彼女の新たな表情
窓の外を眺めながら俺は、頭の中で嶺奈の事を色々と考察していた。
何せ彼女、雛森嶺奈は、みんなに『冷酷氷姫』と呼ばれてる存在。それにイケメン俳優と付き合ってると言う噂も度々聞く。
なのに何故先程「私……告白ばっかされてもまだ初恋の心は、揺れないのに」と言葉を漏らしたのか、不思議でならない。
脳を酷使して考えていると、誰かに呼ばれる声が聞こえた。
「峰希おい! 《《久崎峰希》》!」
誰だ? 、と内心思いながら振り向くと教壇の前で腕を組んでいる杉山先生が、眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。
「あ……はい。どうしましたか? 杉山愛華先生……?」
俺は、呼ばれていた事を無視していた事に焦りを感じながら返事を返した。焦り混じりの返事は、見事にいつも使わない敬語が使われていた。
「どうしました? じゃ無いわ! 無視をするな!」
「すいません……外眺めながら考え事をしていました……」
「ほお〜? 外眺めて考え事してたって事は、もちろん今私が言った事も聞いてたよなあ?」
(なんだそれ……何も聞いてないぞ……分かる訳が無い)
杉山愛華先生が言った言葉を頑張って思い出す。だがもちろん聞いてないので、いくら思い出しても俺の、脳からは、嶺奈の事しか出てこない。
必死に悩み俺は、一か八かに掛けた返事をした。
「確か、あれですよね、提出する課題を集めるって言う……?」
杉山愛華先生に苦笑い気味に言うと、ため息を吐いて俺に微笑みを向けた。
「久崎、違うに決まってるだろ! それは、明日だ! 今話してたのは、今日提出の課題だ! 持ってきたんだろうな?」
杉山愛華先生は、相変わらず微笑んでこちらを見ていた。
それにしても今日までに提出する課題なんて何にも聞いてないぞ。まさか、俺だけ知らされてなかったのか? それだったら結構問題だぞ。
俺は、どんな反応が来ても耐える覚悟を決め、聞きたくは、無いが嶺奈に聞いてみた。
「あの……嶺奈さん……? 今日までに提出の課題って何ですか……?」
杉山愛華に聞いてるのをバレないように俺は、下を向いて考えてる素振りを見せながら、嶺奈にしか聞こえない声量で聞いた。
聞かれた嶺奈は、いかにも不機嫌な表情で応えた。
「ねえ何、聞いてなかったの? バカなの? 先週杉山先生が、今日までに数学のプリント提出って言ってたじゃない。本当にバカね」
結構ドSなキツイ返答が来たな……。結構刺さるぞ……。
「あ、ありがとう嶺奈さん……助かったよ……」
「感謝なんて、要らないわ。それよりあなたは、まず待たせている杉山先生に謝らないの?」
嶺奈に言われて、恐る恐る前の教壇に目線を向けると、ご立腹な杉山愛華先生が笑みを崩さないでこちらを向いていた。
「なーに、話してたのかな? 全部聞こえてたけど?」
「えーっと……何も話してないです。確か……数学のプリントですよね。確か有ります……後で出しますよ……?」
「今提出なんだ、今すぐに出せ!」
鋭い眼光でこちらを睨む杉山愛華先生に俺は、北極圏の寒さ並みに背筋が凍った。
杉山愛華先生は、普段は、優しいが、怒ると学校内で一番怖いと言われている。誤魔化して怒らせたら、色々と終わると俺の野生本能が嘆いている。
「そのですね……提出期限何にも聞いてませんでした……」
「そうか、分かった。後で職員室に来い」
微笑みながら先程よりも鋭い目で言った杉山愛華先生に俺は、全てを悟って大人しく頷いた。