第十二話: 氏家 仁 ⑩
◆まえがき◆
60日間のリハビリ生活も終了し、
先日、無事に退院する事ができました。
今回のお話は、2000年当時に氏家らが用意した〝新企画〟の内容説明がメインとなります。
専門的な話になりますが何卒おつきあいくださいませ…
新時代にぶつける二人の秘策やいかに?
第十二話の、はじまりはじまり~。
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そのコンテンツサービス名は
『i-pons』。
「多人数参加型コミュニケーションゲーム」をうたった当時は存在しない全く新しいタイプの〝遊び〟を提供すゲームで、プレイヤーは自分の分身である未来生物『i-pon』をネット上に存在する架空の街「ipon-TOWN」に住まわせ、この街の中で〝ネットを通じて繋がっている全国のプレイヤー達と様々な形で関わる〟事を楽しみつつこれを育てる。といった内容のゲームであった。
このゲームの中でプレイヤーが「アイぽん」を育てる目的はただひとつ。
『アイぽんを成長させて街の有名人になる事』
即ち、自分の〝承認欲求〟を満たす事がこのゲームの目的。わかりやすく言うなら「やりたい事をやって目立てばそれでOK!」という、そんなゲームである。
これは「ゲームテクニックを競い合う」事を目的とした当時のゲームセオリーを完全に無視したつくりであり、極めて異質なルールで展開する全く新しいタイプのゲームであった。
目的は『有名になって目立つ事』。なら「どうやって〝有名〟になるの?」という疑問がわくと思うが、この問題に対しゲームには2つの戦略的アプローチを用意していた。
まず一つ目は「ipon-TOWN」で起きる出来事を細かく「スコア化」し、街中に点在する掲示板で常にその状況を発表するという手法。発表要素の多様化と〝超細分化〟によって承認欲求を実現させるという戦略だ。噛み砕いて言うと「全ての行為を点数化する事で、自慢できる機会を爆発的に増やす」という仕組み。
そして二つ目はゲーム外の世界、すなわち我々が暮らすリアルワールドでのリアルな情報の拡散によって承認欲求を実現させるという戦略。こちらは例えばアイぽんの出身地別情報(プレイヤーの所在地域情報)等、「ゲーム外に発展しやすい話題の種」をゲーム内に常に仕込んでおく事で〝ゲームの中と外を強引に繋げてしまおう〟という仕組み。
である。
では、この2つの戦略を実現させる為に具体的に何をするのか?
実は、このゲーム内でプレイヤーがやる事は、以下のような至極簡単なアクションだけ。ゲームの特質上『それで十分』という見立てがあった。
◆アイぽんに自分の住まいを建てさせる
◆アイぽんに街を探索させる
◆アイぽんを成長させる
◆アイぽんにお金を稼がせる
◆アイテムを買い揃え、アイぽんの住まいや生活をリッチにする
◆他のアイぽんと会話をして友達アイぽんをつくる
◆他のアイぽんたちと簡単なゲームをして遊ぶ
◆他のアイぽんの家を訪問する
◆友達アイぽんと手紙のやりとりをする
◆アイぽん同士でアイテム交換やプレゼントをする
◆アイぽん同士でアイテムを奪い合う
◆アイぽんをデザインする
これらをこなしていくと、それに応じてアイぽんの細かな内部パラメータ(所持金・経験値・コミュニケーション力・体力・知力・運動能力・ユーモア度・カリスマ度・美的センス・行動力・判断力・独創性・性格…etc)が変動していく、というのが「アイぽんの基本構造」。そして、ずらっと並んだアクション要素を見れば業界人なら既に〝ピン〟と来たと思うが、このゲームの最大の肝は
『自由な生活と自由なコミュニケーション』
にあった。そして、畑の違う人には難しい専門的な話になってしまうが、これらを実現させる為の〝重要なキー〟となる要素として、ゲーム内では以下のような基本設計が企画当初段階からしっかり盛り込まれていた。
★キー要素:1
街を形成する住まいの増量対応がしっかりしていること(街と増加していく家とのバランスを保つ〝区分け設計〟がしっかりしていること)
★キー要素:2
少ない文字数ではあるが、自由な会話による意思表示が可能であること
★キー要素:3
各種スコアには何かしらの形で必ず「ゲーム内通貨」を絡ませること(価値を「通貨」という形に変換できるシステムを入れること)
★キー要素:4
アイぽんがどのくらい成長しているかが一目でわかるデザイン設計になっていること
★キー要素:5(発展要素)
「テンキーペイント」という携帯電話の数字ボタンだけを使って行う独自の簡易描画システムを搭載させることで、プレイヤーの創作したものが街に反映できる仕組みが設計上考慮されていること
体は「オバQ」のようなシンプルな形状。成長に応じて縦方向に無限に伸びていくという〝おかしなキャラクターデザイン〟も当企画の目を引く特徴の一つであったが、ここまでつらつらと語ってきた「細部を関連付けさせる緻密な設計」こそが、実は当企画の成功を担保する最大の〝セールスポイント〟であった。
これらを盛り込んだ上で〝内部要素の追加・書き換えが頻繁に行える〟というネットゲームの特性を活かせば、当企画が掲げる押さえるべき2つの必須要件
『ゲーム内でおこる承認欲求の実現』と
『ゲーム外でおこる承認欲求の実現』
の両立が可能になり、互いの相乗効果も発生するはず。というのが我々二人の結論であり、自信を持って打ち出した勝ち筋だった。
―あとはこれをきっちり書面化し、誰が見ても分かるような形に落とし込めば良い―
企画以外の深い事は考えず、只ひたすら明るい未来を夢見ていきり立っていた二人であったが、そんな我々の前に想像もしない形でその転機は訪れた…
「申し訳ないとは思いつつ、つい聞き耳を立ててしまったんですが…その話、我々にも聞かせていただけませんか?」
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高円寺の小さな要塞に必要な機材を買い揃えに出かけていた我々は、その帰り道、街の大衆居酒屋で羽を休めていた。
老若男女が雑多に陣取る大座敷の一角に案内され、ほろ酔いになった二人は上機嫌で今まとめている「アイぽんず」の仕様について意見を飛ばし合っていた。
「つまりプレイヤーが自分たちでネットの中に街をつくるってこと?」
「そういうこと。自分で好きなエリアに好きな家を建てて勝手に暮らしているって感じだね。で、我々が最初に用意するのは、イベントエリアや掲示板といった最低限必要な骨組みだけってワケ」
「それってもう完全な〝疑似的なリアルワールド〟だよね…」
ケータイでゲームなんてねぇ…という時代であったから、二人は特に周りも警戒せず好き勝手に話しをしていた。そんな時、横で飲んでいた3人グループの中の一人が突然話に割って入ってきたのである。
「いきなりすみません。いえ、怪しい者ではありません……我々、こういう会社の者でして…」
そのスーツ姿の紳士の驚くほど真面目な態度にも面食らったが、男が差し出した名刺に目をやり我々はさらにギョッとする。
「KOISE!?…コイセって……今、コマーシャルで八重歯のアイドルを使ってるあの有名なコイセですか??」
私は動揺しつつも、ひょっとして同名の全く別の会社なのでは?と半信半疑でストレートな質問を投げる。
「そうです。…正確に言うと、我々はコイセグループで電子機器を開発している独立会社なんですが…。申し遅れました。私、コイセインスツルの谷木と申します」
(つづく)
◆あとがき◆
しばらくは執筆不可になるかと思いきや、先日、思いがけずまとまった作業時間がとれたので、急遽一話分追加でUPしました。
次回以降の発表タイミングは個人HPにてお伝えしますので、ご興味あります方は是非そちらのチェックをお願いします!
(問題なければ、確認がしやすい『ブックマーク登録』をお願いいたします)
ではまた!(^^)/
(↓羽夢屋敷HP↓)
http://0803ugax.yukimizake.net/
 




