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発狂  作者: 羽夢屋敷
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第四十話: 胡蝶の夢  ⑦

◆まえがき◆


霧島の残した「ピストル」の情報…

屋台に残された二人は、この後どう動くのでしょう?

では、胡蝶の夢「第7話」

お楽しみください!(^v^)



  挿絵(By みてみん)





「ところで……変な話して良いですかね?」

 池矢があらたまった口調で、丁寧に切り出した。

「どうぞどうぞ。お構いなく」

「自分でも変だとは思いつつなんですが……どうも気になってしまって」

「何がです?」

「公園ですよ」

「!……まさか?」

「そう、霧島が言ってたタイムカプセルの話です。……あれ、実は本当に埋まってるんじゃないかなーって…」


「よしてくださいよ。…本人も言ってたじゅないですか冗談だって」

「本当にそう思いますか?…あの話しっぷり………どーも、引っかかるんですよね」

「まぁ、正直私も嘘にしては随分真に迫っていたよなーとは感じてますが…」

「どうです?ここを出たら、帰り道がてらちょっと見て帰るってのは?……場所もすごそばですし」

「う~ん……そこまでおっしゃるなら私は別に構いませんが…」


 池矢に押しきられる形でその提案に氏家はしぶしぶ同意した。

 二人がそれぞれのグラスに残った酒を飲みほしたところで〝時間もイイ時間だから〟という事で池矢が店主を起こし、二人は会計を済ませて店を出た。


 高架下を高円寺方向に歩きながら、足を進めるたびに乗り気でないはずの自分の鼓動が高まっていくのを感じた氏家は、自分が内心ではこの小さな探検にすこしばかり胸を躍らせている事に気付きほくそえんでいた。同じように池矢の方も、にやにやと嬉しそうな表情で頬を赤らめ、歩調を速めていた。


「ここです。この公園……サルスベリの木は~え~と…………どこだ?」

「あれじゃないですかね?……あの奥の、肌色っぽい木」

「あー、多分あれですね。……氏家さん、その辺に何か地面を掘れるような…太めの木の枝とかないですかね?」

「……木の枝、木の枝………あ、これとかどうですかね、割れた陶器の破片」

「あ、掘れますね。…じゃあ、私はコレ、すぎこぎ棒みたいでしょ」


 二人は互いに拾った採掘道具を確認しあうと、子供のようなくしゃっとした笑顔を見せる。二人は小走りで目的の木の下に到着すると、どこからにするかと掘り始めのポイントを吟味する。

「埋めるなら、穴を掘ってる時に目立たない裏側でしょう……ここ、ここしか無いと思いますね。根っこが二股に分かれてるこの間あたり…」


 そう言って池矢は手に持った棒で目星を付けた場所をツンツンと指し示す。

「もう夜中の2時過ぎですからね……不審者と思われて通報でもされたら面倒ですし、交互に掘りましょう……一人は外側に立って人が来たら教えるってカンジで」

「わかりました。……どっちから行きます?」

「じゃあ、馬力がでそうなこの棒の方からで…」

「了解しました」

 深夜の静まり返った公園に、暫し〝ザクッザクッ〟という小さな発掘音だけが響く。

 

「結構掘りましたね……30…40センチ位はいってますよねコレ…」

 陶器から平べったい石に道具を切り替えた氏家が、息を弾ませながら呟く。

「もし本当に埋めたんなら、そろそろ何か出てきてもイイはずなんですがね……」

「やっぱり霧島さんの冗談だったりして……ははっ」

「だったら、名演技ですよ。さっきの話しっぷりは」


 会話の内容とは裏腹に、二人は子供の頃に戻ったかの様に楽し気に、只ひたすら穴を堀りり続ける…

 さらに10センチほど掘り進め、やっぱり何も無かったなと諦めかけたその時、


 ― ベコッツ! ―


「え?……何かある!」

 氏家の石先が何か硬い物にぶつかり、明らかに異質な奇妙な音が響いた。石を脇にポイと投げ捨てると、氏江は素手で慎重にその物体の表面の土を掃いのけた。

「ほんとですか?……あっ!」

 出てきたのはビニール袋に入った20センチ四方のブリキ缶だった。


「重いですよ、これ……2キロ位ありそうです」

 袋についた土を払いながら、氏家は出てきたその缶を慎重に池矢に手渡した。


「まさか本当に…」

「開けてみなけりゃわかりません」


 池矢は缶を包んだビニール袋を素早く剥がし取ると、辺りを一度見回してから街燈の下のベンチへと早足で移動した。氏家は手についた泥汚れをズボンで叩きとしながら、小鴨の様によちよちとその後に続く。

 ベンチに辿り着くと、二人はブリキ缶を挟んで対面に着座した。

「開けますよ」

 そう言って缶の蓋に手をかける池矢の顔から既に笑みは消えていた。


 ― バカン! ―


 ブリキ缶が鈍い音を立てて口を開いた。

「?……本………それと、なんだこれ?……お地蔵様のキーホルダー?」

 全く想定外の物が現れた事に拍子抜けし、二人は表情を緩ませる。


「お守りか何かでしょうかね?……本は…洋書ですねこれ」

 氏家はキーホルダーを手に取り、それをくるくると周りから眺めながら告げる。

「本のタイトルは「エグモント」…か……作者は「GOETHE」?……なんて読むんでしょうね?これは」

 氏家の問いかけに、池矢が表紙の人物の肖像画をまじまじと観察 する。

「この禿げ上がった感じの肖像画、どっかでみたな………あ!ゲーテですよゲーテ、霧島の大好きな!」

 すぐに正解を導いた池矢は満足そうに上機嫌でその本を手に取った。


「あっ!」

「!」


 二人の表情が瞬間的に強張る。本の下に黄土色の紙袋に包まれた〝何か〟が入っているのが目に飛び込んだからだった。池矢は手に取った本を傍らに置くと慎重にそのの紙袋をブリキ缶から取り出す…


「重い…金属の塊だ…」

「まさか……本当に銃!?」

 紙袋の中に慎重に手を突っ込んだ池谷は、拍子抜けしたように驚いた顔をする。


「あれ?」


 紙袋から引き出された池谷の手が掴んでいたのは、手のひら大の平べったい金属の物体だった。


「なんだコレ?」

「……あー、キャンドルスタンドですね。ゲーム内でたまにモチーフで使いますから知ってますよ。それ、「生命の樹」を形取ったメノラーキャンドルとかいうヤツです」

 緊張の糸が切れた二人は、互いに顔を見合わせて大笑いする。

 深夜の公園に場違いな中年男の笑い声が響いた。


「いやーしかし、本当に口から心臓が飛び出るかと思いましたよ」

「あのやろう、脅かしやがって…」

「どうします?これ?」

「とりあえず元に戻しときましょう。…ちょっと面白いんでこの話、あとで霧島に伝えておきますよ」


 二人は缶を袋に戻すとそれを元あった場所に手早く埋め直し、そそくさと公園を後にした。




 時間は深夜3時を回ろうとしていた。


 タクシー乗り場で車を待つ二人の前にようやく一台の空車が近づいてくる。

「お、やっと来ましたね」

「じゃぁ池谷さん、今日は本当にありがとうございました。……おかげで憂さ晴らしできたというか…とても楽しかったです」

「私も楽しかったです。……変な話を色々聞かせてしまいましたがね」

「とんでもない!……そりゃ、お互い様ですし」


 二人はクスクスと思い出したように含み笑いをする。

 車が停車し、ゆっくりとドアが開く。


「あ、氏家さん……来週末のご予定は?」

「特にありませんが…」

「よかったらまた飲みませんかね、あのバーで」

「良いですね!時間は?」

「あんまり遅いのも何なんで……8時とかでどうでしょ?」

「わかりました。じゃあ来週土曜の8時に」


『お客さーん、そろそろ閉めますよー』 

 運転手が、少し不愉快そうな声色で告げる。


「あぁ、すみません。もう閉めちゃって構いません」

『どこまでですか?』

「とりあえず荻窪駅に向かってください。そこからは誘導しますんで」  


 車はゆっくりと走り出す。

 にこやかに小さく手を振って見送る池矢の姿が徐々に小さくなっていく。


「しかしまぁ、世の中面白い連中がいるもんだな」

 車に揺られながら無意識にポケットに突っ込んだ手に小さな紙片が触れる。

「?………ああ、霧島さんが書いてくれた詩か」

 氏家は広げた箸袋の裏にびっしり並んだ、神経質そうな小さな文字を目で追う。


===



胡蝶の夢



今は昔。昔は今。

此処は彼方で、彼方は此処で


近づいては離れ、離れては近づく。

踊れよ踊れ、儚き羽虫よ。


全てはとうのい昔に決まっており

未だ何も決まっていない。



この世はただの夢まぼろし。

だが我々はこの青空を謳歌しよう。


逆転する未来に産み落とされ

シシュポスのように無限にあがく



それが我々羽虫の宿命なのだから。



===


「あの人、あんな状態でこれを…」



 窓の外にはまだ消えずに灯るいくつかの光が

 まるで群れからはぐれた蛍のように、すいすいと後方に流れ静かに消えていく。

 氏家は箸袋を再び丁寧に4つに折り曲げると、胸ポケットにそっとそれをしまいこんだ。




    (つづく)



◆あとがき◆


長かったこの小説も残す所あと数話で終了となります…

奇妙な物語の終焉をしかと活目してください!!!(^v^)


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