕は傘を差し出す。自分が使っていた傘で、僕も彼女と同じく雨に濡れてしまう。

「使いなよ。そのために待ってたんだ」

 僕はちゃんと笑いかけられているだろうか。不安になってしまう。

 彼女は僕の一連の動作をただ眺めているだけだ。傘を受け取ることも、拒否することも、何もしない。

 僕は彼女の視界に、瞳に、意識に、ちゃんと存在しているのだろうか?

「使わない、か。」

 僕は諦めて、傘を閉じた。もとより傘を受け取るわけないと、わかってた。

 わかってたけど、僕は彼女を迎えにきた。

 一緒に雨に濡れると決めていた。

「じゃあ、行こうか」

 微笑んで、彼女の隣にいく。

 彼女が口を開いた。


「どうしてきた…」

「雨が降ったから」


 彼女を1人にさせてはいけないと思った。

 雨は涙を隠してくれる。

 けれど彼女を泣かせるのはまぎれもない、雨だ。

「もう、梅雨だからね。雨の日が増えるんだろうね」

 彼女の瞳が揺れたのがわかった。

 わかってたから、僕は言った。


「だから、これからも傘を持って待ってる」

 彼女にとって僕の行動は意味のないことかもしれない。逆に疎ましい事なのかもしれない。

 それでも、いいんだ。嫌われたくはないけれど、彼女を1人になんてできない。

「行こうか、子凪(こなぎ)さんのところへ」

 ゆっくりとした速度で歩く。

 彼女が傍らにいて、一緒に歩いてくれる。

 それだけで僕は救われるんだ。


 

 そう、(はなだ)がそこにいる、生きている

 それだけで僕は、救われる───


 これから何が起ころうと、

 どんな結末だったとしても、

 僕は縹のために生きると決めたんだ

語り───時雨 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ