第一章 寵妃はまるで漆黒の烏
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〜闇の後宮〜
闇の後宮は一年十静かなはず。
それを選んで来たのだから、一年中静かでいたい。
宴嫌い、舞嫌い、歌嫌いな者もいるため宴は少ない。
それと対照的に
〜陽の後宮〜
あそこは本当にうるさい。
いやなことが沢山あり、一年中がやがやしている。
なので苦手だ。
なのに今年からは闇の後宮でも宴をするという。
絶望した俐子は一晩中泣いた。
俐子は宴が大嫌いで、両親に舞を見せても変な目でしか見られないから苦手だ。
ここに来てもきっと、変な目で見られるのだろう。
「俐子さま、お目覚めですか?闇の陛下がお見えですよ」
「陛下…」
朝から陛下ー麟が来ることは滅多にないと聞いているので珍しい。
自分は寵愛を受けているのだと、このことが原因で勘違いをしてしまうのである。
「中厨坐さま…」
「麟でいいよ。君には申し訳ないね。私が宴好きで、宮の者には迷惑をかけてしまった」
「いえ…!滅相もありません。わたしはただ、あなたさまのおそばにいたいだけですので…」
俐子は表を伏せる。
恥ずかしがり屋で他の妃ともまだ話せていない。
これから頑張ろうと思うが、なかなか上手くできないのだ。
「そんなにいい人ではないけとね、自分は。それでもいたいというのなら止めはしない。でも覚えておきなさい。私の能力が暴走したら、直ぐに逃げなさい。能力の暴走は危ない。下手すれば、自分を殺してしまうからね。きのうだって暴走したからね。君も気をつけなさい」
なにに?
なにに気をつけたらいいのかわからないまま、はい、と答えた。
「ご忠告、ありがとうございます」
麟は苦笑した。
なぜ苦笑したのかわからない。苦笑しない方が楽ではないか、苦笑でも笑わない方が楽ではないか、そう思ってしまう。
「なぜ来てくださったのですか?なぜ笑ってくださったのですか?わかりません、わたしには…」
「来てはいないよ。私自身は来たくなかったからね。それに、笑ってはいない。いわゆる苦笑だ。君には関係ない。それに、もう君の元へ来ることは…ないだろう」
突如放たれたこの言葉に驚き、何も隠せない。
「あなたはわたしを遊んでいるのですか!」
「…どうだろうね。感情を隠せないのなら、私の妃はやめたほうがいい」
なんで?
自分は卜占(占い)で選ばれ、後宮ー闇の後宮に入ったはず。
なのになんで寵愛されていないのか、とても不思議に思った。
あの術師は嘘をついたのだろうか。
「はい、とはお答えできません。どうかわたしを好きになってくださるまで、わたしは諦めません!」
だんだん麟が笑顔になっていく。
その様子を見て、ほっとしたがなんとなく幸せな気分になった。
不思議だ。人が幸せになっているのを見て、幸せになったことなどないから。
「ふっ。その意気だ。ではまた来る」
卜占は嘘をついていなかった。
自分は、寵を得に来た人間なのだ。
***
闇の後宮より手紙が来た。
自分は引くから、どうか命だけは守ってほしい。
その子だけはどうか、と。
(羽目な話だ。自分を犠牲にしてまで、己の子を守りたいとは)
自分のことを大事にしなければこの後宮では生きられない。なのにこの者は、自分の命と引き換えに子を守ろうとした。
少なくとも子まで命を取る気はない。
ましてや、自分はそこまで残酷ではないのだから。
「兄上」
「麟…!まだ、寝ていなさい」
「大丈夫です…兄上には…随分ご迷惑をおかけしている…ゴホッ…ゴホッ…」
「…苦しいか?」
「いえ、いつものことですから、苦しくありません」
見ずに絶えない。
実の弟ではないが弟同然に育てられた家族として、苦しそうにしているのはなんだか体がぐっと重くなる。
「それよりあの者…生きておりましたか?」
「ああ、生きていた。憎くとも、まだ生かしておくべきだ。いずれ我々に音を返し、良き忠臣となる」
弟が病なのも、あの女のせいだ。
あの女ー於保家の夏身。現、尾砲家当主の姪で先帝の皇后だった。
謀反を犯し、今は離隔されている。
「謀反を犯した者を忠臣にするなど、間違っています!あの者のせいで母上はっ…母上は亡くなられたのですよっ…?!」
「間違っている!!そなたがいくら憎くとも、生かせる者は生かしておくべきだ!」
兄弟喧嘩ーだろうか。
なにせ兄弟喧嘩をするのが初めてなものだから、よくわからない。
「謀反を犯した者を見方につけるなど…。どうかしているのは兄上ですっ!」
口を噤む。流石に悪いと思ったのか、麟は黙った。
良かったと思う。
三陽の平和が乱れなくて。
「良い、そなたは何も悪くない。悪いのは俺だ。あの者を見捨てなかった、俺が悪い」
「やっと、おわかりに?」
麟を抱きしめた。ぎっと愛おしげに、守りたげに。
実質、政権は陽の皇帝にある。だから陰の皇帝は政権というよりかは、神祭を司る。
「神祭を司るそなたにとって、さぞ辛かろう。こういうことは朕に任せておきなさい」
「はい…っ!」
良き政治をするためには、仲間として絶対にふたりの王が仲良くならなければならない。
たとえ、血が繋がっていなくとも。
「そういえば兄上」
麟が聞きたそうに言うので、つい顔を緩めてしまった。
「私は良き妻を見つけました。兄上は見つけられましたか?」
「あ、ああー、そうだなぁ。良き妻?良き妻?!ってお前、もう妻が?!」
「はい。私は後宮に立ち入ったのですが、そこで見つけたんです。良き妻を。兄上はまだ、後宮には立ち入ってはおられないんですね」
流石、俺の弟だ、と思いつつ少し焦っている。
まさかこんなに早く気に入りの妃嬪を見つけるとは。
「ああ、そうなんだ。まだ立ち入ってすらいない。そなたは早いな」
「早く決めないと、夜伽のときに困るでしょう?今日の初めての夜伽は、白壇龍俐子という者です。とても美しい美姫で、惚れ惚れしてしまいます」
「ほう…。白壇龍家もなかなかやるな…」
これが闇の後宮を嵐に巻き込むこと、蘭陽が少し気に入りの妃嬪を見つけようとしていたことは、まだ誰も知らない。
***
そろそろじゃのうと、於保家の夏身はにやりとした。
「稔、お稔や」
「はい、太后さま」
於保家の夏身は自分の侍女を呼び、離隔されていた部屋を出る。
「禱神はいるか?」
「禱神でございますか?」
「ああ、左様」
「どうでしょう。呼んでまいります」
これこそが、今年最大の危機であった。