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乙女ゲームの悪役になりまして

作者: 篠崎 カンナ
掲載日:2026/10/22

 ふと意識が浮上し、目を覚ました。

 見慣れない、木製の天井。ギシギシと嫌な音を立てる質素なベッド。そして、どこか適当な場所から拾って来たのか? と疑いたくなるほど汚くところどころ朽ちている机と椅子。

 そして、部屋全体は大量の本で埋め尽くされていた。


「ど、どう言うこと……?」


 と思わず呟いたが、聞き慣れないがどこかで聞いたことのある声に驚き「なに!?」と軽く叫んだ。

 恐る恐る手を見れば、男性らしいゴツゴツとした手、ベッドから抜け出して立ち上がってみれば、いつもより高い視線。

 ──これ、転生ってやつ……?

 転生したとして、ここがどこなのかは全く分からない。この体の持ち主の記憶を頑張って思い返そうとするが、昨日の夜は残業してそのまま寝た記憶しか思い出せない。

 何かヒントはないだろうか? と机の上を見れば、そこには学校の入学書類が乱雑に置かれていた。

 学園の名前を見て、私はこれから起こること全てを悟った。否、悟らざるおえなかった。


「私、死ぬじゃん……」


 話は少し変わるが、乙女ゲームの悪役をご存知だろうか?

 悪役"令嬢"ではなく、悪役である。

 乙女ゲームのシナリオの都合上、攻略対象とヒロインが立ち向かう絶対的悪。攻略するキャラによっては空気になったり、攻略対象がシナリオの根幹に関わる場合には出番が多かったりと、立ち回りが大分変わるキャラクター。それが乙女ゲームの悪役だ。

 物によっては悪役が存在しない場合も、もちろんあるのだが、残念なことに私が転生したこの世界では存在するのだ。

 そう、私が転生してしまった、ノイル・アージュはこの世界では悪なのである。

 簡単に説明すると、ノイルは死霊──要は幽霊と会話ができた。しかし、この世界ではずっと昔に死霊使いが国家転覆を企てたせいで、死霊にまつわる魔法は全て禁忌とされてしまった。

 そして、残念なことにノイルには死霊使いの才能があった。それを気味悪がり、恐れた両親はこの屋根裏部屋にノイルを軟禁し、世間体のためだけにこの一年制の魔法学校へ入学させるのだ。

 学校自体が全寮制のため、一年だけでもこの呪われた子供を遠ざけることができる。それだけで。

 なら、ヒロインに救って貰えば良いのでは? とも思うのだが、根本的にノイルとヒロインの相性が悪すぎる。ヒロインは聖を司り、神に愛された娘。死者しか友達のいないノイルには文字通り眩しすぎるのだ。

 彼の台詞で「君の顔を正しく"観た"ことなんてない」とはっきり言うくらいには。

 ノイルはこの一年間で、死霊魔法をさらに進化させ、自らを認めない世界を壊そうと動く。大変幼稚な行動にも思えるのだが、ノイルにはそれしかなかった。そして、彼の友である死者たちもまた、この世界が壊れれば良いと望んでいた。

 そこから色々とあってヒロインと攻略対象に討伐されるまでがセットだ。どのルートに行こうが、絶対に死ぬ。救済ルートなんて生易しいものは存在しない。

 入学取り消しも頭を過ったが、無理やりにでも入学させられるだろう。そんなこともノイルは言っていた気がする。

 では、どうすれば良いのか。悩みに悩んだが、良い結論は出なかった。

 何しろ、私自身が厄介な原作厨だからである。

 ノイルはたしかに可哀想なところもある。しかしやっていることは世界の崩壊なのだ。擁護が出来ない。

 なら、いっそのこと派手に悪役を演じて散れば良いのでは!? 爆発オチ最高!

 遠くからヒロインと攻略対象たちがイチャイチャしてるところを見ながら、私は悪役らしく散る。これしかない。と言うか、これしか認められない。悲しいオタクの性だ。

 死ぬために生きるとはなんとも矛盾しているが、それしかない。


「やってやるぜ、悪役! ドンと来い! 悪役!」


 謎の決意を固め、握り拳を作る。

 入学は一ヶ月後。運命の賽はすでに投げられた。

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