第四十二話: 蝉
◆まえがき◆
今回の『蝉』は、エピローグに繋がる独立した短いお話です
最後の3つのお話は近しいタイミングでのUPとなりますので、順番を間違えずにお読みください。
まず
「第四十一話『胡蝶の夢⑧』」
を読んでいただいてから、この
「蝉」
を読んでいただき、
最後に「エピローグ」、という順番になります!
では第八章『蝉』、お楽しみください。(^v^)
八・ 蝉
『ピッ…ピッ…ピピッ…』
――パチッ!――
いつもの様に、鳴りだした瞬間に目覚まし時計の頭を引っぱたいて音を止めた。
僕の目覚まし時計は、小学校に入った時に買ってもらったやつで相当古い物だから音が少し変になっていた。
だから「もしかしたら鳴らないかも」という不安で、鳴りだしの1~2秒で瞬間的に目を覚ます変な癖がついていた。
朝ごはんの時間に遅れると母さんがヒステリーを起こしやすいから朝はいつも緊張していたけど、今日はその点は安心だ。
昨日の母さんの酔っぱらい方はひどかった。
初めてもらったアルバイト代でせっかく買った特上寿司なのに、母さんはそれをゴミ箱に捨ててしまった。
さすがに頭にきて、僕はそのまま2階の自分の部屋に上がってしまったけれど、酔いがさめてゴミ箱の寿司を見たらさぞかし悲しむだろうと思い、それはちょっと可哀想なので、結局、夜中に下に降りて行って、そこら辺に散らばった寿司の残がいとゴミ箱の寿司をまとめて自分の部屋に持っていった。
土曜のごみ回収車は平日より遅めの時間にやってくる。
まだ8時半だから余裕で大丈夫のはずだ。
僕は自分の部屋のゴミ袋を片手に母さんを起こさないようにできるだけ慎重に階段を降り、玄関に向かった。途中で居間を覗いたら、母さんはテーブルに突っ伏した姿勢のまま大イビキをかいて寝ていたので少し安心した。
外に出ると、顔見知りの近所のおばさんがちょうど集積場所から戻ってくるのに出くわした。
「あら、まーちゃん。偉いわねぇ」
おばさんはそう言って満面の笑みを押し付けてくる。
――『まーちゃん』って年でもないよな――
僕は、一応微笑んで見せ、めんどくさい事になる前にそそくさとその場を離れた。
ゴミ捨て場の角の所に来てみると、丁度ごみ収集車が来ていてゴミの積み込み作業をやっていた。
「間一髪だ!危ない危ない…」
珍しく早めに到着していた車に少し驚いたけど、何事もないような顔で僕はおじさんに直接ゴミ袋を差し出した。
おじさんは慣れた感じでその小さな袋をポイッと車に投げ入れると、もう一人のおじさんが同じタイミングで2~3個別の袋を投げ入れる。
「オッケー!」
あとからゴミを放ったおじさんが叫ぶと、ゴミの投げ込み口上部から〝かき込み装置〟がゴミ全体を潰すように車の奥の方に飲み込み始める…
僕が手渡したゴミ袋の側面が避けて、その切れ目から昨日捨てた寿司がまるで汚い食べこぼしのようにボロボロとこぼれ落ちていくのが見える。
僕はぼんやりと、寿司が車に飲み込まれていくのを見ながら思った。
――清掃車に食わせる為に買ったんじゃないんだけどな…――
セミたちが馬鹿みたいにうるさく鳴いている。
きっと、セミも間抜けな僕を笑ってるんだろう。
(つづく)
◆あとがき◆
最終話は夜中の12~2時頃にアップ予定です!
物語の結末やいかに!?(^v^)




