隣の席の彼女は、今日も冷酷
下駄箱に靴を入れ、上履きに履き替え毎日登る階段を静かに上がる。見慣れた光景に面倒臭いと思いながら教室の扉を開けるといつも通りの会話とクラスの恒例行事になりつつある行為が目に入ってきた。
「嶺奈、俺と付き合ってくれ!」
俺の目の前で告白したのは、カースト上位に属している、樋川蓮。その告白相手は、学校全体で『冷酷氷姫』と名高い彼女、雛森嶺奈。
かれこれ3ヶ月続けて告白をされている嶺奈は、手を伸ば頭を下げている蓮に、いつもの様に呆れた冷たい目で見下ろしていた。
「貴方の告白は、この先何年経っても何があっても受け付けないわ。これっきり諦めなさい」
きっぱりそう口にした、嶺奈に周りは、苦笑いを浮かべていた。当たり前だ。これで彼女が蓮を振るのは、通算で九十回目だからだ。
星華高校入学式初日から3ヶ月経った間に嶺奈は、男子全員に告白をされている。最近では、他校の男子からも告白をされていると言う噂まで聞くので、驚きだ。
耳を立てながら机に突っ伏して静かにしていると、担任の杉山先生が教室に入ってきた。
「お前ら、席に着けーホームルーム始まるぞ〜」
杉山先生が声を声を出した事により、嶺奈の周りに集まっていた生徒達は、見る見るうちに自分の自席に戻って行った。
告白をした当の本人の蓮は、と言うと杉山先生に「杉ちゃんー今日も振られたわ〜」と陽キャなりの余裕をかましていた。
蓮の発言に、すげなあー、と内心感心していると不意に隣から震えるか細い声が耳に入ってきた。
「私……告白ばっかされてもまだ初恋の心は、揺れないのに」
隣から震える声に驚きつつ左右を振り向く。だが左を向いても俺の席は、窓際なので誰も居ない。即ち声の主は、隣に座っている、嶺奈だった。
興味本位で嶺奈の方を向くと、頬を紅色に染めている嶺奈と目が合った。
普段のからは、想像も出来ないほどに顔を真っ赤に染め、涙目になっている嶺奈に俺は、呆気に取られた。
だがずっと見られている事に不満を覚えたのか、嶺奈は、睨みを効かせながら声のトーンを下げて聞いてきた。
「何久崎峰希くん? ずっとこっち見てるけど」
鋭い眼光で見ていた理由を聞かれた俺は、なんて返せば良いのか、頭の中で必死に選別していた。
もしもここで、間違った返答をしたら間違えなく、俺の学校生活や交流関係が終わってしまう。それだけは絶対に、何としても回避しないと行けない。
必死に考え選別して出てきた俺の言葉は――
「嶺奈さん、なんでそんなに辛そうなの?」
自分でも最悪の返事だと思いながら聞くと、嶺奈は、鋭い眼光から普段の表情になった。
「辛そうになんて……してない……」
「もしも辛かったら誰かに相談しなよ」
「相談相手なんて……」
嶺奈は、そう口にして言葉を途中で止めた。なんて言おうとした? 、と言う言葉は、言わないでそっとしておく。簡単にそう言ってしまったら嶺奈を傷つけかねないから。
俺は、隣で俯いている嶺奈に声を掛けずにそっとしておく。誰しも少なからず言いたくない事が有るはずだ。だからそこに俺が土足で踏み込むのは、ご法度が過ぎる。
俺は、色々思いながらそっと窓の外の景色を眺め考え事を始めた。