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あとがきと解説 ~本作の題材となった実在の、伝説のビルダーについて~

 みなさま 拙作「狂気の男 ~薬物ビルダー篠崎誠司の決意~」を読了頂き、ありがとうございました。執筆期間中は、読者の皆様から、様々な応援やレビューを頂き、とても力になりました。ありがとうございました。


 もちろん、本作はフィクションであり、その記載内容も、実在の団体や人物とは、一切関係がないことを最初にお断りしたうえで、本作の主人公、篠崎誠司には、私の中で実在の有名なモデルがいました。


 それは、2000年に39歳で亡くなった、マッスル北村(本名 北村克己)さんです。

 

 北村さんは、1960年生まれ、高校を出て東京大学に入学し、ボディビル部で活躍されました。当時から、その日本人離れしたバルクで、将来を期待されたビルダーでした。

 しかし、1986年のジャパンチャンピオンシップ(ドーピング禁止団体。JBBFの最高峰)で、ステロイドのナンドトロンの陽性反応が出てしまったのです。彼は、検査結果について、団体と争いましたが、結局疑惑が晴れる事はなく、当団体から離脱し、その後は「マッスル北村」の芸名で芸能界に活路を見出します。

 

 ところが、彼のボディビルへの真摯な情熱は衰えませんでした。国内のでの活動が制約されたものですから、アメリカに活路を求め、1999年のNPCトーナメント(オリンピアではありません)のヘビー級で3位に入賞し、翌年はチャンピオンを目指して、まさに鬼気迫るトレーニングを続けていました。ちなみに、この団体もドーピング検査は実施していないので、彼に対するドーピング疑惑は晴れるどころか、むしろ深まったという事情がありました。


 彼の常軌を逸した逸話は、枚挙にいとまがありません。例えば、

 ・毎朝、卵の白身だけ20個一気飲みする。

 ・冷凍のササミ10本とプロテインと野菜をミキサーにかけ、冷たいドロドロの「ササミシェイク」として愛飲していた。バニラエッセンスを入れているのを見たことがあります。

 ・とある大会後、暴飲暴食して2日間で14㎏増えてしまったので、次の大会直前に秩父の山奥から練馬区の自宅まで100㎞を走り抜け、足を血だらけにしつつ、一晩で14㎏減量した。

 ・マシンのフルスタック(最大重量)でも足りず、数十キロのプレートをつけてトレして、しょちゅう壊していた。

  等々、まさに狂気としか思われない苦行を自らに課していきます。


 翌2000年の夏、アメリカでのNPCのタイトル獲得を目指し、20㎏もの厳しい減量を自身に課し、事実、過去最高の仕上がりに向かっていたのですが、あまりの過酷さに身体が悲鳴をあげ、渡航直前の高﨑(だったかな?)のデパート屋上のショーに出演する直前に低血糖で倒れ、病院に搬送されました。なお、病院で目を覚ました北村さんが、点滴の管をみて、看護師さんに「僕に糖を何グラム入れたんですか!?」と声高に聞き、管を引き抜いて会場に向かい、ショーを完遂したというお話しも残っています。

 その後、自宅に戻り、あと数日でアメリカの大会へと旅立つという段で、再び倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまいました。妹さんが、「めまいがしたら、飴玉一つでいいから舐めて!」と懇請していたそうですが、彼は「僕はこんな余分なカロリーは摂りたくない」として、これを受け容れなかったそうです。死因は、低血糖症による心不全とのことですから、要するに「飢え死に」してしまったわけです。亡くなったときの体脂肪率は3%であったとされています。


 そして、あまり知られてはいないのですが、彼の葬儀には、恋人も来られたという記録があったと思います(あいまいですが)。そのことについては、殆ど情報がありませんので、詳しくは分からないのですが。


 このように、ドーピング疑惑はずっと付きまとっていたものの、日本人として規格外のバルク、ボディビルに対する真摯な姿勢、人懐っこい笑顔と穏やかな性格、その反面、狂気に満ちたトレーニングと追い込み方、そういった両面から、とても人気の高い伝説的なビルダーでした。


 これは蛇足ですが、当時の日本にはボディビルのプロがいませんでしたから、お金の面ではだいぶ苦労されておられたようです。今ならユーチューバーとして絶大な人気が出、きっと経済的にも随分違ったのではないかと思いますが、当時は筋肉やトレーニングをネットで流してお金にする、などという考えは誰も持っていませんでしたから、仕方のないところです。


 本作も、読者の皆さんのレビューなど拝見すると、沢山の方が「結末が気になります」とおっしゃっておられました。それは、話しの流れ上、バッドエンドが容易に想像できるからだと思いますし、その声はあたかも助命嘆願のようにも感じましたが、マッスルさんをモデルにする以上は、結末も、恋人も、きちんと書くのが礼儀であろうと思い、最終話をいじることはしませんでした。

  

 なお、マッスル北村さんは、ドーピングに関しては、最後まで否定し、ナチュラルであると言い続けておられたことは、ここで指摘させて頂いたうえで、本稿を終わりたいと思います。


 1万字のつもりが、何倍にもなってしまって、内容も重くて、さぞかしお疲れになったと思います。読了、ありがとうございました。


 2025年1月29日


 小田島 匠


 追伸 マッスル北村さんの記事はネットでも多く見られますが、彼のお墓を訪れたという、この方のサイトが、写真・記事共によくまとまっていますので、興味のある方は、グーグルにペタっとやって、読んでみてください。


https://hakameguri.exblog.jp/31200574/

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